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聖夜の出来事
第1話 出逢い
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『こんな日に来てくれた。モテない野郎ども、すまねい。今年はボクちんデートなのさ。来てくれた人は、このバーコードから予約をしてくれれば、五〇〇円割り引くにゃん。店主。メリークリスマス』
今年、十二月二十四日の夜、店の前でこんなふざけた張り紙を見た。
この数年二十四日の夜には決まって顔を出す店だった。
今年もうらぶれた店の店主と、メリークリスマスと言いつつ乾杯をするつもりだった。
しけたパブだが、元料理人のマスターは、まともな食事を出すし美味い。
問題は週末に来たときに、あいつは何も言っていなかった。
だから、今年も例年催されている、野郎のための晩餐会。
テーブルの中央に、バケツを引っくり返したように積み上げられていた、おすすめ唐揚げを食いながら、乾杯をする予定だった。
それを…… 少し…… いや大分、期待していただけに、腹が立つ。
毎年恒例で、その時期だけ現れる連中も、張り紙を見て唖然としている。
今日など、こじゃれた店は一杯だし、クリスマス値段でぼったくり、この店は逆に淋しい野郎どもの集いということで、チャージを含めてクリスマスだけは、千円ポッキリだった。
「おう、なんだこれ、どっか行くか?」
こいつらは、ここで年に一度会うだけ、顔は知っていても名前など知らない。
「今日なんか、何処に行っても高いし満席だろ、男だけの集団なんか寄ってくるのは職質だろ? クリスマスの夜に当番している、機嫌の悪い警官の相手なんかしたくないよ。コンビニで何か買って帰るよ。そんじゃ」
そう言って、三人ほど別方向へ消える。
別の奴は、それを羨ましそうに見送る。
「いいなあ、オレなんか、こんな日に家へ帰ったら家族に変な目で見られるし、また妹にきしょとか言われる。どこへ行くかなぁ…… パチンコ出ねえしなぁ」
そう言ってスマホにポチポチと入力をしては、返事を見てため息。
彼らも事情が様々、色々あるようだ。
「まあ俺は帰るよ、お疲れ。マスターがこんなだし、また来年」
「おう、だけどこの調子で結婚でもすりゃ、来年も開いてないぞ」
意外と真面目な答えだな。
「バカやろう、相手はマスターだぞ。どうせ何もなかった様に開いてるよ。それどころか今晩あたり金を盗られて必死かもな」
そう言ったらそいつも、にまっと笑う。
「あーマスターだもんなぁ、相手をしてくれるのは、結婚詐欺か美人局。出会い系なんかだとやばそうだしな。ありえそうだ。じゃ、また来年」
「おう」
馬鹿なことを言いながら、コンビニで買い物をしていて、ふと思いつく。
スーパーに寄ると、案の定、半額シールの貼られたオードブルやケーキが、山のようにあった。
これだ、ラッキー。一週間は食える。
オレは、さも今からパーティだという感じで、買い集める。
「日持ちをしそうなのは、これかな」
流石に、オードブルだけだとあれなので、安いピザやらケーキも買う。
「こんなものだろ、まさかこれなら、一週間の食事だと思うまい。おっと、ビールと、サンタさんのシャンパンも買おう」
オレはご機嫌で家路につく。
部屋に付くと鍵を盗りだし、差しこむ。
その時横の部屋で、女の叫び声。
だがまあ、やめてーの感じではなく、ふざけんなバカヤロー的な。
マンションなので、そこそこ防音はあるのだが……
その後、つい聞き耳を立てていると、いきなりドアが開く。
そして、男の荷物だろうか? 廊下にぶちまけられる。
いやまあ、驚いたよ。
お隣さんは幾度か会釈くらい。
真面目な会社員という感じで、結構びしっとして、そんなイメージだったのだが……
それが、スマホ片手に涙を流し、髪もあれだが、化粧が流れて興奮状態。
よくわからんが、まあ……
「流石に迷惑なんで、廊下に荷物は出さない方が……」
つい言ってしまうと、睨まれ……
思いっきり驚かれる。
「あっ、すみません。片付けます、つい頭にきて…… お騒がせしました」
人を見て、一瞬で正気に戻る。サラリーマンの鏡だ。
「あっ使います? これ、まだ新品なので」
お詫びなのか、なぜか避妊具。三ダースパックのやつ。薬局で見る奴だな。
「あっ、ありがとうございます」
つい、受け取ってしまった。
お互いに頭を下げながら、部屋へ撤収。
驚いた。
結構あっさり顔の美人系、ブラウンの髪色で、肩までの緩いソバージュ。
道で出会えば、良いなと思い、振り返るくらい。
そんな人の泣き顔。
ゾクッと来たよ。
隣に住んではいるが、関わりの無い人種。
だった。
適当に、食う分を分けながら、ものにより真空パック。
冷蔵だったり、冷凍だったり。
チューリップのフライを咥えて、ビールを飲みつつ食い物の整理。
チャイムが鳴る。その時間…… 一〇時過ぎだったと思う。
ちなみに、マスターのパブに行ったのは七時くらい。
買い物をして、お隣さんと会ったのは八時かな。
それから風呂に入って、ビールを飲みながら、食い物の仕分け。
最初に、サラダとかをまとめて、タッパーにつめ手冷蔵庫へ、途中食ったり飲んだり、まあ結構時間が経っていたわけだ。
「ほーい、どなたぁ?」
ドアを開けると、申し訳なさそうなお隣さん。
泣きそうな顔をしながら、オードブルと高そうなワイン。
だけど、本人からは、酒の匂い。
ああ服は、お出かけモードから、かなり色っぽい、部屋着モードになっていた。
「寒そうだし、中に入ります? その格好」
そう結構薄手のパジャマに、カーディガンを引っかけただけ、夜中に見知らぬ男の部屋を訪ねる姿じゃない。
まあそれには、彼女の意図があったわけだが。
「隣で聞いていたんですが、パーティやっている感じでもなかったので、ご迷惑かと思いながら、オードブルとお酒…… 一緒にどうですか?」
そう言ってにっこり。
「はぁ、まあどうぞ」
隣で聞いていた?
実は彼女、ベランダの蹴破り戸を乗り越え、ベランダから部屋の中を確認していたらしい。
酔っ払っていたとは言え、以外と行動的だった。
部屋に来たことも踏まえて。
こうして、少し長い夜が始まったが、今年は明日、平日。朝から会議……
今年、十二月二十四日の夜、店の前でこんなふざけた張り紙を見た。
この数年二十四日の夜には決まって顔を出す店だった。
今年もうらぶれた店の店主と、メリークリスマスと言いつつ乾杯をするつもりだった。
しけたパブだが、元料理人のマスターは、まともな食事を出すし美味い。
問題は週末に来たときに、あいつは何も言っていなかった。
だから、今年も例年催されている、野郎のための晩餐会。
テーブルの中央に、バケツを引っくり返したように積み上げられていた、おすすめ唐揚げを食いながら、乾杯をする予定だった。
それを…… 少し…… いや大分、期待していただけに、腹が立つ。
毎年恒例で、その時期だけ現れる連中も、張り紙を見て唖然としている。
今日など、こじゃれた店は一杯だし、クリスマス値段でぼったくり、この店は逆に淋しい野郎どもの集いということで、チャージを含めてクリスマスだけは、千円ポッキリだった。
「おう、なんだこれ、どっか行くか?」
こいつらは、ここで年に一度会うだけ、顔は知っていても名前など知らない。
「今日なんか、何処に行っても高いし満席だろ、男だけの集団なんか寄ってくるのは職質だろ? クリスマスの夜に当番している、機嫌の悪い警官の相手なんかしたくないよ。コンビニで何か買って帰るよ。そんじゃ」
そう言って、三人ほど別方向へ消える。
別の奴は、それを羨ましそうに見送る。
「いいなあ、オレなんか、こんな日に家へ帰ったら家族に変な目で見られるし、また妹にきしょとか言われる。どこへ行くかなぁ…… パチンコ出ねえしなぁ」
そう言ってスマホにポチポチと入力をしては、返事を見てため息。
彼らも事情が様々、色々あるようだ。
「まあ俺は帰るよ、お疲れ。マスターがこんなだし、また来年」
「おう、だけどこの調子で結婚でもすりゃ、来年も開いてないぞ」
意外と真面目な答えだな。
「バカやろう、相手はマスターだぞ。どうせ何もなかった様に開いてるよ。それどころか今晩あたり金を盗られて必死かもな」
そう言ったらそいつも、にまっと笑う。
「あーマスターだもんなぁ、相手をしてくれるのは、結婚詐欺か美人局。出会い系なんかだとやばそうだしな。ありえそうだ。じゃ、また来年」
「おう」
馬鹿なことを言いながら、コンビニで買い物をしていて、ふと思いつく。
スーパーに寄ると、案の定、半額シールの貼られたオードブルやケーキが、山のようにあった。
これだ、ラッキー。一週間は食える。
オレは、さも今からパーティだという感じで、買い集める。
「日持ちをしそうなのは、これかな」
流石に、オードブルだけだとあれなので、安いピザやらケーキも買う。
「こんなものだろ、まさかこれなら、一週間の食事だと思うまい。おっと、ビールと、サンタさんのシャンパンも買おう」
オレはご機嫌で家路につく。
部屋に付くと鍵を盗りだし、差しこむ。
その時横の部屋で、女の叫び声。
だがまあ、やめてーの感じではなく、ふざけんなバカヤロー的な。
マンションなので、そこそこ防音はあるのだが……
その後、つい聞き耳を立てていると、いきなりドアが開く。
そして、男の荷物だろうか? 廊下にぶちまけられる。
いやまあ、驚いたよ。
お隣さんは幾度か会釈くらい。
真面目な会社員という感じで、結構びしっとして、そんなイメージだったのだが……
それが、スマホ片手に涙を流し、髪もあれだが、化粧が流れて興奮状態。
よくわからんが、まあ……
「流石に迷惑なんで、廊下に荷物は出さない方が……」
つい言ってしまうと、睨まれ……
思いっきり驚かれる。
「あっ、すみません。片付けます、つい頭にきて…… お騒がせしました」
人を見て、一瞬で正気に戻る。サラリーマンの鏡だ。
「あっ使います? これ、まだ新品なので」
お詫びなのか、なぜか避妊具。三ダースパックのやつ。薬局で見る奴だな。
「あっ、ありがとうございます」
つい、受け取ってしまった。
お互いに頭を下げながら、部屋へ撤収。
驚いた。
結構あっさり顔の美人系、ブラウンの髪色で、肩までの緩いソバージュ。
道で出会えば、良いなと思い、振り返るくらい。
そんな人の泣き顔。
ゾクッと来たよ。
隣に住んではいるが、関わりの無い人種。
だった。
適当に、食う分を分けながら、ものにより真空パック。
冷蔵だったり、冷凍だったり。
チューリップのフライを咥えて、ビールを飲みつつ食い物の整理。
チャイムが鳴る。その時間…… 一〇時過ぎだったと思う。
ちなみに、マスターのパブに行ったのは七時くらい。
買い物をして、お隣さんと会ったのは八時かな。
それから風呂に入って、ビールを飲みながら、食い物の仕分け。
最初に、サラダとかをまとめて、タッパーにつめ手冷蔵庫へ、途中食ったり飲んだり、まあ結構時間が経っていたわけだ。
「ほーい、どなたぁ?」
ドアを開けると、申し訳なさそうなお隣さん。
泣きそうな顔をしながら、オードブルと高そうなワイン。
だけど、本人からは、酒の匂い。
ああ服は、お出かけモードから、かなり色っぽい、部屋着モードになっていた。
「寒そうだし、中に入ります? その格好」
そう結構薄手のパジャマに、カーディガンを引っかけただけ、夜中に見知らぬ男の部屋を訪ねる姿じゃない。
まあそれには、彼女の意図があったわけだが。
「隣で聞いていたんですが、パーティやっている感じでもなかったので、ご迷惑かと思いながら、オードブルとお酒…… 一緒にどうですか?」
そう言ってにっこり。
「はぁ、まあどうぞ」
隣で聞いていた?
実は彼女、ベランダの蹴破り戸を乗り越え、ベランダから部屋の中を確認していたらしい。
酔っ払っていたとは言え、以外と行動的だった。
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