泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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譲れない戦い

第1話 下心満載の出逢い

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 その日、俺は二日酔いで死んでいた。

 その日、私は獲物を探していた。

 そして、出会った……

「ねえお兄さん、道を教えてくれない?」
 若そうだけど、さえない感じの男。
 女の子に声をかけられただけで、舞い上がりそうな感じでしょ。

 私は最初そう思った。
 でも……
「ああっ? なんだあんた、今時スマホも持っていないのか?」
 ひどく鬱陶しそうに、返事をされる。

「えっ? スマホ? 持ってるけど?」
 えっなに? 叱られた? 目付きが怖い、この人逆らっちゃ駄目な人だ。
 俯いていた顔が、ゆっくりと上がり、私の顔を見る。
 そう、じっとこちらを見る目が、何か普通じゃない。
 でもそれは、薬をやっているとかそんな感じではなく、ひどくめんどくさそうで、投げやりで……

 でも、私も目が離せない。

 子どものとき、幾人か代わったお母さんのボーイフレンド。
 その中にいた、本当に危ない人。
 その人は、あっさりと刑務所に入った。

「なら、スマホに聞け」
 そして、その目はこっちを向いているけれど、私を見ていない。
 なにこいつ? キュートでプリティな私に興味が無いの?
 私も必要になり、ファッションも化粧も勉強をして、少しは自身があるの。それに、明日までにお金を十万円作らないといけないのに。

 足が震える。
 でも、逃げることさえ怖い。
「えーとどうやって?」
 スマホを彼の前に出す。

「マイクを押して、行きたい場所を言えば良い。あんた若そうに見えるが、作り物か?」
 なっ、なんて言うことを。
 つい本当の年を言ってしまう。

「失礼な、ピッチピチの二十四歳よ」
「ピッチピチ…… 今時。ふふっ」
 そう言ってこいつは笑った。
 思わず顔が赤くなる。

 子どもの頃は貧乏だったし、高校を卒業するまでスマホは持っていなかった。

「高校は卒業できたんだ、家から出て行きな」
 お母さんにそう言われて、追い出された。

 そう、私は高校卒業のときに、社宅有りの工場へ入社をした。
 食品会社だった。

 給料は少ないけれど、安い社宅のおかげで何とか暮らせた。
 二年ほど、遊びもせずに真面目に働いて、手元に五十万円もの大金が貯まった。

 そのかわり、化粧もせず、服も近くのしもむらとか言うチェーン店。
 休日は、高校のときのジャージが普段着だった。

 無論同い年の男の子もいたが、怖かったし、近寄らなかった。
 そして女の子はもっと駄目。

 いい男を捕まえるとか言って付き合っては、騙され抱かれたあげく、お金まで取られたとか。
 お母さんが、よく引っかかっていたから知っている。

 そして、一方的に放り出したお母さんから、電話が掛かって来た。
「さくら元気かい。今度の休みに帰ってきな」
 そんな内容。

 気は乗らないが、帰ることにした。

「君がさくらちゃんかい? かわいいね麻衣まいちゃんに、こんな大きな子どもが居たなんて知らなかったよ」
 そうお母さんは、十八歳で私を産んだ。

 その時に家を飛び出して、おじいちゃん達と縁を切ったらしい。
 
 そして結局は、その時に付き合っていたお母さんの彼氏、その人が起業をするから保証人が必要だという話し。
 金額は五百万円で、幾人かで連帯をするからと言う話。
 儲けが出れば、その分は払うとか?

 で、まあ嫌がったけれど、お母さんのごり押し。
 まあ三年後のとんだとき、私はその時の五百万だけだったからまだまし、その後の追加まで受けた人達はもっと悲惨だった。

 それで結局とんじゃって、お母さんも当然支払い義務があり、私も。
 その人、複数の女に同じ様なことを言って、借金をして逃げたの。

 まあ銀行と話をして、残っていたお金をなんとか月三万円くらいで払えるようにお願いをした。

 お母さんも無理なく払えるようにしていたはずだけれど、無理だったようだ。
 百万円近くあった貯金は、これのおかげで、一気になくなってしまった。

 でもまあ、あと数回で終わり。そんな時、銀行さんから連絡があった。
「お母様の支払いが止まっております。ですので、この十日までに一括で残高分を入金ください。では」
 そんな一方的な通知と、送ってこられた内容証明。

 支払いない場合、訴訟も視野に検討しております。
 そして以降の請求業務は、債務管理なんとか株式会社へ権利を移行します。

 私は知らなかった、調べればなんとかなったことも。

 そしてこのくらいなら、会社だろうが、銀行だろうがノンバンクだろうが、貸してもらえることを。
 だが給料日の十日前に、十数万を用意する。
 その事だけが、ぐるぐると頭の中で回っていた。

 そして子どもの頃から幾度も見た光景。
 体を差しだし、お金を貸してと甘えれば、男はお金を貸してくれる。

 そう母親の得意技。

 だけど、私は母の姿を見て、男の人と触れ合ったことはなかった。
 普段見せない、だらしない顔、一音高く甘える声。
 そして、母は気がついていなかっただろうが、耳に残る嬌声。

 確かに高校の時とか、格好いい男の子もいた。
 でも、興味は湧かず。
 喋ったこともない人に、好きとかそんな感情を持つことはなかった。

 でも、覚悟を決めて、安い化粧品を買い、道行く人を半日眺めて、バッチリ化粧をする。
 そう、スマホで調べる?
 そんな事など思いもしなかった。
 ただ色々ついた電話。
 買うときに、電話だけで良いと言ったけれど、買わされたもの。
「今時はこれです。後は、お年寄り用とか、お子様向けですね」
 そんな感じだった。

 人通りで相手を探す。でも……
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