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ある海の話
第3話 かくして俺は振られる
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「じゃ、行きましょう」
そして、事務所にお邪魔をして話をする。
書類と委任状を書き、依頼をする。
だが請求先、一企業に付き着手金二万二千円が彼女にはなく、俺が立て替える。
六件分。一三万二千円なり。そして請求額の二〇パーセントが報酬として取られる。そう、支払われた分ではなく請求分。下手をすると持ち出しになるが、一社かなり契約が古く、過去には八〇〇万円ほど返って来たらしい。
「では取引情報を取り寄せて、請求作業に入ります」
先生は和やかに、そう言ってくれた。
そしてすぐに、三日おきにやって来ていた電話は止まったらしい。
それは良いが、車の引き上げ費用が意外と高く、社員割引でも一〇万ほどかかった。
ただ、その作業中、他の車をいくつか見つけて警察を呼ぶ。
「この車は先日の?」
「ええ、まあ」
そう、来のはこの前の、ご遺体が餌と言った警察官だ。
適当に話を聞いて、逃げることにする。
「海水で水没。全損だな」
「まあ、そうなるよな」
この車を生き返らせようと思ったら、全バラで洗い直しだ。
中古を買った方が早い。
「知り合いの車屋さんは何処? カーキャリアで来てもらわないと、自走は出来ないからね」
「車の中に、私のスマホはありませんでしたか?」
「車の中? だけどそれは……」
「結構、防水のしっかりした物なので」
彼女はそう言うが、普通は無理だ。
シンクに落としたくらいなら良いが、海中それも六メートル近くの深さ。
とっさにとはいえ、あの晩。よく潜れたもんだ……
車の中から、バッグなど必要そうな物を取り出す。
スマホもあったが、電源を入れようとした彼女を制止して、修理屋さんに持ち込むことにする。
かくして、中古の同一タイプを買い、SIMカードとデータを移動させる。
「いやあ、塩が厳しいですね。細かなところに入っていて。マイクロSDのクローンは作れましたので、このスマホにSIMカードごと移した方が安全です」
まあそう言う理由だ。
ここでも、俺のお金が飛んで行く。
そして、復活をしてから数時間後、着信が入る。
「あっ、本行さん」
彼女の顔が、一瞬明るくなったが、すぐに暗くなる。
「えっそう…… そう、なんだけど。うん。うん。わかっている。けれども…… どうしても都合が付かなくて…… そんな事は言っていないじゃない。好きだし大事だと思っている。―― うん。分かった。はい」
そう言って電話を切り、ずーんと落ち込む彼女。
なんとなく、彼女の言葉だけで話が見えた。
本行とやらが、彼女に金を無心しているということ。
いい加減貧乏で、一杯一杯な彼女なのに……
「今のは?」
「えっ。ええと、お店の常連さんで、少し困った時に助けてくれていたけれど、彼の方も今お母さんが、ガンになっちゃって。入院費とか手術代を貸してくれないかって言われていて……」
ごにょごにょと口ごもる彼女。
俺は、にっこりと笑って伝える。
「いま、落ち着いたのは一時的です。裁判まで行っても差し引き幾ら手元に来るのかも不明ですし、お店が開けない以上。これから、どうやって生活をするのかも、まだ決まっていませんよね」
意外と彼女は、俺がそんなことを言い出すとは思っていなかったようで、少し焦ったようだ。
「ですが、今彼も、困っているんです。私もお金で困っていましたからよく分かるし」
「その割に、かれ? 一度も来ていませんでしたよね。あなたが自殺まで考えて、海に突っ込み入院。退院後、もう何日経ちました?」
「ですからそれは、彼もお母様のことで大変で」
そんな言い訳をする彼女。
「彼のお母さん、何処の病院にかかっているんですか? 生命保険の入院特約は? それに、特殊な手術じゃなければ高額医療制度で、上限が決まっているはずだし、仕事をしていれば社会保険もあるし、そうでなければ国民保険も。それとも国民保険に入れない方なんですか?」
少し意地悪を言ってみる。
「高額医療制度で、上限??」
彼女は怪訝そうな顔をするので、スマホで検索をしてみせる。
「ほら、所得とかによって違いますが、この例だと、一時的な窓口負担は三〇万ほど必要なようですが、後で返ってきます。彼が無職で保険代を払っていないなら別ですが、こんなのもある様です」
そう言って見せたのは、『限度額適用認定証』。
入院や手術の費用が高額で払えないかもしれないときには、事前に申請する制度。
俺も知らなかったが、こんなのもあったようだ。
自分でもへーだ。
「でも…… かれ、本行 佐義さんは、立派に会社を経営されていて……」
「その会社、本当にありますか?」
そう言うと、検索をし始める。
「ここです」
彼女が見せてきたのは、東京本社。資本金五千万。営業所がここを含めて七箇所。
経常利益二五億? その割に、エコがどうだとか、皆様の健康がどうだとか、色々書いてあるが何をしている会社か書いていない。代表のメールのみで電話もないし、ドメインが『.tk』?
住所が載っていたので、地図アプリで検索をする。
場所が分かったので、ストリートモードで表示する。
「本社が、これですね」
写真では、しっかりと別会社の看板が上がっている。
「他の支店は、田んぼだったり、神社だったり……」
「…… ってください。帰って」
少し涙を浮かべて、睨まれた……
「すみません。余計なマネを」
少し嫌みを言って、うちへと帰る……
そして、事務所にお邪魔をして話をする。
書類と委任状を書き、依頼をする。
だが請求先、一企業に付き着手金二万二千円が彼女にはなく、俺が立て替える。
六件分。一三万二千円なり。そして請求額の二〇パーセントが報酬として取られる。そう、支払われた分ではなく請求分。下手をすると持ち出しになるが、一社かなり契約が古く、過去には八〇〇万円ほど返って来たらしい。
「では取引情報を取り寄せて、請求作業に入ります」
先生は和やかに、そう言ってくれた。
そしてすぐに、三日おきにやって来ていた電話は止まったらしい。
それは良いが、車の引き上げ費用が意外と高く、社員割引でも一〇万ほどかかった。
ただ、その作業中、他の車をいくつか見つけて警察を呼ぶ。
「この車は先日の?」
「ええ、まあ」
そう、来のはこの前の、ご遺体が餌と言った警察官だ。
適当に話を聞いて、逃げることにする。
「海水で水没。全損だな」
「まあ、そうなるよな」
この車を生き返らせようと思ったら、全バラで洗い直しだ。
中古を買った方が早い。
「知り合いの車屋さんは何処? カーキャリアで来てもらわないと、自走は出来ないからね」
「車の中に、私のスマホはありませんでしたか?」
「車の中? だけどそれは……」
「結構、防水のしっかりした物なので」
彼女はそう言うが、普通は無理だ。
シンクに落としたくらいなら良いが、海中それも六メートル近くの深さ。
とっさにとはいえ、あの晩。よく潜れたもんだ……
車の中から、バッグなど必要そうな物を取り出す。
スマホもあったが、電源を入れようとした彼女を制止して、修理屋さんに持ち込むことにする。
かくして、中古の同一タイプを買い、SIMカードとデータを移動させる。
「いやあ、塩が厳しいですね。細かなところに入っていて。マイクロSDのクローンは作れましたので、このスマホにSIMカードごと移した方が安全です」
まあそう言う理由だ。
ここでも、俺のお金が飛んで行く。
そして、復活をしてから数時間後、着信が入る。
「あっ、本行さん」
彼女の顔が、一瞬明るくなったが、すぐに暗くなる。
「えっそう…… そう、なんだけど。うん。うん。わかっている。けれども…… どうしても都合が付かなくて…… そんな事は言っていないじゃない。好きだし大事だと思っている。―― うん。分かった。はい」
そう言って電話を切り、ずーんと落ち込む彼女。
なんとなく、彼女の言葉だけで話が見えた。
本行とやらが、彼女に金を無心しているということ。
いい加減貧乏で、一杯一杯な彼女なのに……
「今のは?」
「えっ。ええと、お店の常連さんで、少し困った時に助けてくれていたけれど、彼の方も今お母さんが、ガンになっちゃって。入院費とか手術代を貸してくれないかって言われていて……」
ごにょごにょと口ごもる彼女。
俺は、にっこりと笑って伝える。
「いま、落ち着いたのは一時的です。裁判まで行っても差し引き幾ら手元に来るのかも不明ですし、お店が開けない以上。これから、どうやって生活をするのかも、まだ決まっていませんよね」
意外と彼女は、俺がそんなことを言い出すとは思っていなかったようで、少し焦ったようだ。
「ですが、今彼も、困っているんです。私もお金で困っていましたからよく分かるし」
「その割に、かれ? 一度も来ていませんでしたよね。あなたが自殺まで考えて、海に突っ込み入院。退院後、もう何日経ちました?」
「ですからそれは、彼もお母様のことで大変で」
そんな言い訳をする彼女。
「彼のお母さん、何処の病院にかかっているんですか? 生命保険の入院特約は? それに、特殊な手術じゃなければ高額医療制度で、上限が決まっているはずだし、仕事をしていれば社会保険もあるし、そうでなければ国民保険も。それとも国民保険に入れない方なんですか?」
少し意地悪を言ってみる。
「高額医療制度で、上限??」
彼女は怪訝そうな顔をするので、スマホで検索をしてみせる。
「ほら、所得とかによって違いますが、この例だと、一時的な窓口負担は三〇万ほど必要なようですが、後で返ってきます。彼が無職で保険代を払っていないなら別ですが、こんなのもある様です」
そう言って見せたのは、『限度額適用認定証』。
入院や手術の費用が高額で払えないかもしれないときには、事前に申請する制度。
俺も知らなかったが、こんなのもあったようだ。
自分でもへーだ。
「でも…… かれ、本行 佐義さんは、立派に会社を経営されていて……」
「その会社、本当にありますか?」
そう言うと、検索をし始める。
「ここです」
彼女が見せてきたのは、東京本社。資本金五千万。営業所がここを含めて七箇所。
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住所が載っていたので、地図アプリで検索をする。
場所が分かったので、ストリートモードで表示する。
「本社が、これですね」
写真では、しっかりと別会社の看板が上がっている。
「他の支店は、田んぼだったり、神社だったり……」
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