泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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譲れない戦い

第5話 変化

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 それから、彼に言われて、社会人枠の大学を受けることになった。
 面接と小論文。
 なんか三年くらいの、就業実績があれば受けられるらしい。

 合格後、工場はやめた。
 そのかわり、時間に自由度のあるパートで、経理について実地訓練。
 すごいのは、この数ヶ月で皆の目が変わったこと。
 少し前までは、無関心な目だった。

 それが、なんだろう、いやらしさや、羨望というのだろうか?
 ちらちらと見られているのがわかる。
 そして、新たな職場で、同僚となった女の人からは、逆に冷たい感じの視線を感じる。
 
 大学でも同じ、年下の男の子から、幾度も付き合ってくださいと告白をされる。

 だけどね。その頃は、一緒に暮らしているのに。ずっと彼のことしか考えられられなくて、朝出かけて離れた瞬間からもう会いたくて、どうしているだろうとかずっと考えてしまう。

 そう、彼にとって私はなんだろう。与えられるばかりで、本当に飼われている存在。彼のために、そう彼に飽きられないために、私にできることは何かないかと、そればかりが、頭を支配する。
 胸が痛い。

 少し慣れたら、料理学校にも通う。
 時間が足りない。

 そうして一年も経った頃、彼のマンション近くで、睨んでいる女の人に出会う。
 目が合うと、離れていく。

 特に用事がある感じじゃないし、なんだか気持ち悪い。
 彼に伝えると、元カノ時じゃないかと。
 彼にしては、少し意地の悪い笑顔を浮かべる。

 私はそれを聞いて、少し安心をする。
 ひょっとすると、彼女…… 私以外に本命が居て、もうお前の仕事は終わったと言われるのが怖かった。
 でも違った、あの人は元カノ。

 そう、彼にとって私だからここまでしてくれたのでは無くて、何かついで? いえ、何か思惑があって、私に手間とお金をつぎ込んでくれる。
 それは分かっていた。一緒にいるのに、感じるのは不安。

 しがみつくしかない不安。
 私には、本当に何もないから……


 私は、古志軽 游子こしかる ゆうこ
 両親が商売をしていたけれど、順調でもなくギリギリで生活を送っていた。
 一応、親戚から借りたり教育ローンを受けたり、奨学金を借りたり、なんとか卒業をした。
「私たちは学がないからね。お父さんも中卒で苦労をしたの、あんたは立派な会社へ入って、私らに楽をさせておくれ」
 そんな事を言って、年金すら払っていない。

 お金がなくて、子どもは私一人。
「娘に全部頼る親ってなんなのよ」
 無論、感謝はしている。だけど……

 化粧もせず、贅沢もせず、ひたすら勉強をした。
 だけど思ったところには就職ができず、ランクは下がっていく。
 そんな中で、中くらいの会社に就職が決まった。
 従業員は三百人程度の製造業。

 そこでも、目立つこともなく、仕事をしては帰り、ラーメンをすする日々。
 そんな中で、少しだけ溜まるお金が嬉しかった。

 数ヶ月が経った頃、珍しく工場の人から声がかかる。
「飲み会に行かない? 忙しい?」
「えっ、いいえ」
 大学時代、数回誘われたが、乗りについて行けず足は遠のいていた。
 だけど、職場のだし、少しだけ……
 そう思い、参加をしてみた。

 余所の会社の人も居て、『人生を楽しく、若手が集う合コン第八弾』と言うタイトルの飲み会だったらしい。

 今時合コン……

 だけど、挨拶をした後、私の周りは過疎っていく。
 人が集まる中心は、やはり乗りが良くスキンシップの多い女の子。
「やだあぁ、エッチ」
 などと言いながら、自分から胸を押しつける。

 思わず心の中で、ケッとか思ってしまう。
 そんな時、横に来たのは別会社の仁だった。

 そんなに、高そうな服で決めてと言うわけではなく、だけど不潔感とかもない。
 関連会社だし、この場にいる人のお給料は大体想像がつく。

「彼女がいなくて若いから丁度良いって、呼ばれたんだよ」
 うん定番。僕は別にがっついていなくて、そんなに興味は無いんだけどねと言うポーズ。

「そうなんですね」
 見たことない人とは、何を喋っていいのか分からず、それに怖い。
 でもまあ、暴力的な感じはないし、普通かな。

「綺麗な目をしているのに勿体ない。もっとフレームの色が薄いめがねとか、フレームレスとかすれば、随分かわいくなれるのに」
 酔っているのか、人の顔を見てそんな事を言ってくる。
 
「綺麗? かわいい…… ですか?」
 でもそんな事を言われたのは初めてで、少し心臓が跳ねる。
 急に恥ずかしくなってきた。

 話しの流れで、彼と翌日買い物に行く約束をした。
 酔った勢いで、いきなりホテルに誘われるとか思っていたので、安心をした。
 でもこんな私だから、誘われなかったのかも。
 そんな思いも……

 キャピキャピ娘は、数人の男の人と次に行ったようだ。

 翌日、めがねを買いに行って、随分軽いフレームとレンズで作った。
 仕事用と、普段使いよう。
 度が随分と変わっていて、目を細めなくても見えるようになった。
 乱視が強くなっていて、調整をしたから床が上がって見える。
「きゃっ」
 躓き、彼に助けて貰う。

 意外なことに、抱きつくとがっしりした体。
 へえ意外……
 彼もやっぱり男の人なんだ。

「ねえ美容院とか、こだわりがあるの?」
「いいえ」
 惰性で行っている、実家近くの知り合いのお店。
 子どもの頃からの知り合いで、たまに行くくらい。

 他の所は、カットだけで五千円とか、一度友達と行ってビックリした。
 
 彼は何かを調べると、突然言い始める。
「予約をしたから行こう。そのめがねに合うように、少し色を抜いて軽めにして。そうすれば多分もっとかわいくなれる」
 じっと見つめながら、彼はそんな事を言ってくる。
 どうしよう、胸のドキドキが止まらない。

「かわいくですか?」
「ああ」
 そしてそこから、私の人生は変わって行く……
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