泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
130 / 202
日常に潜む出逢い。

第4話 そして……

しおりを挟む
 咲良達の家は、小さな商店を営んでいたが、上手く行かず。
 中学生の頃には閉店をして、両親は借金返済のために働き始めた。

 いつも、帰れば両親がいた生活。
 それが一変した。

 生活自体も、それほど裕福では無く、ふとしたときに両親が喧嘩を始める。
 仕事と家事をお母さん一人が担う。当然負担は大きい。

 父さんは、料理も何もできずに、仕事から帰れば疲れたと言って飲み出す。

 咲良は、その様子を嫌い、料理を覚え始める。
 二つ下の美恵は中学校に入ると、両親の帰りが遅いのを良いことに友達と遊び始める。

 そして高校。
 成績は良かったが、はなっから大学は諦めていたし、その頃から、美恵の交友関係が良くない連中と付き合う様になっていき、学校から連絡が来る。

 そして、仲間の一人が、盗んだバイクで人をはねて、大騒ぎになる。
 そこからは、少しましになったが、行けるところは底辺の高校。
 そしてまた、良くない奴らと連み始める。

 咲良は、卒業と同時に伝手のあった小さな工場へと働きに出かける事になったが、他に若い者はおらず、おじさんの集団。
 だが、かわいがられて、皆に勧められて夜間の大学へ通い始めた。コースは、会計の短期だったので、三年で短大卒業資格。

 だが、美恵は高校を卒業後。
 自業自得だが、地元での悪い噂を嫌い。横浜へ逃げた。

 だが就職先や、アルバイト先で問題を起こし、連絡が来て謝りに行く事が増えた。

 そして、数ヶ月後。姿が見えなくなったと思ったら、愛媛県の警察から連絡。事故で入院をしたと。

 だが話は複雑で、撥ねられる前、別の車と問題を起こして、暴力を振るっていたことが発覚。

 訴えられた。

 弁護士に相談をすると、裁判になったのなら、出席をして原告側と示談。被害届を取り下げをしてもらうのが一番良いと聞き、それをするために、はるばる愛媛までやって来た。

 そして、妹の荷物の中にあったメモ。
 一万円の借用。
 どういう伝手なのかは知らないけれど、住所は香川県。
 地図を見ると、同じ四国内だし帰りに寄ろう。

 安易にそう思ったが、地図の中とは違い、小さな香川県だが、現実は意外と遠く。
 駅からタクシーを使い……
 私は放置された……
 後で思えば、スマホでタクシーを呼べば良かった。

 そして出会った、彼。
 妹は、知り合いでも何でもなく、迷惑を掛けた上に借金をしていた。
 でも彼は優しく、ドジな私に優しい時間をくれた。
 お酒の力を借りた、初めてのハグとキス。

 スマホの画面を見ながら、ついそれを思い出す。
 彼女は、無意識に口びるに指を沿わせる。

 そう…… 出会って、たった二日。
 でも、好きになってしまった。
 仕方なくバスに乗ったが、もっと一緒に居たかった。

「こんな気持ち…… 初めて」

 その後、二人はテレビ電話で連絡を取り合い、お互いの寂しさを紛らす。

 妹は、当然だが、実家から出してもらえなくなった。
 まだリハビリもあるし、少し上手く歩けない様で、そうなって、今は少し、反省もしたようだ。

 私は、考える。
 おじさんばかりの職場。
 大学は、この春卒業できる。
 単位はすでに取っている。
 簿記は、二級だが取ったし……

 彼女は気持ちを決めて、聞いてみる。
「おかあさん。私、家を出ても良い?」
 ざっと、両親に説明をして、彼の所へ……

「駄目になったら、戻っておいで」
 母さん達は、黙って頷いてくれた。

「―― ねえ。良人さん。この週末、そっちに行くから」
「ほんと。迎えに行くよ。何時?」
「えっとねえ……」

 彼女は、まるで遊びに来るような、軽く明るい声でそう告げ、やって来た。

「えっ。住む?」
「ええ。良人さんは嫌?」
「そんなわけ無いだろう」
 彼女は、やはりあの妹と姉妹のようだ。決めたときの思い切りの良さは半端じゃない。

 出会うのがおかしいような二人。
 偶然の歯車がかみ合い、出会ってしまった。

 そして、一年後の春。
 二人は、結婚をする事になる。

 幸せそうな顔をした彼女。
 祝福を受ける中で、親族席で杖をつき、妙な笑顔を浮かべるあの顔。あの動物園で出会った、黒ヤギさんとだぶるような微笑みが、かなり不安だが、何とかなるだろう…… たぶん。
 

-------------------------------------------------
 お読みくださり、ありがとうございます。

 今回は、真っ当な恋愛話という事で。

 途中のニュースですが、実は、ありえそうであり得ない日常として、別枠で公開しようとしていたショートシリーズの内容です。
 ですが、恋愛以上に、思いつかず。また短すぎるために、公開せずに没にした経緯があります。
 ですが、捨てきれず、挿入しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...