泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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人の縁

第1話 年末のある日

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 朝起きると、違和感。
 どうしてなのか、服を着ていなくて周りにはゴミ袋。
 怪訝そうな目で、しかし、じっとりした目で俺の息子を見ている女の人。
 そして警官。

「あっ、おまわりさん、目を覚ました」
「なに、ちっ、生きていやがったか。おら、とりあえず逮捕だ」
 そういって逮捕された。

 なぜに俺は、靴下だけを穿いて裸で寝ていたのか?
 そして、今日はゴミ収集のある金曜日、平日。今は九時過ぎ。

 朝、ゴミを捨てに来た主婦が発見し、オロオロしていると収集車がやって来た。
 だが事件性があると困るので、収集せずに通報。

 警官が来たときに、ザッと話しをして、他の収集に戻り、第一発見者のお方は、旦那以外の物を『旦那以外の初めて、うふっ』とか思って、まじまじと見ていたらしい。
 その時は、超絶元気だったようだ。

「職業は会社員です、完全に遅刻なんです。電話を……」
「だめだ、刑法一七四条公然わいせつ罪、現認で逮捕だからな」

 不特定または多数の人が視認しうる状態で、陰部等の露出など、わいせつ行為を犯罪とする。
 おれは、裸に靴下、出してはいけないものをだして、公衆の面前で晒していた。
 アウトです。

「身分証明無し、家の鍵無し、服無し、財布無し、靴もか…… 怪我は無いようだしなぁ」

 いま、争点なのは、どうしてあの状態になったのか……

 意識がなくて、誰かに服とかを一切合切取られた場合。故意犯ではないため罪にはならない。

「全くもって、そんな趣味はありません、お願いします、信じてください」
「だがなあ、まあ、思い出して……」
 その時に、頭痛がすると思ったら、たんこぶが頭の中にできていた。

「痛っ、頭が、瘤が」
「ぬわにぃ、手間が増えるじゃねえか。転けたことにしろ」
「そんなあぁ」
「じゃあ逮捕」
「いやです」
「ちっ、我が儘野郎め」
 しかし何も無しでアパートに帰っても、鍵が無いと入れない。

 そう思っていると、あのゴミ捨て場の壁を挟んだ反対側、マンションの敷地内でオレの服とか靴が発見されたらしい。

 はて? 
「強盗か? 間男か? 不同意性交未遂か? どれが良い? 一二月だからな、これで丁度良い成績が…… あーうん。決めろ」
「決めろ?」
「あーいや、思い出せ」
 警察官さん、下心がダダ漏れ、あんたの査定のために人生を棒に振りたくは無いんですが……

 まあ、確認の後、荷物が俺の物だと認められた。
 やっと毛布から、普通のよれたスーツに戻る。
「御礼、一割、渡しておいてやるから、全身で一〇万くらいだから一万か……、あっスマホが高いな。礼金は五万くらいで許してやる」
「そんなぁあ、給料日までどうやって暮らせば良いんです?」
 見えない方を顎で指す警官。

「最近は、銀行でもフリーローンがある。金利は高いがな」
「えー、借金? じっちゃの遺言で出来ません」
 そう言うと呆れられた。

「何だそりゃ? いいか俺達は、日本という国にとって単なる養分なんだ、自分の幸せなど考えるな、感じろ。その日一日暮らせた感謝を……」
 そう言って、恍惚とした表情でお日様を眺める。

 鉄格子付きの窓から降り注ぐ太陽光は、網入りガラスにより和らげられて僕たちを温かい光で包む。

 だがその中で、スマホのロック画面に、会社からの着信を見つける。
「電話していいですか?」
「駄目だ、被疑者だからな」
「えー」
 そう思いながら、こそっとコミュニケーションアプリで、同僚に休みを出しておいてくれと送った。

 『鹿がかくかくなので、休み頼む。出しておいて』
 文面はそれだけだが、あいつなら……
 『ryo。女の旦那に見つかって、いま病院だと書いておきます』
 『おま、やめろ』
 相手は、仲の良い同僚で女。

 そういえば、昨日…… あいつと飲んでいたはずだが……

 そう、あいつと飲んでいた。
 つまみは、課長への愚痴。
 新参者の課長は、非効率と言うだけで、長年積み上げてきた決まり事を細かなところまで改善をした。

 それにより、業務の流れの途中で、必然として行われていた、トリプルチェックは無くなりスピーディに。
 だがミス軒数は爆上がり。
 ミスを犯した、社員はガンガンに訓告等を頂く。
 そして、相手方への詫びや何かで、手間は増えて、忙しさは倍増。

 課長は自分の書いた物は幾ら読んでも誤字に気がつかないという、天の定めた決まりを知らないらしい。
 これのおかげで、あまたの作者達は涙を流している。
 決してわざとじゃないんだ、読み返しても判らないんだよお。
 そんな嘆きが、ネットの海から聞こえてくる。

 はっ、そうだ、昨日は珍しくあいつがバーへ行きたいと言って、うんちくを言いながら飲んで、格好を付けてノーチェイサーでバーボンを飲んで……
 その後、今日も仕事だというのに、カラオケに寄って、歌って飲んで…… 
 電車が無くなって……

 ―― そうだ、泊めろと言ってごねて?
 いや、あいつの方が、ノリノリだった気がする。

 それで家にお邪魔をして、そうだよ、あいつも、ずっといつ告白をしてくれるのか待っていたとか何とか…… キスした後、脱がして……
 なんか玄関の方で、音がして……
 彼女が、「あっやば」とか言って……

 そうか、彼氏でもいたのか、そう思って、静かになった玄関で靴を取ってきて、服も適当にかき集めて、ベランダへ……
 その瞬間に、何かに躓いて、ベランダから服を落としちまって、あわてて追いかけたら、二階だったから、向こうに見えた壁に飛び移ろうとしたら、行きすぎて……

 後頭部はあの壁で打ったのか……
 ゴミが無ければ、下手すりゃ死んでたな。
 前日から出すと不法投棄になるが、もう日をまたいでいたのか?

 思い出したオレは、おまわりさんに説明をする。
「証言に彼女を呼べ」
「はーい」
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