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27 花の紋章の鍵
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私は、受け取った鍵に目を落とします。
鍵の持ち手の部分には、花の紋章?
「その鍵を君に渡すよう、頼まれていてね」
「私に、ですか……? 一体、どなたに頼まれたのです?」
国王陛下にそのようなことを頼める人など、いたでしょうか?
私には思い当たりませんが、陛下が、教えてくれました。
「私にそれを頼んだのは、この間亡くなった私の妻、アンジェリカだ」
「王妃、様ですか……?」
意外なお答えでした。
私個人は、王妃様とは結局一度もお話する機会がなかったのですが……。
ラングリフと結婚したときには、すでに王妃様は床に臥せっておられました。
もしかしたら、私のことも知らないのではないかとも思います。
「正確には『ラングリフの妻』に渡すように、頼まれていてね」
「それは、一体……」
陛下はそのように語られますが、私にはまるで話が見えませんでした。
「私は、ラングリフ様と結婚して一年以上経ちます。それなのに、何故、今?」
「……それがね」
陛下は、どこか言いにくそうに若干顔を逸らし、しばし考え込まれました。
そのあとでついた嘆息は、踏ん切りをつけるためのもののようでした。
「アンジェリカは、死に際にこの鍵を差し出してきたんだよ」
「王妃様が……?」
それは、どういうことなのでしょうか。
聞かされた話に、疑問は大きくなっていくばかりです。
「これを私に渡すとき、アンジェリカは謝っていた。『ごめんなさい、ごめんなさい』とね。意味は、私にもわからない。あれは何に対する謝罪だったのか」
陛下が語る王妃様の話は、本当に不思議なものでした。
もちろん、私に対しての謝罪ではないでしょう。
「推察できることはあるが、それが当たっているかは今となっては知りようがない。とにかく、私は頼まれたことを果たそうと思って、君をここに呼んだんだよ」
「そうなの、ですね……」
まだ、全部を飲み込めたわけではありませんが、私は再び鍵を観察します。
その鍵に刻まれた花の紋章を、どこかで見たような気がするのです。
「陛下」
「何だね、リリエッタさん」
「今、おっしゃられた、陛下のご推察は、お聞かせいただけるのでしょうか」
「それは――」
私の問いかけに、陛下は言葉を濁されました。その瞳が、虚空を彷徨います。
しばしして、答えは返ってきました。
「いや、やめておこう。これは私の胸の内にしまっておくことにするよ」
「そうですか……」
残念に思う私でしたが、話したくないというのでしたら、仕方がありません。
ですが、陛下のお話はまだ終わっていませんでした。
「ただね――」
「はい」
「アンジェリカがこの鍵を持っていたことには、とても重大な意味がある。私はそう感じているよ。これを、君に託すよう私に頼んだことにもね」
それは私も同じでした。
王妃様が、死の間際に陛下に託された鍵です。とても大切なもののはずです。
でも、この場ではそれを知ることはできなさそうですね。
私に向かって、陛下が切り出されます。
「今日は、来てくれてありがとう。リリエッタさん」
「こちらこそ、貴重なひとときをありがとうございました」
こうして、私は礼拝堂を出て、そのまま王宮を辞しました。
本当の陛下は、あんなにも穏やかな方だったのですね。驚かされました。
帰りの馬車の中で、私は受け取った鍵を眺めています。
この紋章、どこかで……。でも、どこで?
思い出せずに悶々としていると、やがて、脳裏に閃くものがありました。
「そうです、この紋章……」
私は、そこに刻まれた花の紋章に心当たりがありました。
お屋敷の二階に、閉ざされている扉があるのです。
そこはどの部屋の鍵も合わない『開かずの間』で、ずっと気になっていました。
ラングリフ様も、その部屋には入ったことがないと言っておられました。
扉です。その部屋の扉に、花の紋章が描かれていたのです。
そうですね、間違いありません。この鍵に刻まれたものと同じ紋章でした。
「一体、何があるというのでしょうか……」
期待よりも遥かに大きな不安を胸に、私は花の紋章の鍵を強く握りしめました。
鍵の持ち手の部分には、花の紋章?
「その鍵を君に渡すよう、頼まれていてね」
「私に、ですか……? 一体、どなたに頼まれたのです?」
国王陛下にそのようなことを頼める人など、いたでしょうか?
私には思い当たりませんが、陛下が、教えてくれました。
「私にそれを頼んだのは、この間亡くなった私の妻、アンジェリカだ」
「王妃、様ですか……?」
意外なお答えでした。
私個人は、王妃様とは結局一度もお話する機会がなかったのですが……。
ラングリフと結婚したときには、すでに王妃様は床に臥せっておられました。
もしかしたら、私のことも知らないのではないかとも思います。
「正確には『ラングリフの妻』に渡すように、頼まれていてね」
「それは、一体……」
陛下はそのように語られますが、私にはまるで話が見えませんでした。
「私は、ラングリフ様と結婚して一年以上経ちます。それなのに、何故、今?」
「……それがね」
陛下は、どこか言いにくそうに若干顔を逸らし、しばし考え込まれました。
そのあとでついた嘆息は、踏ん切りをつけるためのもののようでした。
「アンジェリカは、死に際にこの鍵を差し出してきたんだよ」
「王妃様が……?」
それは、どういうことなのでしょうか。
聞かされた話に、疑問は大きくなっていくばかりです。
「これを私に渡すとき、アンジェリカは謝っていた。『ごめんなさい、ごめんなさい』とね。意味は、私にもわからない。あれは何に対する謝罪だったのか」
陛下が語る王妃様の話は、本当に不思議なものでした。
もちろん、私に対しての謝罪ではないでしょう。
「推察できることはあるが、それが当たっているかは今となっては知りようがない。とにかく、私は頼まれたことを果たそうと思って、君をここに呼んだんだよ」
「そうなの、ですね……」
まだ、全部を飲み込めたわけではありませんが、私は再び鍵を観察します。
その鍵に刻まれた花の紋章を、どこかで見たような気がするのです。
「陛下」
「何だね、リリエッタさん」
「今、おっしゃられた、陛下のご推察は、お聞かせいただけるのでしょうか」
「それは――」
私の問いかけに、陛下は言葉を濁されました。その瞳が、虚空を彷徨います。
しばしして、答えは返ってきました。
「いや、やめておこう。これは私の胸の内にしまっておくことにするよ」
「そうですか……」
残念に思う私でしたが、話したくないというのでしたら、仕方がありません。
ですが、陛下のお話はまだ終わっていませんでした。
「ただね――」
「はい」
「アンジェリカがこの鍵を持っていたことには、とても重大な意味がある。私はそう感じているよ。これを、君に託すよう私に頼んだことにもね」
それは私も同じでした。
王妃様が、死の間際に陛下に託された鍵です。とても大切なもののはずです。
でも、この場ではそれを知ることはできなさそうですね。
私に向かって、陛下が切り出されます。
「今日は、来てくれてありがとう。リリエッタさん」
「こちらこそ、貴重なひとときをありがとうございました」
こうして、私は礼拝堂を出て、そのまま王宮を辞しました。
本当の陛下は、あんなにも穏やかな方だったのですね。驚かされました。
帰りの馬車の中で、私は受け取った鍵を眺めています。
この紋章、どこかで……。でも、どこで?
思い出せずに悶々としていると、やがて、脳裏に閃くものがありました。
「そうです、この紋章……」
私は、そこに刻まれた花の紋章に心当たりがありました。
お屋敷の二階に、閉ざされている扉があるのです。
そこはどの部屋の鍵も合わない『開かずの間』で、ずっと気になっていました。
ラングリフ様も、その部屋には入ったことがないと言っておられました。
扉です。その部屋の扉に、花の紋章が描かれていたのです。
そうですね、間違いありません。この鍵に刻まれたものと同じ紋章でした。
「一体、何があるというのでしょうか……」
期待よりも遥かに大きな不安を胸に、私は花の紋章の鍵を強く握りしめました。
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