9 / 10
第7.5話 次代の賢者は軽蔑する(ルミナ視点)
しおりを挟む
この街に来たときのことを、私は少しだけ思い返す。
私は、ルミナ・ワーヴェル。
王都の魔法学院を卒業し、冒険者になるべくオルダームまでやって来た。
小さい頃から、私は家祖である大賢者の逸話に強く惹かれていた。
幸い、私には家祖と同じく魔法の才があり、王都の魔法学院に入学できた。
私がそこに入ったのは両親から少しでも離れたかったからだ。
両親も他と同じく、大賢者の名誉を自分のものと勘違いしている愚物だった。
今のワーヴェル家は大体がそんな感じ。家祖の遺産の利権を貪るだけの連中だ。
でも、そんな中で例外が一人だけいた。近い親戚のレントさんだ。
彼は家祖の生まれ変わりとされるが、私はそれをあまり信じていない。
きっと家祖を尊敬し、自称しているのだ。大それたことだが、気持ちはわかる。
レントさんは、私が小さかった頃、自分の冒険の話を聞かせてくれた。
それは、大賢者の遺産が眠るというダンジョンでの冒険譚だった。
レントさんは臨場感たっぷりの話し方で私にそれを語ってくれた。
きっと私は、そのときから彼に憧れていたのだ。今考えれば、愚かなことだが。
最初に私に現実の彼を教えてくれたのは、ゴルデンさんだった。
オルダーム最大のクラン『金色の冒険譚』のリーダーで、レントさんの元相棒。
レントさんの冒険譚にも登場した、私にとってのもう一人の憧れの人。
卒業後、彼から直接スカウトを受けて、私はまさに天にも昇る気持ちになった。
「え? 冒険の話を聞いた? ……そうか、あいつがそんな話を」
私は、ゴルデンさんに私が聞いた話について語ってみた。すると、この反応だ。
違和感を覚えたのは、それが最初だった。
そして、ゴルデンさんは語ってくれた。『金色』での彼の堕落っぷりを。
「訓練はしているが、それだけ。採取すらしようとしないんだ」
「そんな……」
薬草の採取などの依頼は、Fランクでも受けられるのに。
一体、彼はどうやって生活しているのだろう。
それを尋ねたときの、ゴルデンさんの苦虫を噛み潰したような顔は忘れがたい。
「僕達が養ってやっているんだよ。あいつを」
「や、養って……?」
聞けば、レントさんは大賢者の生まれ変わりであることと『金色』の創立メンバーであることを理由に、『金色』に自分の面倒を見させているのだという。
さすがに、あり得ないと思った。
私の中のレントさんは、弱くてもひたむきにがんばる人なのに。
到着した本拠地、私はレントさんについて聞いて回った。
だけど、私の中のレントさんに重なる話は、一つとして聞くことができなかった。
「僕が君に期待する理由が、わかってもらえただろうか」
ゴルデンさんが、私に向かって言う。
「あの男は、十数年の長きに渡って『金色』に寄生し続けているんだよ……」
それは、堪えがたい何かを必死に堪えているような声音だった。
ゴルデンさんは本気でレントさんを憂い、悩んでいる。それが伝わってきた。
「ワーヴェル家は、冒険者たちの間では『冒険者の恥部』とすら呼ばれている。そしてレントこそ、それを最も強く体現している存在なんだ。……悲しいことに、ね」
本当に悲しそうに目を伏せるゴルデンさんの様子を見て、私の中に怒りが湧く。
彼の言う通り、ワーヴェル家は冒険者の恥部だ。
家祖である大賢者の名誉を自分達のものと勘違いして増長し続ける、愚物の巣窟。
だけど、レントさんだけは違う。
私はずっと、そう思っていたのに……。
「君が来てくれたことで、僕もいよいよ決心がついた。レントを追い出そう」
力強く告げるゴルデンさんに、私は最後に一度だけ問いかけた。
「お二人の最初の冒険のとき、遭遇したガーゴイルに不意打ちを受けて、片方が庇いましたよね。そのとき庇ったのはどちらだったんですか?」
「ん? 懐かしい話だね。それだったら僕が庇ったんだ」
ああ、レントさんから聞いた話と違う。
あの話じゃ、主人公のレントさんがゴルデンさんを庇ったことになってる。
違う。事実と違う。
レントさんは私に、嘘の話を聞かせたんだ。
その思ったとき、私の中にあったレントさんへの信頼の最後の一片が壊れた。
やっぱり、変わらないんだ。
レントさんもあのくだらないワーヴェル家の人間だったんだ。
「ゴルデンさん。私、あの人が許せません」
「ああ、僕もだよ。だからあいつの代わりに、君が『金色』の大賢者となってくれ」
私は、そのゴルデンさんの言葉に「はい」と答え、うなずいた。
所詮はレントさんも、他のワーヴェル家と同列だった。あの度し難い連中と。
――家祖の名に泥を塗り続けるあの連中を、私は絶対に認めない。
私は、ルミナ・ワーヴェル。
王都の魔法学院を卒業し、冒険者になるべくオルダームまでやって来た。
小さい頃から、私は家祖である大賢者の逸話に強く惹かれていた。
幸い、私には家祖と同じく魔法の才があり、王都の魔法学院に入学できた。
私がそこに入ったのは両親から少しでも離れたかったからだ。
両親も他と同じく、大賢者の名誉を自分のものと勘違いしている愚物だった。
今のワーヴェル家は大体がそんな感じ。家祖の遺産の利権を貪るだけの連中だ。
でも、そんな中で例外が一人だけいた。近い親戚のレントさんだ。
彼は家祖の生まれ変わりとされるが、私はそれをあまり信じていない。
きっと家祖を尊敬し、自称しているのだ。大それたことだが、気持ちはわかる。
レントさんは、私が小さかった頃、自分の冒険の話を聞かせてくれた。
それは、大賢者の遺産が眠るというダンジョンでの冒険譚だった。
レントさんは臨場感たっぷりの話し方で私にそれを語ってくれた。
きっと私は、そのときから彼に憧れていたのだ。今考えれば、愚かなことだが。
最初に私に現実の彼を教えてくれたのは、ゴルデンさんだった。
オルダーム最大のクラン『金色の冒険譚』のリーダーで、レントさんの元相棒。
レントさんの冒険譚にも登場した、私にとってのもう一人の憧れの人。
卒業後、彼から直接スカウトを受けて、私はまさに天にも昇る気持ちになった。
「え? 冒険の話を聞いた? ……そうか、あいつがそんな話を」
私は、ゴルデンさんに私が聞いた話について語ってみた。すると、この反応だ。
違和感を覚えたのは、それが最初だった。
そして、ゴルデンさんは語ってくれた。『金色』での彼の堕落っぷりを。
「訓練はしているが、それだけ。採取すらしようとしないんだ」
「そんな……」
薬草の採取などの依頼は、Fランクでも受けられるのに。
一体、彼はどうやって生活しているのだろう。
それを尋ねたときの、ゴルデンさんの苦虫を噛み潰したような顔は忘れがたい。
「僕達が養ってやっているんだよ。あいつを」
「や、養って……?」
聞けば、レントさんは大賢者の生まれ変わりであることと『金色』の創立メンバーであることを理由に、『金色』に自分の面倒を見させているのだという。
さすがに、あり得ないと思った。
私の中のレントさんは、弱くてもひたむきにがんばる人なのに。
到着した本拠地、私はレントさんについて聞いて回った。
だけど、私の中のレントさんに重なる話は、一つとして聞くことができなかった。
「僕が君に期待する理由が、わかってもらえただろうか」
ゴルデンさんが、私に向かって言う。
「あの男は、十数年の長きに渡って『金色』に寄生し続けているんだよ……」
それは、堪えがたい何かを必死に堪えているような声音だった。
ゴルデンさんは本気でレントさんを憂い、悩んでいる。それが伝わってきた。
「ワーヴェル家は、冒険者たちの間では『冒険者の恥部』とすら呼ばれている。そしてレントこそ、それを最も強く体現している存在なんだ。……悲しいことに、ね」
本当に悲しそうに目を伏せるゴルデンさんの様子を見て、私の中に怒りが湧く。
彼の言う通り、ワーヴェル家は冒険者の恥部だ。
家祖である大賢者の名誉を自分達のものと勘違いして増長し続ける、愚物の巣窟。
だけど、レントさんだけは違う。
私はずっと、そう思っていたのに……。
「君が来てくれたことで、僕もいよいよ決心がついた。レントを追い出そう」
力強く告げるゴルデンさんに、私は最後に一度だけ問いかけた。
「お二人の最初の冒険のとき、遭遇したガーゴイルに不意打ちを受けて、片方が庇いましたよね。そのとき庇ったのはどちらだったんですか?」
「ん? 懐かしい話だね。それだったら僕が庇ったんだ」
ああ、レントさんから聞いた話と違う。
あの話じゃ、主人公のレントさんがゴルデンさんを庇ったことになってる。
違う。事実と違う。
レントさんは私に、嘘の話を聞かせたんだ。
その思ったとき、私の中にあったレントさんへの信頼の最後の一片が壊れた。
やっぱり、変わらないんだ。
レントさんもあのくだらないワーヴェル家の人間だったんだ。
「ゴルデンさん。私、あの人が許せません」
「ああ、僕もだよ。だからあいつの代わりに、君が『金色』の大賢者となってくれ」
私は、そのゴルデンさんの言葉に「はい」と答え、うなずいた。
所詮はレントさんも、他のワーヴェル家と同列だった。あの度し難い連中と。
――家祖の名に泥を塗り続けるあの連中を、私は絶対に認めない。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました
樹里
ファンタジー
王太子殿下との婚約破棄を切っ掛けに、何度も人生を戻され、その度に絶望に落とされる公爵家の娘、ヴィヴィアンナ・ローレンス。
嘆いても、泣いても、この呪われた運命から逃れられないのであれば、せめて自分の意志で、自分の手で人生を華麗に散らしてみせましょう。
私は――立派な悪役令嬢になります!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる