泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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譲れない戦い

第3話 思いついた計画

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「ふわぁ、綺麗なお部屋」
 そう言って彼女は、キョロキョロと部屋を見回す。
 玄関から、シューズインクローゼット、そして、正面にはウォークインクローゼットがあり、右手に廊下が延びている。
 突き当たりに、十二畳ほどのLDKがある。
 今ここだな。

「そうか? 段ボールはそこへ置いといてくれ。ありがとう。お茶でも…… それとも汗をかいたならシャワーでも浴びるか?」
「ありがとうございます。えっシャワー。 そうですよね。お借りします」
 何を思ったのか、彼女はそう言ってギクシャクと、案内されるまま廊下の途中にあったドアを開けて、洗面所を抜けてシャワールームへと向かう。

「使い方は分かるな」
「はい多分。これ、浴槽使っちゃだめですか?」
「なら、ためよう」
 湯張りボタンを押す。

 よく見れば、浴室に彼女のシャンプーとか、ボデイブラシがあるがまあいい。
 今度捨てよう。

「ボデイタオルはこれ」
「はい、ありがとうございます」

 上水 さくらうわみず さくらは、湯船に入るのが大好きだった。
 そう水道代とガス代、何か大事なとき以外は、湯船を使えなかった子ども時代。

「うわ、このブラシで体洗うのかなぁ」
 ブラシで洗うなど、イメージ的にはセレブ。
 使って良いシャンプーとか色々と聞きたいことがあったが、もうすでに服を脱いでいるため、呼ぶのは恥ずかしい。

 シャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー。
 ボデイシャンプー…… なんで二種類ずつ?
「これが、体を洗う奴ね」
 彼女が残した物とか、そんな事にも気がつかず適当に使う。
 気がつけば、ワクワクしながら体を洗っていた。
 ジャグジーにも気がつき、スイッチを入れる。
「女優さんみたい」

 湯船は、一千六百タイプ。
 四百五十リットルの大型。
 取っ手付き、ジャグジー付き。
 もう、嬉しくて、一時間以上も入っていた。

 一方、仁は痛み止めを飲んだが、二日酔いは改善せず。
 思い立って、迎え酒にビールを飲みながら、持ち帰った箱を整理する。

 下着や、簡易的な寝間着。
 暮らしやすいので、アイツの方がすぐに家へと転がり込んで来た。

「後はお土産と、プレゼント。高そうな物とかは…… 入ってないな」
 入っているのは、どこかでふと買ったぬいぐるみとか、ねだられたアクセサリーの類いは全然入っていない。
 持っていても仕方が無い。ざらざらと、不燃物用のゴミ袋に放り込む。

 そしてふと気が付くと、彼女が出てこない。
「沈んでないだろうな」
 そう思いながら、風呂場へ向かう。
 得てして、そういう頃に出てくるもの。

 ドアが開き、彼女が出てきた。
 俺を見ても意外と平気で、逆に浴槽の心配をする。
「あっ入ります? それなら洗って」
 そう言って、浴室に戻ろうとした。

「ああいい。もう一時間以上経ったから、心配になっただけだ」
「一時…… えっそんなに? ごめんなさい」
「良いから体を拭いて、髪も乾かして」
「はい」
 そう、体を少し流すだけのつもりだった。
 だけど、髪を洗い、トリートメントとかついついやってみた。

 良いけれど、仁の前で裸のままクルクルと回っている。
 したことが無いと言ったけれど、本当はどうだろうな。

 ただ、体つきは脂肪が少なく、絞まっていると言うよりは痩せている。
 ガリガリという感じ。そう全体的に貧相。

 そんな事を思ってしまった。

 さくらは子どもの頃から貧乏で、その後も、一生懸命貯蓄のために、野菜中心で暮らしていた。
 そう、お腹が鳴らない程度に何かを食べれば良い。
 そんな生活をしていた。

 そして、あわてたさくらが落とした下着。

 彼女としては、今日のために頑張ったが、それでも安物。
 そして着ていた服も、一見しゃれた感じだが、お安い店の商品。
 そして、髪の毛先も傷んでいるし、不揃い。

「えーと、流石に恥ずかしいのですが……」
 体を拭いているところを、まじまじと見てしまうと、流石にはずかしいようだ。

「ああ悪い」
「それとも、お風呂場でします?」
 そう聞かれて、思い出した。

「そういえば、俺と寝たいのだっけ?」
 そう言われて、彼女も思い出したようだ。
「えっはい。良ければ」
 さっきの体を見ると、素材は良さそうなのに食指しょくしは動かない。
 単純にしたいからと言うわけでも無さそうだし、どうしてか、理由くらいは聞いてみようと思う。

「うーんまあ。服を着ろ。話を聞いてやる」
「はい」
 さくらは驚く。
 男の人は、裸など見れば、飛びついてくると思っていた。

「男なんか、動物よ。穴がありゃ何でも突っ込むんだから」
 呪いの様に、母親が言っていた言葉。

 高そうな器に入った御茶。
 個人宅で、彼女はティポットを初めて見た。
 類友というか、高校時代とか仲良くなった子達も、まあ周りも貧乏だった。
 透明なお湯の中で泳ぐ茶葉。

 高そうなカップが、自分の前に供される。

 ついでに、クッキーまで。
 茶菓子は市販品だが、常備している。
 アイツが、ネズミのように囓っていたからだ。


 だが目の前のこいつも、ネズミのようにかじりつき、目を見開いてスピードが上がる。
 手を出そうとして、止まるので食べて良いと促す。


 それでまあ、話を聞く。驚くことに、十万のために体を売ろうとしていたこと。
 親が悪い事……
 それを聞いて悩む。

 金を払い、接見禁止は簡単にできるだろう。
 だが本人は、今回の十万で満足をする様子。

 話を聞いた感じ、底辺の暮らしで慣れてしまい、大多数の普通の暮らしができていない。
 いよいよもって、游子と同じ感じ。
 彼女も親が商売人で、苦労をして育てられた。
 幾度か会ったが、両親からの値踏みをする様な目がちょっと目についた。


 今働いている会社は、中小の小に近い会社だ。
 残業がなく、カレンダー通りの休み。それだけが目当てで決めた。

 掛け持ちのバイトも可だ。
 そこの経理で働いて、基本その給料だけで暮らせる。

 そう、会社は腰掛けというか、本業はトレーダー。
 デイトレーダーではあるが、自動売買でほぼ動いている。

 このマンションも大学の時に買った。
 仕事部屋にある機材は、游子はゲーム専用機だと思っていたはずだ。

 まあ今でも、ストーブのようなマイニングマシンは一応動いているし、素人なら何が何やら分からないだろう。

 そして、会社の給与明細を見て、俺の給料は安いと彼女は思っていた。

 だけど、付き合いだしてから美容院へ行くことを勧め、まともな下着まともな服、それらを与えたのは俺だった。
 支払いを俺がしていたから、金額を知らなかったのか?

 そうして、ある程度見られる感じになった彼女は、男から見られることに気がつき有頂天になった。そして、自分に興味を持つ、適当なスペックの男に乗り換えた。
 まあなぁ。マンションの事にしても賃貸と勘違いをしていただろうし、買うという考えはなかったのかもしれない。

 あいつが連れていた男。まあまあのスーツ。
 そこそこはするものだろうし、年齢も上そうだった。

 年収、五百から六百くらいだろうか? おれが、四百二十万円。
 俺もあの年になったら年収は追いつきそうだが、きっとそんな事は考えていないんだろう。まあ良い。

 ネズミのようにカリカリとクッキーをかじる彼女は、磨けばアイツより確実に美人になれる。おれは、こいつを磨いて、奴に後悔させるというショボい計画を立てる。
「銀行口座を教えろ。お前を買ってやる」
「えっはい」
 こうして彼女は、俺が奴に見せびらかすためだけに、磨かれることになった。
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