排煙のヴィーナス

アジャバ

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10 雲雀

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 ―それから十年、エリアーデはまだあの排煙の街でひばりを抱いて居た。エリアーデの着ていた花魁衣装はとうに消えてしまった。ひばりの屍骸も骨格だけを残して後は面影さえも無かった。

 ―二十年、オートマタも人間を模した外殻が劣化して、ごつごつとした骨格のみが露出している。彼女が彼女であった事を誰も知らない。

 ―三十年、彼女はいつまでも其処に座っている。彼を愛おしそうに抱いている。彼は既に骨格さえも風化して、彼が其処に居た証拠は何も無かった。彼の居たはずの空間を抱いて、彼女も遂に動作をする事を止めた。

 ―幾年過ぎたであろう。昔、何者であったかもわからないがらくたの、腕らしき二本の鉄棒の間に、細木で組まれた鳥の巣があった。其処にはつがいの小鳥が生きていた。その深緑の瞳は大昔にオートマタに愛された男のものと良く似ていた。

 鈍い朝日が地球を包む。薄っすらと虹が空を走る。
 小鳥が鳴いて、いつかの彼を思い出し、そうして、オートマタは小さく微笑んだ。

【End】
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