53 / 162
幕間 魔王の願望と悪女の夢想
第48話 三六四日目のうたた寝
しおりを挟む
シンラが俺に問う。
「……母上では、なかったのですか?」
「いや、ミフユだったよ」
水晶の塔の最上階で俺を迎えたのは、確かにミフユだった。
だが、それは俺が街で見た女とは別人だったのだ。
「最初っから見抜かれてたとか、ホンット腹は立つわ、笑えないわで。あ~ぁ」
「おママ、見抜かれてたって、なぁ~に~?」
すっかり拗ねておられるミフユに、スダレがダイレクトアタック。
ミフユがますます唇を尖らせて端的に答える。
「客に合わせて心を入れ替えてたのよ、わたし」
「演技してたとか~?」
「そういうレベルじゃなく、本当に人格を取り換えてたのさ、娼婦のミフユはな」
多重人格、というわけではなく、心の形を意識的に組み替える高等技術だ。
極めに極めた観察力によって客の人物像を見極め、それに合わせ心の形を変える。
どこまでも柔軟なその心によって、当時のミフユはあらゆる女になれた。
従順な奴隷から高慢な女王、楚々とした聖女や可憐な少女、どんな女にもなれた。
そのいずれもが、ミフユ。
そのいずれもが、こいつの本心。
強烈な自己暗示と極まった順応性による、人外めいた対人適応能力だ。
「それって今もできるの~?」
「ダメ」
スダレが興味津々な様子だったが俺が速攻でぶった切った。
「ミフユは今のミフユのままでいい。それ以外のミフユはいらん。見たくもない」
「――ってワケ。こいつがこんなだから見せられないわ。ごめんね?」
「ぶぅ~! おパパのケチ~!」
苦笑するミフユに、スダレがブーたれるが、知らん知らん。知らん!
「やはり母上は、父上に愛されてておられるのですな」
「そこであたたかいまなざしはやめなさいよ、シンラッ! ジジイ、続き早く!」
「へいへい。そっから~」
ミフユに促され、俺は当時の記憶をほじくり返す。
そう、最初に出会ったミフユは、思い描いていた人物像とは全くの別人だった。
だから俺は――、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――だから俺は、ミフユをジロジロと観察して回ったのだ。
「え~……、ぇ? え~? ……えぇぇぇぇぇぇぇ~?」
それはもう、あらゆる角度、あらゆる距離から、俺はミフユを観察した。
「あの、旦那様……?」
俺の様子を窺うミフユは、決して笑みは絶やさず、姿勢も崩さなかった。
纏う衣装は、東の国の様式に合わせた、こっちでいう和服に近いもの。
俺の異世界の生まれが東の国だったから、それに合わせた服装にしたんだろうな。
「う~ん……」
ひとしきり観察を終えて、俺は腕を組んで唸った。
顔は同じだ。顔は間違いなく同じ。街で見た、あの水晶の塔の女だ。
でも、印象が全然違う。
どう違うのかと問われると、ちょっと言語化はできそうにない。
あくまでも俺の主観によるものでしかないからだ。
なので、率直に聞くことにした。
「君、本当にミフユさん?」
「はい、わたくしがミフユめにございます。今を時めく勇士であられるアキラ・バーンズ様にお目通り叶いまして、光栄の至りにございます」
言って、またス、と頭を下げるミフユ。
わー、すっげぇ違和感。もう違和感しかないくらい、違和感&違和感!
君、絶対そんなキャラじゃないでしょ。って言葉がのど元まで込み上げたよ。
さすがに初対面でそれは失礼なのは俺でもわかるのでやめたけど。
代わりにこんなこと言った。
「あ、素でいいですよ……?」
うん、このときの俺は気後れしてたね、確実に。
着飾ったミフユは目も覚めるような美人で、そんな人が遜ってるってのがね……。
「素でいいから、素で。マジでお願いします」
「素、でございますか?」
ってなたときの、少し困った感じのミフユも、まぁ~、美人でさ。
外見だけなら超絶どストライク。もう、これ以上は絶対ないって確信できるね。
痛ッ、痛い!
何でいきなり叩くんだよ!?
あ~、まぁでも、結局その日は何もしないで終わったんだよな。
見た目がよくてもさ、やっぱ違うんだ。目の前のミフユは、違ったんだよ。
「アキラ様、わたくし、何か粗相をしてしまいましたか?」
「いえ、そうじゃなくて、何つ―か、しっくりこないだけなんで……」
「そうなのですね。どうぞ、お笑いくださいませ」
みたいなやり取りして、飯食って、酒飲んで、風呂で背中流してもらって――、
「アキラ様、閨の準備はできておりますよ」
「いや、疲れたんで寝るっすわ」
「え」
あ、このときの「え」って言ったミフユはちょっとだけ素に近かったかも!
まぁ、結局は何もしないで本当にそのまま寝たんだけどな。初日。
これが、俺とミフユの初対面だったってワケよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺は初日について語り終えたところで、すかさずミフユがツッコミを入れてくる。
「あんた、初日だけじゃなくて結局丸一年何もしなかったでしょー!」
「おまえが丸一年、一回も素を見せなかったからだろーがよー!」
と、俺も反論する。
これだけは、言い返せずにはいられない。
「俺は! 素のおまえが! 好きなの! 素じゃないおまえは、いらないの!」
分厚い絨毯をバフバフ叩きながら、俺は激しく主張する。
だが、そのあとで深く息をついた。
「まぁ、当時のおまえはそれ以前の問題ではあったんだけどさ……」
「それは、感謝してるわよ。……本当よ?」
「わかってるよ」
シンラとスダレがわかっていなさそうな目をするが、これはわからなくていい。
俺とミフユの間でだけ通じていれば、それでいい話である。
「あ、そうだ。これきけてなかったんだけどさ、ミフユ」
「何よぅ」
「あの初日のおまえってさ、どんなコンセプトのキャラビルドだったの?」
「ネトゲみたく言うな。ネットないクセに」
「へへ~ん、今度パソコン買うことになったもんね~。携帯もだ!」
「嘘ッ、ついに原始人に文明開化の波が!?」
言い返したいけど本気で言い返せないのが辛い。辛すぎる。
「初日ねぇ~。とりあえず客が傭兵なのはわかってたし、身辺調査ファイルもあったから、それに基づいてキャラクターを組み上げたわね。傭兵って職業上、マウント取りたがるかなって思って控えめで相手を立てるタイプにしたわ」
「身辺調査ファイルとは何ぞや……?」
初耳ですよ。え、初耳なんですけど!?
「浮島に到着した時点で、客になる人間は調査するのよ。瑕疵の有無の確認じゃなくて、どういったサービスをするのが一番のおもてなしになるかの資料として、ね」
「はにゃ~ん、徹底してるんだぁ~」
「超一流のサービスっていうのはね、相手の嗜好を知るところから始めるものよ」
呆気にとられるスダレに、ミフユは何のけなくそう言い切った。
「ところがこいつよ……!」
でも、俺を見るなりその顔がまた忌々しげに歪むわけだ。ンだぁ、そのツラ。
「調査ファイルに基づいて完璧に整えたはずのキャラクターが、まるっきり通じやしないのよ、この男。結局、控えめで相手を立てるタイプは一か月くらいでやめたわ」
「そこから始まるミフユの迷走、あれはなかなか見モノだったな!」
「うっさいわね、あんたが一年間ひたすら『コレジャナイ』し続けたからでしょ!」
そうそう、こんな感じでね――、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――二か月目ちょっと。
「あら、いらっしゃい、アキラ君。今日はどうする? お姉さんと、ア・ソ・ぶ?」
体の線クッキリのキワどい服装でリードしてくれる、エロお姉さんのミフユさん。
「う~~~~ん、違う!」
俺、全力でかぶりを振る
――四か月半くらいが経った時期。
「ご、御主人様……、あの、ミフユのこと、ぃ、いじめてくださいぃ~……」
おどおどビクビクしながらもいじめられるの大好きな、ドM奴隷のミフユちゃん。
「いや、俺はいじめる趣味とか、ないです……」
俺、全霊でドンビキ。
――半年と少し経ったくらい。
「あ、来たの? 食事の用意ならしてあるわよ。何こっち見てるのよ、キモい!」
甲斐甲斐しく世話をしてくれる、ツン成分強めなお隣さんの幼馴染ミフユちゃん。
「ええ、距離感わっかんね~……」
俺、全開でお引き取りを願う。
――八か月目ちょうどくらいの時期。
「いらっしゃいまし、アキラ様! お茶をお淹しますわ。おハーブ茶ですことよ!」
高飛車お嬢様を目指す一般人女性という、完全にキャラが迷走してるミフユ様。
「お茶は美味しいけどそれはどうなの、ねぇ?」
俺、全身で苦言を呈する。
ず~っと、そんな感じで噛み合わなかったんだよな、俺とミフユ。
「だから、素でいいってずっと言ってるやんけェ――――ッ!」
って、俺も毎度毎度言い続けてたのよ。
でもミフユは頑としてそれを聞き入れてくれなかった。素を見せてくれなかった。
俺がそういう風なことを何回言っても――、
「ご期待に添えず申し訳ございません。お笑いくださいませ」
と、そういう風に返されちゃうワケよ。
そのときは、俺も半ば意地になってた部分はある。
絶対にミフユの素を見てやる。こいつの地の性格を拝んでやるんだ、って。
ミフユもそうだったんだと思ってた。
俺をオトすのに意地になってるんだろうなって、勝手に思ってたよ。
そんなこんなで時間は過ぎて、結局何もできないまま一年を消費してしまった。
知っての通り、異世界の一年はこっちと同じ三六五日だ。
その間、俺は昼は傭兵の仕事して、夜になったら浮島に戻ってを繰り返した。
浮島でもらった転移アイテムを使えば、どこにいてもすぐに戻れた。便利だよな。
その一年、ミフユを抱くことはなかった。
でも、食事して、酒飲んでとかはして、話したりもしてたよ。
それだけでも楽しかった。
さすがは世界最高値の女だけあって、不満なんて微塵もなかったね。そこはな。
でもやっぱり何かしっくりこない感じだけは消えないで、ついにあの日だ。
俺にとっては運命の、三六四日目。
翌日には、俺がミフユといられる時間も終わる。
さすがにもったいないとは思った。
ミフユといて、楽しいは楽しかったから。でもやっぱ、夢は捨てられなかった。
世界一の女を抱いて、俺の嫁にする。っていう野望のことな。
「よ~、来たぜ~」
と、その日も塔の最上階に転移して、ミフユの部屋に行ったんだ。
そしたらよ、ミフユ、寝ててよ。俺を待ってる状態で、うたた寝してたんだ。
ドキッとしたね。
その寝顔を見た瞬間に、俺は一年前に感じたモノを思い出した。
そこにいたのは確かに『素』のミフユだった。
心臓が高鳴って、体が一気に熱くなったよ。頭も真っ白だ。
どうする、ここからどうするって自問自答した。
そのとき、聞こえてきたんだ。
ミフユの唇が小さく動いて、本当に小さな声で――、
「……ごめんなさい、ママ」
って、ミフユは言ったんだ。
それを聞いて、俺は何となく察した。察してしまったんだ。
ああ、こいつは自分の『素』の晒し方を忘れてるんだ、ってな。
そしてそれで俺は決めたんだよ。
ミフユが忘れちまった『本当の自分』を、俺が見つけてやろう、ってな。
あ~、一気にしゃべりすぎた。
ミフユさん、お茶ください。烏龍茶がいいな~。
え? 烏龍茶はのどに悪いから、白湯? ……はい、ありがとうございます。
「……母上では、なかったのですか?」
「いや、ミフユだったよ」
水晶の塔の最上階で俺を迎えたのは、確かにミフユだった。
だが、それは俺が街で見た女とは別人だったのだ。
「最初っから見抜かれてたとか、ホンット腹は立つわ、笑えないわで。あ~ぁ」
「おママ、見抜かれてたって、なぁ~に~?」
すっかり拗ねておられるミフユに、スダレがダイレクトアタック。
ミフユがますます唇を尖らせて端的に答える。
「客に合わせて心を入れ替えてたのよ、わたし」
「演技してたとか~?」
「そういうレベルじゃなく、本当に人格を取り換えてたのさ、娼婦のミフユはな」
多重人格、というわけではなく、心の形を意識的に組み替える高等技術だ。
極めに極めた観察力によって客の人物像を見極め、それに合わせ心の形を変える。
どこまでも柔軟なその心によって、当時のミフユはあらゆる女になれた。
従順な奴隷から高慢な女王、楚々とした聖女や可憐な少女、どんな女にもなれた。
そのいずれもが、ミフユ。
そのいずれもが、こいつの本心。
強烈な自己暗示と極まった順応性による、人外めいた対人適応能力だ。
「それって今もできるの~?」
「ダメ」
スダレが興味津々な様子だったが俺が速攻でぶった切った。
「ミフユは今のミフユのままでいい。それ以外のミフユはいらん。見たくもない」
「――ってワケ。こいつがこんなだから見せられないわ。ごめんね?」
「ぶぅ~! おパパのケチ~!」
苦笑するミフユに、スダレがブーたれるが、知らん知らん。知らん!
「やはり母上は、父上に愛されてておられるのですな」
「そこであたたかいまなざしはやめなさいよ、シンラッ! ジジイ、続き早く!」
「へいへい。そっから~」
ミフユに促され、俺は当時の記憶をほじくり返す。
そう、最初に出会ったミフユは、思い描いていた人物像とは全くの別人だった。
だから俺は――、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――だから俺は、ミフユをジロジロと観察して回ったのだ。
「え~……、ぇ? え~? ……えぇぇぇぇぇぇぇ~?」
それはもう、あらゆる角度、あらゆる距離から、俺はミフユを観察した。
「あの、旦那様……?」
俺の様子を窺うミフユは、決して笑みは絶やさず、姿勢も崩さなかった。
纏う衣装は、東の国の様式に合わせた、こっちでいう和服に近いもの。
俺の異世界の生まれが東の国だったから、それに合わせた服装にしたんだろうな。
「う~ん……」
ひとしきり観察を終えて、俺は腕を組んで唸った。
顔は同じだ。顔は間違いなく同じ。街で見た、あの水晶の塔の女だ。
でも、印象が全然違う。
どう違うのかと問われると、ちょっと言語化はできそうにない。
あくまでも俺の主観によるものでしかないからだ。
なので、率直に聞くことにした。
「君、本当にミフユさん?」
「はい、わたくしがミフユめにございます。今を時めく勇士であられるアキラ・バーンズ様にお目通り叶いまして、光栄の至りにございます」
言って、またス、と頭を下げるミフユ。
わー、すっげぇ違和感。もう違和感しかないくらい、違和感&違和感!
君、絶対そんなキャラじゃないでしょ。って言葉がのど元まで込み上げたよ。
さすがに初対面でそれは失礼なのは俺でもわかるのでやめたけど。
代わりにこんなこと言った。
「あ、素でいいですよ……?」
うん、このときの俺は気後れしてたね、確実に。
着飾ったミフユは目も覚めるような美人で、そんな人が遜ってるってのがね……。
「素でいいから、素で。マジでお願いします」
「素、でございますか?」
ってなたときの、少し困った感じのミフユも、まぁ~、美人でさ。
外見だけなら超絶どストライク。もう、これ以上は絶対ないって確信できるね。
痛ッ、痛い!
何でいきなり叩くんだよ!?
あ~、まぁでも、結局その日は何もしないで終わったんだよな。
見た目がよくてもさ、やっぱ違うんだ。目の前のミフユは、違ったんだよ。
「アキラ様、わたくし、何か粗相をしてしまいましたか?」
「いえ、そうじゃなくて、何つ―か、しっくりこないだけなんで……」
「そうなのですね。どうぞ、お笑いくださいませ」
みたいなやり取りして、飯食って、酒飲んで、風呂で背中流してもらって――、
「アキラ様、閨の準備はできておりますよ」
「いや、疲れたんで寝るっすわ」
「え」
あ、このときの「え」って言ったミフユはちょっとだけ素に近かったかも!
まぁ、結局は何もしないで本当にそのまま寝たんだけどな。初日。
これが、俺とミフユの初対面だったってワケよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺は初日について語り終えたところで、すかさずミフユがツッコミを入れてくる。
「あんた、初日だけじゃなくて結局丸一年何もしなかったでしょー!」
「おまえが丸一年、一回も素を見せなかったからだろーがよー!」
と、俺も反論する。
これだけは、言い返せずにはいられない。
「俺は! 素のおまえが! 好きなの! 素じゃないおまえは、いらないの!」
分厚い絨毯をバフバフ叩きながら、俺は激しく主張する。
だが、そのあとで深く息をついた。
「まぁ、当時のおまえはそれ以前の問題ではあったんだけどさ……」
「それは、感謝してるわよ。……本当よ?」
「わかってるよ」
シンラとスダレがわかっていなさそうな目をするが、これはわからなくていい。
俺とミフユの間でだけ通じていれば、それでいい話である。
「あ、そうだ。これきけてなかったんだけどさ、ミフユ」
「何よぅ」
「あの初日のおまえってさ、どんなコンセプトのキャラビルドだったの?」
「ネトゲみたく言うな。ネットないクセに」
「へへ~ん、今度パソコン買うことになったもんね~。携帯もだ!」
「嘘ッ、ついに原始人に文明開化の波が!?」
言い返したいけど本気で言い返せないのが辛い。辛すぎる。
「初日ねぇ~。とりあえず客が傭兵なのはわかってたし、身辺調査ファイルもあったから、それに基づいてキャラクターを組み上げたわね。傭兵って職業上、マウント取りたがるかなって思って控えめで相手を立てるタイプにしたわ」
「身辺調査ファイルとは何ぞや……?」
初耳ですよ。え、初耳なんですけど!?
「浮島に到着した時点で、客になる人間は調査するのよ。瑕疵の有無の確認じゃなくて、どういったサービスをするのが一番のおもてなしになるかの資料として、ね」
「はにゃ~ん、徹底してるんだぁ~」
「超一流のサービスっていうのはね、相手の嗜好を知るところから始めるものよ」
呆気にとられるスダレに、ミフユは何のけなくそう言い切った。
「ところがこいつよ……!」
でも、俺を見るなりその顔がまた忌々しげに歪むわけだ。ンだぁ、そのツラ。
「調査ファイルに基づいて完璧に整えたはずのキャラクターが、まるっきり通じやしないのよ、この男。結局、控えめで相手を立てるタイプは一か月くらいでやめたわ」
「そこから始まるミフユの迷走、あれはなかなか見モノだったな!」
「うっさいわね、あんたが一年間ひたすら『コレジャナイ』し続けたからでしょ!」
そうそう、こんな感じでね――、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――二か月目ちょっと。
「あら、いらっしゃい、アキラ君。今日はどうする? お姉さんと、ア・ソ・ぶ?」
体の線クッキリのキワどい服装でリードしてくれる、エロお姉さんのミフユさん。
「う~~~~ん、違う!」
俺、全力でかぶりを振る
――四か月半くらいが経った時期。
「ご、御主人様……、あの、ミフユのこと、ぃ、いじめてくださいぃ~……」
おどおどビクビクしながらもいじめられるの大好きな、ドM奴隷のミフユちゃん。
「いや、俺はいじめる趣味とか、ないです……」
俺、全霊でドンビキ。
――半年と少し経ったくらい。
「あ、来たの? 食事の用意ならしてあるわよ。何こっち見てるのよ、キモい!」
甲斐甲斐しく世話をしてくれる、ツン成分強めなお隣さんの幼馴染ミフユちゃん。
「ええ、距離感わっかんね~……」
俺、全開でお引き取りを願う。
――八か月目ちょうどくらいの時期。
「いらっしゃいまし、アキラ様! お茶をお淹しますわ。おハーブ茶ですことよ!」
高飛車お嬢様を目指す一般人女性という、完全にキャラが迷走してるミフユ様。
「お茶は美味しいけどそれはどうなの、ねぇ?」
俺、全身で苦言を呈する。
ず~っと、そんな感じで噛み合わなかったんだよな、俺とミフユ。
「だから、素でいいってずっと言ってるやんけェ――――ッ!」
って、俺も毎度毎度言い続けてたのよ。
でもミフユは頑としてそれを聞き入れてくれなかった。素を見せてくれなかった。
俺がそういう風なことを何回言っても――、
「ご期待に添えず申し訳ございません。お笑いくださいませ」
と、そういう風に返されちゃうワケよ。
そのときは、俺も半ば意地になってた部分はある。
絶対にミフユの素を見てやる。こいつの地の性格を拝んでやるんだ、って。
ミフユもそうだったんだと思ってた。
俺をオトすのに意地になってるんだろうなって、勝手に思ってたよ。
そんなこんなで時間は過ぎて、結局何もできないまま一年を消費してしまった。
知っての通り、異世界の一年はこっちと同じ三六五日だ。
その間、俺は昼は傭兵の仕事して、夜になったら浮島に戻ってを繰り返した。
浮島でもらった転移アイテムを使えば、どこにいてもすぐに戻れた。便利だよな。
その一年、ミフユを抱くことはなかった。
でも、食事して、酒飲んでとかはして、話したりもしてたよ。
それだけでも楽しかった。
さすがは世界最高値の女だけあって、不満なんて微塵もなかったね。そこはな。
でもやっぱり何かしっくりこない感じだけは消えないで、ついにあの日だ。
俺にとっては運命の、三六四日目。
翌日には、俺がミフユといられる時間も終わる。
さすがにもったいないとは思った。
ミフユといて、楽しいは楽しかったから。でもやっぱ、夢は捨てられなかった。
世界一の女を抱いて、俺の嫁にする。っていう野望のことな。
「よ~、来たぜ~」
と、その日も塔の最上階に転移して、ミフユの部屋に行ったんだ。
そしたらよ、ミフユ、寝ててよ。俺を待ってる状態で、うたた寝してたんだ。
ドキッとしたね。
その寝顔を見た瞬間に、俺は一年前に感じたモノを思い出した。
そこにいたのは確かに『素』のミフユだった。
心臓が高鳴って、体が一気に熱くなったよ。頭も真っ白だ。
どうする、ここからどうするって自問自答した。
そのとき、聞こえてきたんだ。
ミフユの唇が小さく動いて、本当に小さな声で――、
「……ごめんなさい、ママ」
って、ミフユは言ったんだ。
それを聞いて、俺は何となく察した。察してしまったんだ。
ああ、こいつは自分の『素』の晒し方を忘れてるんだ、ってな。
そしてそれで俺は決めたんだよ。
ミフユが忘れちまった『本当の自分』を、俺が見つけてやろう、ってな。
あ~、一気にしゃべりすぎた。
ミフユさん、お茶ください。烏龍茶がいいな~。
え? 烏龍茶はのどに悪いから、白湯? ……はい、ありがとうございます。
1
お気に入りに追加
589
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

第3次パワフル転生野球大戦ACE
青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。
野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。
その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。
果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!?
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる