18 / 162
第二章 渡る世間は跳梁跋扈
第17話 お向かいさんちのひなたちゃん
しおりを挟む
一年くらい前、だったなぁ。
二月頭の、特に寒い時期。まだ『僕』だった俺は、家から追い出された。
特に何かしたワケじゃなかった。
ただ、あの豚がそうしたい気分になったから、俺は部屋に入れてもらえなかった。
しかもシャツと半ズボンなんていう恰好のままで。
二月の寒風は、まだ六歳だった俺を容赦なく蝕んだ。
ただでさえ、ほとんどモノを食わせてもらえてなかった俺は、やせ衰えていた。
そんな体力もない状態で、防寒具もなしに外に出されればどうなるか。
子供は風の子っつったって、幾らなんでも限度がある。
吹く風にたちまち体温を奪われ、俺は激しく震えた。
唇は色味を失い、震えが過ぎて視界も揺らぐほどだった。
ひもじい、ってのはまさにああいった状態のことをいうのだろう。
玄関を何度叩いても、豚の調子に乗った笑い声が聞こえるだけ。
部屋に入れてもらえず、本格的に手足がかじかんできた俺は、外を彷徨い始めた。
最寄りのコンビニまでは、歩いて十五分。
そこまでの道など当時はまだ知らず、知っていたとしても子供には絶望的な距離。
俺はアパートの周りを歩いて、外にいる人に助けてもらおうと思った。
そのときに出会ったのが、買い物帰りの二人の主婦。
近くに明確な『死』を感じとっていた俺には、彼女達はまさに救い主に見えた。
俺は見るからに金のかかっている服装の主婦達に、体を引きずり近づいた。
「……た、助けて」
俺は、片方の主婦に手を伸ばし、縋りつこうとした。
必死だった。
この機会を逃せば、自分は本当に凍え死ぬ。切実にそう感じた。だが、
「何よこのガキ、汚いわね!」
着ているコートを触ろうとした俺を、その主婦はそう言って突き飛ばした。
道路に倒れた俺を見下ろし、もう片方の主婦も虫でも見るような顔つきをする。
「きったな……、乞食なら他でやってよね。行きましょ」
「冗談じゃないわよ。このコート、幾らしたと思ってんのよ、全く」
「そんなことより寒いわね、早く戻りましょう」
「あ、うちに寄ってって。この前で、通販でいい茶葉を買ったのよ~」
道路に転がったまま、呆然となる俺の前で、二人はアパート前の家に入った。
その家は、風見家。そして俺を突き飛ばした主婦は、風見祥子。
その後、俺は豚の気まぐれで何とか部屋に入れてもらえた。
だがそのときにはもう、主婦達の顔は俺の脳裏にしっかりと焼き付けられていた。
――恨みって感情は、多分、一番抱くのが簡単で、捨てるのが難しい感情だ。
一度抱いてしまったら、もうダメだ。
捨てようとしてもしつこくしがみついてくる。病んだメンヘラ女みたいに。
筋違いなのかもしれない。
元凶はあの豚で、この主婦達はただ通りすがっただけかもしれない。
だが、俺は助けを求め、主婦達はそれを拒み、見捨てた。
それは確かに起きた出来事だ。そして、それでもう十分すぎるのだ。
俺はこのとき、恨みを抱いた。
風見祥子と、もう一人の主婦に。軽く、小さく、だが確固たる恨みを。
金鐘崎アキラは、抱いた恨みを忘れない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大股に、そして早足で、俺は二人に近づいていった。
「こぉんなところでなにしてるんですかぁ、ねぇ!」
思い切り声を張り上げる。
すると、互いに引っ張り合っていた母娘が、揃ってこっちを見た。
「……?」
祥子が、怪訝そうな顔をして俺を見る。
その、あからさまな『あんた誰?』という表情から、俺を忘れてるのが窺える。
「風見さんちのママとひなたちゃんですよね! 僕です、金鐘崎アキラです!」
名乗っても、やはり祥子の反応は鈍い。
だが、俺はそもそもこいつに話しかけちゃいない。
自ら名乗ることで、俺がここに介入することを知らせたいのは、娘の方だ。
「助けて! 助けてぇ!」
狙い通り、ひなたは俺を見て泣き喚いた。
そうだよなぁ、ひなたちゃんは今、とっても怖いよなぁ。
どこかの誰かも知らないお兄ちゃんでも、助けを求めたいよなぁ。
助けが欲しいひなたと、この場に割り込みたい俺。
互いの利害はここに一致して、俺は込み上げる笑みを抑えつつ祥子の方を見る。
「おばちゃん、何してるんですかぁ! ひなたちゃん、嫌がってますよぉ!?」
「う、うるさいわね、他人の家のことにクビ突っ込んでこないでよ!」
俺が叫ぶと、露骨に焦り出す祥子。
その視線がせわしなく周りを見回している。誰かを警戒してるのか。
「このガキの親はどこよ! ガキを放置して、親は何やってるのよ!?」
お袋ですか、お袋ならあっちの壁の陰に隠れてますよ。
完ッ全に風景の一部と化して我関せずを決め込んでますよ、あのアマ。
「おばちゃん、何してるんですか! ひなたちゃん泣いてて可哀相ですよー!」
「ッ、うるさい、ガキ! 私はこの子の母親なのよ!」
「やだァ、ママ、やだの! 助けて、パパァ!」
ああ、なるほど。祥子が警戒してるのはひなたの父親か。
こいつにとってのタイムリミットは、父親がここに来るまで、ってことね。
「おばちゃん、ひなたちゃんを離して! 女の子を泣かすのは悪いことです!」
「うるさいって言ってるでしょ、このガキッ!」
祥子が、空いてる方の手で肩にかけてたバッグを振り回してくる。
だが俺はそれをヒョイと避け、そこからわざと当たったフリをして転ぶ。
「痛ッ!?」
そしてこれみよがしに悲鳴をあげる。
すると、祥子が俺を見てニヤリと勝利の笑みを浮かべるが、それは悪手っすよ。
「痛ァァァァァァいィィィィィィィィ! なんでぶつのォォォォォォォォッ!」
おまえは俺をガキと無礼た! くらえ、必殺のウソ泣きだ!
「な、何よ、いきなり! やめなさいよ!?」
突如ギャン泣きする俺に、祥子が激しく取り乱す。
昼下がりの住宅街に、けたたましく響く俺のわざとらしい泣き声。
ほ~れほ~れ、どうするよ、風見さんチの奥さんよ?
俺ちゃん、一度行動し始めたら恥とか、外聞とか幾らでも投げ捨てられる人種よ?
「泣きやみなさいよ、うるさいのよ! いい加減にしないと、カレにチクるわよ!」
……カレ?
その一言で、何となく風見家の事情の一端が垣間見えた気がした。
ま、関係ないけどね。俺はこのままウソ泣き続行よ。
十秒以上も大声で騒いでいると、徐々に周りから人の動く気配がしてくる。
そろそろ、どこかの家から様子を見に来る人が出てくるかも。
「くっ、ちょ……!」
祥子もそろそろヤバイと思い始めたか、俺ではなく周りを見る。
そこに、彼が颯爽と駆けつけてくる。
「ひなた!」
「お父さァん!」
ひなたを探していたと思しき風見家の旦那さんだ。
うぉぉ、スッゲェイケメン。走ってるだけなのにすでにそれがサマになってる。
「クソッ!」
「祥子、またおまえは!」
汚く毒づく祥子とひなたの間に割って入り、旦那さんが妻をきつく睨みつける。
「ひなたに何の用だ! 俺達の件はすでに決着したはずだろう!」
「うるさいわね、離婚も親権も、私は何一つとして納得しちゃいないのよ!」
「それで、ひなたを連れていこうとしたのか、おまえは!」
「連れていく? バカ言わないで。ひなたが行きたいって言ったのよ、ねぇ?」
いけしゃあしゃあと言って、祥子が娘に視線で圧をかける。
「いや、無理矢理だろ、誰がどう見ても」
だがそこに、俺が華麗に介入だ!
「この、ガキッ!?」
祥子が一見整ったその顔を醜く歪ませる。フヘヘヘヘ、いいツラだァ。
「き、君は……?」
「おにいちゃん、ひなたを助けてくれたの!」
突然の闖入者に戸惑う旦那さんの方に、その背に隠れたひなたが説明をする。
「そうなのか、それは、助かったよ……」
「違うわよ、ふざけないで! この子がひなたをいじめてたのよ!」
追い詰められた証拠が、支離滅裂なことを言い出す。
しかし、そこにさらに俺バリに華麗に介入してくる人物が登場した。
「い、いえ。あの、そちらの奥様がお嬢さんを無理矢理強引に連れてこうと……」
「あんた誰よ!!?」
ウチのお袋です!
このアマ、形勢が固まったとみるや、さりげなく参加してきやがった。
その、率先して長いものに巻かれていく姿勢は大したモンだよ。
人間としては見下げ果てた行動だけどな。
だが、ここでお袋という証人の登場はなかなかデカい。
旦那さんが、祥子に対する目つきをさらに厳しいものにする。
「祥子、やっぱりおまえは……」
「……う、うるさい!」
もはやこれまでと判断したようで、祥子は踵を返して逃げ出した。
「ひなたは諦めないからね、覚えてなさいよ!」
ぐっほ。
ヤベェぞ、捨て台詞がとんだド三流だ! や~い、三流、ド三流~!
祥子が逃げたのち、ようやく他の家から住民が顔を出す。
いや、遅ェよ、おまえら。閉じこもりすぎだよ。亀か何かかよ。
「ありがとう、おにいちゃん!」
ぺこりと俺に頭を下げてくるひなた。
ほほぉ、小さい割にしっかり教育が行き届いてるじゃねぇか。いい子だな。
「とりあえず、ここでは人の目もあるので、自分の家に来てください」
旦那さんがそう言って、ひなたと手を繋いで自宅の方に歩き出す。
お袋は俺に視線を送ってくるが、まぁ、行くしかないだろ。
風見祥子の情報をゲットする、またとないチャンスだからな。
あの女を地獄に墜とす。そのために、情報は幾らでも欲しいところだ。
「――それにしても『ひなた』、ねぇ」
父親に手を引かれて歩くあの幼子の背中を、俺はしばし見つめる。
あの子の名前、異世界の俺の末っ子と同じなんだよなぁ。
二月頭の、特に寒い時期。まだ『僕』だった俺は、家から追い出された。
特に何かしたワケじゃなかった。
ただ、あの豚がそうしたい気分になったから、俺は部屋に入れてもらえなかった。
しかもシャツと半ズボンなんていう恰好のままで。
二月の寒風は、まだ六歳だった俺を容赦なく蝕んだ。
ただでさえ、ほとんどモノを食わせてもらえてなかった俺は、やせ衰えていた。
そんな体力もない状態で、防寒具もなしに外に出されればどうなるか。
子供は風の子っつったって、幾らなんでも限度がある。
吹く風にたちまち体温を奪われ、俺は激しく震えた。
唇は色味を失い、震えが過ぎて視界も揺らぐほどだった。
ひもじい、ってのはまさにああいった状態のことをいうのだろう。
玄関を何度叩いても、豚の調子に乗った笑い声が聞こえるだけ。
部屋に入れてもらえず、本格的に手足がかじかんできた俺は、外を彷徨い始めた。
最寄りのコンビニまでは、歩いて十五分。
そこまでの道など当時はまだ知らず、知っていたとしても子供には絶望的な距離。
俺はアパートの周りを歩いて、外にいる人に助けてもらおうと思った。
そのときに出会ったのが、買い物帰りの二人の主婦。
近くに明確な『死』を感じとっていた俺には、彼女達はまさに救い主に見えた。
俺は見るからに金のかかっている服装の主婦達に、体を引きずり近づいた。
「……た、助けて」
俺は、片方の主婦に手を伸ばし、縋りつこうとした。
必死だった。
この機会を逃せば、自分は本当に凍え死ぬ。切実にそう感じた。だが、
「何よこのガキ、汚いわね!」
着ているコートを触ろうとした俺を、その主婦はそう言って突き飛ばした。
道路に倒れた俺を見下ろし、もう片方の主婦も虫でも見るような顔つきをする。
「きったな……、乞食なら他でやってよね。行きましょ」
「冗談じゃないわよ。このコート、幾らしたと思ってんのよ、全く」
「そんなことより寒いわね、早く戻りましょう」
「あ、うちに寄ってって。この前で、通販でいい茶葉を買ったのよ~」
道路に転がったまま、呆然となる俺の前で、二人はアパート前の家に入った。
その家は、風見家。そして俺を突き飛ばした主婦は、風見祥子。
その後、俺は豚の気まぐれで何とか部屋に入れてもらえた。
だがそのときにはもう、主婦達の顔は俺の脳裏にしっかりと焼き付けられていた。
――恨みって感情は、多分、一番抱くのが簡単で、捨てるのが難しい感情だ。
一度抱いてしまったら、もうダメだ。
捨てようとしてもしつこくしがみついてくる。病んだメンヘラ女みたいに。
筋違いなのかもしれない。
元凶はあの豚で、この主婦達はただ通りすがっただけかもしれない。
だが、俺は助けを求め、主婦達はそれを拒み、見捨てた。
それは確かに起きた出来事だ。そして、それでもう十分すぎるのだ。
俺はこのとき、恨みを抱いた。
風見祥子と、もう一人の主婦に。軽く、小さく、だが確固たる恨みを。
金鐘崎アキラは、抱いた恨みを忘れない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大股に、そして早足で、俺は二人に近づいていった。
「こぉんなところでなにしてるんですかぁ、ねぇ!」
思い切り声を張り上げる。
すると、互いに引っ張り合っていた母娘が、揃ってこっちを見た。
「……?」
祥子が、怪訝そうな顔をして俺を見る。
その、あからさまな『あんた誰?』という表情から、俺を忘れてるのが窺える。
「風見さんちのママとひなたちゃんですよね! 僕です、金鐘崎アキラです!」
名乗っても、やはり祥子の反応は鈍い。
だが、俺はそもそもこいつに話しかけちゃいない。
自ら名乗ることで、俺がここに介入することを知らせたいのは、娘の方だ。
「助けて! 助けてぇ!」
狙い通り、ひなたは俺を見て泣き喚いた。
そうだよなぁ、ひなたちゃんは今、とっても怖いよなぁ。
どこかの誰かも知らないお兄ちゃんでも、助けを求めたいよなぁ。
助けが欲しいひなたと、この場に割り込みたい俺。
互いの利害はここに一致して、俺は込み上げる笑みを抑えつつ祥子の方を見る。
「おばちゃん、何してるんですかぁ! ひなたちゃん、嫌がってますよぉ!?」
「う、うるさいわね、他人の家のことにクビ突っ込んでこないでよ!」
俺が叫ぶと、露骨に焦り出す祥子。
その視線がせわしなく周りを見回している。誰かを警戒してるのか。
「このガキの親はどこよ! ガキを放置して、親は何やってるのよ!?」
お袋ですか、お袋ならあっちの壁の陰に隠れてますよ。
完ッ全に風景の一部と化して我関せずを決め込んでますよ、あのアマ。
「おばちゃん、何してるんですか! ひなたちゃん泣いてて可哀相ですよー!」
「ッ、うるさい、ガキ! 私はこの子の母親なのよ!」
「やだァ、ママ、やだの! 助けて、パパァ!」
ああ、なるほど。祥子が警戒してるのはひなたの父親か。
こいつにとってのタイムリミットは、父親がここに来るまで、ってことね。
「おばちゃん、ひなたちゃんを離して! 女の子を泣かすのは悪いことです!」
「うるさいって言ってるでしょ、このガキッ!」
祥子が、空いてる方の手で肩にかけてたバッグを振り回してくる。
だが俺はそれをヒョイと避け、そこからわざと当たったフリをして転ぶ。
「痛ッ!?」
そしてこれみよがしに悲鳴をあげる。
すると、祥子が俺を見てニヤリと勝利の笑みを浮かべるが、それは悪手っすよ。
「痛ァァァァァァいィィィィィィィィ! なんでぶつのォォォォォォォォッ!」
おまえは俺をガキと無礼た! くらえ、必殺のウソ泣きだ!
「な、何よ、いきなり! やめなさいよ!?」
突如ギャン泣きする俺に、祥子が激しく取り乱す。
昼下がりの住宅街に、けたたましく響く俺のわざとらしい泣き声。
ほ~れほ~れ、どうするよ、風見さんチの奥さんよ?
俺ちゃん、一度行動し始めたら恥とか、外聞とか幾らでも投げ捨てられる人種よ?
「泣きやみなさいよ、うるさいのよ! いい加減にしないと、カレにチクるわよ!」
……カレ?
その一言で、何となく風見家の事情の一端が垣間見えた気がした。
ま、関係ないけどね。俺はこのままウソ泣き続行よ。
十秒以上も大声で騒いでいると、徐々に周りから人の動く気配がしてくる。
そろそろ、どこかの家から様子を見に来る人が出てくるかも。
「くっ、ちょ……!」
祥子もそろそろヤバイと思い始めたか、俺ではなく周りを見る。
そこに、彼が颯爽と駆けつけてくる。
「ひなた!」
「お父さァん!」
ひなたを探していたと思しき風見家の旦那さんだ。
うぉぉ、スッゲェイケメン。走ってるだけなのにすでにそれがサマになってる。
「クソッ!」
「祥子、またおまえは!」
汚く毒づく祥子とひなたの間に割って入り、旦那さんが妻をきつく睨みつける。
「ひなたに何の用だ! 俺達の件はすでに決着したはずだろう!」
「うるさいわね、離婚も親権も、私は何一つとして納得しちゃいないのよ!」
「それで、ひなたを連れていこうとしたのか、おまえは!」
「連れていく? バカ言わないで。ひなたが行きたいって言ったのよ、ねぇ?」
いけしゃあしゃあと言って、祥子が娘に視線で圧をかける。
「いや、無理矢理だろ、誰がどう見ても」
だがそこに、俺が華麗に介入だ!
「この、ガキッ!?」
祥子が一見整ったその顔を醜く歪ませる。フヘヘヘヘ、いいツラだァ。
「き、君は……?」
「おにいちゃん、ひなたを助けてくれたの!」
突然の闖入者に戸惑う旦那さんの方に、その背に隠れたひなたが説明をする。
「そうなのか、それは、助かったよ……」
「違うわよ、ふざけないで! この子がひなたをいじめてたのよ!」
追い詰められた証拠が、支離滅裂なことを言い出す。
しかし、そこにさらに俺バリに華麗に介入してくる人物が登場した。
「い、いえ。あの、そちらの奥様がお嬢さんを無理矢理強引に連れてこうと……」
「あんた誰よ!!?」
ウチのお袋です!
このアマ、形勢が固まったとみるや、さりげなく参加してきやがった。
その、率先して長いものに巻かれていく姿勢は大したモンだよ。
人間としては見下げ果てた行動だけどな。
だが、ここでお袋という証人の登場はなかなかデカい。
旦那さんが、祥子に対する目つきをさらに厳しいものにする。
「祥子、やっぱりおまえは……」
「……う、うるさい!」
もはやこれまでと判断したようで、祥子は踵を返して逃げ出した。
「ひなたは諦めないからね、覚えてなさいよ!」
ぐっほ。
ヤベェぞ、捨て台詞がとんだド三流だ! や~い、三流、ド三流~!
祥子が逃げたのち、ようやく他の家から住民が顔を出す。
いや、遅ェよ、おまえら。閉じこもりすぎだよ。亀か何かかよ。
「ありがとう、おにいちゃん!」
ぺこりと俺に頭を下げてくるひなた。
ほほぉ、小さい割にしっかり教育が行き届いてるじゃねぇか。いい子だな。
「とりあえず、ここでは人の目もあるので、自分の家に来てください」
旦那さんがそう言って、ひなたと手を繋いで自宅の方に歩き出す。
お袋は俺に視線を送ってくるが、まぁ、行くしかないだろ。
風見祥子の情報をゲットする、またとないチャンスだからな。
あの女を地獄に墜とす。そのために、情報は幾らでも欲しいところだ。
「――それにしても『ひなた』、ねぇ」
父親に手を引かれて歩くあの幼子の背中を、俺はしばし見つめる。
あの子の名前、異世界の俺の末っ子と同じなんだよなぁ。
1
お気に入りに追加
589
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる