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第二章 人? との交流

第29話 そして王都へ

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「さて、前回逃げてきた狐の獣人の中に、役職が上位の者はいたかな?」
「ファビアン・オネスティという者がいますな。元騎士で準男爵となった途端に、し尿管理へ回されていたようです。疎まれたようですな」
「名前だけで、信用できそうだな」

 さて、セバスティヌとこんな話をしているのは、やらかした本人。コビールが縄を打たれて目の前に転がっているからだ。

 予想したとおり、入札価格を金銭と引き換えに流した。
 見事な、小物ぶり。

 執務室の近くに特別応接室なる物があり、前室で入札候補者を待たせて面談。
 金銭を、授受した。
 おれは、入札の概要を説明しろと言ったはずなのだが、この有様だ。

「お待ちください、どうして私がこんな目に遭っているのでしょうか?」
「そりゃ、不当に金銭を授受して、入札価格という重要な情報を漏らしたからだ」
「そんなぁ。周りだってそのくらいはやっております。どうして私だけ」
 セバスティヌと俺の目が光る。

「ほう、その話興味があるな。減刑を考えてあげよう。その周りという奴らのリストとやっていることをしゃべれ。包み隠さず全部な。おい、コビールを連れて行って、リストを作れ」
「はっ」
 側に控える近衛が、コビールを引きずっていく。

「まあこんな物かな。政策?と町の管理。基本骨子は作った。オネスティ君に任せて仕切っていただこう。公示する前に、ハウンド侯爵に一度見せるか」
 やれやれと、俺は伸びをする。慣れないことは、やはり面倒だ。

「悪さを行っていた者達から取り上げた財物で、街道整備。宿と市場の併設で収入の安定。色街を解体して、派遣制ですか」
「ああ。本当は売春をなくそうとしたのだが、本人達の希望が強かったからな。搾取をしていた集団を解体して、本人達による互助会組織にしたから様子を見よう。変に力を振りかざすような奴が出れば、町が管理をしても良い」
「そこまで、お考えでしたか。他にも、職人などの教育施設をギルドに併設ですか?」
「ああ。動的人口を見ると、宿の空室が結構ある。すぐには効果は出ないだろうが、此処で、職人などの基礎を勉強できるなら、それを目的に来ることもあるだろう。本当は、温泉でも出れば良かったのだが出なかったしな」

「後は、塩の加工と専売制。小麦はもとよりでしたが、塩もですか?」
「塩は、生き物にとって必須だからな。とても大事なんだ。本当なら採取したところで加工をして焼き塩にすれば良いのだけれど、他領だしね。まあ、これで様子を見よう」

 そうして、ハウンド領、領都シビタスカヌムに身を寄せていた、オネスティ君と入れ違いに領都シビタスカヌムに戻り、報告書をハウンド侯爵に提出。

 そして今回山側で、いくつかの風穴を見つけたので、ついでに報告をしておいた。

「良し、王都へ行こう」
 気合いを入れて、一歩踏み出そうとすると、門の脇から人影が二つ。

「本当に、出ていくのかね」
 そういうあなたは、ハウンド侯爵。
 演歌のような、お別れになる前に、とんずらをしようとしたが、見つかってしまった。ハウンド侯爵の机の上に『お世話しました。疲れたので旅に出ます。探さないでください』そんな文面の手紙を置いたのに。

「ええまあ。王都に行く途中に縁があって、立ち寄っただけですし」
「そうか。そうだったな、家族のことといい。君には世話になった。何かあればギルドを通じてでも良いので連絡をくれ」
「そうですね。王家ともめたりしたら、頼りましょう」
 そう言うと、ハウンド侯爵の顔が引きつった。
 獣人なのに、こればかりは本気で引きつった顔が見られた。

「冗談だよね」
「こっちからどうこうする気は、ありませんが、どうも亜人だと差別がキツいのでどうでしょう?」
 そうして、俺は引きつる侯爵と世話になったセバスティヌと握手をして、一歩を踏み出した。

 大事な事を、いくつか忘れたまま。
 そして、軽口として言ったことは、簡単に真実となる。
 これを、言霊とか、フラグという。
 まあ先日帰ってきた道を、また旧子爵領に向けて歩くだけ。
 たらたらと、歩きながら進んでいく。


「かれは、奇跡の固まりだな」
「ええ。持っておられる力も規格外ですし、知識も凄い。本人は理解しておらぬようでしたが」
「彼の去り際の言葉が、本当になりそうなのだが、どうかな?」
「こればかりは、王家の出方次第でしょうなあ。王都に亜人が居るとは言ったものの、戦争奴隷の子孫。待遇は悪いですから」
「避けられんかな」
「多分」
「準備をしておこうか」
「そうですな」


 あっという間に、旧子爵領を抜けて、旅を続ける。
 王都に、近付くと細かな領地が乱立しているらしく、男爵や騎士の管理する各家の荘園が王都の周りにあるらしい。

 そして、王都の手前に大きな川があり、橋がなかった。
 先日に嵐があったが、流されたようだ。

 川の縁。街道の切れ目で商人や、役人が『困ったなあ』とただぼやいている。
 そう言えば、昔気になり調べたな。
 川の規模で一級河川と二級河川が決まっているのかと思ったが、どうも違うようでその指定基準は一級については、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で国土交通大臣が指定したもの。
 それで二級は、一級で指定された水系以外の水系で、公共の利害に重要な関係があるものに係る河川で都道府県知事が指定したもの。だったんだよ。

 妙に小さな川が、一級だったりするから、おかしいと思った。

 まあそれはさておき、水は引いているのに何故橋を架けないのか聞いてみる。
「あの、すみません」
 声をかけると、商人だろが、怪訝そうになる。
「なんで亜人が、一人でふらふらしているんだ? 主人はどこだ? 気安く声などかけるんじゃない」
 とまあ、こんな感じだ。

 そうなんだよ、ここ数日。宿にも泊まれなかったし散々だった。
 ギルドの出張所もショボかったし。おかげで、物理的なお話し合いをする羽目になった。
 さて、話にもならなから、向こう岸に行くとしよう。

 河原に降りて、土魔法で橋を架け、さっさと渡りながら、順に魔法を解除する。
 そうだよ、ここ数日の扱いで俺の心は、アリの穴ほどに小さくなっている。
 ああ、この世界のアリじゃなく、地球のほうね。
 この世界、アリは大型犬クラスで、巣穴も直径一メートルくらいあるからな。

 だが後ろは良いが、前から人のかけた橋を渡ろうとする輩が現れた。

 橋の端を消す。
「おい何すんだよ。渡らせろ」
 そう叫んでくる。図々しい奴だ。
 途中から、身体能力を生かして向こう岸にジャンプをする。

「おい。橋を直せ」
 そんな、おかしなことを言ってくる。
「なんで?」
「渡れないと困るだろ」
 そう言っているうちに、人が集まってくる。

 ひょっとすると、これで人の話を聞いてくれるかもしれない。
「水は引いているのに、どうして橋を架けないんだ?」
 そう聞いたのに、帰ってくるのは侮蔑の目だった。
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