泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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譲れない戦い

第7話 現実

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「その女はなに」
 私は二人の前に立ち塞がり、声をかけた。

「誰だお前?」
 えっ?

「私よ游子」
「游子ぉ…… ああ、せっかく俺がまともにしたのに、後ろ足で砂をかけて出て行った奴がいたなぁ。また元に戻っているじゃないか。おやっさん達元気か?」
 そう。彼女は見る影もなく、出会った頃に戻っていた。
 髪はボサボサ、化粧も最低限、服はヨレヨレ。
 別れた当初、何か心の底で、黒いものが湧いていたのだが、本人を見て、少し溜飲が下がる。

 まあ今は、さくらのおかげで、少し忘れていたが……
「なっ。親は元気よ」
「ならいい。そんじゃ」
 そう言って、横の女と恋人つなぎで私の脇を抜けていく。

「待ちなさいよ、仁」
 そう言っても、振り向きもしないで手を振られた。

 私は、あわてて前に回り込む。
「忙しいんだよ、じゃましないでくれ」
 彼はそう言って、本当に嫌そうな顔をする。
 見たことのない顔。

 でも、彼を頼るしか手はないの。
「また、付き合ってあげても良いわよ。私のこと好きでしょう?」
 私はついに言い切る。

 でも……
 彼の反応は、喜びでも困惑でもなく……
 帰ってきたのは、見たことないほど冷たい視線。

「残念。あの時…… お前は権利を放棄した。それで終わりだ。今はこいつに手を掛けている。忙しいんだ。じゃあな」
 すれ違いざま、横の女に言われる。
「馬鹿なひと……」
「なっ」

 少し呆然としたけれど、後をつける。
 二人は、高そうなお店に入っていった。

「ここって、予約の取れないお店」
 そんなお店に、平然と入り、堂々とした姿で、二人は食事をする。
 それは、私の見たことが無い姿。

 一緒に暮らしていたとき、良くも悪くも、仁は普通の人だった。
 給料を貰い、少しの贅沢。
 回るお寿司だったり、ピザだったり。

 それすら、付き合う前はできなかった生活だけど、仁は普通の暮らしを私にくれた。
 そう、だから…… 彼と結婚をしてからの生活が予想できた。

 今は二人だから、この生活。
 子供が出来れば、生活は苦しくなる。
 そうすれば、親のような生活へと戻ってしまう。
 それは嫌。

 だから私は……

 ―― なのに、目の前の光景は何?
 ワインをボトルで入れて、その光景を周りの人がチラチラと驚くように見つめる。

 ソムリエさんが、嬉しそうにティスティングして、彼と親しそうに声をかける。

 あの女と、乾杯まで。
 女の嬉しそうな顔。

 ―― ああそうか。
 あの女が、お金持ちなんだわ。

 私が、課長さんを求めたように、別れた後、極上の女を拾ったのね。
 そう予想をしたけれど、支払いで彼がお金を払う。
 無論現金ではなくカードだけど。

 その後、ふらふらとブランドの入る店とか、貴金属店へ……

 えっ、ちょっと待って。
 カードの枠ってそんなにあるの?
 どう見たって、おかしいでしょう。
 私と給料は変わらないはず。
 なら五十万円とかじゃないの?

 さっき、女に買い与えたネックレス。
 どう見たって、五十万じゃ収まらない。
 嬉しそうな顔をして、ためらいもなく受け取り喜ぶ女。

 女が、金持ちじゃない?

 そして二人は、バーへと入って行った。
 
 呆然として帰る。
 そして考える。
 この一年で、いったい何が起こっているの?

 あれは、仁だけど仁じゃない?
 別れて一年。
 何があったの……

 すべてが、何かおかしい。

 ある日、あの女が一人の時に捕まえる。
「あんた。仁と一緒に暮らしているのね。ちょっと顔貸しなさいよ」
 そう言うと、きょとんとされる。

「どうしてでしょう?」
「っ。どうでも良いのよ。来なさいよ」
 そう言って、近くのコーヒースタンドへ入る。

 ちっ、無駄に高いわね。
 この女、平気な顔で……

「それで、なんですか? 私学校へ行かないといけないんですが」
「あんた、学生なの?」
「ええまあ、仁が行けって言って」
「仁が?」
 そこから聞いた話しは、信じられない事ばかり。

 この女、私と同じかもっと悪い。
 体まで売ろうとしていた所を、彼に見初められ、引っ張り上げられた。

 そう、私と同じ。
 ただ、自分のために使ったお金を、知っているか知らなかったかの違い。
 そう言われれば、記憶がある。

 美容院とかエステは、支払いを仁がしていた。
 そうよ。別れてから行った時、ビックリしてそれから行っていなかった。

 なんであんなに高いの? それしか気にしていなかったけれど、考えれば分かるのに。
 私は、課長さんとのことがあって、見ない振りをした。

「仁は、お金持ちなのよ」
 私に対してそう言い残すと、女は急いでいるからと、出て行ってしまった。

「本当に…… 馬鹿なひと
 さくらは、そっと振り返る。

 それからも、その人は来た。
 いい加減鬱陶しくなったのか、仁は弁護士さんを通して近寄るなと、命令を出したみたい。

 そして、私はあの人みたいに頭に乗らず、仁の横に立っている。

 そう今の私は、この人のおかげ。
 やっと骨が刺さらなくなったと、言われるけれど。
 ひどい言葉は、優しさの裏返し。
 彼は不器用なだけ。

 それから数年、学校を卒業をして、再就職。

 何かよくわからないけれど、就職先がないってぼやいていると証券会社へ放り込まれた。
 普通の事務職だったはずなのに、社内で、奇妙な移動が起こる。
 話しを聞いて、仁が電話をする。
 事務へ戻る。

 だけどまた……

 あの後、あの女の人はどうなったのか私は知らない。
 だけど、仁は知っているみたい。


 游子がうろうろし始めたので、少し生活を派手にした。
 無論見せつけるために。
 だけどすぐ飽きた。
 もう心の中で整理がつき、興味を失っていたようだ。

 さくらの成長のほうが重要。
 そう思い、普通に暮らしを戻す。

 あいつには、接近禁止命令を出しておく。
 勝手に、さくらに付きまとったようだからな。

 結局、どうしようもなくなり、キャストをしていた様だが、後は追いかけていない。
 なんとなく冷めたし、さくらに悪い気がしたからだ。
 そう、出逢いはおかしかったが、今はこいつが大事。

 三十も過ぎたし、籍を入れようか……
 ただ、言った時に「えっ」と言われるのが、少しトラウマだが……

「籍を入れるか?」
「えええっ」
 言われた。胸が痛い。

 だけど、続きは違った。
「うれしい。いいの?」
「ああ、よろしく」
 こうして二度目のプロポーズは、無事に話しは進み、俺達は結婚をした。

 どこかで、游子の遠吠えが、聞こえたような気がしたが……
 だが結婚までは良かったが、それから、さくらの母親と戦争が始まり、そのほうが忙しかった。

「だぁ、畜生」
「ごめんなさい」


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お読みくださり、ありがとうございます。

ちょい、ざまあ展開です。

株の絡む話が出るのは、最近初めて願望がダダ漏れだからです。
気配だか、地だかROE自己資本利益率とかもうね。
頑張ります。
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