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しおりを挟むちょっと、外の世界を見てみたかっただけなんだ。
船に乗って、僕は色々な国に出かけた。
最低数ヶ月、ときには数年戻らないこともあった。
同じ商人の息子で、慎重派のマルティンは、いつも俺を引き止めた。
ずっと一緒にいてくれ、俺はお前がいないと生きていけない、と……
でも、僕は言うことを聞かなかった。
新規貿易ルート開拓と言っては、航海に出掛けた。
何度も、何度も、マルティンを裏切った。
そして、僕は海賊に捕まった……
「リカルドを殺さないでください。私は寝る間もなく働いて財産を築きましたから、いくらでも差し上げます。どうか……」
マルティンは僕を追いかけ来てくれた。それだけでなく、海賊船の船長の前に跪き、額を床につけて命乞いまでしてくれた。
船長はその様子を見て、感心したように頷く。
「貴様がこの男を思う気持ちは本物だな」
僕も目の前の醜い大男……船長と同じことを思う。
なぜ、こんなにも自分のことを愛してくれる男を何度も裏切ったのだろう……?
もう、僕はマルティンから離れない。
絶対に裏切らない……一生、側にいる。
「ところで、貴方はリカルドをどうするつもりだったのですか?」
「……わしと部下たちの慰み者にするつもりだったのさ。船に同乗させて、日夜犯してやるつもりだった」
「その言葉が聞きたかったのです」
「何?」
不審そうな船長の顔とは対照的に、マルティンの顔は喜びに輝いている。
「リカルドはきっと貴方たちの期待を裏切らないでしょう。是非そうしてください。ただし……一年に一度は、私の町にお寄りください。三日間だけ、私にお預けください。報酬は望むだけ差し上げます」
「三日間だけ? 三日しか抱けないのに、貴様は満足なのか? あとの三百六十ニ日は、わしらのものになるんだぞ?」
汚い髭の船長は、下卑た笑みを浮かべ、挑発するように言う。
嫌だ……こんな男に犯されるのは……
でも、マルティンの顔は実に晴れやかで、何の迷いもない。
「確実ではない三百六十五日よりも、確実に手に入る三日を私は選びます。私は仕事が忙しく、逃げ出さないようにずっとリカルドを見張っておくことが出来なかった……でも、貴方にお預けすれば、それが叶うのです」
「成る程。貴様は慎重な上に、海賊以上に現実的だな。よし、思い通りにしてやろう」
海賊の長、船長は、僕に付けられた手枷と足枷を解き、代わりに装飾付きの立派な首輪を付けさせた。
首輪に繋がる鎖を引かれ、僕は奥の部屋に連れて行かれる。船長が毛むくじゃらの手で扉を閉めて、二人きりになる。
三百六十二日のうちの最初の一夜を過ごすために……
最後に「愛してる」と言ってくれたマルティンの優しい……けれど僕のことを全く信用していない顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
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