出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第四章 佐村家だらけの死亡遊戯

第54話 死亡遊戯は真夜中に開幕する

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 家です。
 俺の家です。時刻はそろそろ日付変更です。そして――、

「何が喧嘩屋ガルシアよ。あんたね、よりによってパパに喧嘩売るとか何考えてるの? 何も考えてないわよね? 何も考えてないからそんなことするのよね? あっちの世界でも毎度いいように利用されてウチに喧嘩吹っ掛けて、そのたびにパパに拳骨喰らってたわよね? それでもわからない? ねぇ? どうなの、タマキ!」
「はぁうううぅぅぅぅぅぅぅ~、怒らないで、おかしゃん~」

 タマキが、ミフユにこってり絞られております。

「あらあら……」

 お袋は、遠巻きから眺めてるだけで我関せずです。こういうとき、助かるわ。

「ミフユのパパ呼びとか超レア~……」
「あんたも、そこでのんびり見てないで、もうちょっと厳しく行きなさいよ!」

 うわぁい、とばっちりが来ちゃったぞぉ。

「う~ん、でもなぁ……」
「何よ。あんたもね、基本的に子供に甘すぎよ。そんなだから喧嘩とか売られ――」
「タマキも反省してるし、それくらいでいいんじゃないか、ママ」

 と、呼ぶと、ミフユがピシッと固まる。

「あれ~、おかしゃん~、どしたの~?」

 硬直したミフユを、涙目のタマキが不思議そうに右から見て、左から見て。

「クックック、先にパパ呼びしたのおまえだからな? 俺悪くないからな?」
「むぐぅ~~~~!」

 ミフユが顔を赤くして、風船みたいになる。
 それを見たタマキが「ひぃ」と漏らしてのけぞった。あ~、おかしい! 笑うわ!

「あ、あんたねぇ。人が大事な話をしてるときにねぇ……!」
「いや、だって。パパ呼びがついつい嬉しくなっちゃってさぁ~、ごめんて!」
「くぅぅぅぅ、自分から言ったことだから怒るに怒れないぃぃぃぃぃ……」

 グググときつく拳を握り締め、ミフユが悔しそうに歯噛みする。

「大丈夫かい、ミフユちゃん」
「うぇ~ん、お義母様ァ~! アキラのヤツがひどいんですぅ~!」

 って、お袋に逃げてんじゃねぇよ!?

「おとしゃん、ごみんなさい……」
「あ~、いいよいいよ。俺だって知らなかったワケだし。次は気をつけろよ?」
「ひゃい……」

 タマキが完全にしょぼくれているが、こいつは一晩寝ると全部忘れやがる。
 反省はするんです。いい子なんですよ。ちょっと忘却の才能に溢れているだけで。

 さて、何でこんな状況になってしまったを説明しよう。
 まず全ての原因は、俺が育ちざかりのガキの食欲をナメていたことにある。

 俺はお袋からそれなりの金を渡されていた。
 今日に限ったことではなく、前々からだ。どこで必要になるかわからんので。
 タマキと田中伸介ブラザーズを連れて、俺はファミレスへと向かった。

 そしたらまー、食うわ食うわ、このガキんちょ共が。
 一番小さいこよりでも、俺がびっくりするくらい食べてさー。
 色々と有用な情報も聞けたので、情報の対価としての必要経費と割り切ったんだ。

 でもね、結果的に電車賃もなくなりました。どんだけだよ!
 いや、飛翔の魔法使えばいいんだけどさ、ついでだからホテルに戻ったのよ。
 ブラザーズとは別れて、タマキと一緒にミフユのいる部屋にね。

 準備、何っっっっっっっにも進んでませんでした。
 これは本当に一晩かかるレベルだなって。女の準備って時間かかるんだなって。

 その後、ミフユにも関係ある話なので何とか準備を急かして、一緒に帰宅よ。
 それでもこの時間なんですけどねー、急かしても三時間かかったよ。アッハッハ。
 よい子はとっくに寝てる時間だ、っつーの……。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 タマキと田中ブラザーズから聞いたのは、なかなか香ばしい話だった。

「……『大狩猟グレイトハント』?」
「おう。天月市の半グレ共の一部界隈で、不定期で開催されるイベントだってよ」

 タマキやブラザーズが俺を狙ってきた理由が、それだった。

「どういうイベントなのよ、それ。タマキ?」
「え~っとね、ネット上で開催されるイベントで、主催者のハンドルネーム『守谷亭』って人が指定した『獲物』を仕留めると、その『獲物』のランクに応じたポイントを獲得できて、開催期間が過ぎるとそのポイントに応じた賞金をもらえるの」

 実際に現金のやり取りがされるイベントらしい。

「『獲物』っていってもいつもは『○○の店で万引きしてきたら+5ポイント』とか、そういうユルい感じでやってて、1ポイントごとの賞金レートも高くないんだ」
「ふ~ん、なるほどね。そりゃあ不良気取り共にゃあ、人気が出るだろうな」

 突っ張ってるだけのガキからすれば、ただの万引きがカッコよく映ることもある。
 それを他者に誇れて、しかも金までもらえるなら、いいこと尽くめだ。

「オレはそういうガキっぽいイタズラとかはあんまり興味なくて、これまで参加してなかったんだ。でも、今回の『大狩猟』はいつもとちょっと違ってたんだ」
「どんな風に?」

 ミフユに促され、タマキが自分のスマホを取り出す。
 そして指で何やら操作して、出した画面をミフユの方へと差し出す。

「これを見てくれ、母上殿」
「おかしゃんでいいのに」
「カッコ悪いからヤッ! 母上殿がいいの!」

 俺と同じことを言われ、そっぽを向くタマキ。これがウチの長女だ……。

「……うわ。これBASEベースじゃない。何てモン使ってんのよ」
「べ~すとは何でしょうか、ミフユさん」

 聞き慣れない単語に、俺は小首をかしげて尋ねてみる。

「前に見せたRAINとか、有名どころだとKatatterとかのSNSの一種よ。ただ、知名度が高くなくて人がいなくて過疎ってる、かなりマイナーなヤツ」
「なるほどね、マイナーだからこそ、そういうイベントで使われてるのか……」

 スマホの画面を見ていたミフユの目が「タマキ」という声と共にタマキに向く。

「これ何? ……この『守谷亭・梅雨の佐村狩り祭り』って」
「……あン?」

 俺はミフユからスマホを受け取り、そこに表示されている画面を見る。
 おっとぉ、なんだぁ、こりゃあ……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆第13回 大狩猟『守谷亭・梅雨の佐村狩り祭り』開催!
 どうも皆さん、主催運営の守谷亭もりやていです。
 さぁ、やって参りました。13回目の大狩猟です!
 今回のテーマはズバリ、人間狩り(マンハント)です!

 世に名だたる悪党の皆さん、獲物を狩ってポイントを獲得しましょう!
 今回の賞金レートは過去最高、1ポイント100000円です!

 獲物は下記のとおりです!
 皆さん、奮ってご参加くださいませ!

・佐村夢莉を病院送りにする(全治三か月以上) +40▼

・佐村龍哉を病院送りにする(全治三か月以上) +40▼

・佐村甚太を病院送りにする(全治三か月以上) +40▼

・佐村春乃を病院送りにする(全治三か月以上) +35▼

・佐村鷹弥を病院送りに――

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そこには、佐村家の人間とその関係者の名前がズラッと並んでいた。
 俺の名前もある。内容は『病院送りにする』で、ポイントは+20とあった。

「俺を病院送りにすれば2000000円、ってことか」
「タァ~マァ~キィ~?」
「ちがっ、違うから! オ、オレは喧嘩屋として、金鐘崎アキラをボコせっていう依頼を請け負っただけだから! 直接は『大狩猟』に参加してないよ!」

 タマキは必死に言い訳するけど、残念ながら言い訳になってねーんだわ。

「直接でも間接でも、俺をボコるつもりはあったってコトなんだよなー」
「だ、だって、アキラって名前だから絶対に強いと思ったんだよ!」
「うわぁ……」

 ミフユはすんげぇうめき声を出してくれた。
 誰が聞いても言い訳にしか聞こえないタマキの言い分だけど、これ、本気です。
 こいつ、本気で名前だけで相手の実力を決めつけてます。パパっ子か?

「ところでさ~?」
「何よ」
「この、ポイントの横にある『▼』は何だろうな?」

 俺は指先でそこをポンと触れている。
 すると、どうやらそれは折り畳みボタンだったようで、追加で文章が表示された。

『――さらに佐村美芙柚を殺害すると追加で+1000ポイント!』

 そう、書いてあった。
 つまりミフユを殺せば一億円、ってコトだ。

「……おいおい」

 何だい、こりゃあ。
 賞金の額からすれば、こっちの方がメインじゃねぇか。そう、俺が思ったとき、

「え、何だい?」

 急に部屋が暗くなって、お袋が戸惑う声がする。
 電灯が急に消えたせいだ。俺はすぐさま偵察用ゴーグルを装着する。
 透視機能を暗視用に使って、辺りを見た。

「大丈夫か、ミフユ、タマキ」
「すぐにゴーグルつけたわよ。問題ないけど、いきなり何よ。笑えないわねぇ」
「オレは大丈夫だぜ! 暗くても全然見えるからー!」

 ゴーグルつけないで見えるのはおかしいんだが?
 まぁ、タマキだからいいか。
 こいつはあっちの世界でもずっと常にこんな感じだったよ……。

「フン、しかしなるほどね……」

 闇の中に、俺は小さく笑う。
 アパートの外に幾つかの気配を感じる。どいつも殺気立っているのがわかる。
 数は多くても五~七人程度。おそらくは棒状のモノで武装している。

「早速来た、ってこと?」
「らしいねぇ。SNSで情報のやり取りでもしてたんだろ」

 言いつつ、俺はダガーを取り出す。

「だけどまぁ、ご愁傷様。誰に手ェ出そうとしてるのか、教えてやるよ」

 そう呟いた俺の声に、タマキが「おとしゃん、怖い」と震えていた。
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