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重なってしまった縁
第1話 懐かしい記憶
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俺には昔、付き合っていた彼女がいた。
高校のときから、大学二年まで三年ほど付き合い、何かの口論から喧嘩が始まり別れてしまった。
「いや、ごまかしても駄目だな」
そう、そのまま就職に向かうか、夢を追うか……
就職をして、作品を書く。
出来る人には出来るだろう。
でも、小説を書くには、その仕事なりなんなり場面に応じた知識も必要。
仕事から帰り、文章を書く?
今はまだ、学生で時間は取れる方だ。
文芸サークルの執筆時間は、夏休みの期間を潰せば書けた。
「俺は書くための時間が欲しいんだ」
「だから、アルバイトやパートじゃ無くても、時間は作れるでしょう。きちんと就職をして」
そう平行線の会話。
彼女は同じ文芸サークルだが、趣味の一つ。
俺は何とかして、これで食っていきたかった。
別に、大作家である必要は無いとは思うが、本を手に取った人に夢を与え、手に取った事を後悔させない作品が書きたい。
そう、それが、どんなに大それた事かを知らなかった。
それが出来れば、ベストセラーになる。
人の感じ方は千差万別。
それは、数ヶ月後にWEBの投稿ページに書き始めて思い知った。
そう彼女と別れ、やけになった俺は、手っ取り早く有名になって、思い知らせようなどと思い。投稿して ――現実を思い知った。
「PVが付かない…… まっまあ、投稿をしてまだ三日くらい。ほら同じ時期に投稿をした人もきっと同じだろう」
だが、ポイント数が加算され、周りから同時期投稿のタイトルが消えていく。
そうここは、最底辺の場所。
「きっとジャンルが悪いんだな」
そう、ざっとページを見た感じ、その時はハイファンタージーが盛り上がっていた。
「そう、そうだよ」
そして周りの作品に目を通す事も無く、それらしい物を書き始める。
ファンタジー。空想の世界。思いついた事を書き、風景などの描写や説明で、文が冗長になっていく。
ジャンルは正解だったようで、PVは付いたが、付いても伸びない。
一話、二話とガンガンにPVは減っていく。それは気持ちとは裏腹、容赦なく……
あげくコメントには、『初心者さんなら、人気作に目を通した方が良いですよ。自己満足な、小説的描写が鬱陶しい』そう書かれていた……
小説なのに、小説的描写が鬱陶しい?
今書いているここは、小説を書く場所じゃ無いのか?
そう思い、素直に見てみた。
純文の人も圧倒的に表現を抑えている。行間を空け、一文を短く、言葉もわかりやすく。
そう。そこは、出版されている小説とは違う世界だった。
泣きながら、ごっそりと改稿を行う。
此処にあった書き方。
こだわりなど捨てる。美しい表現? そう思うのは自分だけだったんだ……
気が付けば、就職など出来なかった。
そう、投稿するのにのめり込み、PVの数字。その魅力に魅入られていく……
ペンネームを、本名をやめ『絶望のワナビ』とか適当に付けて書き始め、必要最小限バイトを行う。
「君、大学も出ているんだね。正社員にならない」
「いえ、今ちょっと、やりたい事があって」
若いうちには、そんな声もかかっていた。
だがその頃、まるで投資ジャンキーのように、数字の上下に一喜一憂をしていた。
タイトルを変えたら数字が上がる。
かわいい子を出したら数字が上がる。
なんで付き合ったら下がる? 彼女はヒロインなんだぞぉ。
まあまあ、良くある話。
月間で、三千とか五千PV。
時間を宣言して、毎日投稿。
一話の長さも色々変えてみた。
そうしてのめり込みつつ、派遣に登録して幾星霜。
今年四十になっていた……
週末仕事が無いときには、図書館に行っている。
むろん公立の無料で読めるところ。
色々なジャンル。本という本がある。
そして…… 最近見かける女の子。
高校生くらいだろう。
そう横顔や仕草。
友達と笑っているときの顔と、無節操に人の肩を叩く行動。
昔彼女だった。並木 文乃にそっくりなんだ。
もう二十年も前の記憶が蘇る。
高校三年の時、小説が好きなんだねと言って話し始め、彼女の趣味がハーレクイン小説だったときの、わずかな落胆。
だけどまあ、うまくいっていた。
あの時までは。
結局彼女が言っていたように、就職をする方が正解だったかもしれない。
でもまあ何とか、小説家の端っこにぶら下がっている。
大ヒットなど、もちろんないが、細々と暮らすには十分だ。
四十のオッサンが、彼女に声をかけたりすれば事案間違いなし。
思った事があったが、聞けずにいる。
そう、俺は四十。彼女が十六さいとか、十七歳なら娘だという可能性がある。
まあ、そんな夢想をしながら、見守り二年ほど……
運命の歯車が、いきなりかみ合ってしまった。
「痛てっ」
「ごめんなさい」
本棚の角で出会い頭の事故。
持っていた本が、落ちて混ざってしまう。
本を拾うと、まともな小説が数冊。
ああいや、思ってしまったハーレクインと違ったと言うだけ。
「小説が好きなんだね」
そう言いながら渡すと、彼女は困ったように言う。
「好きは好きですが、普段とは違って、これ共通試験の出典に載っていたのでつい」
「ああ。今年受験なのか。頑張って」
そう言うと、なぜか、ぱあっと顔が明るくなる。
「はい。あの、小説好きなんですね」
彼女から、俺が持っていた本を受け取る。
「好きだし、仕事でもあるんだ」
「へぇぇ。すごいですね。頑張ってください」
そう言ってなぜか、彼女は頬を赤く染め、走って行った。
図書館なのに……
高校のときから、大学二年まで三年ほど付き合い、何かの口論から喧嘩が始まり別れてしまった。
「いや、ごまかしても駄目だな」
そう、そのまま就職に向かうか、夢を追うか……
就職をして、作品を書く。
出来る人には出来るだろう。
でも、小説を書くには、その仕事なりなんなり場面に応じた知識も必要。
仕事から帰り、文章を書く?
今はまだ、学生で時間は取れる方だ。
文芸サークルの執筆時間は、夏休みの期間を潰せば書けた。
「俺は書くための時間が欲しいんだ」
「だから、アルバイトやパートじゃ無くても、時間は作れるでしょう。きちんと就職をして」
そう平行線の会話。
彼女は同じ文芸サークルだが、趣味の一つ。
俺は何とかして、これで食っていきたかった。
別に、大作家である必要は無いとは思うが、本を手に取った人に夢を与え、手に取った事を後悔させない作品が書きたい。
そう、それが、どんなに大それた事かを知らなかった。
それが出来れば、ベストセラーになる。
人の感じ方は千差万別。
それは、数ヶ月後にWEBの投稿ページに書き始めて思い知った。
そう彼女と別れ、やけになった俺は、手っ取り早く有名になって、思い知らせようなどと思い。投稿して ――現実を思い知った。
「PVが付かない…… まっまあ、投稿をしてまだ三日くらい。ほら同じ時期に投稿をした人もきっと同じだろう」
だが、ポイント数が加算され、周りから同時期投稿のタイトルが消えていく。
そうここは、最底辺の場所。
「きっとジャンルが悪いんだな」
そう、ざっとページを見た感じ、その時はハイファンタージーが盛り上がっていた。
「そう、そうだよ」
そして周りの作品に目を通す事も無く、それらしい物を書き始める。
ファンタジー。空想の世界。思いついた事を書き、風景などの描写や説明で、文が冗長になっていく。
ジャンルは正解だったようで、PVは付いたが、付いても伸びない。
一話、二話とガンガンにPVは減っていく。それは気持ちとは裏腹、容赦なく……
あげくコメントには、『初心者さんなら、人気作に目を通した方が良いですよ。自己満足な、小説的描写が鬱陶しい』そう書かれていた……
小説なのに、小説的描写が鬱陶しい?
今書いているここは、小説を書く場所じゃ無いのか?
そう思い、素直に見てみた。
純文の人も圧倒的に表現を抑えている。行間を空け、一文を短く、言葉もわかりやすく。
そう。そこは、出版されている小説とは違う世界だった。
泣きながら、ごっそりと改稿を行う。
此処にあった書き方。
こだわりなど捨てる。美しい表現? そう思うのは自分だけだったんだ……
気が付けば、就職など出来なかった。
そう、投稿するのにのめり込み、PVの数字。その魅力に魅入られていく……
ペンネームを、本名をやめ『絶望のワナビ』とか適当に付けて書き始め、必要最小限バイトを行う。
「君、大学も出ているんだね。正社員にならない」
「いえ、今ちょっと、やりたい事があって」
若いうちには、そんな声もかかっていた。
だがその頃、まるで投資ジャンキーのように、数字の上下に一喜一憂をしていた。
タイトルを変えたら数字が上がる。
かわいい子を出したら数字が上がる。
なんで付き合ったら下がる? 彼女はヒロインなんだぞぉ。
まあまあ、良くある話。
月間で、三千とか五千PV。
時間を宣言して、毎日投稿。
一話の長さも色々変えてみた。
そうしてのめり込みつつ、派遣に登録して幾星霜。
今年四十になっていた……
週末仕事が無いときには、図書館に行っている。
むろん公立の無料で読めるところ。
色々なジャンル。本という本がある。
そして…… 最近見かける女の子。
高校生くらいだろう。
そう横顔や仕草。
友達と笑っているときの顔と、無節操に人の肩を叩く行動。
昔彼女だった。並木 文乃にそっくりなんだ。
もう二十年も前の記憶が蘇る。
高校三年の時、小説が好きなんだねと言って話し始め、彼女の趣味がハーレクイン小説だったときの、わずかな落胆。
だけどまあ、うまくいっていた。
あの時までは。
結局彼女が言っていたように、就職をする方が正解だったかもしれない。
でもまあ何とか、小説家の端っこにぶら下がっている。
大ヒットなど、もちろんないが、細々と暮らすには十分だ。
四十のオッサンが、彼女に声をかけたりすれば事案間違いなし。
思った事があったが、聞けずにいる。
そう、俺は四十。彼女が十六さいとか、十七歳なら娘だという可能性がある。
まあ、そんな夢想をしながら、見守り二年ほど……
運命の歯車が、いきなりかみ合ってしまった。
「痛てっ」
「ごめんなさい」
本棚の角で出会い頭の事故。
持っていた本が、落ちて混ざってしまう。
本を拾うと、まともな小説が数冊。
ああいや、思ってしまったハーレクインと違ったと言うだけ。
「小説が好きなんだね」
そう言いながら渡すと、彼女は困ったように言う。
「好きは好きですが、普段とは違って、これ共通試験の出典に載っていたのでつい」
「ああ。今年受験なのか。頑張って」
そう言うと、なぜか、ぱあっと顔が明るくなる。
「はい。あの、小説好きなんですね」
彼女から、俺が持っていた本を受け取る。
「好きだし、仕事でもあるんだ」
「へぇぇ。すごいですね。頑張ってください」
そう言ってなぜか、彼女は頬を赤く染め、走って行った。
図書館なのに……
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