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秋と冬の狭間。
第2話 冬彩という女の子
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「ありがとうございます」
こたつに座った彼女の前に、御茶を置く。
「わたくし、こういう者です」
天板に額をぶつけながら、名刺が出てきた。
かなり酔っているようだ。
聞いたことのある、上場をしている様な大きな会社。
「へぇ、大手に勤めているんだね。坂上 冬彩さんとは綺麗な名前だね」
「ありがとうございます、地方の営業所ですが……」
そう言って、少し悲しそうな顔。
ああ、地方採用なのか。
十分立派だと思うのだが。
「私は、今は農家になるのかな?」
一応、名刺を渡す。
仕事時代の物。
農家だとあれだが、元の仕事が分かると、意外と皆信用してくれる。
世知辛いものだ。
「大学法人?」
「そう、今は退職をしたし、今の名刺は作っていなくてね」
名刺には、当時の肩書きと、名前。
宮森 大樹と書いてある。
「へえお若く見えますね。あっ失礼しました」
ああそうか、定年かと思ったのか。
だとすると、六十五に見えるのか……
「退職と言っても、早期でね、親が亡くなったので山の中に建っている実家へ帰ってきて、夏場はそっち。冬場は生活が厳しいから町に降りてきているんだ」
そう言うと、なんかすごく驚かれた。
そんなに変だろうか……
「あっ、こんな遅くに申し訳ありません」
今更だが、謝られる。
この子、謝れるじゃないか。
「いや一人暮らしだし別に良いが、こんな遅くにどうしたんだい?」
そう言うと、彼女は少し困った顔になった。
「えーと、誰にも言わないでください……」
俺が聞いて誰に言うのか分からないが、そう前置きがされる。
「実は、婚活パーティで知りあった人と、今晩デートだったんです」
「最近は、多いのかねぇ」
「ええ、周りには、なかなかいい人がいなくて」
俺は彼女が来るまでしていた、ノートパソコンの画面を見ながら、晩酌に戻る。
ビールを、こくりと……
「ずいぶん酔っているが、まだ要るのか?」
そう飲んでいる俺を見て、どう見ても欲しそうな雰囲気。
「えーまあ、できれば、そのイカってまだあります?」
テーブルの上、炙った烏賊の一夜干。
コレステロール値爆上がりの一品。
止まらなくなるのだよ……
病院での検査前は、絶対に食ってはいけない。
危険な一品。そう美味いものは年寄りの体に悪い。
グラスを出して注ぎ、彼女に渡す、そしてもう一杯イカを炙り始める。
取り皿も出して渡す。
酢醤油の皿と、七味マヨ、それぞれ出す。
で…… まあ、彼女が語る恋愛談。
結局、結構婚活パーティに行くとモテる、仕事をしているから、所得一千万円などとは言わないし、背が低くなくて禿げてなければいいと……
言いたいことはあるが、そこはまあ置いといて、二度三度とデートをして、これならと思うと捨てられるようだ……
それで彼女にすれば、理由が判らないと……
「何かあった時に罵ったり、したのじゃ無いか?」
そう言っても、きょとんとしている。
「それは、普通でしょ、気がつかないとその人の恥だし……」
まあ予測の出来る反応。
「さっきも、ドアを蹴ろうとしたようだが?」
「それは少し、酔っても居たし、いつもじゃないし……」
もにょもにょと言い訳。
「君は人の注意をする前に、自分の行動を直した方が良い、君の方が色々と世間一般からすると非常識なようだ」
そう言うと、明確に目付きが代わる。
やっぱりこの手合いか、育ちが良く、甘やかされたのか……
「そんな少しのこと、出会ったばかりでよく判らない人に言われたくないわ、私のことを知らないくせに」
まあそんな感じ、男なら、歯を食いしばれ―状態だな。
最近はすぐパワハラと言われるから出来ないが。
「君は二度や三度しか会ったことのない男に、注意をしたのだろ。自分は良くて人は駄目なのか? 君は何か、特権階級でもあるのかな?」
そう言われて、なにか言い返そうとしたがでなかったようだ、口がはむっと閉まる。
「それはそうだけど」
「君のことだから、町中、人前で注意をしたとか? それはパワハラだな」
「なっ、パワ……」
きっと大きな会社なら、研修は受けているはず。
ならば、人前で叱責してはいけないという事は知っているだろう。
「だってその時言わないと」
「その場を離れて、そっと示唆をすれば良い。それだけで、相手に恥をかかさなくて済む」
そこから後は、でも、だって、を繰り返す。
逆に、会ったばかりだが、彼女の駄目なところをどんどんと積み上げる。
「そう言うところが、君の駄目なところ、ハッキリ言って君は一緒にいるだけで人を傷つける」
もう多分あうこともないだろうし、年寄りの強み。
そして、日頃の人と余り話さないし、此処の所のお隣さんのあの声、結構鬱憤があって、つい言ってしまう。
「そして毎晩のように、あの時の声が大きい、聞く気が無くともあれだけ大きいと聞こえてしまう」
言ってやった。
だが……
「えっ隣? 毎晩声…… あの時の?」
そう言って困惑。
「君じゃないのか? 今晩だって泊まりに来たようだし……」
酔っ払いの赤い顔が、少しだが、さらに赤くなる。
「いえ、今晩…… デートのつもりが、振られたので、飲んじゃって…… 隣り、弟のところに泊めて貰おうかと……」
そう聞いて少し唖然とする、少し言いすぎたか。
「あーすまない。私の勘違いだったようだ」
そう言って、頭を素直に下げる。
そう彼女は、言い訳をしても、頭を下げない。
だから気づくか判らないが、目に見えるように見せる。
だけど彼女は、違う所に食いつく。
「その、毎晩なんですか?」
「うん? ああそうだね」
「信じられない……」
彼女が言うには、弟は彼女と違い気が弱く、彼女に言わせるとヘタレな弟らしい。
何を言っても言い返さずに、ニコニコしている。
五個も下なのに。
とまあ、色々と教えてくれた。
彼女は、今年三十だそうだ。
俺の子どもと、言っていい年だな。
ちなみに、彼女はそう言うことをしたことがない様だ。
なぜか、恋愛が出来ないと……
ぐだぐだ言っていたが、彼女は寝込んでしまう。
「こたつだし、毛布でいいか」
彼女に、毛布を掛ける。
下手に触るとあれだし、こたつの温度を弱にする。
俺はそこから日課にもどり、モニターを見つめる。
日本が寝ているとき、アメリカは動いている。
退職金を原資で、日銭を稼ぐ。
だが、公務員時代より所得が多いという矛盾。
「もっと早く知っていればなあ」
ぼやきながら、アメリカ市場のチャートを眺める。
こたつに座った彼女の前に、御茶を置く。
「わたくし、こういう者です」
天板に額をぶつけながら、名刺が出てきた。
かなり酔っているようだ。
聞いたことのある、上場をしている様な大きな会社。
「へぇ、大手に勤めているんだね。坂上 冬彩さんとは綺麗な名前だね」
「ありがとうございます、地方の営業所ですが……」
そう言って、少し悲しそうな顔。
ああ、地方採用なのか。
十分立派だと思うのだが。
「私は、今は農家になるのかな?」
一応、名刺を渡す。
仕事時代の物。
農家だとあれだが、元の仕事が分かると、意外と皆信用してくれる。
世知辛いものだ。
「大学法人?」
「そう、今は退職をしたし、今の名刺は作っていなくてね」
名刺には、当時の肩書きと、名前。
宮森 大樹と書いてある。
「へえお若く見えますね。あっ失礼しました」
ああそうか、定年かと思ったのか。
だとすると、六十五に見えるのか……
「退職と言っても、早期でね、親が亡くなったので山の中に建っている実家へ帰ってきて、夏場はそっち。冬場は生活が厳しいから町に降りてきているんだ」
そう言うと、なんかすごく驚かれた。
そんなに変だろうか……
「あっ、こんな遅くに申し訳ありません」
今更だが、謝られる。
この子、謝れるじゃないか。
「いや一人暮らしだし別に良いが、こんな遅くにどうしたんだい?」
そう言うと、彼女は少し困った顔になった。
「えーと、誰にも言わないでください……」
俺が聞いて誰に言うのか分からないが、そう前置きがされる。
「実は、婚活パーティで知りあった人と、今晩デートだったんです」
「最近は、多いのかねぇ」
「ええ、周りには、なかなかいい人がいなくて」
俺は彼女が来るまでしていた、ノートパソコンの画面を見ながら、晩酌に戻る。
ビールを、こくりと……
「ずいぶん酔っているが、まだ要るのか?」
そう飲んでいる俺を見て、どう見ても欲しそうな雰囲気。
「えーまあ、できれば、そのイカってまだあります?」
テーブルの上、炙った烏賊の一夜干。
コレステロール値爆上がりの一品。
止まらなくなるのだよ……
病院での検査前は、絶対に食ってはいけない。
危険な一品。そう美味いものは年寄りの体に悪い。
グラスを出して注ぎ、彼女に渡す、そしてもう一杯イカを炙り始める。
取り皿も出して渡す。
酢醤油の皿と、七味マヨ、それぞれ出す。
で…… まあ、彼女が語る恋愛談。
結局、結構婚活パーティに行くとモテる、仕事をしているから、所得一千万円などとは言わないし、背が低くなくて禿げてなければいいと……
言いたいことはあるが、そこはまあ置いといて、二度三度とデートをして、これならと思うと捨てられるようだ……
それで彼女にすれば、理由が判らないと……
「何かあった時に罵ったり、したのじゃ無いか?」
そう言っても、きょとんとしている。
「それは、普通でしょ、気がつかないとその人の恥だし……」
まあ予測の出来る反応。
「さっきも、ドアを蹴ろうとしたようだが?」
「それは少し、酔っても居たし、いつもじゃないし……」
もにょもにょと言い訳。
「君は人の注意をする前に、自分の行動を直した方が良い、君の方が色々と世間一般からすると非常識なようだ」
そう言うと、明確に目付きが代わる。
やっぱりこの手合いか、育ちが良く、甘やかされたのか……
「そんな少しのこと、出会ったばかりでよく判らない人に言われたくないわ、私のことを知らないくせに」
まあそんな感じ、男なら、歯を食いしばれ―状態だな。
最近はすぐパワハラと言われるから出来ないが。
「君は二度や三度しか会ったことのない男に、注意をしたのだろ。自分は良くて人は駄目なのか? 君は何か、特権階級でもあるのかな?」
そう言われて、なにか言い返そうとしたがでなかったようだ、口がはむっと閉まる。
「それはそうだけど」
「君のことだから、町中、人前で注意をしたとか? それはパワハラだな」
「なっ、パワ……」
きっと大きな会社なら、研修は受けているはず。
ならば、人前で叱責してはいけないという事は知っているだろう。
「だってその時言わないと」
「その場を離れて、そっと示唆をすれば良い。それだけで、相手に恥をかかさなくて済む」
そこから後は、でも、だって、を繰り返す。
逆に、会ったばかりだが、彼女の駄目なところをどんどんと積み上げる。
「そう言うところが、君の駄目なところ、ハッキリ言って君は一緒にいるだけで人を傷つける」
もう多分あうこともないだろうし、年寄りの強み。
そして、日頃の人と余り話さないし、此処の所のお隣さんのあの声、結構鬱憤があって、つい言ってしまう。
「そして毎晩のように、あの時の声が大きい、聞く気が無くともあれだけ大きいと聞こえてしまう」
言ってやった。
だが……
「えっ隣? 毎晩声…… あの時の?」
そう言って困惑。
「君じゃないのか? 今晩だって泊まりに来たようだし……」
酔っ払いの赤い顔が、少しだが、さらに赤くなる。
「いえ、今晩…… デートのつもりが、振られたので、飲んじゃって…… 隣り、弟のところに泊めて貰おうかと……」
そう聞いて少し唖然とする、少し言いすぎたか。
「あーすまない。私の勘違いだったようだ」
そう言って、頭を素直に下げる。
そう彼女は、言い訳をしても、頭を下げない。
だから気づくか判らないが、目に見えるように見せる。
だけど彼女は、違う所に食いつく。
「その、毎晩なんですか?」
「うん? ああそうだね」
「信じられない……」
彼女が言うには、弟は彼女と違い気が弱く、彼女に言わせるとヘタレな弟らしい。
何を言っても言い返さずに、ニコニコしている。
五個も下なのに。
とまあ、色々と教えてくれた。
彼女は、今年三十だそうだ。
俺の子どもと、言っていい年だな。
ちなみに、彼女はそう言うことをしたことがない様だ。
なぜか、恋愛が出来ないと……
ぐだぐだ言っていたが、彼女は寝込んでしまう。
「こたつだし、毛布でいいか」
彼女に、毛布を掛ける。
下手に触るとあれだし、こたつの温度を弱にする。
俺はそこから日課にもどり、モニターを見つめる。
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