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偶然の出逢い
第1話 拾った彼女
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光のあまりない山の中の公園。
町が何を思って整備をしたのか判らないが、山の中に遊具を備えたキャンプサイトがある。
バンガローも数棟あるが、本当に山のてっぺんなので楽しめる物は無い。
しかも許可は、町中の役所に行かないといけなくて、おおよそ二十キロ離れている。
だがまあ、星を見るには最高の所。
いつもの様に、軽く作れる食料を持って、出かける。
車の後ろを少しいじって、寝られるようにしてある。
今は十月。
りゅう座流星群が見えるようだ。
午後十時頃が極大となり一時頃までが見頃。
天体望遠鏡やらカメラを積み込み、夜八時頃から出発をした。
途中の道は狭く、ひどくくねくねとして気を使う。
だけどそんな道を、普通車がすごいスピードで下っていった。
「あぶねなあ、いまどきイニDごっこか?」
昔流行ったアニメだ。
夜中に車で峠道を攻める。
リアルでそんな事をすれば、迷惑だし、金が幾らあっても足りなくなる。
タイヤがさあ、一月で無くなるんだよ。
月に十数万飛んで行く。無理だ。
まあ気を取り直して、くねくねと上がっていく。
狸が走ったりするのはよくある光景。
そして、町道の主線を外れて、公園へ向かう道へ入る。
車が剥がれて落ちそうな勾配、いつ来ても怖い。
特にここは冬になると雪が積もり凍る。
一度来たときは、途中で諦めて戻るにも死にそうになった。
タイヤがフルロックになると、コントロールができない。
ハンドルとサイドブレーキだけで方向を決めて下るんだ。
アクセルは当然踏まずに、セレクターはブレーキモード。
つまりエンブレ全開で、曲がる切っ掛けをハンドルで行い、切れ角はサイドブレーキで決める。
足踏みとか、ボタン式のサイドブレーキなら数日帰れず、泣いていただろう。
とにかくそんなやばい道。
最後の、ジェットコースターのような坂が終わり、平坦路に来る。
駐車場に車を止めて、観測の準備をしながらコーヒーを淹れる。
「流星だから、タイムラプスはどうかなぁ。光量が厳しいか……」
などといつもの様にぼやく。
この時期でも、標高が九百メートル近い山頂は寒い。
そして、俺は引っくり返る。
「あのお」
誰も居ないと思っていたところで、背後から声をかけられたのだ。
驚くさ、危うく、ちびる所だったし。
「驚かせてごめんなさい」
見ると、かなり若い女の子?
「こんな時間に、高校生が何しているの?」
そう聞くと、困ったように答えてくれる。
「ありがとうございます。でも、二十三ですから高校生ではありません。成長をしなかっただけで」
彼女は鼻水をすすりながら答える。
そう、彼女はさっきまで泣いていた様だ。
山を越えた反対の県に住んでいるらしく、なんだろう出会い系アプリ?
親がやかましくて、一応婚活とやらに手を出したようだ。
それでまあ今日の昼に、初で会った男。
ドライブがてら、『星を見に行こう』とか言ってここへ来たらしい。
暗いけれど、ヘッドライトで灯せば遊具はあるし、夜露でびしょ濡れだったが楽しかったそうだ。
ところが、その男さん、出会ったその日に性急に体を求めてきて、彼女は拒否をした。
それでも襲われそうになって、警察に電話をするからと言ったら彼女を捨てて帰ってしまった様だ。
彼女に上着をかして、テーブルまで出して、コーヒーを飲みながら会話をした内容がこれだ。
本当なら、予定を諦めて送っていくのが正解だが、俺は見たかった。
天体観測の良日は、替えが無いのだ。
「ごめんね。休日前で丁度良い日というのが、今日しか無いんだ。あっお汁粉食べる?」
「いいえ、こちらこそ、申し訳ありません。あの後気が付いたら、ここって電波が入らないんですね」
「あーそうかな。だとしたら危なかったね」
そう相手が気が付けば、強引にやられた可能性がある。
「ええ。向こうが知っていたら、無理矢理。第一発見者が星野さんでしたね」
そう言って、笑顔を向けてくる。
「冗談にならないからやめて」
彼女は笑いながら、そう言えるようになった様だが、かなり落ち込んでいた。
知らない場所で真っ暗。
スマホは圏外。
時間と共に、かなり冷え込んできて辛い。
施設はあるから、朝になれば何とかなると思っていたようだが、此処の食堂はイベント時だけ開く。
そう明るくなったら判っただろうが、今は廃墟に近い。
俺は、星野 好夢。
二十八歳の会社員。
休みがカレンダー通りという事で、今の仕事を決めた。
彼女は、細見 万葉、言った様に二十三歳だけど百五十三センチ。
ああ彼女の自己申告によるとだ。
デートだという事で、上のシャツとニットカーデガンは良いとして、デニム生地の巻きスカートが短めで、座ると微妙に男心をそそる。
「そのスカートが危険だったかな?」
「ええ? そうですかね」
彼女はそう思っていないようだ。
無造作に裾を捲り覗き込む。
この子、やることが無警戒というか、少し幼い?
「ぼちぼちだな、電気を消すよ」
テーブル上においた、LEDランタンのスイッチをオフにする。
キャンプチェアのリクライニングを操作して、背もたれを倒すと頭上から星が降ってくる。
放射点は北西、放射点の角度は三十度程度だが、キャンプチェアに寝転がっていると、良い具合だ。
「わあ、綺麗ですねえ。これを見た後なら、キスくらいされてもよかったかも……」
この子……
町が何を思って整備をしたのか判らないが、山の中に遊具を備えたキャンプサイトがある。
バンガローも数棟あるが、本当に山のてっぺんなので楽しめる物は無い。
しかも許可は、町中の役所に行かないといけなくて、おおよそ二十キロ離れている。
だがまあ、星を見るには最高の所。
いつもの様に、軽く作れる食料を持って、出かける。
車の後ろを少しいじって、寝られるようにしてある。
今は十月。
りゅう座流星群が見えるようだ。
午後十時頃が極大となり一時頃までが見頃。
天体望遠鏡やらカメラを積み込み、夜八時頃から出発をした。
途中の道は狭く、ひどくくねくねとして気を使う。
だけどそんな道を、普通車がすごいスピードで下っていった。
「あぶねなあ、いまどきイニDごっこか?」
昔流行ったアニメだ。
夜中に車で峠道を攻める。
リアルでそんな事をすれば、迷惑だし、金が幾らあっても足りなくなる。
タイヤがさあ、一月で無くなるんだよ。
月に十数万飛んで行く。無理だ。
まあ気を取り直して、くねくねと上がっていく。
狸が走ったりするのはよくある光景。
そして、町道の主線を外れて、公園へ向かう道へ入る。
車が剥がれて落ちそうな勾配、いつ来ても怖い。
特にここは冬になると雪が積もり凍る。
一度来たときは、途中で諦めて戻るにも死にそうになった。
タイヤがフルロックになると、コントロールができない。
ハンドルとサイドブレーキだけで方向を決めて下るんだ。
アクセルは当然踏まずに、セレクターはブレーキモード。
つまりエンブレ全開で、曲がる切っ掛けをハンドルで行い、切れ角はサイドブレーキで決める。
足踏みとか、ボタン式のサイドブレーキなら数日帰れず、泣いていただろう。
とにかくそんなやばい道。
最後の、ジェットコースターのような坂が終わり、平坦路に来る。
駐車場に車を止めて、観測の準備をしながらコーヒーを淹れる。
「流星だから、タイムラプスはどうかなぁ。光量が厳しいか……」
などといつもの様にぼやく。
この時期でも、標高が九百メートル近い山頂は寒い。
そして、俺は引っくり返る。
「あのお」
誰も居ないと思っていたところで、背後から声をかけられたのだ。
驚くさ、危うく、ちびる所だったし。
「驚かせてごめんなさい」
見ると、かなり若い女の子?
「こんな時間に、高校生が何しているの?」
そう聞くと、困ったように答えてくれる。
「ありがとうございます。でも、二十三ですから高校生ではありません。成長をしなかっただけで」
彼女は鼻水をすすりながら答える。
そう、彼女はさっきまで泣いていた様だ。
山を越えた反対の県に住んでいるらしく、なんだろう出会い系アプリ?
親がやかましくて、一応婚活とやらに手を出したようだ。
それでまあ今日の昼に、初で会った男。
ドライブがてら、『星を見に行こう』とか言ってここへ来たらしい。
暗いけれど、ヘッドライトで灯せば遊具はあるし、夜露でびしょ濡れだったが楽しかったそうだ。
ところが、その男さん、出会ったその日に性急に体を求めてきて、彼女は拒否をした。
それでも襲われそうになって、警察に電話をするからと言ったら彼女を捨てて帰ってしまった様だ。
彼女に上着をかして、テーブルまで出して、コーヒーを飲みながら会話をした内容がこれだ。
本当なら、予定を諦めて送っていくのが正解だが、俺は見たかった。
天体観測の良日は、替えが無いのだ。
「ごめんね。休日前で丁度良い日というのが、今日しか無いんだ。あっお汁粉食べる?」
「いいえ、こちらこそ、申し訳ありません。あの後気が付いたら、ここって電波が入らないんですね」
「あーそうかな。だとしたら危なかったね」
そう相手が気が付けば、強引にやられた可能性がある。
「ええ。向こうが知っていたら、無理矢理。第一発見者が星野さんでしたね」
そう言って、笑顔を向けてくる。
「冗談にならないからやめて」
彼女は笑いながら、そう言えるようになった様だが、かなり落ち込んでいた。
知らない場所で真っ暗。
スマホは圏外。
時間と共に、かなり冷え込んできて辛い。
施設はあるから、朝になれば何とかなると思っていたようだが、此処の食堂はイベント時だけ開く。
そう明るくなったら判っただろうが、今は廃墟に近い。
俺は、星野 好夢。
二十八歳の会社員。
休みがカレンダー通りという事で、今の仕事を決めた。
彼女は、細見 万葉、言った様に二十三歳だけど百五十三センチ。
ああ彼女の自己申告によるとだ。
デートだという事で、上のシャツとニットカーデガンは良いとして、デニム生地の巻きスカートが短めで、座ると微妙に男心をそそる。
「そのスカートが危険だったかな?」
「ええ? そうですかね」
彼女はそう思っていないようだ。
無造作に裾を捲り覗き込む。
この子、やることが無警戒というか、少し幼い?
「ぼちぼちだな、電気を消すよ」
テーブル上においた、LEDランタンのスイッチをオフにする。
キャンプチェアのリクライニングを操作して、背もたれを倒すと頭上から星が降ってくる。
放射点は北西、放射点の角度は三十度程度だが、キャンプチェアに寝転がっていると、良い具合だ。
「わあ、綺麗ですねえ。これを見た後なら、キスくらいされてもよかったかも……」
この子……
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その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
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