21 / 162
第二章 渡る世間は跳梁跋扈
第20話 北村理史の滅却
しおりを挟む
階段を上がりながら、北村理史についてのファイルを読み直す。
「北村理史(読み仮名なし)。現在二十七歳、表向きは興行を生業とするプロモーターを自称。北村興業の社長を名乗るも、そのような企業は存在しない。ペーパーカンパニーですらない。って、すでにこの時点でアタマ悪いな……」
せめて、そこくらいはペーパーカンパニーにしとけよ……。
そうすれば肩書きだけでも社長(自称)じゃなく、社長(一応)にはなれただろ。
「北村興業(自称)の実態は、違法薬物の売買、違法DVDの作成・販売、特殊詐欺グループとしての活動、裏カジノの経営、違法風俗店の経営、闇金融の経営、などなど。また最近はそこに転売なども加わっている模様、と。わ~、ありふれてる~」
……何つーテンプレまみれだ。
「何だテメェはァァァァァァ~!」
と、顔中ピアスだらけのにーちゃんが、ドス振りかざして襲いかかってくる。
「両親、祖父母はすでに他界済み。幼い頃から素行が悪く、親戚からは絶縁状態のため事実上の天涯孤独。ああ、これは身動きとりやすそうだなぁ」
ファイルを読み進めつつ、俺はにーちゃんが振り回すドスをヒラリと避ける。
攻撃がよぉ、大振りすぎてよぉ、見ないでも避けられるんだが。
「十三歳で傷害沙汰で少年院行き。そこからは少年院を出たり入ったりして、悪名を高めていった、と。ふ~ん、ここで今に繋がるコネを作ったんだろうな。少年院って、色々な街の悪ガキが集まってくるだろうし。……あとは手下も増やしたか」
悪ガキ共の間じゃ、少年院帰りは一種のステータスだろうからな。
こういう『ガキの時分に他と違う経験をしたヤツ』は何かと持ち上げられやすい。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
さっきのにーちゃんが、今度はドスで突こうと走ってくる。
まっすぐ襲うしか能がないんかい。
俺はスッと横に避けて、にーちゃんが両手に掴んでるドスを蹴り上げた。
「あ」
ドスはクルクル回転し、そのまま天井に突き刺さる。
「…………えー」
困ってるにーちゃんのあごの下に、俺は手にしたダガーをサクッと突き立てた。
「戦闘中に困るなよ。こっちが困るわ……」
読み終えたファイルを閉じて、俺はふぅと息をつく。
周りを見れば、そこにあるのは事務机と、椅子と、棚と、多数の死体。
まさに死屍累々よ。
「ま、とりあえず北村理史についてはよくわかったわ。色々手広くやってるってことは、それなりにワルの才能もあったんだろうな。腕っぷしもあって、アタマも回って、犯罪を躊躇するような倫理観も欠如してて、傷害八件、強盗四件、窃盗十件、恐喝七件。立件はされてないけどコロシも経験済みだろうねぇ、こりゃあ」
よくもまぁ、令和の日本でここまでステレオタイプなチンピラをやれるモンだわ。
風見祥子を引っかけたのも、単純に金引っ張ってこれるからだな。
経歴を見るに、悪党としちゃあ実績は積んでるっぽい。っぽいんだが――、
「だってのに、何で手下のキミらはそんな弱いのさ……?」
俺は、積み上がった死体を前に、長々とため息を吐いた。
現在雑居ビル三階。三つある部屋の最後を、俺は単身で制圧していた。
マガツラは引っこめました。
だっていらねーモン、過剰暴力過ぎて戦いになりゃしねぇ!
こっちゃよー、ストレス発散が主目的なんだよー。
弱い者いじめっつったって、多少の歯応えは欲しいんだよ、そこわかれよー!
雑魚が雑魚過ぎたら空気殴ってるのと変わンねぇだろうがッ!
と、思ってこの三つ目の部屋からはマガツラなしで俺だけで攻めてみました。
結果はこの有様よ。ますますストレス溜まっただけだったわ。
ッはぁ~、雑魚雑魚。
ま、どうせここにいる連中なんざ、北村と同じ人種ばっかだろ。ならいいか。
「もう、これ以上の労力は無駄だと判断したわ」
俺の足元に、蒼い光で魔法陣が形成される。
それは、毎度おなじみ召喚の魔法陣。直上に黒い球体のような時空の穴が現れる。
「お、最新号の少年ジャンクあるじゃん。終わるまで読ませてもらうか」
俺は魔法陣から離れると、机の上に置いてあった週刊雑誌を手に取った。
直後、時空の穴からヴヴヴという羽音を伴って、黒いモヤが大量に流れ出てくる。
ま、モヤじゃないですけどね。
ちょっと、ゴウモンバエの大群を召喚しただけっすわ。
「北村理史以外、全員貪ってよし」
俺は召喚したゴウモンバエにそう命じると、椅子に座って雑誌を開いた。
おや、この新連載、何か面白そうじゃん。イイじゃん。
俺が漫画を読み始めると、ゴウモンバエの群れはビル中になだれ込んでいった。
そして、雑居ビルの全域で貪食という名の虐殺が開始される。
「な、何だこれ! 何か、煙が……!?」
「ハエだ、何でハエが、は、ハェ……、ィ、痛ェェェェェ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁ、ハエが、ハエがァァァ――――ッ!」
上から響く悲鳴を聞き流しながら、俺はまったりと雑誌を読み進める。
ププッ、何このギャグマンガ、クッソシュール。
視界の端に、ゴウモンバエにたかられて体積を小さくしていく死体の山が見えた。
ゴウモンバエさんはこういうとき本当に便利。
今後も、色々な場面でお役に立っていただくことになるんだろうなぁ。
「な、何だァこりゃあ! 何が起きてやがるんだ!?」
聞こえる悲鳴がほぼなくなりかけた頃、上から響くデケェだみ声。
声の質からしてわかる。これまでのチンピラ共とはまるで格の違うチンピラだ。
つまり、結局はチンピラってことなんだけどね。
ま、こいつが北村で間違いあるまい。
ちょうど雑誌も読み終わったし、そろそろ行くかぁ。来週も楽しみだぜ。
「きったむっらく~ん、あっそっびっまっしょ~! ってね」
部屋を出て、階段で叫んで、俺は最上階へと向かう。
ゴウモンバエは、このビルにいた人間を北村以外全て食い尽くしてくれた。
大量の汚物処理ができたおかげで、周りからは何も聞こえない。
そこにあるのは、俺が階段を上がる音と――、
「何だァ、今の声は! 何で誰もいねぇんだ! オイ!」
という、北村のなっさけねぇ狼狽えボイスのみ。
ほどなく階段を上がり終えると、通路の先に、写真で見たタトゥーヅラがいた。
「よ、北村」
「何だ、ガキ……? てめ」
投げつけたダガーが、北村の右肩やや下、右胸近くをザックリ抉る。
「……え?」
北村が、突き刺さったダガーに目をやってから間の抜けた声を出す。
オイ、そのリアクション、完全にウチの豚と同じだぞ。笑うわ。
「な、何しやがる、てめぇ!」
おお、鳴いたあとのリアクションが違ってるぞ、これはちょっと新鮮。
「まぁ、新鮮だろうがやることは変わらねぇんだが?」
言いつつ、俺は収納空間から次々にダガーを取り出して、投げつけていく。
当てる場所は、いずれも肩や太もも、腕や足の末端部分のみ。
「うぎッ、ぐぇっ! ぎッ! ぎぁ!? がッ! ァぎぁぁぁぁあ!?」
俺の方に駆け出そうとしてた北村は、道半ばで大量の血と共に転がった。
多数のダガーで肉はズタズタで、筋もボロボロ、もはやミリも動けないだろうね。
「さて、北村理史」
理史DEダガー的当てGAMEを終えた俺が、悠々と北村の前まで歩いていく。
「初めまして、傭兵をしてる金鐘崎アキラってモンだ」
「よ、ようへい……?」
「そ。まぁ、初仕事なのに依頼人に信じてもらえなかった悲劇を背負った傭兵だ」
顔中を脂汗に濡らして呼吸を浅くする北村に、俺は小さく息をつく。
「早速だが、おまえには死ぬより辛い目に遭ってもらうけど、それは別におまえがこれまでしてきた犯罪の報いとかそういうのじゃなく、単におまえの運が悪かっただけだ。まぁ、それも因果応報というならそうなのかもしれないけどな」
「な、何言ってんだ、てめぇ、は……」
「北村君さー、風見祥子なんか引っかけるからこうなっちゃうんだぜー? お金欲しかったのはわかるけどさー、アレはないと思うよ、アレは」
「……な、な?」
俺は薄ら笑いを浮かべて、理解できずにいる北村の肩をポンと叩く。
ついでに刺さってるダガーにも触れて、ちょっとした激痛を与えてもみたり。
「ぃぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ああ、痛いのダメ? じゃあイバラヘビでもどうよ?」
言って、俺はさらに痛みを与えるべく北村の体を蹴とばそうとする。
するとそのとき、北村の懐からこぼれた何かが、床に当たって重い音を立てた。
「あ? こいつは……」
黒い色をした、くの字型の金属の塊。
どう見ても拳銃です。
「おいおい、おまえ、こんなモンまで仕入れてたのか? 本当に手広く……ッ」
気づいた瞬間、俺は弾けたようにして後ろを振り向いた。
「おい、北村。答えろ――、おまえ。あの女にもこれを持たせたのか?」
尋ねても、北村は荒く呼吸を繰り返すばかり。
「おまえら、ひなたを連れ出すのにも、だいぶムチャやるようになってたよな?」
「た、たす、助けてくれ……、金ならやる、だから、痛ェ、痛ェんだよぉ……」
泣き出した北村の胸倉を掴み、俺は間近で声を張り上げた。
「答えろ、北村! 風見祥子に拳銃を持たせたのか!」
「……ァ、あ」
「持たせたのかよッ!?」
三度目の詰問に、北村は口をバカみたいに空けたまま、震えながらうなずいた。
「そうかよ。最悪の情報、ありがとよ」
北村をほっぽって、俺は強く舌を打った。
何てこった。最悪のタイミングでの入れ違いじゃねぇか。
風見祥子一人ならどうとでもなると思ってた。
慎良なら、例え祥子が刃物を持ち出しても、楽に制圧できるという確信もあった。
だがとんだ油断だったぜ。
そうだよなぁ、こっちの世界にゃ、銃なんてモンもあったよなぁ!
「た、助けてくれぇ~。痛ェんだよぉぉぁぉぉ~」
「うるせぇ、今それどころじゃねぇんだよ!」
俺は再びゴウモンバエを召喚し、縋りついてくる北村にけしかける。
「ぎひっ、ぎゃああああああああああああ! 痛ェ、痛ェェェェェェェ!!?」
「北村理史、俺にとっちゃおまえは犬のクソよりどうでもいい、ハエにたかられて当然程度の存在だ。だが、これまで散々他人様を食い物にして稼いできたんだろ? だったら与えた苦痛の億分の一程度でも感じながら、消えてなくなれ」
北村が消滅する瞬間を見届けることもなく、俺は階段を駆け下りた。
「待って、待っ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ……、ッ……、ッ」
上から響く、北村理史の断末魔。
だが俺に、それに耳を傾ける余裕なんてなかった。
「ひなたがこっちにいる以上、最悪の展開はない。だが――ッ!」
どうしようもなく、イヤな予感がした。
「北村理史(読み仮名なし)。現在二十七歳、表向きは興行を生業とするプロモーターを自称。北村興業の社長を名乗るも、そのような企業は存在しない。ペーパーカンパニーですらない。って、すでにこの時点でアタマ悪いな……」
せめて、そこくらいはペーパーカンパニーにしとけよ……。
そうすれば肩書きだけでも社長(自称)じゃなく、社長(一応)にはなれただろ。
「北村興業(自称)の実態は、違法薬物の売買、違法DVDの作成・販売、特殊詐欺グループとしての活動、裏カジノの経営、違法風俗店の経営、闇金融の経営、などなど。また最近はそこに転売なども加わっている模様、と。わ~、ありふれてる~」
……何つーテンプレまみれだ。
「何だテメェはァァァァァァ~!」
と、顔中ピアスだらけのにーちゃんが、ドス振りかざして襲いかかってくる。
「両親、祖父母はすでに他界済み。幼い頃から素行が悪く、親戚からは絶縁状態のため事実上の天涯孤独。ああ、これは身動きとりやすそうだなぁ」
ファイルを読み進めつつ、俺はにーちゃんが振り回すドスをヒラリと避ける。
攻撃がよぉ、大振りすぎてよぉ、見ないでも避けられるんだが。
「十三歳で傷害沙汰で少年院行き。そこからは少年院を出たり入ったりして、悪名を高めていった、と。ふ~ん、ここで今に繋がるコネを作ったんだろうな。少年院って、色々な街の悪ガキが集まってくるだろうし。……あとは手下も増やしたか」
悪ガキ共の間じゃ、少年院帰りは一種のステータスだろうからな。
こういう『ガキの時分に他と違う経験をしたヤツ』は何かと持ち上げられやすい。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
さっきのにーちゃんが、今度はドスで突こうと走ってくる。
まっすぐ襲うしか能がないんかい。
俺はスッと横に避けて、にーちゃんが両手に掴んでるドスを蹴り上げた。
「あ」
ドスはクルクル回転し、そのまま天井に突き刺さる。
「…………えー」
困ってるにーちゃんのあごの下に、俺は手にしたダガーをサクッと突き立てた。
「戦闘中に困るなよ。こっちが困るわ……」
読み終えたファイルを閉じて、俺はふぅと息をつく。
周りを見れば、そこにあるのは事務机と、椅子と、棚と、多数の死体。
まさに死屍累々よ。
「ま、とりあえず北村理史についてはよくわかったわ。色々手広くやってるってことは、それなりにワルの才能もあったんだろうな。腕っぷしもあって、アタマも回って、犯罪を躊躇するような倫理観も欠如してて、傷害八件、強盗四件、窃盗十件、恐喝七件。立件はされてないけどコロシも経験済みだろうねぇ、こりゃあ」
よくもまぁ、令和の日本でここまでステレオタイプなチンピラをやれるモンだわ。
風見祥子を引っかけたのも、単純に金引っ張ってこれるからだな。
経歴を見るに、悪党としちゃあ実績は積んでるっぽい。っぽいんだが――、
「だってのに、何で手下のキミらはそんな弱いのさ……?」
俺は、積み上がった死体を前に、長々とため息を吐いた。
現在雑居ビル三階。三つある部屋の最後を、俺は単身で制圧していた。
マガツラは引っこめました。
だっていらねーモン、過剰暴力過ぎて戦いになりゃしねぇ!
こっちゃよー、ストレス発散が主目的なんだよー。
弱い者いじめっつったって、多少の歯応えは欲しいんだよ、そこわかれよー!
雑魚が雑魚過ぎたら空気殴ってるのと変わンねぇだろうがッ!
と、思ってこの三つ目の部屋からはマガツラなしで俺だけで攻めてみました。
結果はこの有様よ。ますますストレス溜まっただけだったわ。
ッはぁ~、雑魚雑魚。
ま、どうせここにいる連中なんざ、北村と同じ人種ばっかだろ。ならいいか。
「もう、これ以上の労力は無駄だと判断したわ」
俺の足元に、蒼い光で魔法陣が形成される。
それは、毎度おなじみ召喚の魔法陣。直上に黒い球体のような時空の穴が現れる。
「お、最新号の少年ジャンクあるじゃん。終わるまで読ませてもらうか」
俺は魔法陣から離れると、机の上に置いてあった週刊雑誌を手に取った。
直後、時空の穴からヴヴヴという羽音を伴って、黒いモヤが大量に流れ出てくる。
ま、モヤじゃないですけどね。
ちょっと、ゴウモンバエの大群を召喚しただけっすわ。
「北村理史以外、全員貪ってよし」
俺は召喚したゴウモンバエにそう命じると、椅子に座って雑誌を開いた。
おや、この新連載、何か面白そうじゃん。イイじゃん。
俺が漫画を読み始めると、ゴウモンバエの群れはビル中になだれ込んでいった。
そして、雑居ビルの全域で貪食という名の虐殺が開始される。
「な、何だこれ! 何か、煙が……!?」
「ハエだ、何でハエが、は、ハェ……、ィ、痛ェェェェェ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁ、ハエが、ハエがァァァ――――ッ!」
上から響く悲鳴を聞き流しながら、俺はまったりと雑誌を読み進める。
ププッ、何このギャグマンガ、クッソシュール。
視界の端に、ゴウモンバエにたかられて体積を小さくしていく死体の山が見えた。
ゴウモンバエさんはこういうとき本当に便利。
今後も、色々な場面でお役に立っていただくことになるんだろうなぁ。
「な、何だァこりゃあ! 何が起きてやがるんだ!?」
聞こえる悲鳴がほぼなくなりかけた頃、上から響くデケェだみ声。
声の質からしてわかる。これまでのチンピラ共とはまるで格の違うチンピラだ。
つまり、結局はチンピラってことなんだけどね。
ま、こいつが北村で間違いあるまい。
ちょうど雑誌も読み終わったし、そろそろ行くかぁ。来週も楽しみだぜ。
「きったむっらく~ん、あっそっびっまっしょ~! ってね」
部屋を出て、階段で叫んで、俺は最上階へと向かう。
ゴウモンバエは、このビルにいた人間を北村以外全て食い尽くしてくれた。
大量の汚物処理ができたおかげで、周りからは何も聞こえない。
そこにあるのは、俺が階段を上がる音と――、
「何だァ、今の声は! 何で誰もいねぇんだ! オイ!」
という、北村のなっさけねぇ狼狽えボイスのみ。
ほどなく階段を上がり終えると、通路の先に、写真で見たタトゥーヅラがいた。
「よ、北村」
「何だ、ガキ……? てめ」
投げつけたダガーが、北村の右肩やや下、右胸近くをザックリ抉る。
「……え?」
北村が、突き刺さったダガーに目をやってから間の抜けた声を出す。
オイ、そのリアクション、完全にウチの豚と同じだぞ。笑うわ。
「な、何しやがる、てめぇ!」
おお、鳴いたあとのリアクションが違ってるぞ、これはちょっと新鮮。
「まぁ、新鮮だろうがやることは変わらねぇんだが?」
言いつつ、俺は収納空間から次々にダガーを取り出して、投げつけていく。
当てる場所は、いずれも肩や太もも、腕や足の末端部分のみ。
「うぎッ、ぐぇっ! ぎッ! ぎぁ!? がッ! ァぎぁぁぁぁあ!?」
俺の方に駆け出そうとしてた北村は、道半ばで大量の血と共に転がった。
多数のダガーで肉はズタズタで、筋もボロボロ、もはやミリも動けないだろうね。
「さて、北村理史」
理史DEダガー的当てGAMEを終えた俺が、悠々と北村の前まで歩いていく。
「初めまして、傭兵をしてる金鐘崎アキラってモンだ」
「よ、ようへい……?」
「そ。まぁ、初仕事なのに依頼人に信じてもらえなかった悲劇を背負った傭兵だ」
顔中を脂汗に濡らして呼吸を浅くする北村に、俺は小さく息をつく。
「早速だが、おまえには死ぬより辛い目に遭ってもらうけど、それは別におまえがこれまでしてきた犯罪の報いとかそういうのじゃなく、単におまえの運が悪かっただけだ。まぁ、それも因果応報というならそうなのかもしれないけどな」
「な、何言ってんだ、てめぇ、は……」
「北村君さー、風見祥子なんか引っかけるからこうなっちゃうんだぜー? お金欲しかったのはわかるけどさー、アレはないと思うよ、アレは」
「……な、な?」
俺は薄ら笑いを浮かべて、理解できずにいる北村の肩をポンと叩く。
ついでに刺さってるダガーにも触れて、ちょっとした激痛を与えてもみたり。
「ぃぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ああ、痛いのダメ? じゃあイバラヘビでもどうよ?」
言って、俺はさらに痛みを与えるべく北村の体を蹴とばそうとする。
するとそのとき、北村の懐からこぼれた何かが、床に当たって重い音を立てた。
「あ? こいつは……」
黒い色をした、くの字型の金属の塊。
どう見ても拳銃です。
「おいおい、おまえ、こんなモンまで仕入れてたのか? 本当に手広く……ッ」
気づいた瞬間、俺は弾けたようにして後ろを振り向いた。
「おい、北村。答えろ――、おまえ。あの女にもこれを持たせたのか?」
尋ねても、北村は荒く呼吸を繰り返すばかり。
「おまえら、ひなたを連れ出すのにも、だいぶムチャやるようになってたよな?」
「た、たす、助けてくれ……、金ならやる、だから、痛ェ、痛ェんだよぉ……」
泣き出した北村の胸倉を掴み、俺は間近で声を張り上げた。
「答えろ、北村! 風見祥子に拳銃を持たせたのか!」
「……ァ、あ」
「持たせたのかよッ!?」
三度目の詰問に、北村は口をバカみたいに空けたまま、震えながらうなずいた。
「そうかよ。最悪の情報、ありがとよ」
北村をほっぽって、俺は強く舌を打った。
何てこった。最悪のタイミングでの入れ違いじゃねぇか。
風見祥子一人ならどうとでもなると思ってた。
慎良なら、例え祥子が刃物を持ち出しても、楽に制圧できるという確信もあった。
だがとんだ油断だったぜ。
そうだよなぁ、こっちの世界にゃ、銃なんてモンもあったよなぁ!
「た、助けてくれぇ~。痛ェんだよぉぉぁぉぉ~」
「うるせぇ、今それどころじゃねぇんだよ!」
俺は再びゴウモンバエを召喚し、縋りついてくる北村にけしかける。
「ぎひっ、ぎゃああああああああああああ! 痛ェ、痛ェェェェェェェ!!?」
「北村理史、俺にとっちゃおまえは犬のクソよりどうでもいい、ハエにたかられて当然程度の存在だ。だが、これまで散々他人様を食い物にして稼いできたんだろ? だったら与えた苦痛の億分の一程度でも感じながら、消えてなくなれ」
北村が消滅する瞬間を見届けることもなく、俺は階段を駆け下りた。
「待って、待っ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ……、ッ……、ッ」
上から響く、北村理史の断末魔。
だが俺に、それに耳を傾ける余裕なんてなかった。
「ひなたがこっちにいる以上、最悪の展開はない。だが――ッ!」
どうしようもなく、イヤな予感がした。
1
お気に入りに追加
589
あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる