泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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泡沫(うたかた)に見たもの

第4話 うーん

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 なぜか、つかめたら、彼も困惑をしていた。
 顔も普通になり、血も消えて。

 普段の紀嗣が、裸で目の前に……
「……」
 彼は困った様子で、誰かに助けを求める。
 すると壁から出てきた変なおじさん。
 今まで、幽霊なんて見たことなど無いのに、流石に驚き、掴んでいた紀嗣の頭が手の中で霧散をした。

 今度は、頭のない胴体が残っている。
 裸の体。
 急に恥ずかしくなる。

 壁から生えているおじさんは、聞こえないけれど、紀嗣と話をしているようだ。

『なんか力を持っている子なのかなぁ、反射するもので姿を見せるくらいだったのに、掴んでいたね』
『そう感触があるの。今も、彼女に触れている体。判るんだよ。どうしよう』
『どうしよう。脅かすのはちょっと無理かなぁ。この子この状態でも普通そうだし』
 そう、思ったより驚いてくれなかった。
 
『とりあえず。失敗だ。ごめんね』
『ううん。いい。じゃ最後に』
 そう言って彼は、彼女の脇腹をくすぐり始めた。

 冷静だった彼女はどこへやら。
 浴槽に沈むように引っくり返る。

 その時、大量に水を飲み、むせた。
 何とか這い上がると、すでに彼もオッサンもいなくなっていた。

 浴室から出て探しても見つからず、バスタオル一枚で、玄関から外を見る。
 彼の家は、静まりかえっていた。
 キョロキョロするが、やはりいない。

 翌日彼女は、見舞いに行く事にした。
 それは、風呂場でくすぐられたとき、お湯を通して見えた彼の顔。私には懐かしい笑顔。嬉しそうにくすぐる彼の顔が一瞬見えたから。
 そう、ほんの一年と少し前まで、当たり前だったよく見た顔。

 小学校も高学年となり、もう体も変わってきて、他の男子に触れられるのも嫌だった。
 でも、紀嗣は違った。
「なんか大きくなってきて痛いの」
 そう言って、胸を揉ませたこともある。

 意地悪な顔をして、くすぐってくる彼のことが好きだった。
 今のような、冷たい目ではなく暖かく…… 優しかった。

 病院は面会謝絶でもなく、普通に入れた。
 どちらかと言うと、運転をしていたお母さんの方が、ガラスで顔を切ったり色々ひどいらしい。
 助手席側からぶつけられ、運転席側を下にしてくるまは倒れた。
 だからなのだろう。

 ぶつけられた車は、何メートルも滑って壁にぶつかり止まったらしい。
 噂では、歩いていた人が亡くなったとか。

 彼は、病室で普通に寝ていた。
 無論コードなんかが繋がっていたけれど、そんなに悪くはなさそう。
 起きてと言えば、起きそうな……

「ねえ。紀嗣…… ごめんね。虐め。ひどいことだと判っているの、でもやめられなくて」
 そう言った瞬間、バイタルのシグナルがフラットに。
 あわてて布団を捲ると、センサーが指から離れていた。
 急いで付け直す。

 走ってきた看護師さんに説明をする。
 その時、捲られた布団。
 車がぶつかった側。左は手足にギブスが巻かれていて痛そうだった。
 そして、下半身にも管が刺さっていた。

 ぱっと見には、判らなかったが本当にけが人だった。
「彼、大丈夫なんですよね」
 つい看護師さんに聞いてしまう。

「うん。大丈夫。なあに、妹さん?」
「いえ、その…… 幼馴染みで」
「あら。いいわね。意識無いけど、いたずらしちゃ駄目よ」
 そう言って笑われた。

 なぜ布団を捲る??
 いや興味はあるけど…… そっと布団を直す。

 なんだか……
 そっと彼に、キスをする。
 そんな物語を読んだことがある…… 
 おまじないよ。

「何をするんだ? 芽季。俺のことが嫌いじゃなかったのか」
 彼は目を開けず。
 いきなりそんな事を聞いてきた。
 これは夢??

「嫌いじゃない…… 好きなの。最初は焼き餅で…… ごめんなさい」
 なぜか、素直に言葉が出た。
「うーん。許すかどうかは、これから決めよう。それと重要な事を教える。メモをするか覚えてくれ」
 そう言って彼は、お父さんの浮気相手のこと、そして勤め先まで教えてくれた。

 そしてこの時には、幽霊となって彷徨い。
 この女の人が付き合っていた人と、幽霊になって知りあったと言っていたが、二日もすれば、彼はスコンとその事を忘れてしまっていた。

 だけど、うちのお母さんは彼に感謝をしていた。
 そして私は、お母さんを怒らせると怖いことを知る。
 ふだん優しい人は、怒らせてはいけない。

 お父さんと相手、とことんまで追い込み、ちょっとした事故で不倫という犯罪を犯したことが、会社にまでバレたようだ。

 そして、紀嗣。
 退院後、学校へ来たとき、性懲りも無く奴らは手を出した。

 無論、今回私は混ざっていない。
 だから、彼は普通に抵抗をした。

 それはけが人を差し引いても容赦のないものだった。
 目突き、金的、何でもあり。
 ついでに、持っていた松葉杖で袋だたき。
 無論、きっちり手加減はして、後遺症が出るようなレベルではない。
 私も知らなかったけれど、空手? 暗殺術?をしていたこと。

 通信教育と言っていたけれど、おじいさんが道場をしていて、夏休みなどに集中訓練。
 まだ小さいから、適度に鍛えていたらしい。
 今までは、私がいたから反抗をしなかったらしい。
「いないから、遠慮無くボコった」
 そう言って笑っていた。

 私は覚えていなかったが、昔、型を見せたとき、私が怖いと泣いたらしい。

 そして、彼らの陰湿ないじめを学校側が隠蔽をして、彼だけを自宅学習にしようとしたとき、なぜかうちの母と弁護士さんが登場。
「うちの娘が、紀嗣君を虐めていたらしいざます」
 そんな、妙なキャラまで作って、どこから集めたのか、大量の動画まで持参をして。

 それを見て、相手の親たちは絶句。
 彼らは、ボコボコにされたそうな。
 逃げようとした学校だが、何かをしようとすると、先回りをして情報が出される。
 先生が泣きながら、告発をしたりとか。
 『学校が』『教育委員会が』『PTAがぁ』

 そして私は、今回罪らしい罪は負わされていないが、紀嗣を虐める自分の姿を客観的に見せられ、ひたすら説教をされた。
「これからは、かわいい紀嗣ちゃんのしもべとして暮らしなさい」
 お母さんは、いつの間にか洗脳されていた。

 その顛末を見て雲野 示希くもの しき。享年二十九歳は胸をなで下ろす。
 不倫騒動もまとまったし、万々歳だ。

「さて俺は、いつまで彷徨うのだろうか……」

 彼は、成仏もさせてもらえず、幾多の人世に少しだけ関わりながら、現世に留まっていたようだ。


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 夏向け? ですかね、怖そうで怖くない話。
 続編も書けそうですが、書くなら別作品として書きます。
 幽霊の世直し?
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