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8 何人目のひばり(後編)
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此処はこの街の最果てであるに違いない。
そのように考えるひばりは、冷たいコンクリートの扉を前にしていた。
其処は扉に固く閉ざされていたが、何かの実験施設である事は明らかであった。緑色の光はその内部から微かに漏れていたらしい。妙に近代的な見た目をした建物は、今まで見た街並みにはそぐわなかった。時折、蒸気が昇ったり、モーターの回転する音が聞えたりした。
その扉はセキュリティ・コードに固く守られているらしい。ひばりは興味に負けて扉を押してみたが、扉はとても重たく力尽くで開ける事は叶わなかった。ひばりは扉に付けられた液晶のパネルを覗き込んだ。ゼロとイチとがチカチカと表示されて居て眩暈がする。適当な文字列を入力するが当然開く事は無かった。
ひばりは諦めかけて液晶を睨み付ける。すると、ひばりの眼球が液晶画面に映し出されるや、上から下へ緑色のレーダーが照らされて、何やら機械音がしたかと思うと、「承認」の文字が浮かび上がった。コンクリートの扉は轟々たる音を立てて、左右に開いたのである。ひばりは身を竦ませるようにして驚いた。
「これで開くのであれば、僕は…。」小さく呟いてひばりは扉の奥へと進んで行った。
実験施設の中は驚くべきものであった。橙色のホルマリンに漬けられた人間がずらりと並んべられており、入り口側から奥に掛けて、幼体から成人へと揃えて並べられているらしい。ホルマリンの中の人間は、びくりびくりと痙攣するように跳ね上がったりしている。
ひばりはその一つに近付いて凝視する。中には5歳程に成長した子供の姿があった。その子はひばりを見ると無邪気にホルマリンを泳いで近付いて来て、きゃきゃと笑って硝子の壁を叩いている。ひばりはその姿を直視する事が出来ずに目を逸らした。逸らした先にも水槽が在って、先の子供と全く同じ顔をした人間が泳いでいた。ひばりは低く声にならない叫び声を上げて、恐怖から逃げるように実験室の中を駆けた。
しかし、此処には逃げ場など存在しない。何処へ逃げたとしても目に映るのは、人間と科学が生んでしまった世界の闇ばかりであった。ひばりは知っていたのだ。この世界にクローンの技術が在るのであれば、自分自身も恐らくは、否、確実にその技術の産物の一つに違いないという事を。しかし、知識として知っている事と体感として感じた事との間にはあまりに大きな隔たりが在る。彼が取り乱すのはその為であった。
走る、また走る。そうして彼はとうとう見てはいけなかった水槽へと辿り着いたのである。衛兵の言う「知らなければ良かった」ものの前に辿り着いてしまったのである。
ひばりはその水槽を前にとうとう発狂してしまった。
その水槽の内側には、ひばりが浮かんで居て、驚くようにこちらを見つめていたのであった。
「僕は一体何人目のひばりなんだ。」項垂れるようにしてひばりは言った。
そのように考えるひばりは、冷たいコンクリートの扉を前にしていた。
其処は扉に固く閉ざされていたが、何かの実験施設である事は明らかであった。緑色の光はその内部から微かに漏れていたらしい。妙に近代的な見た目をした建物は、今まで見た街並みにはそぐわなかった。時折、蒸気が昇ったり、モーターの回転する音が聞えたりした。
その扉はセキュリティ・コードに固く守られているらしい。ひばりは興味に負けて扉を押してみたが、扉はとても重たく力尽くで開ける事は叶わなかった。ひばりは扉に付けられた液晶のパネルを覗き込んだ。ゼロとイチとがチカチカと表示されて居て眩暈がする。適当な文字列を入力するが当然開く事は無かった。
ひばりは諦めかけて液晶を睨み付ける。すると、ひばりの眼球が液晶画面に映し出されるや、上から下へ緑色のレーダーが照らされて、何やら機械音がしたかと思うと、「承認」の文字が浮かび上がった。コンクリートの扉は轟々たる音を立てて、左右に開いたのである。ひばりは身を竦ませるようにして驚いた。
「これで開くのであれば、僕は…。」小さく呟いてひばりは扉の奥へと進んで行った。
実験施設の中は驚くべきものであった。橙色のホルマリンに漬けられた人間がずらりと並んべられており、入り口側から奥に掛けて、幼体から成人へと揃えて並べられているらしい。ホルマリンの中の人間は、びくりびくりと痙攣するように跳ね上がったりしている。
ひばりはその一つに近付いて凝視する。中には5歳程に成長した子供の姿があった。その子はひばりを見ると無邪気にホルマリンを泳いで近付いて来て、きゃきゃと笑って硝子の壁を叩いている。ひばりはその姿を直視する事が出来ずに目を逸らした。逸らした先にも水槽が在って、先の子供と全く同じ顔をした人間が泳いでいた。ひばりは低く声にならない叫び声を上げて、恐怖から逃げるように実験室の中を駆けた。
しかし、此処には逃げ場など存在しない。何処へ逃げたとしても目に映るのは、人間と科学が生んでしまった世界の闇ばかりであった。ひばりは知っていたのだ。この世界にクローンの技術が在るのであれば、自分自身も恐らくは、否、確実にその技術の産物の一つに違いないという事を。しかし、知識として知っている事と体感として感じた事との間にはあまりに大きな隔たりが在る。彼が取り乱すのはその為であった。
走る、また走る。そうして彼はとうとう見てはいけなかった水槽へと辿り着いたのである。衛兵の言う「知らなければ良かった」ものの前に辿り着いてしまったのである。
ひばりはその水槽を前にとうとう発狂してしまった。
その水槽の内側には、ひばりが浮かんで居て、驚くようにこちらを見つめていたのであった。
「僕は一体何人目のひばりなんだ。」項垂れるようにしてひばりは言った。
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