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1.檻の中
2.喪失の傷
しおりを挟む大久保は灯の脚を掴んでひっくり返す。慌てて皺だらけのデニムとトランクスを下ろし、既に固くなった雄芯を潤んだ灯の後孔にねじ込む。
「はあああああっ……!!」
前戯もなく入ってくる乱暴な侵入者に、灯のまだ固い粘膜は悲鳴を上げる。
1年ぶりの行為だというのに、動きはあまりにも荒い。
「はあっ……痛いっ……はああんっ……」
「痛いのか? なぁに、すぐに慣れるさ……こんなにグチュグチュに濡らしているんだからな」
事実、灯の下半身はいやらしい水音を立てている。突かれ、回され、撫でられ、掻き混ぜられる……大久保の昂りの動きのままに灯の体は変化していく。
「おっ、力が抜けてきた。慣れてきたな」
大久保の言う通り、灯は痛みを感じなくなってきた。それどころか、微かな快楽も感じられるようになってきた。
しかし、灯は悲痛な叫び声を上げる。
「いっ……いやあああっ!!」
Ωはとても性的快楽を感じやすく、特にαとの相性は抜群とされる。
他のαと番になったΩ以外は……
αとΩは、αがΩのうなじを噛むことによって番関係を結ぶことができる。
それによって2人は肉体的にも、精神的にも、特別な結びつきを得ることができる。特にΩは基本的に1人のαとしか番になれないので、番になることには重大な意味がある。
発情期に入ってヒート状態になったΩからはαを誘うフェロモンが出る。そのフェロモンによってαはΩを襲うようになる。
同時に、無理矢理うなじを噛んで番関係を結ぼうとしてしまう。
Ωからしたら、同意なくうなじを噛まれてしまうのは絶対に避けたい事態だ。
だから、番のいないΩは専用の首輪を付けている。それによって、見た目でΩを見分けることができる。
番のいるΩのうなじにはαの噛んだ跡が残る。それは基本的に一生残るものだ。
さらに、体も番のαを覚えていて、番以外のαと肉体関係を結ぶと強烈な不快感、吐き気や熱などの拒絶反応が起きてしまう。
一生、番のαとしかセックスできない体になってしまうのだ。
ただし、Ωの結んだ番関係が解消される条件が1つだけある。
それは、番になったαが死ぬこと……それによってΩのうなじの噛み跡は消え、他のαと番になることができるのだ。
灯には番のαがいた。
そのαの男は死んでしまった。
2年が経って、喪失の傷は多少癒えたと思っていた。
それなのに、大久保との行為に感じてしまう体が、失った番の記憶を呼び起こす。
俺は、こんな男に感じてはいけない。
俺が繋がって良いのは、あの人だけなのに……
腰が引けそうになる灯の体を、大久保が乱暴に引寄せる。
「ああああああっ……!!」
「おっ、良い反応じゃねぇか。ビクンて跳ねたぞ」
「ダメっ……ダメえっ……」
あの人と出会う前は、いろいろな男と寝ていたから、平気だと思ったのに……
灯の目から涙が溢れる。
番だった男とは似ても似つかない大久保のモノに感じてしまうことが、酷い裏切りに思えてくる。
番になったときは、自分は強くなれたと思った。
だけど、本当は弱くなっていた。
「響ちゃ……」
「ほらっ、まず一発行くぞ!」
大久保の熱い飛沫を浴びて、灯の肉襞もピクピク震える。
同時に、灯の細い分身からも白濁が飛び、腹を汚す。
心とは真逆に、体はイってしまったのだ。
「はああー。久しぶりだったからいっぱい濃いのが出てしまったぜ。灯も訳分かんねぇこと言ってたけど、一緒にイってくれたじゃねぇか」
大久保は灯の様子を気にすることなく、自身を灯から引き抜く。
「ほらっ、次は後ろからヤるぞ。四つん這いになるんだ」
灯は涙が止まらないが、体は言うことを聞く。αの命令は絶対だから。
番だった男はもういないから。
何度も乱暴に抱かれても、何度も白濁を吹き、尻穴からも淫液を漏らしてしまう。
心だけが引きちぎられるように痛いが、灯の体は響ちゃんに出会う前に戻っていた。
地獄のような檻の中の交接は、夜が明けるまで続けられた。
翌朝、灯は体液で汚れきった体で蹲っていた。
大久保は灯と密着したがったが、深い眠りについたのを良いことに離れられるだけ離れた。
障子の向こうが次第に明るくなっていく。
眩しいくらいの日差しになったとき、ムーが現れた。
「おはよう。調子はどうだ?」
灯が起きていることはお見通しのようだ。
「……ふざけんな」
灯は伏せたままそういうのが精一杯だった。
「どうした? 昨日の元気が嘘のようだな……おや、そちらもお目覚めで」
「ムーさん、本当に良いモノ捕まえたな。最っ高だったから、イヌみたいにガッツいちまったぜ」
大久保は目覚め良く、起きるなり胡座をかいて笑った。もちろん全裸である。
「それは番になっても良いということか?」
「もちろん、ウェルカムだ」
大久保は余裕の笑みで言う。
Ωは一生1人のαとしか番になれないが、αは番になったΩを捨てて他のΩと番うこともできる。
そういう不公平さがあるので、不誠実なαにとって、番になることは大して重大な意味を持たない。
そんな不誠実さが見え隠れする大久保の様子を無視してムーは灯に聞く。
「お互いの承認がないと番になることはできない。灯、お前はこの大久保と番になりたいか?」
大仰なマスクの下、溶け落ちた目蓋の下の瞳……その強い眼差しに灯は目が覚める思いになる。
この人には正直な気持ちを言わなければならない。
自暴自棄な返事をしたらダメだ。
「絶対にこんな奴と番になんてなりたくねーよ!」
ハッキリした灯の返事にムーは頷く。
「分かった。ではこの男を片付けよう」
「は? 片付けるって人を物みたいに……俺はαだぞ!」
ムーは袂からおもむろに拳銃を取り出す。
「ここは銃声が響く場所にすら誰もいない山の中だ……1人くらい始末するなんて簡単なことだ。まして、自分から檻に入った哀れな獲物なら尚更にな」
ムーは無駄の動きで構えの姿勢を取る。一瞬の躊躇もない。
そして、恐ろしい眼光で大久保を睨みつける。獲物にロックオンする肉食獣のように。
「ひっ……!」
大久保は腰を抜かして動けなくなる。
「抵抗せずに大人しく帰るのならば助けてやる」
「わっ……かりましたぁ!! すぐに帰ります! 帰りますから、お助けを……!!」
大久保はすっかりビビり、土下座して命乞いをする。
ムーは檻の鍵を開け、大久保のみを連れ出した。
灯は1人取り残された。
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