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人恋しさと、出逢い
第1話 道ばたで拾った彼女
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秋の夜長と言うが、仕事の帰り。
もう終わってしまったバス停に、ぽつんと座る女の人。
田舎だから、九時前にはバスは終わる。
やめれば良いのに、十一時の淋しい道ばたに車を駐め、バス停まで歩いて戻る。
月齢は満月が近く、比較的明るい。
周囲では稲刈りが終わったのか、独特の匂いが立ちこめる。
ベンチに座ったまま、微動だにしない女の人。
此処で、少し後悔をした。
やばい人だったらどうしよう。
最近聞く、常識の無い女の人。意識高い系を振りかざし、他人を振り回す。
そんな人が、アパートを追い出されたとか?
つい旦那を刺したとか?
勢いのあった歩みは、徐々に遅くなる。
この時間、車は全く通らない。
そう務めているような工場は、大抵住宅地から離れたところに建てられる。
そのおかげか、出逢いも少ない。
現実にはそうではなくとも、俺はそう思っている。
勇気を振り絞り、声をかける。
「もう、バスは終わっていますよ」
俯いていたその人は、泣き濡らした顔を上げた。
しまった、余計なお世話だったか。
「そうなんです。困っていたんです……」
あっ普通ポイ。
「えーと、何処まで行くつもりだったんでしょうか?」
「お家へ、実家へ帰ろうと思って……」
意外とかわいい子? 子という歳ではないだろうが、俺より若い。たぶん。
俺は三十二歳。
独身。
遠野 晩成。
親は何を思ってこんな名前をつけたのか、聞いてもいつもはぐらかされる。
とりあえず、彼女を車に乗せる。
素直に付いてきて、黙って乗るのもどうかと思うが、その後すぐに秋雨なのか雨が降り始める。
「タイミングよかったですね」
「ありがとうございます」
そう言ったまま、やはりまだ、ぐしぐしと泣いている。
帰り道を外れて、駅前に向かう。
そっちはまだ、動いているだろう…… いやもう十一時過ぎ、無理かな? 普段乗らないから、時刻なんて知らない。
そう、駅前のロータリーも、死んでいた。
バス停の前に車をつけ、時間を見る。
「もうだめですね」
場所的に、助手席の彼女に覆い被さるように時刻を見ているが、反応が鈍い。
見知らぬ男が、覆い被さるような行動をすれば、普通は嫌がりそうな物だが、彼女は嫌がらない。
「そうですか……」
「―― どうされます?」
「どこかホテル…… あー…… お財布忘れました……」
はっとしたように、彼女は動き始める。
「さっきのバス停ですか?」
「―― いえ、多分飛び出したときに……」
「飛び出した?」
その時、彼女はしまったという顔をしたが、ぽつりぽつりと話し始めた。
旦那が、浮気していたこと。
お前はもう必要ない、判を押せと、用紙を出されたこと。
結婚をして、五年。子供が出来なかったこと。
住んでいたのは、旦那の実家で、姑さんの目が辛かった事。
「私なりに頑張ったんです。でも…… お姑さんの紹介で、私が居るのに……」
うだうだ言うので、何も持たずに飛び出したらしい。
「それは、相手の有責だから、慰謝料でも取って」
「―― もう、良いんです」
そう言って泣き始める。
金も無い、行き場もないこの人を残していくのも……
俺は途方に暮れる。
「俺一人暮らしで…… 気にされないのであれば家に来ますか? 独身用の狭いマンションですが?」
「いいんですか?」
なんだろうこの警戒心の無さ……
「お腹は? ご飯とか食べました?」
「そういえば、今朝食べたきり。あっ洗い物が終わってない。お洗濯も……」
「そんな物は、残った者がするでしょ。行きましょう」
そう、ファミレスとかもあったのに、飲み屋街のラーメン屋へ連れて行ってしまった。普段の生活が行動に出るな。
まあ山盛りの奴じゃない。
大丈夫だろう。
俺はいつもの様にカウンターへ行こうとして、テーブルへ座る。
少し粘つく椅子。
そう拭いてはいるが、歴史なのか雑なのか。
「いらっしゃいませ、遠野さんはいつもの?」
「ああ」
「えーとそちら、奥さん?」
「奥さんじゃない」
「か」
「彼女でも無い。―― 少し縁があってな」
「ナンパですか? まあ遠野さんなら安全だから安心してください」
そう言って彼女は、あかんべーをする。
此処の娘、りょうこちゃん。
親方が呼んでいるのを聞いているだけで、漢字もしらない。
「遠野さんですか、モテるんですね。あっわたしラーメンで」
「べっ、べつに遠野さんが好きなわけじゃないし…… あっラーメンね。ごゆっくり」
ごゆっくりって、まだ何も来てないし……
「あの私、伏瀬 涼子…… 別れたんだから、おかしいわね。布寓 涼子です」
「あっ遠野 晩成三十二歳独身です」
「ふふっ。お見合いみたいね。私は二八です」
今頃になって、自己紹介。
思わず二人とも笑ってしまった。
「へいおまち」
すごい雑な感じで、どんぶり達がテーブルにのせられる。
おまけでフンと顔を背けられる。
「やっぱり、遠野さんに気があるのね。かわいい」
そう言って、彼女は笑う。
レジの方に戻ってもあかんべーとしてくる。
だけど一度もそんなこと言われないし、たまに餃子が付くくらい。
「はて……」
もう終わってしまったバス停に、ぽつんと座る女の人。
田舎だから、九時前にはバスは終わる。
やめれば良いのに、十一時の淋しい道ばたに車を駐め、バス停まで歩いて戻る。
月齢は満月が近く、比較的明るい。
周囲では稲刈りが終わったのか、独特の匂いが立ちこめる。
ベンチに座ったまま、微動だにしない女の人。
此処で、少し後悔をした。
やばい人だったらどうしよう。
最近聞く、常識の無い女の人。意識高い系を振りかざし、他人を振り回す。
そんな人が、アパートを追い出されたとか?
つい旦那を刺したとか?
勢いのあった歩みは、徐々に遅くなる。
この時間、車は全く通らない。
そう務めているような工場は、大抵住宅地から離れたところに建てられる。
そのおかげか、出逢いも少ない。
現実にはそうではなくとも、俺はそう思っている。
勇気を振り絞り、声をかける。
「もう、バスは終わっていますよ」
俯いていたその人は、泣き濡らした顔を上げた。
しまった、余計なお世話だったか。
「そうなんです。困っていたんです……」
あっ普通ポイ。
「えーと、何処まで行くつもりだったんでしょうか?」
「お家へ、実家へ帰ろうと思って……」
意外とかわいい子? 子という歳ではないだろうが、俺より若い。たぶん。
俺は三十二歳。
独身。
遠野 晩成。
親は何を思ってこんな名前をつけたのか、聞いてもいつもはぐらかされる。
とりあえず、彼女を車に乗せる。
素直に付いてきて、黙って乗るのもどうかと思うが、その後すぐに秋雨なのか雨が降り始める。
「タイミングよかったですね」
「ありがとうございます」
そう言ったまま、やはりまだ、ぐしぐしと泣いている。
帰り道を外れて、駅前に向かう。
そっちはまだ、動いているだろう…… いやもう十一時過ぎ、無理かな? 普段乗らないから、時刻なんて知らない。
そう、駅前のロータリーも、死んでいた。
バス停の前に車をつけ、時間を見る。
「もうだめですね」
場所的に、助手席の彼女に覆い被さるように時刻を見ているが、反応が鈍い。
見知らぬ男が、覆い被さるような行動をすれば、普通は嫌がりそうな物だが、彼女は嫌がらない。
「そうですか……」
「―― どうされます?」
「どこかホテル…… あー…… お財布忘れました……」
はっとしたように、彼女は動き始める。
「さっきのバス停ですか?」
「―― いえ、多分飛び出したときに……」
「飛び出した?」
その時、彼女はしまったという顔をしたが、ぽつりぽつりと話し始めた。
旦那が、浮気していたこと。
お前はもう必要ない、判を押せと、用紙を出されたこと。
結婚をして、五年。子供が出来なかったこと。
住んでいたのは、旦那の実家で、姑さんの目が辛かった事。
「私なりに頑張ったんです。でも…… お姑さんの紹介で、私が居るのに……」
うだうだ言うので、何も持たずに飛び出したらしい。
「それは、相手の有責だから、慰謝料でも取って」
「―― もう、良いんです」
そう言って泣き始める。
金も無い、行き場もないこの人を残していくのも……
俺は途方に暮れる。
「俺一人暮らしで…… 気にされないのであれば家に来ますか? 独身用の狭いマンションですが?」
「いいんですか?」
なんだろうこの警戒心の無さ……
「お腹は? ご飯とか食べました?」
「そういえば、今朝食べたきり。あっ洗い物が終わってない。お洗濯も……」
「そんな物は、残った者がするでしょ。行きましょう」
そう、ファミレスとかもあったのに、飲み屋街のラーメン屋へ連れて行ってしまった。普段の生活が行動に出るな。
まあ山盛りの奴じゃない。
大丈夫だろう。
俺はいつもの様にカウンターへ行こうとして、テーブルへ座る。
少し粘つく椅子。
そう拭いてはいるが、歴史なのか雑なのか。
「いらっしゃいませ、遠野さんはいつもの?」
「ああ」
「えーとそちら、奥さん?」
「奥さんじゃない」
「か」
「彼女でも無い。―― 少し縁があってな」
「ナンパですか? まあ遠野さんなら安全だから安心してください」
そう言って彼女は、あかんべーをする。
此処の娘、りょうこちゃん。
親方が呼んでいるのを聞いているだけで、漢字もしらない。
「遠野さんですか、モテるんですね。あっわたしラーメンで」
「べっ、べつに遠野さんが好きなわけじゃないし…… あっラーメンね。ごゆっくり」
ごゆっくりって、まだ何も来てないし……
「あの私、伏瀬 涼子…… 別れたんだから、おかしいわね。布寓 涼子です」
「あっ遠野 晩成三十二歳独身です」
「ふふっ。お見合いみたいね。私は二八です」
今頃になって、自己紹介。
思わず二人とも笑ってしまった。
「へいおまち」
すごい雑な感じで、どんぶり達がテーブルにのせられる。
おまけでフンと顔を背けられる。
「やっぱり、遠野さんに気があるのね。かわいい」
そう言って、彼女は笑う。
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