泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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泡沫(うたかた)に見たもの

第2話 皆の事情

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 ふらふらと、取引先へ向かう。
 空を飛ぶと、渋滞もなく早く着く。新発見だな。

 壁を抜けて、担当さんを見つける。
 だが、普段から少し変な顔だが、さらに変な顔をして彼は、なぜかスマホをじっと見ている。
 うん? どうしたんだ?

 おもむろに彼は席を立つと、上司の上野係長だったな。彼の所へ行く。そして相談をし始める。

「約束の時間に、雲野くものさんが来なくて、連絡をしたのですが…… 警察の方が出られて、その…… 多分亡くなられた方が、その人じゃないかと言われたんです。ですが、詳細がはっきりするまで広めないでくれと言うことですが、納期を考えると発注をしないとまずいんですよね。どうしましょう?」
「うーん。仕方が無い。今回だけ割高商会へ発注しろ。一回だけだと、念押ししろ。あそこは単発とは聞いていないとか言い張って、勝手に持ってくるからな」
「はい」

 俺はこっちで、頭を下げる。
 見えてはいないだろうが、気持ちだけ。

 多分他の会社も、同じことを繰り返すのかもな?
 事故などで、明らかに死んだときは、警察で検死が入る。
 事件性のあり無しで、行政と司法の解剖が分かれるらしい。
 事件性がなければ家族に、その後に連絡が行く。数日かかるらしいが。

 俺はふらふらと、実質の婚約者である空音の会社へ向かう。
 そういえば、彼女の仕事している姿は見たことがない。
 お別れついでに、職場参観をしよう。

 だがまあ、何というか、彼女は自身で言っていた言葉と違い、出来る女ではなかった様だ。彼女が拘っていた、産休明けに、有利なポジションに返り咲く宣言は何だったのか?
 現状どう見ても、煙たがられるお局さんタイプ。

 机のノートパソコンで、検索中。まあファッションとコスメ。
 その辺りを検索。
 メールが来れば、適当に同僚へと投げる。
 差配をしていると言えばいえるが、自身が遊んでるというのがどうもね。

 休憩から戻ってくると、あわてて今晩のお食事処を検索。

 うん。彼女さっき別フロアに降りていって、俺より少し年をとった男と会っていた。
 距離感と、手つき。
 この二人。きっと黒だね。
 ただまあ、あんまり腹が立たない。
 これもホルモンのせいなのか?

 結局、暇な俺は、かの女を追いかける。
 やはり、お食事からのホテルですかい。

 そこでおもしろい発見をした。
 男の方が、水を通してとか、ガラス、鏡。そんなものを通すと、俺のことが見えているようだ。

 なるべく彼女の顔にかぶせるように配置をとる。
 気がつき始めてからは意識が変わるのか、比較的すぐに気が付く。
『これはおもしろい……』

 行為を始めてからも、かぶせて遊ぶ。
「どうしたの?」
「いやなんでも無い」
 だが男は、キョロキョロしている。

 これだけ、波長が合えば、いけるか?
 彼女の顔にかぶせてみる。

 見えたようだ……
「――うぎゃあああぁ」
 男は、空音を突き飛ばし、あわてて服を着る。
 えっちなホテルなので、ドアが開かず、あわてて精算機で金を払い、飛び出していく。

 彼女には、興味も無くなったので、男を追いかける。

 後ろを振り返りながら、逃げていく。
 そして、横断歩道が赤なのに飛び出して、轢かれてしまった。
 町中の路地道だから、車のスピードは出ていない。
 だが、ぶつかれば車は壊れる。
 男は、意外と平気そうで、止まらずに、元気に逃げていく。

 車の運転手は警察に連絡をして、当て逃げだと警官に言う。
 器物破損と、急ブレーキを踏んだので、首を痛めたから人身だとまで……
 横断歩道上だが、車の方が青。歩行者が赤。それも急な飛び出し。

 こんな場合だと、車三割、人七割り位の過失割合になることがある。
 結構やばそうな人だし、頑張れ。双方にエールを送る。

 などといいながら、追いかける。

 彼は。既婚だったようだ。
 へえ―。
 人の良さそうな奥さんと、生意気そうな子ども。
「今日は早かったのね」
「ああ。ちょっと予定が狂ってな」
 くっ。体が無いのが悔しい。奥さんに囁きたい。

 そうして夜中になると、やることも無いので事故現場に戻ってみる。
 烏天狗はおらず、皆は相変わらずぼーっとしている。
 その中に、気が付かなかったが、若い男の子がいる。
 じっと座り込み、ぼーっと何かを考えている様子。
 
「君は? 朝にはいなかったよね」
 そう聞くと、彼の顔が此方を向き、あわて始める。
 おびえた感じ?

「おじさんも今朝?」
 おずおずと聞いてくる。

「今朝、此処で事故に遭った」
「やっぱり。僕もなんだ。でも、これで学校に行かなくて済む」
「何だ、学校が嫌いなのか?」
「うん。僕が女の子みたいだって言われて…… 皆の前で脱がされたり……」
「そりゃひどいな。先生には言ったのか?」
 こっくりと頷く。

「でも、その位なら別に良いだろうって。先生が子どもの時には毛が生えたか見せあいをしたって」
「同意の上なら…… まあ好き好きだが、強制は違うと判らないのか? その先生、言ったら悪いがバカだな」
「そうだよね。僕がおかしい訳じゃないよね。皆僕が大げさだとか色々言って、最近は無視されたりして…… 僕がおかしいのかと…… 思って……」

「あーよしよし。泣くな。おじさんが認めてやる。君はまともだ」
 霊体でも泣けるのか?
 涙は出ていないようだが……
 精神的波動が、本当に心の叫びだと伝えてくる。

 ただこの子、ある女の子が虐めに混ざっているから堪えているだけ。
 他の奴らだけなら、問題ないらしい。

 彼は中学生で、実は俺を潰した車の助手席に乗っていた。
 横からぶち当てられて車が横転。
 その衝撃は、かなりのモノだっただろう。

 体が無事だと良いが、この年で死亡はかわいそうだな。
 頭をなでながら、よしよしする。
 結婚はしなくてもいいが、子どもは居ても良かったな。
 だが、育てるには、莫大な予算が必要だ。
 大体今出産で、五十万だとか聞いたしな。

「体は?」
「えっ? えーと、病院で寝てる」
 話を聞くと、病院で目が覚めてここまで来たらしい。
 どうしてなのかは、本人も不明だそうな。 
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