泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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重なってしまった縁

第4話 暴露

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「うーん。大丈夫だと思うけれど、CTを撮ろうか」
 そう言われて、機械に寝転がり、ウィーとかブーンと言ういう感じの音を聞く。

「はい。いいよー。また待合で待っていて」
 先生に促され、待合に戻ると、松田さんは何か悩んでいた。

 近寄ると気が付いたようで、声をかけてくれる。
「うん。終わった?」
「レントゲン? を撮ったので、もう一回ですね」
「そうか」

 待っている間、例の作品を読み返していた。

 この時主人公達はどう思い。こう書いたんだっけ?
 少しずつ手前に戻り、誤字を見つけ修正。

「やっぱり、毎日投稿の時は、浅いな」
 とかまあ、気になって直し始めると止まらなくなる。

 そんな時、診察室で先生の話を適当に流しながら、紬もぼーっと考えていた。

 あの頃、恋愛とかあまり気にしていなかった。
 お父さんが死んで、自分の中で昇華できない思いを、誰かに求めていた?
 ファザコン? でもそれから、気にはなるけれど別に何もなかったし、あの時。
 そう、ぶつかって、『今年受験なのか。頑張って』と言われたとき…… そう、嬉しかった。素直に。でも恥ずかしくて。

 そこからは、目で追うけれど、恥ずかしくてドキドキして、声がかけられなくって。

 大学に行くと、こっちへはあまり来られなくなるだろうし、アルバイトもしたい。
 だから強引だけど声をかけた。ホント強引。

 でも、ステキな物をくれて。嬉しかった。
 どう考えてくれているのかは判らないけれど、嫌われてはいないよね。
 えっちな感じでもないし。
 子供がいないから、娘? そう思うと、しっくりくるけど、わたしがなんかモヤモヤする。

 なんだろう、この気持ち……

 撮影が終わって、待合に戻ると、ちょこんと椅子に座り、スマホを見ながら眉間に皺を寄せて何かを考えるおじさん。いや松田さん。
 居てくれたことで、なんだか安心する。

 お母さんとも違う。

 死んじゃったお父さんは、小言が多くて嫌いだった。
「お前は女の子なんだから……」
 そうそう、すべてに女の子なんだから、こうするべきだという言葉。
 お母さんもぼやいていた。料理の味付けが濃いの薄いの、おかずの数がどうこうと。
 そのくせ家事はしてくれなかった様だし、自分は寝転がってテレビを見て笑っていた。

 言ってはあれだけど、お父さんが死んでから、お母さんの表情は柔らかくなった気がする。生活は厳しいけれど。その分わたしも家事は手伝ったし楽しかった。

 入学金は、保険代とかで何とかまだいけると言っていたし、家から通えば家賃はかからない。アルバイトをすれば大丈夫。

 問題は、図書館に来られるのか、松田さんに会えなくなるのは淋しい。

 図書館はとりあえず置いといて、おじさんのところへ転がり込む? 
 知れば、お母さんが泣くわね。
 でも、家自体は、おじさんのところの方が良い。
 大学への距離…… 微妙。

 ぐるぐると考えて居ると、また呼ばれる。

 先生がわたしの頭。モニターに映る骨と脳みそを見ながら何かぶつぶつ言っている。
「隙間も無いし、今の所出血は見られない。瘤だけで、まあ大丈夫でしょう。頭痛や、気分が悪くなったり目眩とか。普段と違う様ならすぐに来て。いいね」
「はーい」

 そう言って、あっさり診察は終わった。

 治療は、また冷却パットを張られていた。

 その後、松田さんは悩んでいたようだが、ファミレスへ連れて行ってくれた。

 その後、車に自転車を乗せ、家まで送ってもらう。
 私の家まで、五キロくらい。
 おじさんの車は、ワンボックスで、キャンプ道具や釣りの竿が乗せられていた。

 その日はそれで別れておしまい。

 その夜瘤を見て、お母さんに心配を掛けたくらい。
「淋しいからって、柱に抱きつかなくても」
「抱きつきたくって、抱きついたわけじゃ無いわよ」
「それにしては、瘤が出来るほど? 熱烈ね」
 そう言ってお母さんは、にまにましている。

 お母さんは、恋愛ドラマや小説が大好きで、昔から彼氏が出来たかと聞いてくる。以外と鬱陶しいくらい。
 おじさんとのことを言えば、どう反応するかしら?

 自分と同じ年。流石に引くわね。

「あんた病院代は?」
「通りすがりの人が病院へ連れて行ってくれて、払ってくれた。瘤だけですんだら良かったって。御礼は言ったから」
「御礼は言ったって、それで済ませちゃ駄目でしょ。名前とか住所は?」
 一秒ほど悩み抜いて、名刺を見せる。
 小説家の方。

御崎 朧おざき おぼろさん? 変わった名前ね…… いえ、聞いたことがあるというか、見たことがある」
 お母さんは、スマホで検索を始めた。
 数冊の本がヒットしたのだろう。

「小説家さんじゃない」
 その瞬間目付きがかわる。

「若い? 年より? 男? 女? 格好いい?」
 いきなり質問攻め。

「男、中年、格好いいかは微妙」
 そう聞くと、少し冷めたようだ。

「どういう関係?」
「図書館でよくあう人で、知りあって五年くらい。大学に合格したって言うとプレゼントをくれた」
 正直に言って見た。

 多少、お母さんの興味を引いたようだが、悩んだようで。
「変な人じゃ無いわよね」
「うん大丈夫」
 その晩、小説は更新されていて、意味も無く柱や壁にぶつかるドジっ子が、メンバーに加わっていた。
 
 後日、週末の図書館で、お母さんとおじさんを捕まえる事になる。そう、捕まえるの……
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