運命の幼馴染み、αの双子とΩの俺

おはぎのあんこ

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19.新しい生活

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 輝美が両親とともに引っ越したのは、住んでいた街から電車で1時間半くらいの街だった。

 住んだのは、急行が止まる駅前の巨大なマンションだった、

 ちょうど再開発されて入居者募集していたのだった。

 窓に防音ガラスを使っているとはいえ、ひっきりなしに電車の音が聞こえてくる。

 輝美は今までと全く違う環境に戸惑った。





 2学期から近くの中学校にも通い始めたが、すぐにまた休むようになってしまった。

 父親の次朗は、勉強だけは自分でするように言った。

 輝美は言われた通りにした。







 高校は私立ののんびりした校風のところを選んだ。

 次朗からするとレベルが低過ぎる学校だったはずだが、何も言われなかった。

 もう期待されていないんだろうな、と輝美は思った。



 高校はなんとか通ったが、ほとんど友人のいない、地味な高校生活だった。

 少数ながらΩの生徒もいたが、話が合わなかった。



 皆、自分たちΩはαと番になるものだと信じて疑っていなかった。

 積極的にαを自分から誘って体育館倉庫などでヤってしまう生徒もいれば、αを引きつけるような見た目や仕草を心がけて声をかけられるのを待つ生徒もいた。

 経験はないけれどいつか…と妄想を膨らませる生徒もいた。



 誰もが「運命」と出会えることを夢見ていた。

「運命」と番うことをΩにとっての最大の幸福だと思っている同級生たちに輝美は心を閉ざした。





 輝美に期待しなくなった様子だった次朗だったが、輝美が看護師になりたいと言ったときには驚いてしまった。

 納得いかない様子の次朗に、幸美は言った。

「Ωは中々安定した職業に就けないから…看護師になったら比較的融通が利くし、Ωでも働き続けることができるんじゃない?良いと思うよ」

 実は輝美には他の理由もあったのだが、両親には言わないでおいた。







 無事公立大学の看護学部に合格して、輝美は通い始めた。

 学生は女子がほとんどだったが、男子もいた。

 Ωの学生もいた。

 今まで会ってきたΩに比べると、αに頼らずに自分の力で生きていく、という意識の高い学生が多かった。



 輝美はΩの男子数人と学内で行動を共にしたり、休日に遊びに行ったりするようになった。

 それなりに充実した毎日を過ごした。

 特に最寄駅が同じだった、二見伊万里ふたみいまりというΩの男と親しくなった。





 伊万里は色が白く、リスみたいな顔をしていた。

 ふにゃふにゃした仕草や折れそうに細い腰は、女の子みたいだった。

 ふわふわのミルクティー色に染めたくせ毛を授業中はヘアゴムで括っているのも、女の子みたいだった。

 誰にでも笑顔で明るく接する伊万里は人気があった。





 そんな伊万里だったが、何故か輝美のことがお気に入りだった。

 学内では、ずっと輝美と一緒にいたがった。

 バイトがないときは行き帰りも必ず一緒にいたがった。







「ねぇ、テルミン。今日は俺ん家寄ってってよ」

 一年生の秋、帰りの電車の中で伊万里は輝美に言った。

 車内には夕焼けが差し込んでいて、仕事帰りの人も乗り込んできていた。

「でも、もう夕飯時だよ。マリも実家だし、家族の方にも迷惑だろ」

 伊万里は輝美に自分をマリと呼ぶように言っていた。

「母親は居酒屋で働いているから、朝方まで帰ってこないよ。妹はバイトだし」





 伊万里のアパートの部屋は、インテリアが全体的にピンクと白系で、物もゴチャゴチャと置かれていて、女性が住んでいる部屋という感じがした。



「テルミンの家は男ばっかりなんでしょ?やっぱり雰囲気違う?」

 ちょうどタイミング良く伊万里が聞く。

「うん、うちは黒っぽくて、シンプルで、物がほとんどなくて…」

 勧められるままに居間のローテーブルの前に座って、辺りを見渡しながら言う。

 白いモコモコしたカーペットが気持ち良い。

「男ばっかりの家族ってどう?女に憧れとかなかったの?」

 床に散らばっている雑誌などを片付けながら伊万里は聞く。

「別になかったかな。俺、女に興味ないんだ。好きになるの、男だし…」



 伊万里の顔が明るくなる。

「俺も男を好きになるんだ。一緒だね」

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