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第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ

第101話 初日/キャンプ場/日本の治安は最高です

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 狩間湖が見えてきた。

「うぉぉぉぉ~! でっけぇぇぇぇぇ~! 船もいっぱいだぁ~!」

 窓の向こうに見える景色に、タマキが大声ではしゃぎ出す。
 県内最大の湖である狩間湖では、魚もよく取れるため船で釣りをする人も多い。

「キャンプ場まッでは、もうすぐだッぜ~い!」

 チャラいアナウンスのすぐあとで、バスは狩間湖キャンプ場の入り口に到着する。
 駐車場は少し走った先にあり、そこでスタッフの人が待ってくれていた。

「チワ~ッス! 電話で連ッ絡した、風見慎良とその連れなんッスけど~!」
「あ、お待ちしてましたよ。誘導しますのでこちらにどうぞ」

 という、タクマとスタッフさんの話す声が聞こえる。
 スタッフは、声から察するに二十代くらいの男性のようだった。

 その後、誘導に従ってバスが駐車場の一角に停められる。
 あ~、四時間長かった。途中SAにも寄ったけど、それでもさすがに長かった!

「ウヴェヴェヴェヴェヴェヴァヴァヴァヴァ……、つ、着き、着きました?」
「着いたよ~、おシイちゃん。だから変な鳴き声のアメーバはやめようねぇ~」

 アメーバの鳴き声だったのか、アレ。初めて知ったわ。

「それでは、皆さんは外に出て自分達の荷物を運んでください。俺とタクマは、管理小屋に行ってテントと諸々の道具を借りる手続きをしてきますので」

 シンラが、風見慎良の口調で俺達に向かって告げる。
 今回は菅谷真理恵もいるから、いつもの皇帝口調は控えているようだ。

 なお、使うテントは三つの予定。
 内訳としては男性陣一つ、女性陣二つ、という感じになる。
 ま、女の方が多いから、そうもなるわな。

「うぁ~、やっと着いたぁ~!」

 こちら、ケント君。
 解放の喜びに浸っておりますが、依然、両脇にはタマキと菅谷の両手に花状態。
 傍から見れば羨ましい状況なんだろうけど、本人の憔悴具合が甚だしい。

「ケントしゃん、だいじょぶ~? 酔っちゃった~?」
「そうじゃないでしょう。賢人君はあなたがずっとそばにいて疲れただけよ」

「ンだよ、変態女刑事! それはおまえだろ~!」
「なっ、変態じゃないって言ってるでしょ! 言葉遣いが乱暴すぎるわ、環さん!」

 さ~、またしても始まりましたよ、あの二人。
 本当にわかりやすいくらい犬猿、もしくは水と油。あるいはアニメの猫と鼠。

「本当に仲悪いわね~……」

 と、俺の隣でミフユが零すくらいである。

「どっちもケントのことは心配してるから、ケントとしても強く出れないのがね~」

 強く出たところでたかが知れてるという説もある。
 ケントもやっぱり俺と同じで、身内には甘くなりがちだからなぁ……。

「二人とも、とにかく外に出て荷物運びましょう! ね! ね!」

 二人の間に入って必死に訴える賢人の姿が涙を誘うぜ。

「わたし達もいきましょっか」
「そうだな~」

 賢人達のあとに続いて俺とミフユも外に出て、バスの荷台から荷物を手にする。
 中には、着替えと遊び道具程度しか入っていない。

 食料は大人達が買っていたし、小学生の俺達じゃ荷物持ちもさせてもらえない。
 楽っちゃ楽だが、一家の長としての観点で見るとなかなか複雑ではある。

「ねぇ、アキラ」
「ん~?」

「あんた、トランプは持ってきてないでしょうね」
「え、持ってきてるけど……?」
「ズルい!」

 何でぇ!?

「今回は、わたしが持ってきたトランプを使わせてもらうわよ! 今度こそ、前の勝率二割の屈辱を晴らしてやるんだから! ジジイのトランプは使わないわよ!」
「おまえ、すっかりのめり込んじゃって……」

 俺がきっかけでハマってると考えると、それはそれで悪いことではないかもだが。
 とりあえず、今はテントを借りに行ってるシンラ達を待つか~、とか思ってたら、

「お、何々、ここレベル高ェじゃん」
「うひょ~、どの子も可愛いねぇ~。お姉さん達、どっから来たの~?」

 俺達、ではなく女達の方に声をかけてくる野郎共がいた。三人組。
 いやぁ、本当にどこにでも湧いてくるなぁ、こういう連中。日本の治安、大丈夫?

「あなた達、だぁれぇ~?」
「俺ら? 君達に一夏の恋をお届けする、灼熱の恋の戦士でっす! ギャハハ!」

 茶色い髪の、いかにもチャラい男が大笑いする。
 それに、スダレは気にした様子もないが、シイナは露骨に怯えていた。

「ねぇねぇ、ここにキャンプに来たの? 俺らと一緒に行かな~い?」
「え、あの、えっと……」
「うっわ、反応も可愛いねぇ! 俺ら怖い? 怖くないぜ~、カッコいいから!」

 もうね、自分で言っちゃう辺り、マジで頭悪いわ。
 さて、この連中はどうするか。お袋なら楽に追い払ってくれそうではあるが――、

「オイ、あんたら。やめろよ!」

 と、決然と言い放ったのは、誰であろうケントだった。
 声を張り上げ意見するケントに、三人のチンピラは一気に顔つきを険しくする。

「何だァ、このガキ?」
「お、何よ。お兄さん達に何か御用ですか、僕ちゃ~ん?」

 しかし、相手がガキだと知り、チンピラ共はすぐに余裕を取り戻して笑い飛ばす。
 ケントは決して怒りに駆られることもなく、冷静に、そして厳しく言う。

「あんたら、それで自分がカッコいいつもりなら、とんだ的外れ――」

 拳が、ケントの右頬にめり込んだ。

「ぐっ、ぁ!?」

 堪えきれず、尻もちをつくケント。
 三人のチンピラが、揃って血相を変えてそれを取り囲んで、吼えた。

「うるせぇぞ、このガキャア!」
「大人に意見するなんぞ、十年早ェんだよ、クソが!」
「てめぇこそ女の前でカッコつけてんじゃねぇよ、ガキが!」

 チンピラにボコボコに蹴られて、ケントは低いうめき声を漏らす。
 それを見て動いたのは、タマキ――、ではなく、菅谷真理恵の方だった。

「あなた達、いい加減にしなさい!」
「お?」
「あれ、俺らの活躍見てくれちゃってた~、お姉さん?」

 チンピラ共が、菅谷の方を向く。
 散々蹴られまくったケントは、身を丸めてコンクリートの上に横たわっている。

「う、菅谷さん……」

 そう呟き、身を起こそうとするケントを、チンピラの一人が横から蹴り飛ばす。

「おめぇはそこで寝てろよ!」
「く……」

 唸るケントへ、タマキが駆け寄って抱え起こそうとした。

「大丈夫だよね、ケントしゃん」
「あ、ああ。お嬢……」

 一方で、チンピラ達は今度は菅谷に関心を寄せたようで、またヘラヘラし始める。

「なぁに~、君、スガヤちゃんっていうの? 勇ましい苗字だね~?」
「名前聞かせてよ、名前。どこ住んでんのかな? お仕事は?」

 菅谷を逃がすまいと三方から囲むチンピラ達。
 童顔で小柄な彼女を扱いやすしと見たようだが――、

「宙色東署の刑事、菅谷真理恵よ」
「「え?」」

 職業を告げ、それを証明する警察手帳を出す菅谷に、チンピラ達は凍りつく。

「それで、あなた達は彼に暴行を働いたワケだけど、何か弁明はあるかしら?」
「え、あ、その……」
「オイ、どうすんだよ……!」

 毅然と振る舞う菅谷に、チンピラ三人はたじたじになり、そのまま後ずさる。

「す、すいませんでした~!」
「勘弁してくださ~い!」

 そしてそんな情けない声をあげて、そのまま退散していった。

「うわぁ、ものすごいテンプレだぁ~……」
「絵に描いたような三下でしたねぇ……」
「ハハンッ、なかなかやるじゃないかい、あの刑事のお嬢ちゃんも」

 傍から見ていたウチの女性陣が、口々にそんなことを言う。
 さて、と――、

「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「すぐ戻ってきなさいよ。あんまり時間ないからね」

 ミフユがそう言って、俺を送り出してくれた。
 そして、そのすぐあとにケントとタマキも一緒についてくる。

「抜け駆けはなしでしょ、団長」
「おとしゃん、オレ達も一緒に行くぜ~!」

 見れば、やはりケントは無傷だった。
 あんな連中の蹴りくらい、練達の傭兵なら無防備でも受け流せるってモンだ。
 だが、それとこれとは別の話。やられた分は返さないとねぇ。

「いた」

 見つけたのは、タマキ。
 俺は金属符を取り出して、そのまま鋭く腕を振って投げつける。
 金属符はそのまま散歩道を進もうとする三人を超えて、近くの木に張りついた。

 ――俺達とチンピラ三人を巻き込んで、空間が『異階化』する。

「お?」
「何だぁ?」

 違和感を覚えたようで、足を止める三人組。
 そのうち一人が、こっちを向いて俺達に気づいた。

「あ、オイ、あの連中」
「何だ何だァ?」

 自分達がボコしたケントを目にして、真ん中の男が笑うが、

「――『戟天狼ゲキテンロウ』」

 その一声と共にケントの姿が消えて、直後、笑っていた真ん中の男が吹き飛ぶ。
 男はそのまま木の幹に激突し、轟音を響かせた。
 みぞおちを中心に、男の胴体は激しく凹んでいた。ケントの一撃を受けたからだ。

「ぷぁ……」

 男はズルズルと崩れ落ち、目と口と鼻から血を流す。即死だろう。

「あ、あれ……?」

 と、真ん中の男を目で追おうとする右側のチンピラ。俺の獲物はそいつにした。

「ウチを選んだのが、おまえらの運の尽きだよ」

 言って、俺は跳び上がり、こっちを向こうとするチンピラの首に鉈を打ち込んだ。
 分厚い刃がブゥンと重く唸って、チンピラの首の肉と頸椎を叩き切る。

「ぃ……」

 短い声を発し、そのチンピラの首と胴とが切り離された。

「ひ……ッ!」

 二人のツレの死に、何もできず息を飲むしかない、残る一人。
 しかし、そいつにこそ、最も無残な死が与えられる。タマキが担当だからだ。

「おまえには、こうだァ――――ッ!」

 何とタマキのヤツ、高々跳躍して、俺が刎ねたチンピラの首を空中シュート。
 バゴォ、と、凄まじい音と共に放たれた首が棒立ちの残り一人の顔面を直撃する。

「う、ぎぎゅッ!?」

 哀れ、そのチンピラは自分のツレの死体とキスをすることになってしまう。
 そして、バカげたシュートの威力によって顔面は陥没し、血が派手に噴き上がる。
 漫画みたいに顔が内側にめり込んで、残る一人も死亡した。

「うっひゃあ」

 それを見ていたケントが、そんな声をあげてしまう。
 まぁ、俺も大体同じような心持ちですけどね。

「さ~て、死体処理、死体処理」

 俺は、ゴウモンバエを召喚して、出来立てホヤホヤの死体三つを消しにかかる。
 蘇生なんてするワケない。彼らにはここで失踪していただく。

「――ハァッ!」

 と、何やら爽やかな息のつき方をするタマキ。ニッコニコである。

「やっぱ、ケントしゃんは強いよな~! 今の拳、本当に隙が少なくてさ~!」
「あれが見えてたのか、おまえ……」

 俺には消えたようにしか思えなかった、ケントの一撃。
 しかし、タマキにはそれがしっかりと見えていたようだ。やっぱ怖いわ、こいつ。

「いや、お嬢のやったことの方がよっぽど……」

 ほらぁ、ケントもそう言ってる!
 俺が飛ばした首をサッカーボールにしてオーバーヘッドキックとか、何してんの?

「え~、あれくらい、ケントしゃんだってできるよ~!」
「無理無理無理無理」

 唇を尖らせるタマキに、ケントは激しく首を横に振る。

「できるよ、だって、ケントしゃんだモン!」

 しかしタマキはそう言って聞かず、またケントの腕に組みつこうとするのだった。
 何はともあれ、これで気持ちよくキャンプが出来そうだった。
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