出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

文字の大きさ
上 下
19 / 162
第二章 渡る世間は跳梁跋扈

第18話 金鐘崎美沙子はイケメンに弱すぎる

しおりを挟む
 風見家にお呼ばれした。
 もちろん、ひなたが連れていかれそうになった理由の説明だ。

 そのはずなんですけど、お袋の様子がおかしい。
 何かこう、妙にソワソワしている。

「ア、アキラ、あたし、変なところはないかい? おかしいところとかは?」

 全部って答えたらどんなツラするやら。

「お袋さ、脈絡もなく挙動不審になるのやめてくんない?」
「きょ、そ、そんな、そそ、そんなこと、な、なななな、ない、ないわよぉ?」

 DJに回されるレコードか、おまえは……。

「それにしても、ひなたちゃんのお父さん」
「何よ?」
「いい男ねぇ……」

 言って、お袋はポッ、と頬を染める。

「…………」
「な、何だい、アキラ。その『苦虫の中の苦虫を噛み潰したような顔』は」
「自分の発言を振り返ってからツッコめや……」

 え~、嘘ォ、マジで言ってるのかこの母親。
 豚との離婚届はこの前出してきたから、今のお袋は独身ではあるよ。あるけどさ?
 風見さんちも離婚してるっぽいから、問題ないっちゃないんだろうけどさ?

 ああ、ちなみに豚の筆跡は俺が完全にトレースしました。
 傭兵なんぞやってると、その辺の小技も必要になってくる場面が多々ありまして。

「はぁ、風見さん……」
「出会って数分で恋する乙女モードに入るのはやめろ、さすがに」

 クソッ、軽くてもいいから無性に煙草吸いたくなってきたんだが!
 何だこの母親、ここまで惚れっぽい性格だったのか!? 初めて知ったぞ!

 確かに、ひなたパパがイケメンなのは認める。
 何というか、個人的にはあの佐村勲よりもさらに『できる男』感が強い。

 やや茶色が混じる髪をナチュラルな感じに揃えていて、顔もしっかり整っている。
 背も高く、だが体格は大きすぎず、けれども頼りにできそうな雰囲気の持ち主。

 彼は、顔だけがイケメンなのではない。
 態度や所作から、細やかな振る舞いまで洗練されきった、いわば全身がイケメン。

 この人なら、どんな服でも着こなしちゃうんだろうな、とわかる。
 それと、物腰からして喧嘩も絶対強いな、これ。何か武道でもかじってそうだ。

 そして娘のひなたも、これまた可愛い容姿をしている。
 儚げで、すぐに泣き出しそうな弱々しさがあるが、それが庇護欲をそそる。

 あの力也の妹の由美にも通じる部分だが、一見して美人になるとわかる顔つき。
 着るものを変えて、少し整えれば、それだけでテレビに出れそうだ。

 まさにこの親にしてこの子あり、な父娘に見えた。
 母親の祥子についてはノーコメントで。
 見た目はいいんだろうけど、化粧が濃くてケバケバしいんだモン、あのオバハン。

 まぁ、うん、って感じでひなたパパがイケメンなのはわかる。
 だけど、だからってこの短時間で恋愛頭脳戦開始前白旗不戦敗してんじゃねーよ!
 おまえ、自分がバツ2である事実を重く受け止めろ、金鐘崎美沙子ォ!

「勘弁してくれよ……」

 こっちはこっちで、別件が非常に気がかりだってのによぉ。
 別件とは、風見ひなたのことだ。

 パパを手を繋いでいるあの幼女が、実は異世界での俺の娘なのではないか。
 そんな疑念が、俺の中で急激に高まってきている。

 だってさぁ、この街、『出戻り』が多すぎンだよ……。
 俺に、ミフユに、未来に、と、仁堂小学校だけで三人だぜ、三人。

 だったら他の場所にいたって何もおかしくない。
 と、そんなことを考えてたところに、同名の幼女登場と来たモンだ。疑うよねぇ?

 ――ヒナタ。ヒナタ・バーンズ。

 俺とミフユの間に生まれた十五人の子供の中で、最後に生まれた末っ子。
 可愛かったなぁ、ヒナタ。
 生まれたのが俺もババアもお互い三十代後半のときだったから、特に可愛がった。

 とはいえ、じゃあその『ヒナタ』があの『ひなた』なのか、は、わからない。
 世界が違うせいか、顔の造形が全然違うからだ。

 俺だってミフユだって、異世界とこっちとじゃ顔は違ってた。
 多分、未来も同じように二つの世界でそれぞれ容姿が異なっていたんだと思う。

 つまり、外見から判断することは不可能。
 じゃあ一回殺して生き返して確認するのか、っていうと、これも不可。
 だってひなたは現時点で俺の敵じゃないからね。俺もそこまでの猟奇性はないよ。

「どうぞ、おあがりください」

 膨らむ疑念に悶々としているうちに、風見家に到着。
 パパがドアを開けて、俺達を招き入れる。ひなたも「どーぞ!」と言った。

 なぁ、ひなた、ひなたよ。
 おまえは、あの『ヒナタ』なのか、なぁ?

 ああああああああああああああああああ、気になるゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

「お邪魔しま~す♪」

 声をルンルンに弾ませるな、金鐘崎美沙子ォ!


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 風見家は、何というか、普通だった。
 パパがこれだけ『できる男』感溢れさせてるのを考えると、むしろ見すぼらしい。

 家は大きいのだが、家具が少ないというか……。
 さらに、その家具も立派なものではなく、とりあえずの『間に合わせ』っぽい。

「このような家で、お恥ずかしいのですが……」

 リビングにて、テーブルを挟んで向かい側に座るひなたパパが頬を掻く。
 謙遜、というよりは本気で恥ずかしがってる感があるぞ。

「お母さんがね、おうちのもの、みんな持ってっちゃったの……」
「ひなた、やめなさい」

 ションボリして言うひなたを、パパさんがたしなめる。
 そのあとで、まずはパパさんが俺とお袋に頭を下げてお礼を言ってきた。

「このたびは、娘を助けていただいてありがとうございました」

 そして顔をあげて視線をしばし泳がせてから、家のことに触れてくる。

「実は、娘の言う通り、家具は別れた家内が勝手に売り飛ばしてしまいまして……」
「まぁ……、ひどい」

 お袋が口に手を当てて驚きを示す。
 絶対、思ってないよな? 絶対、そんなことに驚いてもいないよな?

 それから、パパさんが語った内容は、まぁ~、ひでぇモンだった。
 何でも、風見祥子は元々どこぞのイイトコのお嬢さんだったらしい。

 一人娘で、親が高齢のときに生まれた子なものだから、大層甘やかしたんだとか。
 そうだよねぇ、わかるわぁ。甘やかしちゃうよねぇ。そういう子って。

 おかげで祥子は目が肥え、舌が肥え、センスも肥えて、金のかかる女に一直線。
 その浪費癖は凄まじく、パパさんが幾度叱っても立て板に水だったらしい。

 それでも、ひなたが生まれれば母親の自覚ができて、態度を改めるかもしれない。
 そんな風に期待してたパパさんだが、しかし、それはあえなく裏切られた。

 逆に、ひなたが生まれてから祥子は余計に金を使うようになったんだと。
 ひなたの服に、ママさん同士の付き合いに、まぁ、あれやこれやと。
 さすがに祥子の両親もこれはいけないと、祥子を叱ったりもしたらしいが――、

「……その、祥子がそれで逆切れしてしまいまして」

 それを語るパパさんは、本ッ気で恥ずかしそうに、目を逸らしていた。

「祥子は、俺やひなたが自分の思い通りにならないからと、溜め込んだストレスを発散するためにまた散財して、その結果、悪い男に目をつけられたみたいなんです」

 わ~、王道オブ王道な転げ方してらぁ、あのオバハン。

「それで、遊ぶ金を作るために、家財道具一式をその男の仲間達を使って運び出してしまって、今現在のような状況になってるんです……」
「まぁ、そうなんですね。それはさぞかし大変でしたでしょうね、風見さん……」

 お袋が目に涙を浮かべ、うんうんと深くうなずき共感する。――フリをしている。
 そろそろ一周回って、実は大した女なのでは、と思い始めてる俺である。

 しかしまぁ、そういう事情があるなら、離婚だってするわなぁ。
 だが、それがどうして今さらひなたを連れていこう、なんてことになるのか。

「離婚協議は、結局裁判までもつれ込みました。祥子にはひなたや俺への愛情など微塵も残っていませんでした。そんな彼女が離婚を頑なに拒んだ理由は、俺の元義両親、つまり彼女の両親が勘当を言い渡し、遺産の相続人から排除したからです」
「なるほど、それで……」

 パパさんの説明に、お袋が一転して顔つきを険しくする。
 え、何それ? そーぞくにんのはいじょとか、俺にはよーわからんのですが?

「お袋、どういうこと?」
「わかりやすく言えばね、ひなたちゃんのママはご両親の遺産を受け継げなくなったんだよ。ご両親がお亡くなりになっても、自分のところにお金が入らないの」

 あ~~~~、そういう。
 祥子はイイトコのお嬢さんだ、っつってたモンね、パパさん。

「と、すると……」

 ここで、何かを考え込むお袋。

「ひなたちゃんのママのご両親は、ひなたちゃんを新たに相続人にしたのですか?」
「――――ッ、はい、その通りです。御慧眼、感服しました」

 一瞬たじろいだのち、パパさんは素直に認めた。

「どゆこと?」
「ママさんじゃなくひなたちゃんが、祖父母の遺産を相続することになったんだよ」

「それはわかったけど、何でそれであのおばちゃんが離婚を嫌がるの?」
「ひなたちゃんは子供だろ? だから、大人になるまで財産を管理する人間が必要なんだよ。普通に考えたら、それはご両親ってことになるんだよ」

 うおお、なるほど、そういうことか。
 って、お袋すげぇな、よくそこまで知ってたな。経験者か。経験者だったわ。

 ここまでくれば、祥子がひなたを連れていこうとした理由もわかる。
 結局、離婚は成立して、ひなたが相続する遺産の管理人にはパパさんがなった。

 それが気に食わないのだろう。
 無理矢理にでもひなたを自分のもとに連れてきて、遺産を手に入れたいワケだ。

 う~ん、実に俗っぽい。
 俗っぽいだけに、心から納得できる理由だ。
 いつの世も、人が狂う理由は欲望ヨク愛情アイかのどっちかだ。

「離婚後は祥子もなりふり構わなくなってきて、今日も浮気相手の仲間達をウロつかせ、俺がそっちに行っている間に自分がひなたを――、という感じでして」
「本当になりふり構ってねーな……」

 呟く俺の隣で、お袋の目がハートになっている。
 さては、悩めるパパさんのアンニュイ顔に見惚れてやがンな、このアマ!

「あ~……」

 とりあえず、気を取り直すことにする。
 状況はおおよそ理解した。

 風見祥子は娘の身柄を狙っている。
 しかし、まだ事件にはなっていないので、警察が介入してくれる確率は低い。

 おそらく平日はパパさんも仕事があるはずだ。
 ひなたは保育園にでも入れてるのだろうが、それで不安は払拭されない。
 結局、祥子はひなたの母親であることには変わりはないのだから。

 そして、祥子はだんだん手段を選ばなくなってきている。
 家財道具を運んだ浮気相手の仲間達とやらもいるので、強引な手も考えられる。

 ――なるほど、なるほどね。

「あの、ひなたちゃんのパパさん」

 状況を整理し、考えをまとめて、俺はパパさんに切り出した。

「ひなたちゃんの護衛に、俺を雇いませんか?」

 これが、この世界における傭兵としての俺の初仕事になる。笑うわ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...