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第四章 佐村家だらけの死亡遊戯
第52話 佐村家の懲りない面々とお泊り会と喧嘩屋と
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山盛りの、メシ!
山盛りの、パン!
山盛りの、パスタ!
「もうね、朝っからうるさいったらないのあの連中! 何でわたしがそんなのに付き合わされて学校休まなくちゃいけないのよ、冗談じゃないわ! ヤケ食いよォ~!」
「食いながらしゃべるな」
「ふがふがもごもご!」
「言ってるそばから窒息する気か!」
おまえ、異世界じゃ「食べながらしゃべるな」って教える側だったよなァ!?
「む~、物足りないわ。名の知れたシェフに作らせてるのに物足りないわ……」
「そうだなぁ。……俺らもすっかりお袋の味に慣れてしまった」
舌が肥える、って言い方していいのかなぁ。
一般家庭のおばちゃんでしかないんだがなぁ、金鐘崎美沙子。
「で、さっき言ってたのって何なのよ?」
「ん~?」
「ほら、高市さんが『出戻り』かもしれないっていうの」
ああ、それか。非常に単純な話だ。
「俺が存在に気づけなかったからだよ」
「……ああ、なるほど」
短い説明に、ミフユも納得する。
今や小学二年生だが、異世界では人生の大半を戦場で過ごした身の俺だ。
その俺の気配察知や嗅覚が全く働かなかった相手。普通の日本人とは考えにくい。
「でも、別にいいんじゃない? 他の二人の手下なら対応も考えなきゃだったけど」
「他の二人? あの樽おっさんと金髪ロン毛か」
「そうよ。佐村勲の伯父の佐村甚太と、従兄の佐村龍哉。どっちも俗物ね」
「もう一人、あの佐村夢莉とかいうおねーさんはよ?」
「あの人は勲の妹よ。ただ、あの人だけは他とは違って純粋にわたしを心配してくれてるっぽいのよね。……わたしとは致命的に相性悪いからお断りなんだけど」
ミフユが顔をしかめる。
まぁ、こいつがそうなるのもわかる。あの夢莉は、性格的にミフユとは対極だ。
四角四面とでもいうべきなんだろうな、ああいうタイプは。
何でも型にはめて理解しようとする。頭でっかちで融通の利かない生真面目さん。
自由奔放を己の信条とするミフユとは、まさに水と油だろうよ。
もし、あの人がミフユの後見人になれば、色々口出しをしてくることは必定だ。
それはミフユも俺も、望むところではない。
「とはいえ、後見人は必要なんだろ?」
「勲の顧問弁護士に動いてもらってるけど、それも限界があるわねぇ」
それもしゃーない。ここは日本だ。
金を持った子供が一人で生きていくことは、法の上でも道義の上でも難しい。
「かといって、おまえの両親はなぁ」
「生かしておけるワケないっての。あんな連中」
俺は肩をすくめ、ミフユは軽く嘆息した。
「あ~ぁ、わたしにもあんたのお義母様みたいな都合のいい保護者がいればな~」
「ケッケッケ、お袋ほど従順で素直で都合のいいオンナはいないぜ?」
「何その言い方、腹立つわね。あんたのオンナはわたし一人でしょ。笑えないのよ」
「そこかよ。そりゃ、おまえ一人だけだけどさ。笑うわ」
いきなり不機嫌になるから何事かと思ったわ。
で、これからどうするかだよなー。
「おまえを一人にはしたくないなぁ……。相手に『出戻り』がいるとなると」
「そこは大丈夫だと思うんだけどねぇ。夢莉叔母様だし」
万が一の可能性でも潰しておきたいのは俺の性分だな。
と、いうワケで、まずは情報の確認からだ。
「おまえの後見人になりたがってるあの三人、詳しくはどういう連中なんだ?」
「ああ、そういえば説明してなかったわね」
ミフユが、三人の説明を始める。
「まずは、あんたが樽おっさんって言ってた佐村甚太。勲の父親の兄で、わたしにとっては大おじね。会社を幾つか経営しててお金には困ってないはずなんだけど、とんでもない業突く張りで筋金入りの金の亡者よ。勲の財産は自分のものだって公言してるわ」
「わかりやすすぎる。絶対横領してる……」
「次に、佐村龍哉。勲の母方の従兄弟で、私からすると叔父。自称デザイナー兼スタイリストで、その実態は芸能方面のフィクサー。テレビでの露出も多くて、元グラビア出身のタレントで奥さんの春乃さんとはおしどり夫婦で売ってるけど、実際は冷めきってるわ。息子が一人いるわ」
「一般人が想像する芸能人の裏事情そのまんまだな……」
「最後に、佐村夢莉。勲の妹で、勤勉実直生真面目一途石頭堅物杓子定規がそのまま擬人化したみたいな人で、こっちは会社の経営者とかじゃなく公務員よ。ま、バリバリのキャリア組らしいけど。絶対この人を後見人にしたくないわ」
「おまえとはまさに犬猿の……、いや、タイプ的に猫と犬か」
そして説明が終わって、じゃあどうするんだって話になる。
「大おじ様、論外。私の金が欲しいだけ。龍哉叔父様、問題外。わたしを引き取って美談にして注目されたいだけ。死ね。夢莉叔母様、三人の中じゃ一番マシだけど一番最悪。わたしの自由が死に絶えるわ。……どうしろってのよ、この状況」
「う~~~~~~~~ん……」
聞けば聞くほどミフユが詰んでて笑う。いや、笑えないんですけどね。
「つかさぁ……」
「何よ?」
「とりあえず、おまえ、やっぱウチ来れば?」
「ぅいッ!?」
ミフユが変な声を出す。
「可能性として低くても、万が一がある。この件に『出戻り』が絡んでるなら、おまえを一人にしておきたくはないからさ。それならウチで匿おうかなって、な?」
「い、いや、な? って言われても、そ、そんな……」
何でそこで急にドギマギし始めるのか。
「だ、だって……、いきなり彼氏から『俺んち、泊まり来ない?』何て言われて、ドキッと知るなっていう方が無理よ。無理に決まってるでしょ、そんなの!」
「QOB(急に、乙女になんなよ、ババア)」
「何よ、いいでしょ別にッ、乙女なんだからァァァァァァ――――ッ!?」
うん、知ってる。
「幾つになっても、おまえ以上の乙女はいないよ」
「もォォォォ! 舌の根も乾かぬうちに、あんたはァ――――ッ!」
カミさんからかうの、超ッ、楽しいですッ!
「だがなぁ、ミフユ。よく考えろ。おまえがウチに来れば……」
「な、何よ急に真面目になって。来れば、何だってのよ?」
「毎食、お袋の飯が食えます」
「行くわ」
決め手がそれかい。
すっかりお袋に胃袋掴まれやがってよぉ。何かムカつくわ~!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局、ホテルから出たのは俺一人だった。
ミフユはね、部屋に残ったよ。
「待ってね、待ってね、準備するから! お洋服と、お化粧品と、えりすぐりの品を揃えてバッグに詰めていくからね! あ、それと体もお清めしておかなきゃ!」
確実に一晩はかかるであろう準備を始めてしまわれまして……。
人払いの結界は張っておいたんで、『出戻り』以外は入れないだろうけども。
こっちとしては強引にでも連れてい行きたかったんだがなー。
「だ、だって、可愛くしていきたいから。……ダメ?」
そんなこと言われたら断れるワケがねぇんだよなァァァァァァ~~~~ッ!
はぁ、惚れた弱みってやつですかねぇ、この辺は……。
振り続ける雨の中、合羽を着た俺が歩いていく。
時間は夕暮れ時、日はまだあるが、雲に覆われた空はもう結構薄暗い。
宙色市は、結構交通手段が発達している。
何と生意気にも地下鉄とモノレールがあったりするのだ。生意気。楽しそう!
行きはバスで来たから、帰りはどっちかに乗って帰ろうか。
そんなことを考えて、俺は駅の方へと歩いていく。
そして、道を曲がって、また道を曲がって、またさらに道を曲がって、奥の奥へ。
かくして辿り着いたのは、駅の近くだが誰もいない裏路地。
さてさて、そろそろいいだろうか。
「出てこいよ、誰だか知らねぇが」
どこにいるかもわからない相手に向かって、俺は呼びかける。
尾行されていた。ホテルを出てしばらくしてから。
何者かの気配がぴったりと俺に張りついていた。ついでに視線も感じていた。
自分は追っているぞ、気づけ、気づけ、気づけよ~、と言わんばかりの露骨さだ。
あの高市とかいうボディガード、ではあるまい。
あいつはこんな激しく自己主張してくるタイプじゃない。
だが、だとすると一体誰が?
そんな疑問を抱える俺の前に、傘をさしていない人影が一つ。
パーカーにジャージのズボンという出で立ち。
顔はフードで隠れていて見えないが、胸の膨らみと骨格から女とわかる。
背の高さから考えて、十代半ばか後半くらい。女子高生か?
「おまえ、金鐘崎アキラか」
声はやや高めで、ハスキーな感じがある。甘さはないが、耳に心地よい声だ。
だが、そこに含まれる雰囲気に、何故か既視感を覚える。
「そうだけど、あんたは……?」
「警戒してるな。いつでも逃げられる距離を保ってる。……いいな、おまえ」
いや、ニチャアッ、じゃねぇよ。誰だって聞いてんだよ、こっちは。
「おまえは誰だよ、名乗れよ」
「オレは喧嘩屋ガルシア。あの有名な、喧嘩屋ガルシアだ」
――喧嘩屋ガルシア、あの、有名な!!?
「…………え、誰?」
「え~!? おまえ、オレのこと知らねぇ~の! うわ、信じらんねぇ! 人類かよおまえ、これから話題沸騰、ランク急上昇確実の今日デビューしたオレだぜ!」
「知ってるか、ボケェ!?」
ただのビッグマウスの新人じゃねーか!
「いいんだよ! 夢はでっかく世界一! 結果的に世界一になるなら、新人の頃から世界一でもいいんだよ! わかるだろ! お姉さん怒るぞ! プンプンだぞ!」
「可愛い擬音をつけるなっていつも言ってんだろうが!」
……ん? 俺、今何言った? いつも? 初対面なのに?
「いいだろ、擬音つけたって! おまえは俺が有名になるための礎になるんだ、金鐘崎アキラ。このグレイス・環・ガルシアがテッペンとるための礎にな!」
そう言って、喧嘩屋ガルシアはフードを取って、駆け出した。
裏路地の薄暗さの向こう側に、気の強そうな少女の顔が現れて、俺は愕然となる。
――こいつ、ウチの長女だ!
山盛りの、パン!
山盛りの、パスタ!
「もうね、朝っからうるさいったらないのあの連中! 何でわたしがそんなのに付き合わされて学校休まなくちゃいけないのよ、冗談じゃないわ! ヤケ食いよォ~!」
「食いながらしゃべるな」
「ふがふがもごもご!」
「言ってるそばから窒息する気か!」
おまえ、異世界じゃ「食べながらしゃべるな」って教える側だったよなァ!?
「む~、物足りないわ。名の知れたシェフに作らせてるのに物足りないわ……」
「そうだなぁ。……俺らもすっかりお袋の味に慣れてしまった」
舌が肥える、って言い方していいのかなぁ。
一般家庭のおばちゃんでしかないんだがなぁ、金鐘崎美沙子。
「で、さっき言ってたのって何なのよ?」
「ん~?」
「ほら、高市さんが『出戻り』かもしれないっていうの」
ああ、それか。非常に単純な話だ。
「俺が存在に気づけなかったからだよ」
「……ああ、なるほど」
短い説明に、ミフユも納得する。
今や小学二年生だが、異世界では人生の大半を戦場で過ごした身の俺だ。
その俺の気配察知や嗅覚が全く働かなかった相手。普通の日本人とは考えにくい。
「でも、別にいいんじゃない? 他の二人の手下なら対応も考えなきゃだったけど」
「他の二人? あの樽おっさんと金髪ロン毛か」
「そうよ。佐村勲の伯父の佐村甚太と、従兄の佐村龍哉。どっちも俗物ね」
「もう一人、あの佐村夢莉とかいうおねーさんはよ?」
「あの人は勲の妹よ。ただ、あの人だけは他とは違って純粋にわたしを心配してくれてるっぽいのよね。……わたしとは致命的に相性悪いからお断りなんだけど」
ミフユが顔をしかめる。
まぁ、こいつがそうなるのもわかる。あの夢莉は、性格的にミフユとは対極だ。
四角四面とでもいうべきなんだろうな、ああいうタイプは。
何でも型にはめて理解しようとする。頭でっかちで融通の利かない生真面目さん。
自由奔放を己の信条とするミフユとは、まさに水と油だろうよ。
もし、あの人がミフユの後見人になれば、色々口出しをしてくることは必定だ。
それはミフユも俺も、望むところではない。
「とはいえ、後見人は必要なんだろ?」
「勲の顧問弁護士に動いてもらってるけど、それも限界があるわねぇ」
それもしゃーない。ここは日本だ。
金を持った子供が一人で生きていくことは、法の上でも道義の上でも難しい。
「かといって、おまえの両親はなぁ」
「生かしておけるワケないっての。あんな連中」
俺は肩をすくめ、ミフユは軽く嘆息した。
「あ~ぁ、わたしにもあんたのお義母様みたいな都合のいい保護者がいればな~」
「ケッケッケ、お袋ほど従順で素直で都合のいいオンナはいないぜ?」
「何その言い方、腹立つわね。あんたのオンナはわたし一人でしょ。笑えないのよ」
「そこかよ。そりゃ、おまえ一人だけだけどさ。笑うわ」
いきなり不機嫌になるから何事かと思ったわ。
で、これからどうするかだよなー。
「おまえを一人にはしたくないなぁ……。相手に『出戻り』がいるとなると」
「そこは大丈夫だと思うんだけどねぇ。夢莉叔母様だし」
万が一の可能性でも潰しておきたいのは俺の性分だな。
と、いうワケで、まずは情報の確認からだ。
「おまえの後見人になりたがってるあの三人、詳しくはどういう連中なんだ?」
「ああ、そういえば説明してなかったわね」
ミフユが、三人の説明を始める。
「まずは、あんたが樽おっさんって言ってた佐村甚太。勲の父親の兄で、わたしにとっては大おじね。会社を幾つか経営しててお金には困ってないはずなんだけど、とんでもない業突く張りで筋金入りの金の亡者よ。勲の財産は自分のものだって公言してるわ」
「わかりやすすぎる。絶対横領してる……」
「次に、佐村龍哉。勲の母方の従兄弟で、私からすると叔父。自称デザイナー兼スタイリストで、その実態は芸能方面のフィクサー。テレビでの露出も多くて、元グラビア出身のタレントで奥さんの春乃さんとはおしどり夫婦で売ってるけど、実際は冷めきってるわ。息子が一人いるわ」
「一般人が想像する芸能人の裏事情そのまんまだな……」
「最後に、佐村夢莉。勲の妹で、勤勉実直生真面目一途石頭堅物杓子定規がそのまま擬人化したみたいな人で、こっちは会社の経営者とかじゃなく公務員よ。ま、バリバリのキャリア組らしいけど。絶対この人を後見人にしたくないわ」
「おまえとはまさに犬猿の……、いや、タイプ的に猫と犬か」
そして説明が終わって、じゃあどうするんだって話になる。
「大おじ様、論外。私の金が欲しいだけ。龍哉叔父様、問題外。わたしを引き取って美談にして注目されたいだけ。死ね。夢莉叔母様、三人の中じゃ一番マシだけど一番最悪。わたしの自由が死に絶えるわ。……どうしろってのよ、この状況」
「う~~~~~~~~ん……」
聞けば聞くほどミフユが詰んでて笑う。いや、笑えないんですけどね。
「つかさぁ……」
「何よ?」
「とりあえず、おまえ、やっぱウチ来れば?」
「ぅいッ!?」
ミフユが変な声を出す。
「可能性として低くても、万が一がある。この件に『出戻り』が絡んでるなら、おまえを一人にしておきたくはないからさ。それならウチで匿おうかなって、な?」
「い、いや、な? って言われても、そ、そんな……」
何でそこで急にドギマギし始めるのか。
「だ、だって……、いきなり彼氏から『俺んち、泊まり来ない?』何て言われて、ドキッと知るなっていう方が無理よ。無理に決まってるでしょ、そんなの!」
「QOB(急に、乙女になんなよ、ババア)」
「何よ、いいでしょ別にッ、乙女なんだからァァァァァァ――――ッ!?」
うん、知ってる。
「幾つになっても、おまえ以上の乙女はいないよ」
「もォォォォ! 舌の根も乾かぬうちに、あんたはァ――――ッ!」
カミさんからかうの、超ッ、楽しいですッ!
「だがなぁ、ミフユ。よく考えろ。おまえがウチに来れば……」
「な、何よ急に真面目になって。来れば、何だってのよ?」
「毎食、お袋の飯が食えます」
「行くわ」
決め手がそれかい。
すっかりお袋に胃袋掴まれやがってよぉ。何かムカつくわ~!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局、ホテルから出たのは俺一人だった。
ミフユはね、部屋に残ったよ。
「待ってね、待ってね、準備するから! お洋服と、お化粧品と、えりすぐりの品を揃えてバッグに詰めていくからね! あ、それと体もお清めしておかなきゃ!」
確実に一晩はかかるであろう準備を始めてしまわれまして……。
人払いの結界は張っておいたんで、『出戻り』以外は入れないだろうけども。
こっちとしては強引にでも連れてい行きたかったんだがなー。
「だ、だって、可愛くしていきたいから。……ダメ?」
そんなこと言われたら断れるワケがねぇんだよなァァァァァァ~~~~ッ!
はぁ、惚れた弱みってやつですかねぇ、この辺は……。
振り続ける雨の中、合羽を着た俺が歩いていく。
時間は夕暮れ時、日はまだあるが、雲に覆われた空はもう結構薄暗い。
宙色市は、結構交通手段が発達している。
何と生意気にも地下鉄とモノレールがあったりするのだ。生意気。楽しそう!
行きはバスで来たから、帰りはどっちかに乗って帰ろうか。
そんなことを考えて、俺は駅の方へと歩いていく。
そして、道を曲がって、また道を曲がって、またさらに道を曲がって、奥の奥へ。
かくして辿り着いたのは、駅の近くだが誰もいない裏路地。
さてさて、そろそろいいだろうか。
「出てこいよ、誰だか知らねぇが」
どこにいるかもわからない相手に向かって、俺は呼びかける。
尾行されていた。ホテルを出てしばらくしてから。
何者かの気配がぴったりと俺に張りついていた。ついでに視線も感じていた。
自分は追っているぞ、気づけ、気づけ、気づけよ~、と言わんばかりの露骨さだ。
あの高市とかいうボディガード、ではあるまい。
あいつはこんな激しく自己主張してくるタイプじゃない。
だが、だとすると一体誰が?
そんな疑問を抱える俺の前に、傘をさしていない人影が一つ。
パーカーにジャージのズボンという出で立ち。
顔はフードで隠れていて見えないが、胸の膨らみと骨格から女とわかる。
背の高さから考えて、十代半ばか後半くらい。女子高生か?
「おまえ、金鐘崎アキラか」
声はやや高めで、ハスキーな感じがある。甘さはないが、耳に心地よい声だ。
だが、そこに含まれる雰囲気に、何故か既視感を覚える。
「そうだけど、あんたは……?」
「警戒してるな。いつでも逃げられる距離を保ってる。……いいな、おまえ」
いや、ニチャアッ、じゃねぇよ。誰だって聞いてんだよ、こっちは。
「おまえは誰だよ、名乗れよ」
「オレは喧嘩屋ガルシア。あの有名な、喧嘩屋ガルシアだ」
――喧嘩屋ガルシア、あの、有名な!!?
「…………え、誰?」
「え~!? おまえ、オレのこと知らねぇ~の! うわ、信じらんねぇ! 人類かよおまえ、これから話題沸騰、ランク急上昇確実の今日デビューしたオレだぜ!」
「知ってるか、ボケェ!?」
ただのビッグマウスの新人じゃねーか!
「いいんだよ! 夢はでっかく世界一! 結果的に世界一になるなら、新人の頃から世界一でもいいんだよ! わかるだろ! お姉さん怒るぞ! プンプンだぞ!」
「可愛い擬音をつけるなっていつも言ってんだろうが!」
……ん? 俺、今何言った? いつも? 初対面なのに?
「いいだろ、擬音つけたって! おまえは俺が有名になるための礎になるんだ、金鐘崎アキラ。このグレイス・環・ガルシアがテッペンとるための礎にな!」
そう言って、喧嘩屋ガルシアはフードを取って、駆け出した。
裏路地の薄暗さの向こう側に、気の強そうな少女の顔が現れて、俺は愕然となる。
――こいつ、ウチの長女だ!
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