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幕間 魔王の願望と悪女の夢想
第46話 出会いは天空、水晶の塔の頂で
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問われたことに、俺は正直に答えた。
「え、一目惚れだよ?」
「はァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!?」
ものすンげェ反応をされてしまったんだが?
「あんた、わたしが娼婦やってたときは結局一回も抱かなかったクセに、何それ!」
「ああ、うん。そういえばそうだったな~」
「「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!!?」」
また、もンのすげェ反応をされてしまったんだが?
ちなみに前者がミフユの反応。後者がシンラとスダレの反応である。
何だよ、シンラの質問に答えただけじゃねぇか。
俺がいつミフユを好きになったのか、とかいうド直球すぎる質問によ!
今日は無礼講だから答えてやったんだぞ、ありがたく思えや!
さて現在、ミフユのホテルにてバーンズ家恒例の大宴会真っ最中。
異世界じゃ、月に一度の恒例行事だったんよね。
この場には俺とミフユの他、シンラ、スダレ、ケント、あとひなたとお袋がいる。
だだっ広い部屋の中、テーブル片付け、みんなして絨毯の上に直座り。
今回はひなたもいるのでアルコール類は抜きで、お茶とジュースとお菓子でGO。
そんな感じで、みんな気楽にワイワイやって、昼下がり。
「こうやって集まるのも久々よねぇ~」
「久々よねぇ~、じゃなくて、おまえが『構ってー!』って招集かけたんやろがい」
しみじみ呟くミフユに、俺は半眼になってチクチクつっつく。
「だぁ~って、この部屋、一人じゃ広すぎんのよー!」
「そりゃ、市内一番のホテルの最上階貸し切りとか広くて当然っていうね。アホ?」
「ひっど!?」
自分で貸し切っておいて文句を言うのはアホだろ。
ちなみにこのフロア、中庭もあるしプールもあるし、コンサートホールもあるぞ。
いやー、一晩おいくら万円するのか、想像もつかねーなー。
「あ、ジジイ、ここの値段が気になってるでしょ?」
「あのね、ババア、前も言ったけど人の表情を的確に読み取るのやめろ?」
「こら、アキラ。女の子をババアなんて呼ぶもんじゃないよ?」
「ですよね、お義母様! さすがですわ~! アキラったら、酷いんですよ~!」
「お袋を味方につけたら調子乗りっぱなしだなぁ、おまえなァッ!?」
っていうかお袋も話に加わってくんな、話ややこしくなるわ!
「――って」
ふと気づくと、シンラとスダレが無言でこっちを見ている。
「何で目を丸くしてるんだい、我が子達よ」
「あ、いえ……」
「おママの発言が~、ちょっとびっくりぎょーてん~、っていうか~?」
「え、わたし?」
「はい、その、母上が娼婦と現役だった頃に、という下りにてござりまする」
何やら気まずげに言うシンラに、俺とミフユは顔を見合わせる。
「あれ、もしかしてこの話――」
「……したことなかったっけ?」
一緒に首をかしげると、途端にスダレがブーたれた。
「知らない知らない、知~ら~な~い~! 二人だけ知ってるなんてズルいの~! ズルズルなのよ~! ズルいんだから、ズルいんだから、ウチも知りた~い~!」
「うわー、スダレの癇癪が始まっちゃったぞ、オイ……」
「えっ、わたしのせいなの、これ!?」
どう見てもおまえのせいやんけー。
スダレがこーなるとマジで厄介なんだぞー、知ってるクセによー……。
「ときに、一つ、お尋ねしたき仕儀がございまして」
いやいや期に突入したスダレを見事にスルーして、シンラが何か言ってくる。
「おう、何だよ、シンラ」
「は。思い返してみましたところ、余は父上と母上の馴れ初めにつきまして寡聞にして知りませなんだ。この機会に、是非是非、お伺いしとうございます」
「聞きたいの~、聞きたいの~、絶対教えてくれなきゃやんやんなのぉ~!」
うわぁ、圧強いよ、この三女。二十代半ばのせがみ方じゃないよ。
でもまぁ、そうか。異世界では話題にしたことなかったか、これ……。
「あれ、若達には話してなかったんですか、お二人の馴れ初め」
ひなたと一緒に遊んでいたケントも話に加わってくる。
こいつ、子供の相手が得意なんだよな。シンラもガキの頃は世話になってたし。
「その口ぶり、ケント殿は御存じなのですか?」
「知ってますよ。というか、そのとき俺も団長と一緒にいたんで。ええ」
「ほほぉ、それはそれは……」
シンラの瞳が、興味からキランと輝く。
あ~、これはもうアレですね、完全に話さなきゃならん流れですね。
めんどくっさ……。
「ところで若、ひなたちゃん、寝ちゃいましたけど」
「おお、これはかたじけなく存ずる。そのまま寝かせておきたくはあれど、絨毯の上に寝かすは忍びなきもの。美沙子殿、お願いすることは可能でありましょうや?」
「はいはい、大丈夫ですよ。あたしも少しベッドで寝てきますね~」
お袋とひなた、退場。
「シンラ、お袋とひなたの接点を着実に積み上げてるな、おまえ……」
「フ、このシンラの謀に抜かりはございませぬゆえ」
これ、案外ひなたがお袋に懐く日も近いのでは……?
「さてさて、図らずもこの場は『出戻り』の我らのみとなりましたな。それでは、父上、母上、余らは決して邪魔は致しませぬゆえ、存分にお語りくださいませ」
「お語りくださいませませ~! 早く早くハリ~早く~!」
正座してこっちを凝視してくるシンラと、手と足を交互に打ち鳴らすスダレ。
スダレは直ちにやめろ。スカートの中が丸見えなんだわ……。
「どうすんのよ~。アキラ~……」
「話すしかねーべ」
困り顔のミフユを隣に置きながら、俺は近くにあったチップスを一枚かじった。
う~ん、のり塩!
俺はコンソメが好きだけど、のり塩もいいよね。うすしおは物足りない。
「しかし、どこから話したモンかね~。あ、のど渇いた」
「はい、ジュース」
「あんがと。あ、おまえのお茶ないじゃん。コップ貸せ。足すから」
「も~、別にいいのに~。はい、あんまり注ぎすぎないでね」
「へいへい」
と、俺が考えつつミフユとやり取りしてると、ケントとシンラがニヤニヤと。
「……何よ?」
「いや~、何でもないっすよ? ね~、若?」
「然り然り。父上の母上の仲睦まじきこと、このシンラ、心より和み申しましたぞ」
うるせぇ、そこで和まれてもこっちは逃げたくなるだけなんだよ!
あーもう! このままの流れだと俺達が不利だこれ、さっさと話に入ろう、もう!
「え~とだな、俺とミフユの出会いは――」
俺は、古くはあるが決して色褪せないあのときの記憶をほじくり返した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
異世界の空の果て、星の海にほど近い、昏くて広い大空のど真ん中。
そこに、世界で一番金がかかる女が住んでいる。
――天空の娼館ル・クピディア。
古代文明の遺産たる『水晶の浮島』に建てられた、世界で最も爛れた快楽の園。
そこでは、礼儀も何も必要ない。ただ、欲望さえあればいい。
一掴みの欲望と尽きぬ金さえあれば、身分問わず誰でも快楽の空に羽ばたける。
世界各国から集められた、財宝にも等しい女達。
身に帯びた宝石よりもなお煌き輝く、磨き抜かれた最高級の娼婦。
十段階のランクのうち、最下級の娼婦ですらその美貌は下界の女の比ではない。
そんな女達と一晩を共にすること、それ自体がすでに栄誉。
男達にとっては、まさに武勇伝と呼ぶに相応しき体験となるのである。
だが、忘れることなかれ。
ここは人の夢が作りあげた、欲望と快楽の園。空の果ての水晶宮。
ただ金があるだけでは、この娼館の客になることはできない。
客になれるのは、この娼館に生きて辿り着けた者のみと心得るがいい。
「――って言われてるけどさ、そこまで難易度高くなかったよな?」
「いやいや大冒険だったでしょ。海に山に地下遺跡に、異次元も行ったでしょ!?」
と、水晶の浮島に到着した俺とケントが、道を歩いていた。
まー、浮島は確かに豪華っちゃ豪華だったね。
中央に娼館の本部の『水晶塔』があってさ、その周りに普通に街があったのさ。
人口は数千人はいた。全員が、娼館で働くスタッフだったよ。
食料の調達とかは転移魔法を使ってやってみたいだな。
その辺のことはよー知らんけど、街並みもかなり金かかってた感じだったわ。
あ、ちなみにル・クピディアに到着した当時、俺が二十歳、ケントが二十二歳ね。
実はケントの方が年上だったんだよなー。当時から色々頼ったわ。で、
「団長、本気であの子を狙いに行くんですか?」
「ん~? ああ。おまえが言ったんじゃねぇか、世界最高の女はそいつだ、って」
「そりゃ確かに、言いましたけど~……」
当時、俺には一つの夢があってな。その夢ってのが――、
「俺の童貞は、世界最高の女に捧げるって決めてンだよ!」
「幾ら『水晶の浮島』でも、そういうことを往来で叫ばんでくださいよ!」
ケントに思いっきり叱られてしまったわ。
今思うとくっだらねーコト言ってんなーと思うけど、当時は本気だったよ、これ。
俺は、世界一の女に自分の童貞を捧げて、そいつを嫁にする。っていう夢。
「いるんだろ、『世界最高の女』が。あの塔に」
と、俺が視線を向けた先。
この浮島のランドマークでもあり、娼婦達の棲み処でもある『水晶塔』。
太陽の光を受けて、虹色に輝く透き通った塔で、俺見ちゃったんだよ。
塔の一番上に立って、風に身を晒しながら街を見つめてる女をさ。
俺、目ェよかったからさ、その女の横顔までバッチリ見えちゃったワケよ。
それがミフユでさ、俺、そのときに一目惚れしちゃったんだよな。
いや~、衝撃的だったね。
今思い返しても身震いするくらい戦慄したよ。何あれって思ったモン。マジで。
だからそのとき決めたんだ。
俺は絶対、あの女を嫁にして世界で一番幸せになってやるんだ、ってな。
あ、のど渇いたな。ミフユ、ジュースおかわり。
「え、一目惚れだよ?」
「はァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!?」
ものすンげェ反応をされてしまったんだが?
「あんた、わたしが娼婦やってたときは結局一回も抱かなかったクセに、何それ!」
「ああ、うん。そういえばそうだったな~」
「「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!!?」」
また、もンのすげェ反応をされてしまったんだが?
ちなみに前者がミフユの反応。後者がシンラとスダレの反応である。
何だよ、シンラの質問に答えただけじゃねぇか。
俺がいつミフユを好きになったのか、とかいうド直球すぎる質問によ!
今日は無礼講だから答えてやったんだぞ、ありがたく思えや!
さて現在、ミフユのホテルにてバーンズ家恒例の大宴会真っ最中。
異世界じゃ、月に一度の恒例行事だったんよね。
この場には俺とミフユの他、シンラ、スダレ、ケント、あとひなたとお袋がいる。
だだっ広い部屋の中、テーブル片付け、みんなして絨毯の上に直座り。
今回はひなたもいるのでアルコール類は抜きで、お茶とジュースとお菓子でGO。
そんな感じで、みんな気楽にワイワイやって、昼下がり。
「こうやって集まるのも久々よねぇ~」
「久々よねぇ~、じゃなくて、おまえが『構ってー!』って招集かけたんやろがい」
しみじみ呟くミフユに、俺は半眼になってチクチクつっつく。
「だぁ~って、この部屋、一人じゃ広すぎんのよー!」
「そりゃ、市内一番のホテルの最上階貸し切りとか広くて当然っていうね。アホ?」
「ひっど!?」
自分で貸し切っておいて文句を言うのはアホだろ。
ちなみにこのフロア、中庭もあるしプールもあるし、コンサートホールもあるぞ。
いやー、一晩おいくら万円するのか、想像もつかねーなー。
「あ、ジジイ、ここの値段が気になってるでしょ?」
「あのね、ババア、前も言ったけど人の表情を的確に読み取るのやめろ?」
「こら、アキラ。女の子をババアなんて呼ぶもんじゃないよ?」
「ですよね、お義母様! さすがですわ~! アキラったら、酷いんですよ~!」
「お袋を味方につけたら調子乗りっぱなしだなぁ、おまえなァッ!?」
っていうかお袋も話に加わってくんな、話ややこしくなるわ!
「――って」
ふと気づくと、シンラとスダレが無言でこっちを見ている。
「何で目を丸くしてるんだい、我が子達よ」
「あ、いえ……」
「おママの発言が~、ちょっとびっくりぎょーてん~、っていうか~?」
「え、わたし?」
「はい、その、母上が娼婦と現役だった頃に、という下りにてござりまする」
何やら気まずげに言うシンラに、俺とミフユは顔を見合わせる。
「あれ、もしかしてこの話――」
「……したことなかったっけ?」
一緒に首をかしげると、途端にスダレがブーたれた。
「知らない知らない、知~ら~な~い~! 二人だけ知ってるなんてズルいの~! ズルズルなのよ~! ズルいんだから、ズルいんだから、ウチも知りた~い~!」
「うわー、スダレの癇癪が始まっちゃったぞ、オイ……」
「えっ、わたしのせいなの、これ!?」
どう見てもおまえのせいやんけー。
スダレがこーなるとマジで厄介なんだぞー、知ってるクセによー……。
「ときに、一つ、お尋ねしたき仕儀がございまして」
いやいや期に突入したスダレを見事にスルーして、シンラが何か言ってくる。
「おう、何だよ、シンラ」
「は。思い返してみましたところ、余は父上と母上の馴れ初めにつきまして寡聞にして知りませなんだ。この機会に、是非是非、お伺いしとうございます」
「聞きたいの~、聞きたいの~、絶対教えてくれなきゃやんやんなのぉ~!」
うわぁ、圧強いよ、この三女。二十代半ばのせがみ方じゃないよ。
でもまぁ、そうか。異世界では話題にしたことなかったか、これ……。
「あれ、若達には話してなかったんですか、お二人の馴れ初め」
ひなたと一緒に遊んでいたケントも話に加わってくる。
こいつ、子供の相手が得意なんだよな。シンラもガキの頃は世話になってたし。
「その口ぶり、ケント殿は御存じなのですか?」
「知ってますよ。というか、そのとき俺も団長と一緒にいたんで。ええ」
「ほほぉ、それはそれは……」
シンラの瞳が、興味からキランと輝く。
あ~、これはもうアレですね、完全に話さなきゃならん流れですね。
めんどくっさ……。
「ところで若、ひなたちゃん、寝ちゃいましたけど」
「おお、これはかたじけなく存ずる。そのまま寝かせておきたくはあれど、絨毯の上に寝かすは忍びなきもの。美沙子殿、お願いすることは可能でありましょうや?」
「はいはい、大丈夫ですよ。あたしも少しベッドで寝てきますね~」
お袋とひなた、退場。
「シンラ、お袋とひなたの接点を着実に積み上げてるな、おまえ……」
「フ、このシンラの謀に抜かりはございませぬゆえ」
これ、案外ひなたがお袋に懐く日も近いのでは……?
「さてさて、図らずもこの場は『出戻り』の我らのみとなりましたな。それでは、父上、母上、余らは決して邪魔は致しませぬゆえ、存分にお語りくださいませ」
「お語りくださいませませ~! 早く早くハリ~早く~!」
正座してこっちを凝視してくるシンラと、手と足を交互に打ち鳴らすスダレ。
スダレは直ちにやめろ。スカートの中が丸見えなんだわ……。
「どうすんのよ~。アキラ~……」
「話すしかねーべ」
困り顔のミフユを隣に置きながら、俺は近くにあったチップスを一枚かじった。
う~ん、のり塩!
俺はコンソメが好きだけど、のり塩もいいよね。うすしおは物足りない。
「しかし、どこから話したモンかね~。あ、のど渇いた」
「はい、ジュース」
「あんがと。あ、おまえのお茶ないじゃん。コップ貸せ。足すから」
「も~、別にいいのに~。はい、あんまり注ぎすぎないでね」
「へいへい」
と、俺が考えつつミフユとやり取りしてると、ケントとシンラがニヤニヤと。
「……何よ?」
「いや~、何でもないっすよ? ね~、若?」
「然り然り。父上の母上の仲睦まじきこと、このシンラ、心より和み申しましたぞ」
うるせぇ、そこで和まれてもこっちは逃げたくなるだけなんだよ!
あーもう! このままの流れだと俺達が不利だこれ、さっさと話に入ろう、もう!
「え~とだな、俺とミフユの出会いは――」
俺は、古くはあるが決して色褪せないあのときの記憶をほじくり返した。
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異世界の空の果て、星の海にほど近い、昏くて広い大空のど真ん中。
そこに、世界で一番金がかかる女が住んでいる。
――天空の娼館ル・クピディア。
古代文明の遺産たる『水晶の浮島』に建てられた、世界で最も爛れた快楽の園。
そこでは、礼儀も何も必要ない。ただ、欲望さえあればいい。
一掴みの欲望と尽きぬ金さえあれば、身分問わず誰でも快楽の空に羽ばたける。
世界各国から集められた、財宝にも等しい女達。
身に帯びた宝石よりもなお煌き輝く、磨き抜かれた最高級の娼婦。
十段階のランクのうち、最下級の娼婦ですらその美貌は下界の女の比ではない。
そんな女達と一晩を共にすること、それ自体がすでに栄誉。
男達にとっては、まさに武勇伝と呼ぶに相応しき体験となるのである。
だが、忘れることなかれ。
ここは人の夢が作りあげた、欲望と快楽の園。空の果ての水晶宮。
ただ金があるだけでは、この娼館の客になることはできない。
客になれるのは、この娼館に生きて辿り着けた者のみと心得るがいい。
「――って言われてるけどさ、そこまで難易度高くなかったよな?」
「いやいや大冒険だったでしょ。海に山に地下遺跡に、異次元も行ったでしょ!?」
と、水晶の浮島に到着した俺とケントが、道を歩いていた。
まー、浮島は確かに豪華っちゃ豪華だったね。
中央に娼館の本部の『水晶塔』があってさ、その周りに普通に街があったのさ。
人口は数千人はいた。全員が、娼館で働くスタッフだったよ。
食料の調達とかは転移魔法を使ってやってみたいだな。
その辺のことはよー知らんけど、街並みもかなり金かかってた感じだったわ。
あ、ちなみにル・クピディアに到着した当時、俺が二十歳、ケントが二十二歳ね。
実はケントの方が年上だったんだよなー。当時から色々頼ったわ。で、
「団長、本気であの子を狙いに行くんですか?」
「ん~? ああ。おまえが言ったんじゃねぇか、世界最高の女はそいつだ、って」
「そりゃ確かに、言いましたけど~……」
当時、俺には一つの夢があってな。その夢ってのが――、
「俺の童貞は、世界最高の女に捧げるって決めてンだよ!」
「幾ら『水晶の浮島』でも、そういうことを往来で叫ばんでくださいよ!」
ケントに思いっきり叱られてしまったわ。
今思うとくっだらねーコト言ってんなーと思うけど、当時は本気だったよ、これ。
俺は、世界一の女に自分の童貞を捧げて、そいつを嫁にする。っていう夢。
「いるんだろ、『世界最高の女』が。あの塔に」
と、俺が視線を向けた先。
この浮島のランドマークでもあり、娼婦達の棲み処でもある『水晶塔』。
太陽の光を受けて、虹色に輝く透き通った塔で、俺見ちゃったんだよ。
塔の一番上に立って、風に身を晒しながら街を見つめてる女をさ。
俺、目ェよかったからさ、その女の横顔までバッチリ見えちゃったワケよ。
それがミフユでさ、俺、そのときに一目惚れしちゃったんだよな。
いや~、衝撃的だったね。
今思い返しても身震いするくらい戦慄したよ。何あれって思ったモン。マジで。
だからそのとき決めたんだ。
俺は絶対、あの女を嫁にして世界で一番幸せになってやるんだ、ってな。
あ、のど渇いたな。ミフユ、ジュースおかわり。
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