泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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欲望の果てに

第3話 一時の過ち

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「大丈夫ですか?」
「私は少し殴られただけで、この人がひどくて救急車をお願いします」
 気がつけば、電話ではまだなにか言っている。
 ブチッと切る。

 折り返しがかかってくる。
「警官がきてくれました、ありがとうございました」
 そう言って、もう一度ブチッと切る。

 彼は、本当にボコボコにされていた。

 名刺を見て、彼の会社に電話をする。
 暴漢に襲われていて、私を助けてくれたが、ボコボコにされこれから病院へ行くことを。
 だけど、彼の上司が、どんな理由にしろ喧嘩などと言っていたので、一方的に受けただけです。彼は悪くないと説明をする。

 病院で診察を受けると、打撲だけで骨折はしていなかったみたい。
 だけど、熱が出るかもと説明される。
 事情聴取と被害届をだし、相手のことを説明。
「今付き合っていて、恋愛中ではありませんね」
「違います。もう何年も前に終わっていて、相手からのDVがあり接見禁止命令も出して貰っています。それに刑務所から出たばかりみたいなことを言っていました」
「ふむふむ」
 まあそんな感じ?

 それでまあ入院ではなく、その場で退院。
 彼は会社に事情を説明。
 怪我をしているならゆっくり休めと言われたらしい。
 営業で顔がボコボコなら駄目よね。


 彼のアパートへ行き、食べられそうなものを作る。
 場所は違うけれど、大学の時に戻ったような部屋。
 狭いアパートの部屋に、山と積まれた本。

 小さなテーブルと、ベッド。
 生活環境は最小限。

 派手に、ガーゼが貼り付けられた顔で、痛み止めが効いたのか彼は寝始める。
 旦那には、一応コミュニケーションアプリで状況は伝える。
 助けてくれた人が怪我をして、独り者みたいだから、付いておかないといけない。
 それに、警官からまだ周囲に居るかもしれないと言われたことを書く。

 そうそう書いたのに、私は気楽に考えていた。
 葛谷は追いかけてきていた。

 アパートは特定された。

 彼を世話をするうちに、記憶が蘇る。
 大学時代の楽しかった頃。
 小説を執筆する傍らで、勉強をしつつ世話をする。
 そんな穏やかな生活。

 彼とよりを戻す気も、まったくする気は無かったのについ、記憶に流されて受け入れてしまった。
 ゆっくりと穏やかなエッチ。

 した後、ものすごく後悔をしたけれど、まあ助けて貰った御礼として一回くらいは…… そう自分を納得させる。

 三日後、彼を連れて病院へ行く。
「大分腫れが落ち着きましたね」
 順調に回復しているよう。一安心。

 だけど旦那からの着信が止まらない。
「今はまだ、病院だから、もう少ししたら帰るから」
「あっおい」
 嘘はついていない。
 でも胸が痛い。

 会計をして、外に出ると居たのよ。
 葛谷の顔が、嫌らしそうな顔に歪む。

「随分楽しそうじゃねえか、俺にも分けろや。お前のせいで警官がすぐに追って来やがる」
 すべてが人のせい。

 そうこの人はそうだった。
「もうそいつは大丈夫だろ、次は俺の世話をしろ。浮気したことは許してやる」
 そう言って近寄り、手が伸びてくる。
 だけど当然、慎弦が飛びかかる。

「てめえいい加減にしやがれ、またボコるぞ」
 そんな事を言っても離れない。
 そしてボコられている、慎弦。

 せっかく治ってきていたのに。
 誰か……

 そう思っていたら、誰かが走り込んできて、葛谷は吹っ飛ばされる。
 颯爽ときたのは旦那だった。
「えっなんで」
「病院だと言ったからな。三日前入院だと思ったら家に帰ったと聞いたし、困っていたんだ。住所は個人情報だと言って教えてくれなかったしな。その辺り話しは聞かせて貰う。それでそいつか? 暴漢というのは」
「えっあっ。うん」

 ふっ飛ばされた葛谷は、よろよろと立ち上がる。
「何しやがる、関係ない奴はすっ込んでいろ」
「関係はあるさ、お前こそ俺の妻にナニをする気だ?」
「妻だと、優良希は俺の女だ、何を勝手に結婚してやがる」
「ふざけんな」
 襲いかかってきた葛谷、くるんと簡単に投げられる。

「へっ?」
 つい驚いて声が出た。
 腰を固い床で打ったようで、呻いている。
 旦那がこんなに強いなんて……

 立ち上がっては投げられて、コロコロと転がる。
「畜生、てめえ、何かやってやがるな」
「柔道と合気だが、空手もやってるぞ。だが殴ると相手を殺すからな」
 そう言うと、あっという間に葛谷の気勢が無くなる。

 そういえば耳が餃子みたいだから、笑ったことがある。
 聞いたときに、これは証だと聞いた気が……
 柔道で、床などでこすれて、こうなると言っていたっけ。

 初めて見た旦那の強さ。
 ビックリ。

 警官がやって来る。
 だけど、意識がそれた瞬間、葛谷が……

「危ない」
 そんな声と、旦那との間に立ち上がった慎弦。

 葛谷が持っていた小さなナイフ。
 それに刺された。
 それを見て、葛谷の顔がぶれた。

 ああ旦那が、殴っちゃった……
 一発で意識が飛んだ見たい。
 カクッと膝をつき、ぱったりと倒れた。
「救急車」
 そう叫んだら、後ろから先生が出てきた。
 そういえば、病院の玄関先だったわ。

 刺された傷は、たいした事はなかった。

 そして無事に、警官により葛谷は連れて行かれた。
 仮釈放中の傷害罪。ただナイフでお腹を刺したので罪が重いとか。殺意の有無が量刑に影響を与えるみたい。

 旦那は相手を見て驚く。
 まあ仕事で迷惑を掛けられた相手。
 見知っている。

 でまあ、必然的にどういう付き合いかを喋って、まあ、此の三日の事については秘密にして墓まで持って行く事に決めた。

 取引先の会社には旦那が御礼を言いに言って、慎弦は首にもならなかったようだ。

 退屈な日常に舞い込んだ過去の因縁。

 それからは、旦那も早めに帰ってくるようになった。
 そしてやっと買えたケーキを食べながらふと思う。

 今月…… 遅れてる。
 まさかね……


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 お読みくださり、ありがとうございます。

 過去は変えられませんが、何かの折に騒動となる。
 いやあ、怖い。
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