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フランケンシュタイン『作られたものの恋』

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 聞き取り調査に行こうとアリサは言って、チクタクもそれに同行することになった。

 「ほら、事務所で待っているよりもこの世界のことを知れるでしょ?」彼女はしたり顔で言った。
 「体のいいお手伝いなんじゃ・・・」チクタクは言ったが、アリスは聞く耳も持たずに飛び出した。
 「行こう!」どうせ何もすることが無かったので、チクタクも続いて事務所を後にしたのである。

 道中、彼女は人造人間についてチクタクに語って聞かせた。彼女曰く、人造人間はつい少し前まで迫害を受けていた種族らしい。その始まりは誰もが知っている有名なお話、メアリー・シェリー原作「フランケンシュタイン」。そこに登場した『THE MONSTER』が世界で最初の人造人間だった。ヴィクター・フランケンシュタイン博士によって生をもたらされた人造人間は醜く、強大な力を持っていた。彼は生みの親であるヴィクターからの愛を欲したが、ヴィクターはその醜い怪物を愛することができずに放棄してしまう。人造人間の悲しみは、やがて憎しみとなり、ヴィクターの妻や友人を次々と殺した。ヴィクターもついには復讐の鬼になり、人造人間を追うも過酷な旅の中力尽きてしまった…。

 「それから?」チクタクは聞いた。
 「『THE MONSTER』と呼ばれた人造人間の行方は誰も知らないわ。もう二百年も前の話だからとっくに死んでしまっているんでしょうけど。この一件があってからも人造人間は多く作られたわ。そのほとんどがイゴールっていうヴィクターの助手が作ったものらしいけど、人造人間を美しく作るのは難しくてね、大抵が『THE MONSTER』みたいに醜い怪物になってしまうらしいのよ。」
 「ああ、それで迫害に繋がるんだね。」チクタクはそう言って頷いた。
 「そう。でも、それだけじゃなくてね、人造人間って元々は死体から作られてたのよ。」アリスは眉をひそめる。
 「死体って…」
 「ある程度腐敗も進んでしまってるからそれは美しくは作れないわよね。」
 「じゃあ、パーシーさんも?」チクタクがそう言うと、アリスは声を上げて笑った。
 「技術も進歩してるのよ。パーシーさんは培養された細胞の組み合わせで出来てるはずよ。今じゃ見た目だけではあまり区別は付かないわね。でも、内蔵機器の問題があるから大抵は大柄になるんだけど。」
 チクタクはパーシーの大きな体を思い浮かべて納得した。
 「というわけで、彼らは迫害にさらされてたわけだけど、ちょっと昔にエンジニアたちを中心とした大きな反対運動が起こってね。今では法律で人権を認められて、『平等』を明記されているわ。」
 「なるほどね、勉強になるよ。」チクタクは言った。
 「これから行くのはその運動家の一人、平賀源内さんのところ。」アリスは言った。

 源内の家は壁面が大小様々な歯車が覆っていて、地に響くような低い音を立てながら、それらがゆっくりと回転していた。門をくぐると小人がお辞儀をしていた。よく見ると背中にはぜんまいがあって機械人形だということがわかった。
 「お待ちしていました、アリス様。」小人は言った。
 「あら、知らせてなかったつもりだったわ。」とアリス。
 「御主人様は何でものです。」小人はそう言うと、こちらへどうぞと言って二人を奥へと案内した。家の中は広く開けていて、至るところで機械人形がせっせと働いていた。チクタクはその一つ一つを驚きながら観察して歩いた。アリスは、そんなに見るもんじゃないわ、と言って笑った。

 「ようこそ、久しぶりだね。」部屋に通されると声の高い早口が聞えた。見ると、車椅子に乗った白髪の老人がいた。分厚い丸眼鏡を掛けて、その白髪は強くカールしている。彼が、平賀源内だった。着物を身に纏っているが、足下には良く磨かれた黒い革靴を履いている。
 「久しぶりね、源内さん。」アリスはお辞儀する。「こちらはチクタクくん。源内さんと同じく日本の出身。随分と時代は違っているみたいだけど。」二人の服装を見比べて言った。
 「そうかい、そうかい。チクタクくん、日本は良き国になったかい?」源内が聞いた。
 「えーと…」チクタクは少しだけ返答に困ってから、「『平和』ではあると思います」と言った。
 「『平和』か…それは飼い馴らされているだけではなくてかね?」
 「源内さん!」アリスが間に入る。
 「ああ、すまん。つい悪い癖が出てしまう。チクタクくん、悪く思わないでくれ。発明家は何もかもに疑問を持ちたいものでね。」そう言って優しく笑った。
 「全然…」チクタクは小さく言った。

 「アリス、機械人形の件だね?」源内はアリスを見上げて言った。
 「そうなのよ。…源内さん、また飛んだのね。」アリスは呆れるように言った。
 「どうも癖になってしまってね。」
 「飛ぶって?」チクタクは聞いた。
 「未来域あるいは、過去域にだ。」源内は目を輝かせて言った。「時間は目に見えないだけで川のように流れていく粒子物質だ。時間旅行をしたいのなら現在に流れている粒子に飛び乗ってしまえば好い。それだけの話なのに時間旅行が今だに禁止されているのは、他の発明家たちに勇気が無いからなのだよ。皆が未来に行ける時代になったら、そもそも『発明』とは必要なのだろうか…というわけだ。」息継ぎせずに言った。
 「源内さん、こないだ消滅しかけてたじゃない。」アリスは言った。
 「言い忘れていたよ、チクタクくん。『発明家の臆病』と『倫理観』が邪魔をするのだったね。確かに時間旅行は数分移動するだけでも命がけだ。」源内さんはそう言って満足そうに頷くと、「そういうわけで大方のことは知っているが、アリス、今回はあまり役には立てそうにない。そのメアリーという機械人形を作ったのは私ではないのだ。」
 「作った人に覚えがあったりもしないかしら?」
 「ジャン・ウジェーヌ・ロべール=ウーダン。」
 「機械人形技師?」
 「そうとも言えるし、そうでないとも言える。」源内は言った。「本分はマジシャンなのだ。マジシャン=燕尾服にシルクハットという幻想は彼が作ったのだ。あくまで道具としての機械人形ではあるが、彼も高い技術を持っていることに疑いは無い。」そう言うと、小人の機械人形に指示をしてウーダンの住所を書いた用紙を手渡した。
 「ありがとう、源内さん。」アリスは礼を言った。
 「礼には及ばないよ。」源内は笑った。

 二人が部屋を出ようとすると、源内は二人を呼び止めた。
 「そうだ、一つだけ。そもそもの話、エンジニアとサイエンティストは違う生き物だということは知って置かないといけない。私はサイエンティストで、彼はエンジニアだ。私はロマンチストで、彼はリアリストだ。」



 「なんでだろう…」源内の家を出た時にチクタクは呟いた。
 「どうしたの?」
 「あんなに凄い発明家なんだから義足くらい簡単に作れそうなのに。」
 「ああ、車椅子ね。あの方が楽らしいわよ。周りが気を使ってくれるからって。」
 「そんなものかなあ…」

 二人はファンタジアを北へ歩いた。暫らく歩くとそこには小さなサーカス団のテントがあった。そこにウーダンがいるらしい。アリスは、また「行こう」と言って、チクタクはその後に続いた。
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