183 / 200
人の縁
第2話 記憶の確認
しおりを挟む
「申し訳ありませんでした」
「ちっ、今度は意図して晒せ、時間を取らせやがって」
優しいお巡りさんに見送られ、警察署を出る。
「まさかこんな事になっているとは…… ごめんね。見に行けば良かった」
隣で彼女が謝る。
「彼氏がいるのに、誘うんじゃねえよ」
「彼氏?」
「ああ、夜中に帰ってきて…… まさか旦那か?」
そう聞くと、笑い始める。
よく考えたら、こいつあんだけ飲んで平気だったのか、すげえな。
「あれは、ルームメイト、友達とシェアしているの。マンションのお家賃が高いから」
「やばっとか言ってなかったか?」
「ああ、あれ? 酔っていたのに耳聡いわね。あれは…… その気だったのに…… 来ちゃったのよ」
「来ちゃった?」
「鈍感」
そう言って、ぷいっと横を向いてしまった。
耳まで真っ赤で。
「ご足労掛けたから、何かおごるぞ」
「そうねえ、ラーメンとか。行って見たいけれど一人じゃいけなくて」
「ああまあ、良いけれど」
そう言って、前を行く彼女に付いていく。
なんとか系の、ドカ盛りだったらどうしようとか考えながら。
まあ普通だけど、ぼろっちい店。
椅子やテーブルが、多少粘りのある油でコーティングされている系だ。
「趣がある店だな」
「そうでしょ、見かけて入ろうとするけど、男の人ばかりで入り辛かったの」
そう言って嬉しそうだが、この手の店にしては珍しく、いまいちだった。
店を出て、少し離れてから聞いてみる。
「俺の口には少し……」
「あーうん。わたしも駄目。憧れは手に入ると駄目になるのね」
しみじみとそんな事を、何か彼女の過去にあったのか?
コンビニで買い物をして、オレのアパートへ行く。
「無事釈放、おめでとうございます」
「お世話になりました」
コンビニスイーツで乾杯。
少し落ち着いて、聞いてみる。
「昨日、オレのことを好きって、本当?」
「酔っていて、言っちゃったけど本当…… 迷惑?」
「いや嬉しいよ。お前となら話しやすいし」
「えへっ、良かった。初めてかも」
初めと聞いて、色々と想像をする。
「初めて? 何が?」
「きちんとしたお付き合い……」
「うん? 付き合ったことないのか?」
最近は、男女交際比率が少ないらしく、三十代でも異性との付き合い経験が無い人も多い。
缶チューハイで、迎え酒をしながら彼女と話す。
「初めて、付き合った? のは中学校かな? 前の年に卒業した先輩から電話が掛かって来て、二回か三回デートして…… お家に行って……」
そこで言葉が止まる。
そう、そこでやめれば良かった。
彼女は、明るく人なつっこい感じで、優しくて……
よくその性格を、維持できていたものだと思った。
それは辛い記憶だった。
「先輩の家だと思ったら、ひとの家で…… その、悪い人達のたまり場? みたいなところだったの。どうも、高校に行って何かあったらしくて、先輩あんまり良くない人達と連むようになってたらしくて……」
「そりゃ、災難だな。逃げたんだろ?」
彼女は首を振る。
「向こうは…… あの時は五人くらいだったかなぁ。そのままやられちゃって。写真とかも撮られて半年くらいおもちゃにされたの」
「半年?」
「そう、それで妊娠しちゃって、大騒ぎになって…… やっと解放されたの」
それを語る彼女の表情は硬い。
だがそれを聞いて、どこかオレは喜んでいた。
雑誌とかの読者体験が、意外と好物で読みあさっていた。
なんだろう、自分より不幸な人がいると救われるみたいな。
話を聞きながら、彼女には悪いがもっと聞きたいと思ってしまった。
別に、寝取られ体質じゃ無いと思うが、何だろうな、より身近で起こったリアル。生々しさ。
「どう、引いちゃった?」
「いや、別に。そんな体験をして、まともに良い子なお前がすごいと思う」
そう言って頭をなでる。
「良かった、言いたくないけれど、言っておかないと、迷惑をかけるかもしれないから、言っておきたかったの」
そう言って、横に来てオレにしなだれかかる。
「もう辛くは無いのか? そのフラッシュバックとか?」
「あー、その時のことはあんまり……」
「その時のことは?」
「うん、実は……」
高校の時の方がひどかったらしい。
中学校の時のことを知っている連中に目を付けられて、実に一年もおもちゃにされたらしく、事件にして、彼女は県外へ転校。
未だに実家方面には、やばくて帰っていないらしい。
「そいつら私の他も、何人か飼っていたらしくて、お金を取って斡旋していたらしいの。結構地元じゃ大きなニュースになってね……」
その後、オレ、加藤 誠は、恵 薄希と結婚し、仕事を辞めてもっと田舎へ引っ越した。
そう、その当時の関係者が出てきて、見つかると面倒だからだ。会社にもうんざりしていたし。
田舎でも、楽しみもあるしなぁ……
色々あったけれど、誠さんと結婚できて、幸せだと思う。
だけど、この人、嫌がっても人から話を聞き、試そうとする。
でもこんな女を受け入れてくれる人なんて、いないと思う。
だから多少変でも、この人と暮らしていこう……
「さあ、今日は、これを付けてお散歩だ」
「本気?」
「ああ、好きなんだろう。落とすなよ」
「好きでしていたわけじゃ……」
彼は無言で、おもちゃを差し出す。
いい人なんだけど、性癖が……
ネトラレ気質? と言うのか、されたことを言うと興奮するようで、かれはご機嫌になる。
-------------------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
変な出逢い、さて彼女は、幸か不幸か、その判断は難しい所。
「ちっ、今度は意図して晒せ、時間を取らせやがって」
優しいお巡りさんに見送られ、警察署を出る。
「まさかこんな事になっているとは…… ごめんね。見に行けば良かった」
隣で彼女が謝る。
「彼氏がいるのに、誘うんじゃねえよ」
「彼氏?」
「ああ、夜中に帰ってきて…… まさか旦那か?」
そう聞くと、笑い始める。
よく考えたら、こいつあんだけ飲んで平気だったのか、すげえな。
「あれは、ルームメイト、友達とシェアしているの。マンションのお家賃が高いから」
「やばっとか言ってなかったか?」
「ああ、あれ? 酔っていたのに耳聡いわね。あれは…… その気だったのに…… 来ちゃったのよ」
「来ちゃった?」
「鈍感」
そう言って、ぷいっと横を向いてしまった。
耳まで真っ赤で。
「ご足労掛けたから、何かおごるぞ」
「そうねえ、ラーメンとか。行って見たいけれど一人じゃいけなくて」
「ああまあ、良いけれど」
そう言って、前を行く彼女に付いていく。
なんとか系の、ドカ盛りだったらどうしようとか考えながら。
まあ普通だけど、ぼろっちい店。
椅子やテーブルが、多少粘りのある油でコーティングされている系だ。
「趣がある店だな」
「そうでしょ、見かけて入ろうとするけど、男の人ばかりで入り辛かったの」
そう言って嬉しそうだが、この手の店にしては珍しく、いまいちだった。
店を出て、少し離れてから聞いてみる。
「俺の口には少し……」
「あーうん。わたしも駄目。憧れは手に入ると駄目になるのね」
しみじみとそんな事を、何か彼女の過去にあったのか?
コンビニで買い物をして、オレのアパートへ行く。
「無事釈放、おめでとうございます」
「お世話になりました」
コンビニスイーツで乾杯。
少し落ち着いて、聞いてみる。
「昨日、オレのことを好きって、本当?」
「酔っていて、言っちゃったけど本当…… 迷惑?」
「いや嬉しいよ。お前となら話しやすいし」
「えへっ、良かった。初めてかも」
初めと聞いて、色々と想像をする。
「初めて? 何が?」
「きちんとしたお付き合い……」
「うん? 付き合ったことないのか?」
最近は、男女交際比率が少ないらしく、三十代でも異性との付き合い経験が無い人も多い。
缶チューハイで、迎え酒をしながら彼女と話す。
「初めて、付き合った? のは中学校かな? 前の年に卒業した先輩から電話が掛かって来て、二回か三回デートして…… お家に行って……」
そこで言葉が止まる。
そう、そこでやめれば良かった。
彼女は、明るく人なつっこい感じで、優しくて……
よくその性格を、維持できていたものだと思った。
それは辛い記憶だった。
「先輩の家だと思ったら、ひとの家で…… その、悪い人達のたまり場? みたいなところだったの。どうも、高校に行って何かあったらしくて、先輩あんまり良くない人達と連むようになってたらしくて……」
「そりゃ、災難だな。逃げたんだろ?」
彼女は首を振る。
「向こうは…… あの時は五人くらいだったかなぁ。そのままやられちゃって。写真とかも撮られて半年くらいおもちゃにされたの」
「半年?」
「そう、それで妊娠しちゃって、大騒ぎになって…… やっと解放されたの」
それを語る彼女の表情は硬い。
だがそれを聞いて、どこかオレは喜んでいた。
雑誌とかの読者体験が、意外と好物で読みあさっていた。
なんだろう、自分より不幸な人がいると救われるみたいな。
話を聞きながら、彼女には悪いがもっと聞きたいと思ってしまった。
別に、寝取られ体質じゃ無いと思うが、何だろうな、より身近で起こったリアル。生々しさ。
「どう、引いちゃった?」
「いや、別に。そんな体験をして、まともに良い子なお前がすごいと思う」
そう言って頭をなでる。
「良かった、言いたくないけれど、言っておかないと、迷惑をかけるかもしれないから、言っておきたかったの」
そう言って、横に来てオレにしなだれかかる。
「もう辛くは無いのか? そのフラッシュバックとか?」
「あー、その時のことはあんまり……」
「その時のことは?」
「うん、実は……」
高校の時の方がひどかったらしい。
中学校の時のことを知っている連中に目を付けられて、実に一年もおもちゃにされたらしく、事件にして、彼女は県外へ転校。
未だに実家方面には、やばくて帰っていないらしい。
「そいつら私の他も、何人か飼っていたらしくて、お金を取って斡旋していたらしいの。結構地元じゃ大きなニュースになってね……」
その後、オレ、加藤 誠は、恵 薄希と結婚し、仕事を辞めてもっと田舎へ引っ越した。
そう、その当時の関係者が出てきて、見つかると面倒だからだ。会社にもうんざりしていたし。
田舎でも、楽しみもあるしなぁ……
色々あったけれど、誠さんと結婚できて、幸せだと思う。
だけど、この人、嫌がっても人から話を聞き、試そうとする。
でもこんな女を受け入れてくれる人なんて、いないと思う。
だから多少変でも、この人と暮らしていこう……
「さあ、今日は、これを付けてお散歩だ」
「本気?」
「ああ、好きなんだろう。落とすなよ」
「好きでしていたわけじゃ……」
彼は無言で、おもちゃを差し出す。
いい人なんだけど、性癖が……
ネトラレ気質? と言うのか、されたことを言うと興奮するようで、かれはご機嫌になる。
-------------------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
変な出逢い、さて彼女は、幸か不幸か、その判断は難しい所。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる