123 / 200
重なってしまった縁
第6話 答えは出ない
しおりを挟む
「紬。帰るわよ」
「うーんやだ。お母さん帰っていいよ」
その時の文乃の表情は、なんといったら良いのだろう。
愕然。驚愕。落胆。そんなものが混じり合ったような不思議な表情。とにかく彼女は狼狽して、聞いてくる。
「あんた達、まさかそんな関係なの?」
そう聞かれて、紬はきょとんとしている。
「お前の思っているような関係じゃない。すぐドロドロした恋愛思考に走る」
「放っといて」
むーと腕を組み、考え始めた。
「紬。あんたコイツのことが好きなの?」
「好き? 好きって言うのと少し違う気もするけれど…… 好きなのかなぁ」
「ライクかな?」
危なそうなので、フォローする。
「なら良いわ」
話を振って、紬は置いてきぼり。
「結局、夢は叶ったんだ」
「何とかね。ぶら下がっている状況だが、何とか食えている」
「あの後、就職はしたの?」
「いや。バイトと派遣。賞を取ってデビューしても、しばらくは続けた。今は、ライターの仕事もあるからな」
「そうなんだ」
そう言いながら、彼女は室内を見回す。
「家よりは、良い暮らしね」
ぽそっと、紬がつぶやく。
「悪かったわね。色々必要なのよ」
「大学の入学品とか、準備するものとか金は幾らでも必要だし、学費も必要だろ」
そう言うと、紬は納得をした様だ。
「ごめんなさい」
「良いのよ。親としての義務だし」
「で、松田さんと結婚するの?」
紬にそう聞かれて固まる。
「―― したいと思っていたのよ。ずっと探していたし。見合いのように結婚して、紬が生まれたけれど、ずっと心にあったし」
「ずっと、お父さんに文句を言っていたものね」
紬が、嬉しそうに突っ込んでくる。
「大人になると、色々あるのよ」
そう言って、黙ってしまう。
その時、文乃は考えていた。
律の夢を応援して、アルバイトのフォローを自分が出来たのか? たぶん、いい加減諦めて、就職をしてと叫んだだろうと。
子供が出来れば、なおさら。
夢を追いかける旦那の世話と、子供の世話。そして金銭的なフォロー。どこかで潰れるだろう。想像は付く。
いい加減、結婚をしろとやかましく、勝手に話を持って来た両親。その後は、子供はまだかの大合唱。
この二十年を振り返ると、今の状態がベストだったかもしれない。
「作家になったのは何時?」
「三十くらいかな」
「そう……」
その頃には、子育てと、向こうの親との付き合いで疲れ果てていた。
「私と一緒じゃ、駄目だったわね。きっと」
そう口に出してしまう。
その時には見えなくても、今だから見えるもの。
「そうか?」
「今からなら、OKよ。紬も大学生だし」
そう言われて、なぜか、ビクッとしてしまった。
俺の中では、今更とい気持ちが強い。心の中で恋愛としては終わっている。
これは困った。
「紬も懐いているみたいだし。ねえ紬」
「むー。なんかやだ」
紬がまたかき混ぜる。ライクじゃ無かったのか?
だがどうだろう。おれの気持ち的には、紬の為なら頑張ろうという気が……
じっと、文乃に見られると、心の奥底を読まれるような気になる。
「本気なの? わたしの娘に?」
彼女の後ろに何かが見える。
「あなたも四十二歳。男の方が、寿命が短いし」
「待て、なんの話しをしている?」
「なんのって? あなたがさっき考えたこと。違うの?」
「何も思っていないぞ」
そう言うと、じっと見てくる。
「嘘ね。紬を見て引かれた。あたしのことが、気持ちの中にあったから? そうよね」
「いや。図書館で出会って、たまたま話し始めたからだ」
「そうかしら? 若いわたしとやり直せたら。そんな事を考えなかったと?」
そう言って、また、じっと見られる。
言うとおり、すぐに気が付いた。
仕草や行動。
似ていると。
だがそれは、切っ掛け。
文乃の事を思って、紬を見たわけではない。
「紬は、紬だ。お前じゃない」
「そう、あたしのことが嫌いだと?」
よく言われる、困る台詞。
「そうは言ってないだろう。それに、その言い方は卑怯だな」
「悪かったわね。思い出と現在のわたし。幻滅をされたのかと思ったわ」
「年を取ったのはお互い様だ」
「そうね。男はずるいわ」
とまあ、化かし合いが続く。
「おじさんと、会えなくなるのは嫌」
そう言いながら、俺の横にやって来る紬。
その行動に驚いたようだが、導かれた言葉は、紬を刺激する。
「この子、中学校の時に父親を亡くしたから、少しファザコンなところがあるのかしら?」
「ちがう。お父さんは好きじゃ無かった」
そう言った紬の頭に、ぽんと掌をおく。
「そんな事、言うもんじゃ無い」
ついたしなめてしまった。
「だって」
そう言って、ゴロゴロと、懐いてくる。
それを見て、文乃は頭を抱える。
だろうな。
俺だって、どうすればいいのか判らない。
なんとなく、文乃の気持ちも分かる。
付き合っていた男が自分の娘と引っ付く? それは悪夢以外のなにものでも無い。
結局、俺は問題を先送りにすることに決めた。
「再会してすぐに、結論を出さなくても良いだろう」
そう言うと、人のことをじっと見てくるが、そう思ったのか。
「そうね」
短く返事が来る。
「これ御礼のお菓子と、病院代」
「お菓子は、まあ頂くが、病院代は良いよ」
「そうね。かわいい紬の為だし」
彼女は、とげとげの言葉を残す。
「帰るわ」
「紬も今日は帰れ」
「えー。まあ良いか。じゃあね律さん」
少し赤い顔で彼女は言った。
だがそれから、文乃からもコミニケーションアプリ経由で連絡は来るし、日に日にやって来るようになった。
そして、なぜか三人で暮らす家を探す羽目になった。
大学に近いところで……
俺の理性が切れるのは、何時だろうか……
----------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
お母さん参戦からの、紬の心に起こった変化が、もう少し書き切れなくて心残りですが、これが、今のわたしの実力でしょう。
もっと勉強をします。
後日談。
ちなみに、一緒に暮らし始め、母と娘で私を選んでアピールがすごく、文乃は昔の関係を盾に、「どうせ幾度も見られたし」そう言って、一線を越えて迫ってき始めた。
だがそれを見て、紬はぷっつん来たようだ。
押しに負け、紬と結局結ばれることになった。
それを言ったら、文乃は血の涙を流した。
そして、「最悪だ」と呪いの言葉を漏らす。
だが、結局、娘の幸せのため身にを引いた。
俺から考えても、関係としては最悪だが…… 奴は、嫌がらせの様に、家からは出ず。
ただ、柱の向こうから、じっと見守っている……
「うーんやだ。お母さん帰っていいよ」
その時の文乃の表情は、なんといったら良いのだろう。
愕然。驚愕。落胆。そんなものが混じり合ったような不思議な表情。とにかく彼女は狼狽して、聞いてくる。
「あんた達、まさかそんな関係なの?」
そう聞かれて、紬はきょとんとしている。
「お前の思っているような関係じゃない。すぐドロドロした恋愛思考に走る」
「放っといて」
むーと腕を組み、考え始めた。
「紬。あんたコイツのことが好きなの?」
「好き? 好きって言うのと少し違う気もするけれど…… 好きなのかなぁ」
「ライクかな?」
危なそうなので、フォローする。
「なら良いわ」
話を振って、紬は置いてきぼり。
「結局、夢は叶ったんだ」
「何とかね。ぶら下がっている状況だが、何とか食えている」
「あの後、就職はしたの?」
「いや。バイトと派遣。賞を取ってデビューしても、しばらくは続けた。今は、ライターの仕事もあるからな」
「そうなんだ」
そう言いながら、彼女は室内を見回す。
「家よりは、良い暮らしね」
ぽそっと、紬がつぶやく。
「悪かったわね。色々必要なのよ」
「大学の入学品とか、準備するものとか金は幾らでも必要だし、学費も必要だろ」
そう言うと、紬は納得をした様だ。
「ごめんなさい」
「良いのよ。親としての義務だし」
「で、松田さんと結婚するの?」
紬にそう聞かれて固まる。
「―― したいと思っていたのよ。ずっと探していたし。見合いのように結婚して、紬が生まれたけれど、ずっと心にあったし」
「ずっと、お父さんに文句を言っていたものね」
紬が、嬉しそうに突っ込んでくる。
「大人になると、色々あるのよ」
そう言って、黙ってしまう。
その時、文乃は考えていた。
律の夢を応援して、アルバイトのフォローを自分が出来たのか? たぶん、いい加減諦めて、就職をしてと叫んだだろうと。
子供が出来れば、なおさら。
夢を追いかける旦那の世話と、子供の世話。そして金銭的なフォロー。どこかで潰れるだろう。想像は付く。
いい加減、結婚をしろとやかましく、勝手に話を持って来た両親。その後は、子供はまだかの大合唱。
この二十年を振り返ると、今の状態がベストだったかもしれない。
「作家になったのは何時?」
「三十くらいかな」
「そう……」
その頃には、子育てと、向こうの親との付き合いで疲れ果てていた。
「私と一緒じゃ、駄目だったわね。きっと」
そう口に出してしまう。
その時には見えなくても、今だから見えるもの。
「そうか?」
「今からなら、OKよ。紬も大学生だし」
そう言われて、なぜか、ビクッとしてしまった。
俺の中では、今更とい気持ちが強い。心の中で恋愛としては終わっている。
これは困った。
「紬も懐いているみたいだし。ねえ紬」
「むー。なんかやだ」
紬がまたかき混ぜる。ライクじゃ無かったのか?
だがどうだろう。おれの気持ち的には、紬の為なら頑張ろうという気が……
じっと、文乃に見られると、心の奥底を読まれるような気になる。
「本気なの? わたしの娘に?」
彼女の後ろに何かが見える。
「あなたも四十二歳。男の方が、寿命が短いし」
「待て、なんの話しをしている?」
「なんのって? あなたがさっき考えたこと。違うの?」
「何も思っていないぞ」
そう言うと、じっと見てくる。
「嘘ね。紬を見て引かれた。あたしのことが、気持ちの中にあったから? そうよね」
「いや。図書館で出会って、たまたま話し始めたからだ」
「そうかしら? 若いわたしとやり直せたら。そんな事を考えなかったと?」
そう言って、また、じっと見られる。
言うとおり、すぐに気が付いた。
仕草や行動。
似ていると。
だがそれは、切っ掛け。
文乃の事を思って、紬を見たわけではない。
「紬は、紬だ。お前じゃない」
「そう、あたしのことが嫌いだと?」
よく言われる、困る台詞。
「そうは言ってないだろう。それに、その言い方は卑怯だな」
「悪かったわね。思い出と現在のわたし。幻滅をされたのかと思ったわ」
「年を取ったのはお互い様だ」
「そうね。男はずるいわ」
とまあ、化かし合いが続く。
「おじさんと、会えなくなるのは嫌」
そう言いながら、俺の横にやって来る紬。
その行動に驚いたようだが、導かれた言葉は、紬を刺激する。
「この子、中学校の時に父親を亡くしたから、少しファザコンなところがあるのかしら?」
「ちがう。お父さんは好きじゃ無かった」
そう言った紬の頭に、ぽんと掌をおく。
「そんな事、言うもんじゃ無い」
ついたしなめてしまった。
「だって」
そう言って、ゴロゴロと、懐いてくる。
それを見て、文乃は頭を抱える。
だろうな。
俺だって、どうすればいいのか判らない。
なんとなく、文乃の気持ちも分かる。
付き合っていた男が自分の娘と引っ付く? それは悪夢以外のなにものでも無い。
結局、俺は問題を先送りにすることに決めた。
「再会してすぐに、結論を出さなくても良いだろう」
そう言うと、人のことをじっと見てくるが、そう思ったのか。
「そうね」
短く返事が来る。
「これ御礼のお菓子と、病院代」
「お菓子は、まあ頂くが、病院代は良いよ」
「そうね。かわいい紬の為だし」
彼女は、とげとげの言葉を残す。
「帰るわ」
「紬も今日は帰れ」
「えー。まあ良いか。じゃあね律さん」
少し赤い顔で彼女は言った。
だがそれから、文乃からもコミニケーションアプリ経由で連絡は来るし、日に日にやって来るようになった。
そして、なぜか三人で暮らす家を探す羽目になった。
大学に近いところで……
俺の理性が切れるのは、何時だろうか……
----------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございます。
お母さん参戦からの、紬の心に起こった変化が、もう少し書き切れなくて心残りですが、これが、今のわたしの実力でしょう。
もっと勉強をします。
後日談。
ちなみに、一緒に暮らし始め、母と娘で私を選んでアピールがすごく、文乃は昔の関係を盾に、「どうせ幾度も見られたし」そう言って、一線を越えて迫ってき始めた。
だがそれを見て、紬はぷっつん来たようだ。
押しに負け、紬と結局結ばれることになった。
それを言ったら、文乃は血の涙を流した。
そして、「最悪だ」と呪いの言葉を漏らす。
だが、結局、娘の幸せのため身にを引いた。
俺から考えても、関係としては最悪だが…… 奴は、嫌がらせの様に、家からは出ず。
ただ、柱の向こうから、じっと見守っている……
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる