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実りの秋
第4話 充実した日々
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あれから、コインロッカーの鍵を受け取り、荷物を取りに行った。
そうオレだけで。
最初からそうすれば良かった。
「お嬢様はいたか?」
「いや居ない」
「こんな田舎には来ないだろう。移動するぞ」
そういって黒塗りの車が、スキール音を残して消えていく。
めったに見ない光景。
周囲の人間が、何事かとそれを見送る。
色々と買い物をして、家に帰る。
彼女は、緊張とか色々あったのか、そのまま寝てしまったようだ。
その間に、機械を入れるため、田んぼの四隅だけ、稲を刈っていく。
コンバインてなあ、持っているだけで税金を盗られるんだぜ。
年に数回しか使わないのに。
トラクターも同じ。
エンジンが付いて、上に乗ることができれば車両扱い。
カテゴリーは小型特殊。大きい奴は大型特殊。
公道を走らなくともだ……
「儲けになど、ならないのに…… 農業やめようかなぁ……」
だが、今からどこかの会社?
地元には無いから、町へ?
「無理無理」
ブチブチ言いながら、刈った稲を集めてくる。
コンバインのエンジンを掛け、点検がてら脱穀をする。
買い物してきたので、今晩はすき焼き。
お嬢さんてナニを食うんだろう、そう考えたが、ステーキなど毎日は食わないだろうと、まあすき焼きにした。
ジャガイモを入れると美味いんだよ。
そうその日から、夢のような日々が続いた。
献立は、ステーキやポタージュなど日々食うわけではないらしいが、彼女が食べてみたいというジャンクな物を食べる。
ラーメンやチャーハン。
カレー、カツ丼。
ピザにハンバーガー、等々。
昼は泣きながら農作業。
夜は、まったりとマッサージ。
ただ少し心配がある、日焼け止めを塗っていても、彼女の顔が日焼けをしたこと。
体は、完全防備だから大丈夫だが。
「汗で流れるから仕方ないなぁ」
「初めて日焼けをしたかも……」
彼女は鏡を眺めながら、右を向いたり左を向いたり。
流石に慣れてきて、言葉遣いもまとも? になった。
だが不安なのは、もうすぐ彼女がやって来て一月が来る。
そして町へ向かったはずの黒服達が、相変わらずこの辺りをうろついていること。
スマホを持っているし、基地局とか…… ああいや、GPSとか内臓だし、知っているだろ。
まあズルいが、彼女が言い出すまでは何も言うまい。
元々が、関わるのがおかしな者同士なんだ。
そう思っていたら、彼女から話があった。
「残念ですが、月のものが来ちゃったのでお別れですね」
「月のお迎え?」
彼女は首を振る。
「子どもが出来れば、なんと言われようと一緒にと思いましたが、あのっ、月のものというのは生理で…… 」
「ああ、そう言うことか、一応避妊はしていたしな…… もっとここに居て、その…… 作ってみるか?」
そう言うと、彼女は涙を浮かべながら首をゆっくりと振る。
「きっとご迷惑になります。―― ものすごく、幸せでした」
その晩はゆっくり穏やかな時間を過ごし、翌朝早く彼女は家を出て行った。
だがまあ、オレの方が起きるのは早かったのだが、帰り際の唇の感触がまだ残っている。
追いかけるか……
悩んだが、もう一度だけ……
そう思い、玄関を出た……
だが居たんだよ……
黒服さん達が……
開き直り、彼らに言う。
「彼女は帰ったぞ」
そう言うと、こっくりと頷く。
「存じております。ですので、このままお休みください。まだ、早いので」
そんな気遣いをされたので言い返す。
「馬鹿野郎。農家の朝は早いんだ」
「これは失礼。ですが……」
そう言ってじっと見られる。
丁寧だが、皆がみんな独特の雰囲気を持っている。
武道か何かなのか。
「危険はありません。サポートは我々の仕事ですので」
ふと思いついて聞いてみる。
「なああんた達、最初っから知っていたんじゃないのか?」
そう聞くときょとんとした顔をする。
「何のことでしょう? 私たちの仕事は、御嬢様の安全と幸せを守ることでございます。他の目的はありませんし、そこに私情など入れるのはプロとしての失格。あのご様子ですと大変満足をされたようで、ようございました」
そう言って軽く会釈をすると、彼らは庭から出ていく。
ただ、くるっと向き直り、一言言い残していった。
「終わったことだと、良い思い出として覚えていてください。つまらないことは考えず。我々は、あなたの味方ではありませんので」
そう……
こいつらはお嬢さんの味方。
オレが何かをすれば、その時は……
「どうなるんだろうなぁ……」
無論怖くてしないが、それから一年ほど経った頃から、道に迷った女の子だったり、柿を分けてくださいませんかと尋ねてくる子がいたり、農業をやってみたいですなどと弟子入り志願がやって来る。
とまあ、みんなが揃って、どこか彼女に似た雰囲気の女の子達ばかり。
どう考えても、意図的な何かを感じる。
一体どういう意味だろう……
監視役か? えっ、一生?
色々と悩む今日この頃だ……
三十が近くなると、考えることも多くなる。
手放しで、うまい話に乗るわけにはいかない。
「―― やっぱり、わたしじゃないと駄目なのかしら…… もうっあの人ったら」
そんな事をぼやきながら、にまにましている彼女。
どこかのお嬢様が、ある男が淋しくないように、厳選した人物をお見合いのように斡旋をしていたようだ。
赤い顔をして、沈む夕日を眺めながら…… 楽しかった日々を思い出す。
数日後。
「影武者を探して」
「はっ?」
「その子がいれば、わたしが居なくて良いでしょ」
そう言ってニコニコ。
「それは、どういう意図で…… まさか…… どこに住まわせる、お考えで……」
「無論、影武者にすべてを任せて、私が出て行くから」
にまっと一瞬笑うと、真顔でそう言い切る。
「お嬢さん、もう日時も決まって」
そう言うとこっくり。
「相手方など、会うのは、ほぼ初めてだし。判らないわよ。ねっ」
そう言ってにまにま。
「ねっじゃありません。駄目です」
「けちぃー。 嫌い」
黒服は胸を押さえる。
「はうっ。嫌い?…… おじょうさまぁー」
とまあ、喜劇がどこかのお屋敷で起こったとか……
--------------------------------------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
書いていて、前に何か書いたような。
いいや気のせい。うん。
そうオレだけで。
最初からそうすれば良かった。
「お嬢様はいたか?」
「いや居ない」
「こんな田舎には来ないだろう。移動するぞ」
そういって黒塗りの車が、スキール音を残して消えていく。
めったに見ない光景。
周囲の人間が、何事かとそれを見送る。
色々と買い物をして、家に帰る。
彼女は、緊張とか色々あったのか、そのまま寝てしまったようだ。
その間に、機械を入れるため、田んぼの四隅だけ、稲を刈っていく。
コンバインてなあ、持っているだけで税金を盗られるんだぜ。
年に数回しか使わないのに。
トラクターも同じ。
エンジンが付いて、上に乗ることができれば車両扱い。
カテゴリーは小型特殊。大きい奴は大型特殊。
公道を走らなくともだ……
「儲けになど、ならないのに…… 農業やめようかなぁ……」
だが、今からどこかの会社?
地元には無いから、町へ?
「無理無理」
ブチブチ言いながら、刈った稲を集めてくる。
コンバインのエンジンを掛け、点検がてら脱穀をする。
買い物してきたので、今晩はすき焼き。
お嬢さんてナニを食うんだろう、そう考えたが、ステーキなど毎日は食わないだろうと、まあすき焼きにした。
ジャガイモを入れると美味いんだよ。
そうその日から、夢のような日々が続いた。
献立は、ステーキやポタージュなど日々食うわけではないらしいが、彼女が食べてみたいというジャンクな物を食べる。
ラーメンやチャーハン。
カレー、カツ丼。
ピザにハンバーガー、等々。
昼は泣きながら農作業。
夜は、まったりとマッサージ。
ただ少し心配がある、日焼け止めを塗っていても、彼女の顔が日焼けをしたこと。
体は、完全防備だから大丈夫だが。
「汗で流れるから仕方ないなぁ」
「初めて日焼けをしたかも……」
彼女は鏡を眺めながら、右を向いたり左を向いたり。
流石に慣れてきて、言葉遣いもまとも? になった。
だが不安なのは、もうすぐ彼女がやって来て一月が来る。
そして町へ向かったはずの黒服達が、相変わらずこの辺りをうろついていること。
スマホを持っているし、基地局とか…… ああいや、GPSとか内臓だし、知っているだろ。
まあズルいが、彼女が言い出すまでは何も言うまい。
元々が、関わるのがおかしな者同士なんだ。
そう思っていたら、彼女から話があった。
「残念ですが、月のものが来ちゃったのでお別れですね」
「月のお迎え?」
彼女は首を振る。
「子どもが出来れば、なんと言われようと一緒にと思いましたが、あのっ、月のものというのは生理で…… 」
「ああ、そう言うことか、一応避妊はしていたしな…… もっとここに居て、その…… 作ってみるか?」
そう言うと、彼女は涙を浮かべながら首をゆっくりと振る。
「きっとご迷惑になります。―― ものすごく、幸せでした」
その晩はゆっくり穏やかな時間を過ごし、翌朝早く彼女は家を出て行った。
だがまあ、オレの方が起きるのは早かったのだが、帰り際の唇の感触がまだ残っている。
追いかけるか……
悩んだが、もう一度だけ……
そう思い、玄関を出た……
だが居たんだよ……
黒服さん達が……
開き直り、彼らに言う。
「彼女は帰ったぞ」
そう言うと、こっくりと頷く。
「存じております。ですので、このままお休みください。まだ、早いので」
そんな気遣いをされたので言い返す。
「馬鹿野郎。農家の朝は早いんだ」
「これは失礼。ですが……」
そう言ってじっと見られる。
丁寧だが、皆がみんな独特の雰囲気を持っている。
武道か何かなのか。
「危険はありません。サポートは我々の仕事ですので」
ふと思いついて聞いてみる。
「なああんた達、最初っから知っていたんじゃないのか?」
そう聞くときょとんとした顔をする。
「何のことでしょう? 私たちの仕事は、御嬢様の安全と幸せを守ることでございます。他の目的はありませんし、そこに私情など入れるのはプロとしての失格。あのご様子ですと大変満足をされたようで、ようございました」
そう言って軽く会釈をすると、彼らは庭から出ていく。
ただ、くるっと向き直り、一言言い残していった。
「終わったことだと、良い思い出として覚えていてください。つまらないことは考えず。我々は、あなたの味方ではありませんので」
そう……
こいつらはお嬢さんの味方。
オレが何かをすれば、その時は……
「どうなるんだろうなぁ……」
無論怖くてしないが、それから一年ほど経った頃から、道に迷った女の子だったり、柿を分けてくださいませんかと尋ねてくる子がいたり、農業をやってみたいですなどと弟子入り志願がやって来る。
とまあ、みんなが揃って、どこか彼女に似た雰囲気の女の子達ばかり。
どう考えても、意図的な何かを感じる。
一体どういう意味だろう……
監視役か? えっ、一生?
色々と悩む今日この頃だ……
三十が近くなると、考えることも多くなる。
手放しで、うまい話に乗るわけにはいかない。
「―― やっぱり、わたしじゃないと駄目なのかしら…… もうっあの人ったら」
そんな事をぼやきながら、にまにましている彼女。
どこかのお嬢様が、ある男が淋しくないように、厳選した人物をお見合いのように斡旋をしていたようだ。
赤い顔をして、沈む夕日を眺めながら…… 楽しかった日々を思い出す。
数日後。
「影武者を探して」
「はっ?」
「その子がいれば、わたしが居なくて良いでしょ」
そう言ってニコニコ。
「それは、どういう意図で…… まさか…… どこに住まわせる、お考えで……」
「無論、影武者にすべてを任せて、私が出て行くから」
にまっと一瞬笑うと、真顔でそう言い切る。
「お嬢さん、もう日時も決まって」
そう言うとこっくり。
「相手方など、会うのは、ほぼ初めてだし。判らないわよ。ねっ」
そう言ってにまにま。
「ねっじゃありません。駄目です」
「けちぃー。 嫌い」
黒服は胸を押さえる。
「はうっ。嫌い?…… おじょうさまぁー」
とまあ、喜劇がどこかのお屋敷で起こったとか……
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お読みくださり、ありがとうございます。
書いていて、前に何か書いたような。
いいや気のせい。うん。
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