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巡り会い、山
第3話 雨が降れば、地は固まるものだよ
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「うん? んんっ」
どっちかが、気が付いた。
「これ」
「あー。暖かくなったからかなぁ」
体を拭いていた手が止まる。
いまテントの中は、断熱クッションの上に封筒型のシュラフを開いて、毛布。
そのシュラフの上に三人だが、狭いので密着状態。
でまあ、汗もかいているし、匂いが立ちこめているのだよ。
誰かに触られている感触は、まあ慣れないものだし、ムクムクと……
でなんとなく、見つめられている気もするんだが……
「こんな感じなんだ」
「やめなさいよ。起きちゃうわよ」
左右から声が聞こえる。
確か、右が骨折ちゃんで、左がゾンビ。
興味津々が骨折ちゃんなのか?
いや俺を中に入れたとき、入れ替わった可能性もある。
ううむ。
なんかツンツンされる。
目を開く。
二人共が、注目していた。
見えているのは背中で、位置も変わっていなかった。
「きゃ。動いた」
反応したようだ。
その時、ゾンビがこっちを向く。
当然目が合う。
その瞬間、にへらと笑うゾンビ。
肘で、つんつんと骨折美人さんに合図を送るが。
骨折美人さんは、まだ俺のを一生懸命ツンツンしている。
痛みがないようなら何よりだ。
「なによ。もう」
一応、声は抑えながらゾンビに問いかける。
ゾンビは、顔でこちらのことを促す。
そーっと、こちらを向く骨折さん。
ゾンビと同じく、にへらと笑い。そっと俺のパンツが閉じられる。
「元気そうで何より。痛みは良いのか?」
「あっうん。薬が効いたみたい」
「それは僥倖」
僥倖とは思いがけない幸せのこと。
普通、三日から四日は痛いものだ。
「そっちは、大分冷えたでしょ」
「ああ、かなり雨はひどくなったからな。悪いな中に入れて貰って」
「ううん。あなたのテントだし。こっちこそ。こんなに天気が崩れるとは思っていなくて。あっわたし山辺 結月。二十二歳」
さっき川から上がるときに、見せた顔とは全然違うな。
あの時には、嫌いな虫でも見たような顔だった。
「大学生?」
「ううん。短大を出て会社員」
「そうなんだ。おれは、上山 律二十五歳。同じく会社員だな。今朝天気が良かったから、思わず仕事を休んで、天罰だな」
「ああっ。それ一緒。けさ私も思ったの」
ゾンビが、割り込んできた。すごく和やかに。
「ねえねえ。律さんて、独身? それとも付き合っている人居るの?」
「いや、居ない。淋しい一人暮らし」
「へー、そうなんだぁ」
そう言いながら、なぜか俺の腹をスリスリする。
「あの。私、平山 葉月。なの。フリーで。えーと。助けてくれて、ありがとうございました」
「いやいい。それに状況はまだ悪いままだしな。日が暮れるまでに止めば良いが」
「そうですね」
そう、テントの中は、ほのぼのだが、外はまだ豪雨。
「そうね。絶好調で遭難中」
そう言いながら、パタンとお俺の横に、結月が寝転がる。
「あそこから落ちて、よく無事だったな」
「丁度腹ばいで落ちて。必死で地面を抑えて、途中丁度良い木を見つけて掴んだら、くるくる回っちゃってすぐ崖下へ」
「なんで、それで腕が折れるんだ?」
「うーん。か弱いから?」
「―― まあ、距離があったからなあ。無事で良かった」
「そうね。来てくれなかったら、今頃濁流の中。ありがとうございます」
そう言ってキスされた。
ゾンビじゃない、葉月からは見えなかったと思うが大胆な奴。
すごく嬉しそうだが、少し照れている顔がかわいい。
時折、落雷の音が響く。
そのたびに、二人の密着度が上がっていく。
「いまの、近くなかった?」
「まあ、いるのは谷の方だし大丈夫だろ。抜ければ雨も止むし」
「そう。そうね」
会話している横で、葉月はあわあわしていた。
律さんかっこいい。
こんな格好で、一緒に寝て。初対面なのに、きゃー。
どうしよう。
でも、結月も趣味が同じだから、気に入っているよね。
兄弟とか、いないのかしら?
そしたら、分けっこ出来るのに。
えへへ。
そう。すりすりしているだけで満足をしていた。
「こらやめろ」
「えーどうして」
「けが人のくせに…… 出たら匂うし。横に葉月も居るのに」
「たくっ」
「ひゃ」
じゃれていた。
やがて、雨は止み、静かになる。
「おっ。止んだな」
「ホントだ。帰れる」
まだ、服はぐっしょりだったが、仕方ない。
慎重に、少しずつ上に登ると、登山道に戻ることが出来た。
女の子二人は電車だったが、律は車だったので家まで送ってその後病院へ。
だが翌日から、二人が家にやって来るようになってしまった。
そう、二人ともなんだよ。
「律が好きなの」
結月はそう言ったそうだ。
するとだ、葉月はあっさりと答えた。
「やっぱり? 私もなの。分けっこしよう」
「じゃあ。そうしようか」
そうなったらしい。
訳が分からん。
「そうなったから、よろしくね」
「えっ?? 良いのかそれで?」
「良いんじゃ無い?」
「うん。それで良いの」
良いんだそうだ……
---------------------------------------------------
お読みくださり、ありがとうございました。
愛の形も様々と言う事で……
どっちかが、気が付いた。
「これ」
「あー。暖かくなったからかなぁ」
体を拭いていた手が止まる。
いまテントの中は、断熱クッションの上に封筒型のシュラフを開いて、毛布。
そのシュラフの上に三人だが、狭いので密着状態。
でまあ、汗もかいているし、匂いが立ちこめているのだよ。
誰かに触られている感触は、まあ慣れないものだし、ムクムクと……
でなんとなく、見つめられている気もするんだが……
「こんな感じなんだ」
「やめなさいよ。起きちゃうわよ」
左右から声が聞こえる。
確か、右が骨折ちゃんで、左がゾンビ。
興味津々が骨折ちゃんなのか?
いや俺を中に入れたとき、入れ替わった可能性もある。
ううむ。
なんかツンツンされる。
目を開く。
二人共が、注目していた。
見えているのは背中で、位置も変わっていなかった。
「きゃ。動いた」
反応したようだ。
その時、ゾンビがこっちを向く。
当然目が合う。
その瞬間、にへらと笑うゾンビ。
肘で、つんつんと骨折美人さんに合図を送るが。
骨折美人さんは、まだ俺のを一生懸命ツンツンしている。
痛みがないようなら何よりだ。
「なによ。もう」
一応、声は抑えながらゾンビに問いかける。
ゾンビは、顔でこちらのことを促す。
そーっと、こちらを向く骨折さん。
ゾンビと同じく、にへらと笑い。そっと俺のパンツが閉じられる。
「元気そうで何より。痛みは良いのか?」
「あっうん。薬が効いたみたい」
「それは僥倖」
僥倖とは思いがけない幸せのこと。
普通、三日から四日は痛いものだ。
「そっちは、大分冷えたでしょ」
「ああ、かなり雨はひどくなったからな。悪いな中に入れて貰って」
「ううん。あなたのテントだし。こっちこそ。こんなに天気が崩れるとは思っていなくて。あっわたし山辺 結月。二十二歳」
さっき川から上がるときに、見せた顔とは全然違うな。
あの時には、嫌いな虫でも見たような顔だった。
「大学生?」
「ううん。短大を出て会社員」
「そうなんだ。おれは、上山 律二十五歳。同じく会社員だな。今朝天気が良かったから、思わず仕事を休んで、天罰だな」
「ああっ。それ一緒。けさ私も思ったの」
ゾンビが、割り込んできた。すごく和やかに。
「ねえねえ。律さんて、独身? それとも付き合っている人居るの?」
「いや、居ない。淋しい一人暮らし」
「へー、そうなんだぁ」
そう言いながら、なぜか俺の腹をスリスリする。
「あの。私、平山 葉月。なの。フリーで。えーと。助けてくれて、ありがとうございました」
「いやいい。それに状況はまだ悪いままだしな。日が暮れるまでに止めば良いが」
「そうですね」
そう、テントの中は、ほのぼのだが、外はまだ豪雨。
「そうね。絶好調で遭難中」
そう言いながら、パタンとお俺の横に、結月が寝転がる。
「あそこから落ちて、よく無事だったな」
「丁度腹ばいで落ちて。必死で地面を抑えて、途中丁度良い木を見つけて掴んだら、くるくる回っちゃってすぐ崖下へ」
「なんで、それで腕が折れるんだ?」
「うーん。か弱いから?」
「―― まあ、距離があったからなあ。無事で良かった」
「そうね。来てくれなかったら、今頃濁流の中。ありがとうございます」
そう言ってキスされた。
ゾンビじゃない、葉月からは見えなかったと思うが大胆な奴。
すごく嬉しそうだが、少し照れている顔がかわいい。
時折、落雷の音が響く。
そのたびに、二人の密着度が上がっていく。
「いまの、近くなかった?」
「まあ、いるのは谷の方だし大丈夫だろ。抜ければ雨も止むし」
「そう。そうね」
会話している横で、葉月はあわあわしていた。
律さんかっこいい。
こんな格好で、一緒に寝て。初対面なのに、きゃー。
どうしよう。
でも、結月も趣味が同じだから、気に入っているよね。
兄弟とか、いないのかしら?
そしたら、分けっこ出来るのに。
えへへ。
そう。すりすりしているだけで満足をしていた。
「こらやめろ」
「えーどうして」
「けが人のくせに…… 出たら匂うし。横に葉月も居るのに」
「たくっ」
「ひゃ」
じゃれていた。
やがて、雨は止み、静かになる。
「おっ。止んだな」
「ホントだ。帰れる」
まだ、服はぐっしょりだったが、仕方ない。
慎重に、少しずつ上に登ると、登山道に戻ることが出来た。
女の子二人は電車だったが、律は車だったので家まで送ってその後病院へ。
だが翌日から、二人が家にやって来るようになってしまった。
そう、二人ともなんだよ。
「律が好きなの」
結月はそう言ったそうだ。
するとだ、葉月はあっさりと答えた。
「やっぱり? 私もなの。分けっこしよう」
「じゃあ。そうしようか」
そうなったらしい。
訳が分からん。
「そうなったから、よろしくね」
「えっ?? 良いのかそれで?」
「良いんじゃ無い?」
「うん。それで良いの」
良いんだそうだ……
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お読みくださり、ありがとうございました。
愛の形も様々と言う事で……
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