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人の縁

第2話 記憶の確認

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「申し訳ありませんでした」
「ちっ、今度は意図して晒せ、時間を取らせやがって」
 優しいお巡りさんに見送られ、警察署を出る。

「まさかこんな事になっているとは…… ごめんね。見に行けば良かった」
 隣で彼女が謝る。

「彼氏がいるのに、誘うんじゃねえよ」
「彼氏?」
「ああ、夜中に帰ってきて…… まさか旦那か?」
 そう聞くと、笑い始める。
 よく考えたら、こいつあんだけ飲んで平気だったのか、すげえな。

「あれは、ルームメイト、友達とシェアしているの。マンションのお家賃が高いから」
「やばっとか言ってなかったか?」
「ああ、あれ? 酔っていたのに耳聡いわね。あれは…… その気だったのに…… 来ちゃったのよ」
「来ちゃった?」
「鈍感」
 そう言って、ぷいっと横を向いてしまった。

 耳まで真っ赤で。
「ご足労掛けたから、何かおごるぞ」
「そうねえ、ラーメンとか。行って見たいけれど一人じゃいけなくて」
「ああまあ、良いけれど」
 そう言って、前を行く彼女に付いていく。
 なんとか系の、ドカ盛りだったらどうしようとか考えながら。

 まあ普通だけど、ぼろっちい店。
 椅子やテーブルが、多少粘りのある油でコーティングされている系だ。
「趣がある店だな」
「そうでしょ、見かけて入ろうとするけど、男の人ばかりで入り辛かったの」
 そう言って嬉しそうだが、この手の店にしては珍しく、いまいちだった。

 店を出て、少し離れてから聞いてみる。
「俺の口には少し……」
「あーうん。わたしも駄目。憧れは手に入ると駄目になるのね」
 しみじみとそんな事を、何か彼女の過去にあったのか?

 コンビニで買い物をして、オレのアパートへ行く。
「無事釈放、おめでとうございます」
「お世話になりました」
 コンビニスイーツで乾杯。

 少し落ち着いて、聞いてみる。
「昨日、オレのことを好きって、本当?」
「酔っていて、言っちゃったけど本当…… 迷惑?」
「いや嬉しいよ。お前となら話しやすいし」
「えへっ、良かった。初めてかも」
 初めと聞いて、色々と想像をする。

「初めて? 何が?」
「きちんとしたお付き合い……」
「うん? 付き合ったことないのか?」
 最近は、男女交際比率が少ないらしく、三十代でも異性との付き合い経験が無い人も多い。

 缶チューハイで、迎え酒をしながら彼女と話す。
「初めて、付き合った? のは中学校かな? 前の年に卒業した先輩から電話が掛かって来て、二回か三回デートして…… お家に行って……」
 そこで言葉が止まる。

 そう、そこでやめれば良かった。
 彼女は、明るく人なつっこい感じで、優しくて……
 よくその性格を、維持できていたものだと思った。
 それは辛い記憶だった。

「先輩の家だと思ったら、ひとの家で…… その、悪い人達のたまり場? みたいなところだったの。どうも、高校に行って何かあったらしくて、先輩あんまり良くない人達と連むようになってたらしくて……」
「そりゃ、災難だな。逃げたんだろ?」
 彼女は首を振る。

「向こうは…… あの時は五人くらいだったかなぁ。そのままやられちゃって。写真とかも撮られて半年くらいおもちゃにされたの」
「半年?」
「そう、それで妊娠しちゃって、大騒ぎになって…… やっと解放されたの」
 それを語る彼女の表情は硬い。

 だがそれを聞いて、どこかオレは喜んでいた。
 雑誌とかの読者体験が、意外と好物で読みあさっていた。
 なんだろう、自分より不幸な人がいると救われるみたいな。

 話を聞きながら、彼女には悪いがもっと聞きたいと思ってしまった。
 別に、寝取られ体質じゃ無いと思うが、何だろうな、より身近で起こったリアル。生々しさ。

「どう、引いちゃった?」
「いや、別に。そんな体験をして、まともに良い子なお前がすごいと思う」
 そう言って頭をなでる。

「良かった、言いたくないけれど、言っておかないと、迷惑をかけるかもしれないから、言っておきたかったの」
 そう言って、横に来てオレにしなだれかかる。

「もう辛くは無いのか? そのフラッシュバックとか?」
「あー、その時のことはあんまり……」
「その時のことは?」
「うん、実は……」
 高校の時の方がひどかったらしい。

 中学校の時のことを知っている連中に目を付けられて、実に一年もおもちゃにされたらしく、事件にして、彼女は県外へ転校。
 未だに実家方面には、やばくて帰っていないらしい。

「そいつら私の他も、何人か飼っていたらしくて、お金を取って斡旋していたらしいの。結構地元じゃ大きなニュースになってね……」


 その後、オレ、加藤 誠かとう まことは、恵 薄希めぐみ うすきと結婚し、仕事を辞めてもっと田舎へ引っ越した。
 そう、その当時の関係者が出てきて、見つかると面倒だからだ。会社にもうんざりしていたし。
 田舎でも、楽しみもあるしなぁ……


 色々あったけれど、誠さんと結婚できて、幸せだと思う。
 だけど、この人、嫌がっても人から話を聞き、試そうとする。
 でもこんな女を受け入れてくれる人なんて、いないと思う。
 だから多少変でも、この人と暮らしていこう……

「さあ、今日は、これを付けてお散歩だ」
「本気?」
「ああ、好きなんだろう。落とすなよ」
「好きでしていたわけじゃ……」
 彼は無言で、おもちゃを差し出す。

 いい人なんだけど、性癖が……
 ネトラレ気質? と言うのか、されたことを言うと興奮するようで、かれはご機嫌になる。


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 お読みくださり、ありがとうございます。
 変な出逢い、さて彼女は、幸か不幸か、その判断は難しい所。
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