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第二章 渡る世間は跳梁跋扈
第23話 前田聡美の滅却
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俺は、シンラに思いの丈をぶちまけた。
「何でおまえなんだよ! 何で! おまえなんだ! よ!」
「……余に何か、至らぬ点でも?」
さすがに唐突過ぎて、シンラも何が何やらって感じだ。そこはすまん!
「いや、おまえに落ち度はない。シンラに会えたことは嬉しい」
「然様でございますか。そう言っていただき、余もただただ嬉しく存じまする」
「でもおまえだと思ってなかったんだ……」
「思ってなかった、とは?」
尋ね返され、俺は自分が提げている封印水晶を見せた。
シンラにはそれだけで十分伝わったようで、
「なるほど、ひなたについて、でございましたか」
「ああ。俺は、この子があっちの世界での『ヒナタ』なんじゃないかと疑ってた。だが、実際は『出戻り』は父親のおまえの方だった。つまり、この子は違う――」
「いえ、ひなたは『ヒナタ』でございましょう」
…………何て?
「シンラ君?」
「父上、お忘れか」
目を伏せ、言うシンラの顔には、ややドヤってる感じの笑みが浮かんでいた。
「このシンラ、十五人の兄弟全てを愛せし長兄として、特に、特にッ、とっ、くっ、にっ、末っ子ヒナタへの愛情は何者にも劣ることなしと自負しておりますれば!」
あ、そうだったね。
キミ、ヒナタへの可愛がりと甘やかしが異常なレベルだったね。
「その余から申し上げれば、こちらのひなたとあちらの『ヒナタ』はまさしく同一の存在であると知れます。しかしながら、それも余一人の主観においての見解に過ぎませぬ。客観的な確証と呼ぶには、さすがに足りているとはいえぬでしょうな」
「……うん、それはいいけど、何でわかるん?」
「愛ッ! ……にて」
「ああ、そう。麗しき兄弟愛だね……」
「フフフ、今はそこにさらに親子愛も加わっておりますれば」
そうか。そういえばそうだな。
こいつは『ヒナタ』の兄であると同時に、日本ではひなたの父親なんだ。
二つの世界にまたがる、血縁という強い関係性。
単純に繋がりだけでいえば、ミフユよりもさらに深いのか。
確証には足りてないが、こいつの見解には一定の信憑性があるかもしれない。
「――『ヒナタ』にするのですか?」
考え込んでいると、シンラから直球で質問が飛んできた。
こいつの目つきは変わっている。そこに浮かぶものを、俺は即座に感じ取る。
「しねぇよ。だから臨戦態勢はやめろ」
「ご無礼を致しました」
言うと、シンラは放ちかけていた殺気をスッと引っこめる。
「余は『ヒナタ』の兄であると共にひなたの父でありますれば、娘に害を加えしものを見過ごすわけには参りませぬ。それがかつての家族であってもです」
「わかってる、わかってるよ」
シンラと同じ立場なら、きっと俺も同じ判断をしていただろうからな。
だが、こうなってくると一つの懸念が出てくる。
「シンラ、おまえ、気づいてるか?」
「は、それは何に対して、でございましょうか?」
「ひなたの死だ」
シンラの顔つきが変わる。
「考えてみろ、俺もおまえも、一度『非業の死』を遂げた結果、こうして『出戻り』になったワケだ。そしておまえはひなたが『ヒナタ』だという。それって――」
「まさか、ひなたにはこれから『非業の死』が待ち受けている……?」
そうだ、逆説的に見て、そういう仮説も成立してしまう。
「父上、それは……」
「ああ。俺だってそんなこと、容認するつもりはねぇよ」
ひなたはひなたのまま生きてもらう。そっちの方が、確実に幸せなはずだから。
ひなたに『非業の死』が襲ってくるのだとしても、そんな運命は跳ね除ける。
どうやら本当にこの子は『ヒナタ』らしいからな。
「あ~、そうだ、おまえとひなたの件、ミフユにも言っとかないとな~」
「何と!? 母上までもこちらにいらっしゃるのですか!」
ああ、そういえば言ってなかったな……。
「いるぞ。しかも何の因果か、俺のクラスメイトだ」
「クラスメイト! それはまた、何という運命のいたずらでありましょうや!」
すっとんきょうな声を出して驚いて、シンラが何やら笑みを浮かべる。
「まこと、お二人の縁は海の底より深きもの。世界の壁をも超えるとは」
「おい、そのほっこりした笑顔をやめろ。あと、おまえのピーマンの肉詰め実食の際には、ミフユも同席させるからな。今から覚悟しておけよ」
「父上!? そ、それは余りに無体というもの! 何ゆえそのような……!」
「おめーのピーマン嫌いにあいつがどれだけ苦労したか忘れたか、バカタレ!」
小学二年生の俺が三十代の風見慎良を叱りつける珍妙な図。
それを、お袋は『何してるんだろうね?』という顔で眺めていたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜、前田聡美がマンションに帰ってきた。
「ただいま」
一応、そう言いはするが、その四文字には何ら感情はこもっていない。
むしろ、その顔には苛立ちがありありと浮かんでいる。
今日会えるはずだった浮気相手に会えなかったからだろう。
聡美は、むくれっ面でリビングへと向かってきている。
「ったく、自分から呼んでおいてすっぽかしってどういうことよ……」
集音魔法を通じて、そんなボヤキが聞こえた。
聡美が、リビングのドアを開けたので、俺は満面の笑みで出迎える。
「おかえりなさい」
「……え?」
いかにも高そうな服装の聡美が、俺を見て固まる。
その『あれ、部屋間違えた?』とでも思ってそうなツラが、まず面白い。
「合ってるよ。ここはあんたの部屋さ。前田家さ。な?」
俺は、リビングの奥に続くダイニングへと視線を流した。
それにつられて聡美もそちらに目をやって、持ってた鞄を取り落とす。
「……え、な? え?」
そこには、前田聡美の旦那と愛人が、鎖で椅子に縛り付けられていた。
そして床には、旦那の方の愛人が横たわって、冷たくなっている。
「わっかんねーなー」
収納空間からノコギリを取り出して、俺はダイニングへと歩き出す。
「お互いに浮気してること承知で、何で夫婦続けられるかね? ねぇ、旦那さん?」
「……ッ! んぐぐっ、むぐぅ!」
旦那も、聡美の愛人も、口に轡を噛ませているのでまともに喋ることもできない。
「これからあんたはこのノコギリで死ぬが、あんたには何の関係もない因果だ」
「んぐぅ~! むぐっ、んぐぐぐ~!」
旦那の前まで来て、俺は半ば錆びたノコギリをその首筋にピタリと当てた。
「あんたは、前田聡美のせいで死ぬ。あの女が、あんたの死因だ」
と、脅すだけ脅しておく。
まぁ、実際殺すし、その原因は俺の言葉通りなのだが、あとで蘇生はするよ?
「あと一秒弱の命、目いっぱい、奥さんを恨みな」
「なっ、や、やめ……ッ!」
聡美が止めに入ろうとするが、それより先に俺はノコギリを勢いよく引いていた。
旦那の首に、パックリと大きな傷口が開く。
「……ッ、ん、ッ、ぐ、ぇえ!」
スプリンクラーの水みたいに血が噴いて、ダイニングの半分を汚した。
ビクビクと痙攣する旦那を見て、聡美は顔から表情を失い、床にへたり込んだ。
「んんんッ! んんんんんんんんん――――ッ!?」
聡美の愛人の方も、旦那の死に目から涙を溢れさせて、ついでに失禁する。
「ほらよ」
だがそこで俺は愛人を縛る鎖と轡を外し、解放してやる。
そして、愛人の前に収納空間から取り出した幾つかの道具を置いて見せる。
取り出したのは、金槌、スタンガン、メリケンサック、アイスピック、などなど。
殺傷力はそれなりで、頑張れば人を殺せる道具ばかりだ。
「前田聡美をいたぶれ」
「え……」
愛人が、きょとんとした顔になる。
「前田聡美を死なない程度にいたぶれば、おまえは助けてやるよ」
「……ッ、は、はい!」
「ち、ちょっと待ってよ、な、何で!?」
顔を希望に輝かせる愛人と、聡美の絶望的な表情が実に対照的だった。
聡美は、何で自分がこんな目に遭ってるのかわからないだろう。
俺のことなんて、確実に忘れている。
だけどそれは関係ない。俺は恨みを忘れていない。理由はそれで十分だ。
「すまん、すまん、聡美ぃ、俺、死にたくねぇんだ……」
「ま、待ってよ、待って、何でこんな……!?」
涙を流しながら近づく愛人に、腰を抜かした聡美はロクに逃げることもできない。
そして振り上げられた金槌が聡美の肩をガツンと叩いた。
「ぃぎッ、ゃあああぁ!?」
「お、俺を愛してるんだよな、聡美? なら、このくらいは耐えてくれるよな!?」
「ひっ、ぎぃ、あああああああああああああああああああ!!?」
俺が『異階化』させたマンションに響く、聡美の悲鳴と肉を叩く濡れた音。
ダイニングの椅子に座って、俺は聡美が死にかける様をしばし眺めた。
「おい、もういいぞ」
一分ほどして、聡美が半殺しになったところで俺はストップをかける。
「聡美、俺のために死んでくれ。俺のために、俺を愛してるなら、し、死んで……」
おっと、愛人さんが壊れちゃった。止めたのに聡美を殴り続けてるぞ。
このままじゃ聡美ちゃんを殺しちゃうから、仕方がない。殺そう。
「ほい、っと」
「くぺ」
投げたダガーが、愛人の後頭部を突き破って後ろから脳みそを抉った。
倒れた愛人を蹴りどかし、俺は聡美を間近に見下ろす。
「ぁ、ぐ……」
整ったその顔をボコボコに腫らした聡美が、俺に縋りついてこようとする。
「た、助け、たすけ、て……」
それを、俺は虫でも見るような目つきを向けてやった。
「きたねぇな、乞食なら他でやれよ」
俺が言うと、聡美は絶望を顔に浮かべてそのまま気絶した。
「……クククククッ、アハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハ! いいツラしてくれてありがとよ!」
ああ、言ってやった言ってやった。
あのときの恨みを、やぁ~~~~っと晴らすことが出来たぜ。スッとした~!
「だが、これじゃまだ終わらんぜェ?」
やられた分はやり返した。
だが、まだやりすぎてねぇんだ。それじゃ、終われねぇよなぁ?
「こいつは、ハクシアリという」
おれは、毎度おなじみの拷問用の魔獣を召喚する。
今回は真っ白い蟻。俺の指先に、ちっちゃい一匹がチョコンと乗っている。
「人の記憶に巣食う蟻型の魔獣でな、救った記憶を食い荒らして巣を拡張して、やがては人格までも食い尽くして、憑依した宿主の脳内を白紙に変える」
俺は、指先のハクシアリを聡美の鼻の穴から体内へと送り出す。
これで聡美の体力を啜って数を増やしたハクシアリは、こいつの記憶に巣を作る。
「じわじわと、自分が自分でなくなっていく恐怖を感じながら壊れていけ。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
そして俺は優しいことに聡美の傷を治し、残りも蘇生させてマンションを出た。
不倫カップル×2の遭遇で起きる修羅場については、俺の管轄外である。
あ~、楽しかった。
「何でおまえなんだよ! 何で! おまえなんだ! よ!」
「……余に何か、至らぬ点でも?」
さすがに唐突過ぎて、シンラも何が何やらって感じだ。そこはすまん!
「いや、おまえに落ち度はない。シンラに会えたことは嬉しい」
「然様でございますか。そう言っていただき、余もただただ嬉しく存じまする」
「でもおまえだと思ってなかったんだ……」
「思ってなかった、とは?」
尋ね返され、俺は自分が提げている封印水晶を見せた。
シンラにはそれだけで十分伝わったようで、
「なるほど、ひなたについて、でございましたか」
「ああ。俺は、この子があっちの世界での『ヒナタ』なんじゃないかと疑ってた。だが、実際は『出戻り』は父親のおまえの方だった。つまり、この子は違う――」
「いえ、ひなたは『ヒナタ』でございましょう」
…………何て?
「シンラ君?」
「父上、お忘れか」
目を伏せ、言うシンラの顔には、ややドヤってる感じの笑みが浮かんでいた。
「このシンラ、十五人の兄弟全てを愛せし長兄として、特に、特にッ、とっ、くっ、にっ、末っ子ヒナタへの愛情は何者にも劣ることなしと自負しておりますれば!」
あ、そうだったね。
キミ、ヒナタへの可愛がりと甘やかしが異常なレベルだったね。
「その余から申し上げれば、こちらのひなたとあちらの『ヒナタ』はまさしく同一の存在であると知れます。しかしながら、それも余一人の主観においての見解に過ぎませぬ。客観的な確証と呼ぶには、さすがに足りているとはいえぬでしょうな」
「……うん、それはいいけど、何でわかるん?」
「愛ッ! ……にて」
「ああ、そう。麗しき兄弟愛だね……」
「フフフ、今はそこにさらに親子愛も加わっておりますれば」
そうか。そういえばそうだな。
こいつは『ヒナタ』の兄であると同時に、日本ではひなたの父親なんだ。
二つの世界にまたがる、血縁という強い関係性。
単純に繋がりだけでいえば、ミフユよりもさらに深いのか。
確証には足りてないが、こいつの見解には一定の信憑性があるかもしれない。
「――『ヒナタ』にするのですか?」
考え込んでいると、シンラから直球で質問が飛んできた。
こいつの目つきは変わっている。そこに浮かぶものを、俺は即座に感じ取る。
「しねぇよ。だから臨戦態勢はやめろ」
「ご無礼を致しました」
言うと、シンラは放ちかけていた殺気をスッと引っこめる。
「余は『ヒナタ』の兄であると共にひなたの父でありますれば、娘に害を加えしものを見過ごすわけには参りませぬ。それがかつての家族であってもです」
「わかってる、わかってるよ」
シンラと同じ立場なら、きっと俺も同じ判断をしていただろうからな。
だが、こうなってくると一つの懸念が出てくる。
「シンラ、おまえ、気づいてるか?」
「は、それは何に対して、でございましょうか?」
「ひなたの死だ」
シンラの顔つきが変わる。
「考えてみろ、俺もおまえも、一度『非業の死』を遂げた結果、こうして『出戻り』になったワケだ。そしておまえはひなたが『ヒナタ』だという。それって――」
「まさか、ひなたにはこれから『非業の死』が待ち受けている……?」
そうだ、逆説的に見て、そういう仮説も成立してしまう。
「父上、それは……」
「ああ。俺だってそんなこと、容認するつもりはねぇよ」
ひなたはひなたのまま生きてもらう。そっちの方が、確実に幸せなはずだから。
ひなたに『非業の死』が襲ってくるのだとしても、そんな運命は跳ね除ける。
どうやら本当にこの子は『ヒナタ』らしいからな。
「あ~、そうだ、おまえとひなたの件、ミフユにも言っとかないとな~」
「何と!? 母上までもこちらにいらっしゃるのですか!」
ああ、そういえば言ってなかったな……。
「いるぞ。しかも何の因果か、俺のクラスメイトだ」
「クラスメイト! それはまた、何という運命のいたずらでありましょうや!」
すっとんきょうな声を出して驚いて、シンラが何やら笑みを浮かべる。
「まこと、お二人の縁は海の底より深きもの。世界の壁をも超えるとは」
「おい、そのほっこりした笑顔をやめろ。あと、おまえのピーマンの肉詰め実食の際には、ミフユも同席させるからな。今から覚悟しておけよ」
「父上!? そ、それは余りに無体というもの! 何ゆえそのような……!」
「おめーのピーマン嫌いにあいつがどれだけ苦労したか忘れたか、バカタレ!」
小学二年生の俺が三十代の風見慎良を叱りつける珍妙な図。
それを、お袋は『何してるんだろうね?』という顔で眺めていたのだった。
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夜、前田聡美がマンションに帰ってきた。
「ただいま」
一応、そう言いはするが、その四文字には何ら感情はこもっていない。
むしろ、その顔には苛立ちがありありと浮かんでいる。
今日会えるはずだった浮気相手に会えなかったからだろう。
聡美は、むくれっ面でリビングへと向かってきている。
「ったく、自分から呼んでおいてすっぽかしってどういうことよ……」
集音魔法を通じて、そんなボヤキが聞こえた。
聡美が、リビングのドアを開けたので、俺は満面の笑みで出迎える。
「おかえりなさい」
「……え?」
いかにも高そうな服装の聡美が、俺を見て固まる。
その『あれ、部屋間違えた?』とでも思ってそうなツラが、まず面白い。
「合ってるよ。ここはあんたの部屋さ。前田家さ。な?」
俺は、リビングの奥に続くダイニングへと視線を流した。
それにつられて聡美もそちらに目をやって、持ってた鞄を取り落とす。
「……え、な? え?」
そこには、前田聡美の旦那と愛人が、鎖で椅子に縛り付けられていた。
そして床には、旦那の方の愛人が横たわって、冷たくなっている。
「わっかんねーなー」
収納空間からノコギリを取り出して、俺はダイニングへと歩き出す。
「お互いに浮気してること承知で、何で夫婦続けられるかね? ねぇ、旦那さん?」
「……ッ! んぐぐっ、むぐぅ!」
旦那も、聡美の愛人も、口に轡を噛ませているのでまともに喋ることもできない。
「これからあんたはこのノコギリで死ぬが、あんたには何の関係もない因果だ」
「んぐぅ~! むぐっ、んぐぐぐ~!」
旦那の前まで来て、俺は半ば錆びたノコギリをその首筋にピタリと当てた。
「あんたは、前田聡美のせいで死ぬ。あの女が、あんたの死因だ」
と、脅すだけ脅しておく。
まぁ、実際殺すし、その原因は俺の言葉通りなのだが、あとで蘇生はするよ?
「あと一秒弱の命、目いっぱい、奥さんを恨みな」
「なっ、や、やめ……ッ!」
聡美が止めに入ろうとするが、それより先に俺はノコギリを勢いよく引いていた。
旦那の首に、パックリと大きな傷口が開く。
「……ッ、ん、ッ、ぐ、ぇえ!」
スプリンクラーの水みたいに血が噴いて、ダイニングの半分を汚した。
ビクビクと痙攣する旦那を見て、聡美は顔から表情を失い、床にへたり込んだ。
「んんんッ! んんんんんんんんん――――ッ!?」
聡美の愛人の方も、旦那の死に目から涙を溢れさせて、ついでに失禁する。
「ほらよ」
だがそこで俺は愛人を縛る鎖と轡を外し、解放してやる。
そして、愛人の前に収納空間から取り出した幾つかの道具を置いて見せる。
取り出したのは、金槌、スタンガン、メリケンサック、アイスピック、などなど。
殺傷力はそれなりで、頑張れば人を殺せる道具ばかりだ。
「前田聡美をいたぶれ」
「え……」
愛人が、きょとんとした顔になる。
「前田聡美を死なない程度にいたぶれば、おまえは助けてやるよ」
「……ッ、は、はい!」
「ち、ちょっと待ってよ、な、何で!?」
顔を希望に輝かせる愛人と、聡美の絶望的な表情が実に対照的だった。
聡美は、何で自分がこんな目に遭ってるのかわからないだろう。
俺のことなんて、確実に忘れている。
だけどそれは関係ない。俺は恨みを忘れていない。理由はそれで十分だ。
「すまん、すまん、聡美ぃ、俺、死にたくねぇんだ……」
「ま、待ってよ、待って、何でこんな……!?」
涙を流しながら近づく愛人に、腰を抜かした聡美はロクに逃げることもできない。
そして振り上げられた金槌が聡美の肩をガツンと叩いた。
「ぃぎッ、ゃあああぁ!?」
「お、俺を愛してるんだよな、聡美? なら、このくらいは耐えてくれるよな!?」
「ひっ、ぎぃ、あああああああああああああああああああ!!?」
俺が『異階化』させたマンションに響く、聡美の悲鳴と肉を叩く濡れた音。
ダイニングの椅子に座って、俺は聡美が死にかける様をしばし眺めた。
「おい、もういいぞ」
一分ほどして、聡美が半殺しになったところで俺はストップをかける。
「聡美、俺のために死んでくれ。俺のために、俺を愛してるなら、し、死んで……」
おっと、愛人さんが壊れちゃった。止めたのに聡美を殴り続けてるぞ。
このままじゃ聡美ちゃんを殺しちゃうから、仕方がない。殺そう。
「ほい、っと」
「くぺ」
投げたダガーが、愛人の後頭部を突き破って後ろから脳みそを抉った。
倒れた愛人を蹴りどかし、俺は聡美を間近に見下ろす。
「ぁ、ぐ……」
整ったその顔をボコボコに腫らした聡美が、俺に縋りついてこようとする。
「た、助け、たすけ、て……」
それを、俺は虫でも見るような目つきを向けてやった。
「きたねぇな、乞食なら他でやれよ」
俺が言うと、聡美は絶望を顔に浮かべてそのまま気絶した。
「……クククククッ、アハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハ! いいツラしてくれてありがとよ!」
ああ、言ってやった言ってやった。
あのときの恨みを、やぁ~~~~っと晴らすことが出来たぜ。スッとした~!
「だが、これじゃまだ終わらんぜェ?」
やられた分はやり返した。
だが、まだやりすぎてねぇんだ。それじゃ、終われねぇよなぁ?
「こいつは、ハクシアリという」
おれは、毎度おなじみの拷問用の魔獣を召喚する。
今回は真っ白い蟻。俺の指先に、ちっちゃい一匹がチョコンと乗っている。
「人の記憶に巣食う蟻型の魔獣でな、救った記憶を食い荒らして巣を拡張して、やがては人格までも食い尽くして、憑依した宿主の脳内を白紙に変える」
俺は、指先のハクシアリを聡美の鼻の穴から体内へと送り出す。
これで聡美の体力を啜って数を増やしたハクシアリは、こいつの記憶に巣を作る。
「じわじわと、自分が自分でなくなっていく恐怖を感じながら壊れていけ。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
そして俺は優しいことに聡美の傷を治し、残りも蘇生させてマンションを出た。
不倫カップル×2の遭遇で起きる修羅場については、俺の管轄外である。
あ~、楽しかった。
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これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
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まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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