泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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欲望の果てに

第1話 退屈だった日常

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 結婚をして三年。
 今日は三回目の結婚記念日だけれど、あの人は残業だと連絡があった。

 まだ子どもはできず……

 結婚をしたのが、私が二十八歳の時、早いうちに子どもを作って子育てをして、そんな漠然とした未来設計を立てて、結婚を機に、専業主婦となった。
 旦那は、二個上。
 私も、今年三十一……

 仕事を続けていれば良かった……

 夏に残った、そうめんをすすりながら昼食を済ませる。
 ソーシャルネットワーキングサービスでは、職場時代の友人が美味しそうなランチやディナーをアップしている。
「あの子、楽しそうね」
 アップされた内容から、男の影が見え隠れする。

「一応ケーキでも買ってこよう」
 まだ昼過ぎ、私は少しおしゃれな服を着て、最近有名になった店にわざわざだけどほんの少しだけ遠出する。
 駅二つ分。

「なんだか変わったわね」
 仕事をしていたときには、時たま来ていた町。
 だけど、様変わりして、見慣れない店が沢山できていた。

 なんだか嬉しくなって、目についたコーヒースタンドに入り、しばらく町の流れを眺める。
 道行くサラリーマンや、女性もスーツ姿で闊歩している。
 涼しくなったとはいえ、昼間に歩けば汗が滲む。
 急にスマホを取りだし、何かを喋りながら頭を下げ出す人。

「あれ? この人……」


 ―― 私は旦那が初めてではない。
 まあ結婚をしたとき二十八だったし。

 初めては大学時代。
 田舎から出てきて浮かれ、一人暮らしなのも手伝ったのか、仲良しグループができた。
 その中の子が、男の子グループと仲が良くなって、お食事会というお見合いのようなものを開いた。
 相手も、一年生ばかり。
 ギクシャクした中に、一人落ち着いた人が居た。

 人文系で、自らも小説を書いている人。
「人を観察するのが勉強になる」
 なんてことを言う、変わった人だった。
 
 でも線の細い姿と、整った顔は私の好みで、連絡先を交換して…… それからしばらく友人として付き合った。
 あれは何時だったのか、夏前に行われていたお祭り。
 あまりの人混みにつかれ、座り込んだ私。
 彼は残ってくれたが、皆はどこかへ行ってしまった。

「大丈夫?」
 心配そうに覗き込む、彼の顔と優しさ。
 私の胸が、その時キュンとなる。

 その後、迷子にならないようにと、手を繋ぎながらお祭りの屋台を巡る。
 皆に見られたら、そう考えると恥ずかしかったけれど、彼の手の平は意外と大きく、安心のほうが大きかった。
「みんな居ないわね」
 私が少し機嫌が悪そうに言うと、なぜかアイスを買ってくれた。

「なんでアイス?」
「ご機嫌が悪いときには、アイスかあめ玉だろ」
 そう言って、かれは意地悪そうに笑う。
 
「もうっ、そこまで子どもじゃないわよ」
 私は、むっとした顔を見せる。

「それはごめん、じゃあ要らないのか?」
「いる」
 座るところを探すため、人混みを抜けて、神社の方へ。

 社の中では祝詞が上がり、丁度神輿が出発を行う様子。
 これから、町を練り歩くそうだ。

 夕暮れの紫色に染まった空と、提灯の灯りが揺れ、少し幻想的な雰囲気。
 私は、彼のたこ焼き味がするキスを受け入れた。

 その頃には、少し時間も経っていたし、緊張はしたけれど、いやじゃ無かった。
 それからは、トントン拍子。
 もう子どもじゃないし、十八でまだだなんて嫌だったし彼にあげた。

 半分通い妻のようなことをしながら、大学に通う。
 文章を書いて、色々なところに応募。
 でもなかなか、現実は甘くはない。

 大学三年になり周りは、インターンの申し込みなど話題が出始める。
 周りはとは言っても、私もだけど。

 投稿しても上手く行かないイライラ、そんなものが多分あったのだろう。
 私たちは、喧嘩を繰り返し、あんなに好きだった気持ちは、何時しか冷めてしまった……

「他に好きな奴ができた」
「何それ、最悪」
「もう別れよう」
「―― そうね……」
 意外とその時はあっさりと離れた。

 でも、少し経つと、そんな器用な人じゃないと思い出す。
 話を聞くと、そんな女の影は見えない。

 そう苛ついて、お互いに喧嘩になる。
 かれは、私に当たってしまうのを、自身で嫌がり離れたみたい。
 それとまあ、先の見えない状態。
 まあ色々と、勝手に考えて出した答えが、他に好きな奴ができたなどと言う、ベタな台詞…… 男の見栄?
 彼から謝ってくればなどと、考えていたがそれはなく、月日は流れる。

 その後、別の人から声をかけられ付き合ったが、なんと言うか、釣った魚には餌をやらない人だった。
 いい加減で、たまに暴力を振るう。
 酔っ払って、強引にやられる。
 最悪な人。

 警察に相談をしたり色々しながら何とか別れ、その間に就職試験。
 彼のことは、記憶の底へ。
 たまにふと思い出すが、ペンネームは知らず……

 本名は成文 慎弦なるふみ つづるだけど、小説を本名で…… 書く人も居るのか。だけど見当たらず。

 あの後男が怖くて、付き合いもなく。
 二十八になって、優しくておちょこちょいなあの人主人に出会った。

 探していても見つからなかったのに、本人が電話をしながらお辞儀をしてその後周りを見回し、私と目が合う。

 見られたことが恥ずかしかったのだろう、その場を離れようとして、彼は振り返った。
 目を大きく見開いて……
 十年以上会っていないのに、判ったのね……
 その事が少し嬉しかった。
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