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秋と冬の狭間。
第5話 俺の心は……
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さてあれから、こいつは毎日のようにやって来る。
会社は少し郊外にあり、通勤が面倒だとぼやく。
理不尽なのは、彼女にあわせて俺の起床が六時にされたこと。
「ごめんなさい、お店で何回か食べたけど、大樹さんの作るご飯が美味しくて」
そんな殊勝なことを言っていたが、今まではと問い詰める。
すると、出来る女はコーヒースタンドでモーニングとまあ、見栄を張って生活をしていたようだ。
話せば話すだけ、軽薄で見栄張り、そして能力が低い、駄目駄目な子どものような女。
毎日やって来ては、寝る前に説教をする。
「尻を出せ」
なんとなく始まった、今日一日の駄目な回数分のお尻ペンペン。
―― そして、彼女がそれを、なんだか喜んでいることに気がつく。
「なんだか子供の頃に、されていた記憶があって」
離婚された実の母。
彼女が言うことを聞かないと、お尻ペンペンをしていたらしい。
「お父さんに、体罰は駄目と言われて、やめたらしいの」
何だろうな、根底にあるのは愛情不足と歪んだ情報。
どう言っても、駄目な奴には違いない。
一度彼の弟に会った。
彼女を見た瞬間表情が変わり、自身の部屋へと走った。
あわてて鍵を差しこむのだが、かなり焦っていて落としてみたり大変そうだった。
彼女が言っていたのと、かなりイメージが違う。
見た感じだと、無茶苦茶彼女を怖がっている?
多少横にいた俺を、一瞬だけ不思議そうに見ていたが、それだけ。
目に見えるところに、姉が居る恐怖が、彼の行動を限定的にするようだ。
だがまあ、そんな彼女も成れるに従い、多少会話や行動に変化が出てきた。
よほど居心地が良いのか、追い出されるのを怖がっている様子。
馬鹿なことをすると、「ちょっと来い」、俺がそう言っただけで尻を出してくる。
「冬彩は失敗しました。反省します」
そう言わせていたのだが、なんだか自分の方が悪い事をしている気がしてくる。
だがまあ、それは少し違っていることが分かる。
「なあおまえ、わざと叱られるようにしていないか?」
「えっ…… していませんよ」
そう言っているが、完全に目が泳ぐ。
そうコイツは、繰り返されているうちに、尻叩きが好きになり、してほしくてミスをする変態へと進化をしていた。
「あの、調べたらスパンキングと言って、普通のようです」
そう言って、もじもじ……
「はっ?」
困惑している俺に対して、プレゼンを始める。
「スパンキングは、愛情を……」
うだうだと…… 一通り説明をして満足顔。
「そうか、お前は変態だったのか?」
「変態…… ああっ、そうかもぅ」
はっと気がついた感じの顔、そんなに簡単に認めるのか?
だが俯いて、何かを考える顔はものすごく嬉しそう。
人に突っかかるのは、叱ってほしいから?
そもそもは、叱ってくれて大好きだったお母さんが居なくなり、新しい母親は叱ってくれない。
叱られたいから、馬鹿をする。
以後、それがひどくなった?
なんと言う、はた迷惑な性癖。
きっと彼女の本性について、気が付くことのなかった家族も、困惑をしていたに違いない。
関係することで気がついた彼女の本性。
そう、叱ってほしいかまってちゃん。
救われない。
その性癖に気がつき、彼女は甘えてくる。
頼れるのは俺だけだと。
その余波で、俺の生活は乱される。
まあそれも、三月の末までだと俺は思っていた。
山へ帰れば、彼女の通勤は絶対に無理だからだ。
あそこの家から最寄りのバス停まで、車で三十分はかかる。
彼女は車の免許を持っていない。
そう実に自然豊かで、川には綺麗な水が流れ、ぱったり逝っていても発見されるのは、何年後だろうか?
親父達は、元気なうちに施設へと入ったが、俺はいやだ。
即身成仏のように、あの家でただ逝こう。そう思っていた。
だがどうも、歳がある程度増えると、地域の関係者が声かけに来るようで、現在に蘇る即身成仏のようになるのは無理なようだ。
枕元に手数料は積んでおこう。
まあまあ、そんなろくでもない終末予想? 終活? をしていた。
ああそう言えば、彼女大学の時に自動車学校へは、行ったらしい。
だがどうやっても、仮免許から先に進めなかったようだ。
前進は出来る。
だが曲がる事と、車庫入れが出来ない。
「この先を右折してくださいね」
教官から声がかかる。
「運転中なんです、声をかけないで……」
そんな文句を言いながらも、右折。
そう、信号も無視。
やって来ている車も無視。
歩いている人も……
そう絶対どこかおかしいレベルで、マルチタスクが出来ない。
嘘だと思うだろ、世の中には居るんだよ……
そしてバックをすると、右左が判らない……
自転車は乗れる。
だが、そこで画期的な才能を見せる。
彼女は、曲がるときに車体が傾かない。
そう、『スタンディング・スティル』と言う高等テクニックを彼女はマスターしている。
その状態で、ゆるゆるとハンドルを切って曲がる。
まあオレから見たら神業だね。
そう春からは、平和だとメールは来るが仕方が無い。
だがそんな彼女、行動力はあったようだ。
四月に入って、二週目。
田んぼをトラクターで耕していた。
田植え前の代かき。
そして家に戻ると、タクシーがいた。
「こんな所までどうした?」
とりあえず声をかける。
「お金を払ってください」
「は?」
「乗ってきたお客さんが、どこかへ行っちゃって、ご家族でしょ」
仕方がなから話を聞いていると、家からやって来たのはあいつだ。
「仕事を辞めてきました。お世話になります」
満面の笑顔。
まあそこからは大変だった。
どうしても結婚をするんだと言って、ごねだし、最初の約束は言っていませんと言って反故にしやがった。
家族に…… お父さんに微妙な顔をされ、お母さんから返品は不可ですと、念を押され、弟君はオレを勇者のように拝む。
この年で、ひょんな事から連れ合いが出来た。
普通なら季節も丁度春だし、気分も春爛漫になるのだろうが……
なぜか俺の心は、秋から冬に向かい、ぼちぼち冬支度をして、町へ降りる準備をする時のような…… 何とも、中途半端な気分。
確かにふと起こる寂しさや人恋しさはなくなるだろ、それどころか子守り? そんな疲れが体を襲う。
うちにやって来た冬彩は、反省をしながら、今梁からぶらさがり、ようやく足が届く高さで喜んでいる。
まあ吊るしという奴?
「あの…… この家なら出来ますよね……」
「お前馬鹿だろ……」
でまあ、本を見ながら、吊ってみた。
それを眺めながら、晩酌中。
外で、馬鹿な奴らと、カエルが笑っている気がする……
-----------------------------------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
最近、ノタクーンで書いてみたを実行中で、読んでいた話に引っ張られました。
会社は少し郊外にあり、通勤が面倒だとぼやく。
理不尽なのは、彼女にあわせて俺の起床が六時にされたこと。
「ごめんなさい、お店で何回か食べたけど、大樹さんの作るご飯が美味しくて」
そんな殊勝なことを言っていたが、今まではと問い詰める。
すると、出来る女はコーヒースタンドでモーニングとまあ、見栄を張って生活をしていたようだ。
話せば話すだけ、軽薄で見栄張り、そして能力が低い、駄目駄目な子どものような女。
毎日やって来ては、寝る前に説教をする。
「尻を出せ」
なんとなく始まった、今日一日の駄目な回数分のお尻ペンペン。
―― そして、彼女がそれを、なんだか喜んでいることに気がつく。
「なんだか子供の頃に、されていた記憶があって」
離婚された実の母。
彼女が言うことを聞かないと、お尻ペンペンをしていたらしい。
「お父さんに、体罰は駄目と言われて、やめたらしいの」
何だろうな、根底にあるのは愛情不足と歪んだ情報。
どう言っても、駄目な奴には違いない。
一度彼の弟に会った。
彼女を見た瞬間表情が変わり、自身の部屋へと走った。
あわてて鍵を差しこむのだが、かなり焦っていて落としてみたり大変そうだった。
彼女が言っていたのと、かなりイメージが違う。
見た感じだと、無茶苦茶彼女を怖がっている?
多少横にいた俺を、一瞬だけ不思議そうに見ていたが、それだけ。
目に見えるところに、姉が居る恐怖が、彼の行動を限定的にするようだ。
だがまあ、そんな彼女も成れるに従い、多少会話や行動に変化が出てきた。
よほど居心地が良いのか、追い出されるのを怖がっている様子。
馬鹿なことをすると、「ちょっと来い」、俺がそう言っただけで尻を出してくる。
「冬彩は失敗しました。反省します」
そう言わせていたのだが、なんだか自分の方が悪い事をしている気がしてくる。
だがまあ、それは少し違っていることが分かる。
「なあおまえ、わざと叱られるようにしていないか?」
「えっ…… していませんよ」
そう言っているが、完全に目が泳ぐ。
そうコイツは、繰り返されているうちに、尻叩きが好きになり、してほしくてミスをする変態へと進化をしていた。
「あの、調べたらスパンキングと言って、普通のようです」
そう言って、もじもじ……
「はっ?」
困惑している俺に対して、プレゼンを始める。
「スパンキングは、愛情を……」
うだうだと…… 一通り説明をして満足顔。
「そうか、お前は変態だったのか?」
「変態…… ああっ、そうかもぅ」
はっと気がついた感じの顔、そんなに簡単に認めるのか?
だが俯いて、何かを考える顔はものすごく嬉しそう。
人に突っかかるのは、叱ってほしいから?
そもそもは、叱ってくれて大好きだったお母さんが居なくなり、新しい母親は叱ってくれない。
叱られたいから、馬鹿をする。
以後、それがひどくなった?
なんと言う、はた迷惑な性癖。
きっと彼女の本性について、気が付くことのなかった家族も、困惑をしていたに違いない。
関係することで気がついた彼女の本性。
そう、叱ってほしいかまってちゃん。
救われない。
その性癖に気がつき、彼女は甘えてくる。
頼れるのは俺だけだと。
その余波で、俺の生活は乱される。
まあそれも、三月の末までだと俺は思っていた。
山へ帰れば、彼女の通勤は絶対に無理だからだ。
あそこの家から最寄りのバス停まで、車で三十分はかかる。
彼女は車の免許を持っていない。
そう実に自然豊かで、川には綺麗な水が流れ、ぱったり逝っていても発見されるのは、何年後だろうか?
親父達は、元気なうちに施設へと入ったが、俺はいやだ。
即身成仏のように、あの家でただ逝こう。そう思っていた。
だがどうも、歳がある程度増えると、地域の関係者が声かけに来るようで、現在に蘇る即身成仏のようになるのは無理なようだ。
枕元に手数料は積んでおこう。
まあまあ、そんなろくでもない終末予想? 終活? をしていた。
ああそう言えば、彼女大学の時に自動車学校へは、行ったらしい。
だがどうやっても、仮免許から先に進めなかったようだ。
前進は出来る。
だが曲がる事と、車庫入れが出来ない。
「この先を右折してくださいね」
教官から声がかかる。
「運転中なんです、声をかけないで……」
そんな文句を言いながらも、右折。
そう、信号も無視。
やって来ている車も無視。
歩いている人も……
そう絶対どこかおかしいレベルで、マルチタスクが出来ない。
嘘だと思うだろ、世の中には居るんだよ……
そしてバックをすると、右左が判らない……
自転車は乗れる。
だが、そこで画期的な才能を見せる。
彼女は、曲がるときに車体が傾かない。
そう、『スタンディング・スティル』と言う高等テクニックを彼女はマスターしている。
その状態で、ゆるゆるとハンドルを切って曲がる。
まあオレから見たら神業だね。
そう春からは、平和だとメールは来るが仕方が無い。
だがそんな彼女、行動力はあったようだ。
四月に入って、二週目。
田んぼをトラクターで耕していた。
田植え前の代かき。
そして家に戻ると、タクシーがいた。
「こんな所までどうした?」
とりあえず声をかける。
「お金を払ってください」
「は?」
「乗ってきたお客さんが、どこかへ行っちゃって、ご家族でしょ」
仕方がなから話を聞いていると、家からやって来たのはあいつだ。
「仕事を辞めてきました。お世話になります」
満面の笑顔。
まあそこからは大変だった。
どうしても結婚をするんだと言って、ごねだし、最初の約束は言っていませんと言って反故にしやがった。
家族に…… お父さんに微妙な顔をされ、お母さんから返品は不可ですと、念を押され、弟君はオレを勇者のように拝む。
この年で、ひょんな事から連れ合いが出来た。
普通なら季節も丁度春だし、気分も春爛漫になるのだろうが……
なぜか俺の心は、秋から冬に向かい、ぼちぼち冬支度をして、町へ降りる準備をする時のような…… 何とも、中途半端な気分。
確かにふと起こる寂しさや人恋しさはなくなるだろ、それどころか子守り? そんな疲れが体を襲う。
うちにやって来た冬彩は、反省をしながら、今梁からぶらさがり、ようやく足が届く高さで喜んでいる。
まあ吊るしという奴?
「あの…… この家なら出来ますよね……」
「お前馬鹿だろ……」
でまあ、本を見ながら、吊ってみた。
それを眺めながら、晩酌中。
外で、馬鹿な奴らと、カエルが笑っている気がする……
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お読みくださり、ありがとうございます。
最近、ノタクーンで書いてみたを実行中で、読んでいた話に引っ張られました。
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