出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

文字の大きさ
上 下
32 / 162
第三章 宙色銀河商店街懺悔録

第30話 宮原浩二の懺悔

しおりを挟む
 これはまさに脅迫。

「誰がかっぱらいやがった! さっさと出てこい、ブチ殺されてぇのか!」

 お~、怖い。
 声が低くてドスがきいてて迫力満点ですねー。

 全ての弔問客を最上の一室に集めて凄んでいるのは宮原浩二――、ではない。
 宮原は、ドアの前で客達に睨みを利かせている。

「誰が親父の死体を盗みやがった! 郷塚の家をナメてんのか、あァ!?」

 がなり立てているのは、喪主の郷塚健司その人だった。
 騒ぎが起きるまでは建前だけでも紳士ぶってたが、こうなりゃ完全にヤクザだな。
 銀縁眼鏡に冷たい印象も相まって、インテリヤクザってヤツかねぇ。

「あなた、警察には?」
「バカ言うんじゃねぇ、理恵! 警察への通報なんぞ、それこそ郷塚の家の恥だ!」

 オイオイ、死体がなくなったのに警察に連絡しないのかよ。

「どうせ犯人はこの中にいるに決まってる、俺達で調べて犯人をとっ捕まえりゃ、それで終わりだ。オイ、宮原! 芦井さんに連絡入れて、もう少しよこしてもらえ!」
「ヘイ、健司さん。わかりやした!」

 指示を受けた宮原が、ドアを背にしたままスマホを手にする。
 芦井、か。なるほどね。健司が繋がってる組織は、暴力団の芦井組か。

 前にブチ殺した北村理史の組織と取り引きがあった組だ。
 名前だけしか知らないが、まぁ、その繋がりが確認できただけでもよし、かね。

「ち、ちょっと、健司さん。お葬式は……?」

 集められた弔問客の中の一人が、恐る恐るそれを尋ねてみる。
 すると、健司はその客をぎろりと睨みつけて、大きく声を張り上げた。

「できるワケねぇだろうが、こんな状態で! 死体が見つかるまでは延期だ! 犯人は今すぐに名乗り出ろ! さもなきゃ、見つかるまで帰さねぇからなぁ!」

 無茶を言い出す健司に、弔問客が一斉にどよめく。

「待ってくださいよ、健司さん! そりゃ困る!」
「そうです、帰ってこれから色々としなきゃいけないことだってあるんですよ!」
「うるせぇ! どいつもこいつもウチに土地借りてる貧乏人の分際で、新しい郷塚の当主の俺にケチつける気か? あぁ? 覚悟できてんだろうなぁ、オイ?」

 何人かが抗議を試みるが、健司の迫力に気圧されて完全に押し黙ってしまう。
 そこに、コンコンと外から誰かがドアをノックする。

「お父さ~ん、賢人けんとがやっぱりいないんだけど~?」

 入ってきたのは、誰かを探しに行ってたらしき娘の小絵だった。

「フン、放っとけ。今はそれどころじゃねぇんだ」
「もぉ~、賢人ったらどこに行ったのよ、こんなにお姉ちゃんを心配させて~!」

 賢人、というのはどうやら小絵の弟らしいが、それにしちゃ健司の反応が薄いな。

「あなた、もしかして賢人がやったんじゃ?」

 母親の理恵がその可能性について言及するも、

「ハンッ!」

 健司がそれを一笑に付すのみ。

「あんなタマナシのガキにこんな大それたコトができるワケねぇだろ。大方、葬式を手伝うのがイヤで逃げ回ってるだけだろう。あんなガキはどうでもいい」
「まぁ、賢人なら逃げるか。もぉ~、そんなところも可愛いんだからぁ~♪」

 早々に賢人とやらから興味をなくす健司に、体をくねらせる小絵。
 郷塚家も到底、円満なご家庭にゃ見えねぇなぁ。令和の日本はこんなんばっかか。

「健司さぁ~ん! あと数分で組から人が来るそうです!」
「おう、わかった。来たら死体探すように言っとけ」
「ヘイ、もちろんです! ……ところで、トイレ行ってきていいっすかね?」

 子分のこの質問に、健司は顔をしかめて強く舌打ちをする。

「わざわざ確認取ろうとすんじゃねぇよ。さっさと行ってこい」
「ヘイ、すぐ戻りやす!」

 そそくさと部屋をあとにする宮原。……チャ~ンス!

「あ、あの、あの、おじちゃん!」

 俺は健司に近づいて、そう声をかける。

「ん~? おめぇ、金鐘崎のガキか。何だ、こっちゃ忙しいんだが?」
「僕も、おしっこ! おしっこ行きたいです! も、もうすぐ漏れそうなの~!」

 俺が騒ぐと、健司は宮原のときよりもさらに露骨に不機嫌そうな顔をする。
 だが、チラリと周りにまぎれて見事にモブ化しているお袋を見て、

「さっさと行ってこい。だがすぐ戻ってこねぇと、ママが大変なことになるぜ?」
「う、うん……」

 ククク、見ろ、今の俺の名演っぷりを。
 全身の血流を軽く調整して、サァッと顔色を青ざめさせたりしてるぞ。

「行ってくるね、ママ!」
「ママ……」

 いや、そこで仰天するのはやめろ、お袋。怪しまれたらどうすんだよォ!
 だが何とか無事に部屋の外に出られた俺は、一路宮原のいるトイレへ。

「見つけた~」

 俺が入ると、ちょうど宮原がトイレで用を足し終えたところだった。

「ん? てめぇはさっきのガキ……?」
「宮原くぅ~ん、落とし前をつけに来てあげたよォ~?」

 俺は金属符を壁に張って、このトイレだけを『異階化』。宮原に笑いかける。

「あ? 落とし前たぁ、どういうことだ、テメェ」
「こういうことだよ」

 俺は収納空間アイテムボックスから分厚い刃を持つ鉈を取り出した。

「な、は……?」

 それを見て、一瞬呆ける宮原。
 オイオイ、なってねぇなぁ。もう戦いは始まってんだぜ?

「ウラァ!」

 全身を使って、俺は宮原に鉈を投げつける。
 鉈は、宮原が一瞬でも反応する前にその右肩に深々と肉を切り裂いた。血が噴く。

「ぎっ……」

 自分の右肩に食い込んだ鉈を見て、宮原の目が大きく見開かれる。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「悲鳴あげてるヒマあったら、さっさと応戦しろや、三下がァァァァァァァ!」

 隙だらけの宮原の腹部に、俺は思いっきり飛び蹴りを叩き込んだ。

「ぐっ、げふぅ!?」

 なすすべなく、トイレの床に転がる宮原。お~、ばっちぃばっちぃ。

「ぁ、あ。ぁぁ……」
「宮原ァ、俺を蹴ったよな? 何もしてない人間にそういうことするのって、悪いことだよなぁ? そういうコトをしたら仕返しされてるって知ってるよなぁ?」

 収納空間から、金属バットを取り出す。

「ひっ……!?」
「仕返しされるようなことしたら何するべきかわかってるか? わかってねぇなら、今この場でてめぇに叩き込んでやるよ。言葉じゃなく、実感って形でなァ!」

 俺は金属バットを振り上げ、躊躇なく叩きつけた。

「ぎぎゃあああぁぁぁぁあ! ご、ごめんなさい、ごめんなさいィ!? 俺がわる、わ、悪かったです! 俺が悪かったから、もうやめ、ぐぇっ、がぁぁぁぁぁ!!?」
「許すわけないじゃん? 『一罪一罰、一死一償』! 罰として死ね、宮原君!」
「ぃ、ぃゃだぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!?」

 イヤだと叫ぶそのあごに、金属バットで思い切りゴルフスィーング!
 パッコォ~ン、ゴキャッ! 超、エキサイティン!

 そして俺は、宮原浩二を丁寧に、丹念に、そしてじっくりと撲殺した。
 ちょっと金属バットがベッコベコになるまで殴ったけど、些細な問題である。

「ま、おまえは蹴り一発だから、拷問系の仕返しは勘弁してやるよ。その代わり」

 俺は笑みを浮かべて、宮原だった肉塊に魔法をかける。

「おまえの深層心理に今殺された事実を焼きつけてやった。これから大変だねぇ、宮原君。トイレに行くたび『自分が殺された記憶』がフラッシュバックするんだから」

 心の奥底に人工的にトラウマを植え付ける暗示系の魔法。
 それのかなり強烈なやつを、宮原に施してやった。

 肉体に直接ダメージを与えるわけではないので、普段の仕返しでは使わない。
 だが、宮原程度の相手へに使うなら、これくらいがちょうどいい。

 なお、殺された記憶といっても殺した相手の情報は一切思い出せない。
 その辺はね、魔法だからね。便利にできてるモンですよ!

「じゃ、蘇生蘇生、と」

 そして俺は宮原を生き返らせ、トイレの『異階化』を解除する。

「あれ~、おじちゃん寝たらダメだよ~。僕は戻るね~!」

 気絶したままの宮原をトイレに残し、俺は斎場の部屋へと戻っていった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 さぁ~て、死体の盗難だ何だとめんどくせぇことになってるが、どう帰るか。
 俺としたら、豚の親父の死体が消えようがどうでもいいんだがなー。

「ただいま~」

 と、客が集められた部屋へと戻ってくる。

「何でてめぇらがこんなところにいやがるんだ!?」

 そこに響き渡る、健司の狼狽する声。
 ふと見ると、トイレに行く前はいなかった二人組が、健司の前に立っていた。

 もう随分あったかいのにトレンチコートを着たオッサンと、髪の短い若い女だ。
 その二人を見た瞬間、俺は察した。

 官憲じゃん。
 二人の物腰が、異世界の衛兵やら騎士のそれと同じだった。

「よぉ、郷塚の長男。こりゃあ一体、何事でぇ。随分と物々しい雰囲気じゃねぇか」

 そう言って、トレンチコートのオッサンの方が、警察手帳を見せる。

「宙色東署の貫満隆一だ。話、聞かせてもらうぜ?」

 この一件で最も俺を激怒させた男、貫満隆一。
 その初老の刑事との出会いが、まさにこの瞬間のことだった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...