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七年後の約束と、二十七年目の彼女
海での約束
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ふと思い出す。
あれは、そう四十歳の時のこと……
人生百年と言うが、実質は八十位だろう。
だとすれば、人生の半分が終わってしまった。
流行病があって、業績も良くなかったのか、いきなりまとまった休みを取らされ、ふらっと地元へ帰ってきた。
海の近くで、静かな所。
歩いて行ける崖下に、干潮時にも口の見えない海蝕洞窟がある。
そこは、大潮の日にだけ、潜れば中に入れる。
地元の一部人間だけが知っている話。
――そう。そこでの記憶。
ふと昔の約束を思いだし、俺は潜ってみた。
すると、彼女がいた……
彼女と約束をしたのは、本当は二十年前。
二十になれば、会おうというもの。
最初に会ったのは、中学一年だった。
その頃、度胸試しで潜ってみた。
大人からは危ないからと止められていたが、やめろとか危ないとか言われるとやってみたくなる年ごろ。
大潮の日、干潮の潮が止まったときだけがチャンス。
俺は飛び込んだ。
潜水をして岩をくぐる。
距離は三、いや、五メートルくらい。
何とかくぐり抜けた。
そこはドーム状に浸食され、目の前には四畳ほどの平らな岩棚があり、天井からわずかに光が差し込む。
不思議な空間。
光と、闇。
闇側にはコケなのか、星のように光る何かがあり、ものすごく幻想的な光景が広がっていた。
そうまるで、宗教画にでも描かれていそうな世界。
ドームは、学校の教室くらい? 直径十メートルくらいはあるだろう。
岩棚に寝転がり、ぼーっと見ていたが、潮が動き出す前に戻らなければいけない。潮止まりで安全なのは十五分、余裕を見ても三十分くらい。
それを過ぎると、戻れなくなる。
そう思っていると、誰かがいることに気が付く。
あの頃は、まあお化けとかが怖く。信じていた。
だけど、居たのは少し歳上? の綺麗なお姉さんだった。
「へー君すごいね。此処に来れたんだ」
おれは、目線をずらす。
お姉さんは、水着だと思うが、その上に薄いワンピースを着ていて、水に濡れ、透けた感じがすごくドキドキするものだった。
「なに? だんまりなの? ああ恥ずかしいのね。君幾つ?」
「中一」
ぶっきらぼうに答える。
そう彼女が言うとおり、恥ずかしかった。
母親とも違う、クラスの女の子など彼女に比べればガキだし。
そう、一目惚れに近い感じだろう。
幻想的な空間と、高校生くらいの、少し大人の彼女。
「うーん。じゃあ、七年後。二十歳になったら会いましょ」
俺が黙っているから、一方的にそう言うと、肩より少し長い髪を束ね、海に戻ってしまった。
その何気ない仕草や、差し込む光の中で見た、彼女の腋から腕。それだけで、ドキドキは収まることはなかった。
それからの現実は、少し色あせ、俺は中高とよく言えばクール。悪く言えば、他人にあまり興味が無い男だと言われた。
そう、頭の片隅にずっと彼女がいた。
そして、二十になった時。
大学の講義をすっぽかし、帰ってきたが、なぜか海が荒れていて潜ることなど出来なかった。
いやまあ、外で会えるかもと期待してきたが、会えなかった。
そして、潮風を浴びて風邪をひき、実家で三日寝込んだ。
その後、彼女によく似た妻と出会い結婚。
子供も出来て、少し手が離れた頃。
そう四十歳。
妻は仕事があり、子供も学校。
俺だけが、ふらっと実家へ帰ってきた。
二十歳からさらに、二十年。
運動不足で厳しいかと思ったが、潜ってみた。
一応、ずるいと思ったが、ダイビング用小型酸素ボンベ をもって海へ入る。
意外と、あっさりとくぐることが出来た。
そして、中に差し込む光は、浸食のためか増えていた。
水から、岩棚に這い上がると、目を丸くして驚いている彼女がいた。
あの時と同じ姿形。
高校生くらいのまま。
「久しぶり」
そう言って見たが、今度は彼女がだんまりだった。
白の水着とビーチガウン。
じっと俺の顔を見ると、それが自然とでも言うように、抱きついてきた。
思ったよりも、彼女の体は小さく。抱きしめると折れてしまいそうなくらい華奢だった。
幻想的な雰囲気の中で、彼女と抱き合い、暖め合う。
差し込む光の中で彼女の裸体は神々しく、幾度となく果ててしまったが何とか頑張る。
約束をした二十の時なら、十二時間頑張っただろう。
だが、満潮時は大部分が水没をするような気もするが……
年のせいか、疲れで少し寝た間に、彼女はいなくなっていた。
だが、別れ際にされた、唇の感触は残っている。
潮が満ち、岩棚に水が来始めたのであわてて、ボンベを咥えて水に入る。
だるさがひどい。
何とか戻ってきたが、込み潮の波にもまれ、随分時間がかかってしまった。
ボンベがなければ、やばかった。
出てきて、彼女を探すがあの時と同じ。
周囲に人影はない。
実家へと帰り、風呂に入った後。ビールを飲んでいてふと思う。
幼い頃の記憶と幻想的な雰囲気。
つい抱いてしまったが、浮気だよね。
ある日、「あなたの子供よ」などと言って、半魚人が家の前に立っているのを想像してしまった。
ずるいが、そんな事がないことを祈ろう。
あれは、そう四十歳の時のこと……
人生百年と言うが、実質は八十位だろう。
だとすれば、人生の半分が終わってしまった。
流行病があって、業績も良くなかったのか、いきなりまとまった休みを取らされ、ふらっと地元へ帰ってきた。
海の近くで、静かな所。
歩いて行ける崖下に、干潮時にも口の見えない海蝕洞窟がある。
そこは、大潮の日にだけ、潜れば中に入れる。
地元の一部人間だけが知っている話。
――そう。そこでの記憶。
ふと昔の約束を思いだし、俺は潜ってみた。
すると、彼女がいた……
彼女と約束をしたのは、本当は二十年前。
二十になれば、会おうというもの。
最初に会ったのは、中学一年だった。
その頃、度胸試しで潜ってみた。
大人からは危ないからと止められていたが、やめろとか危ないとか言われるとやってみたくなる年ごろ。
大潮の日、干潮の潮が止まったときだけがチャンス。
俺は飛び込んだ。
潜水をして岩をくぐる。
距離は三、いや、五メートルくらい。
何とかくぐり抜けた。
そこはドーム状に浸食され、目の前には四畳ほどの平らな岩棚があり、天井からわずかに光が差し込む。
不思議な空間。
光と、闇。
闇側にはコケなのか、星のように光る何かがあり、ものすごく幻想的な光景が広がっていた。
そうまるで、宗教画にでも描かれていそうな世界。
ドームは、学校の教室くらい? 直径十メートルくらいはあるだろう。
岩棚に寝転がり、ぼーっと見ていたが、潮が動き出す前に戻らなければいけない。潮止まりで安全なのは十五分、余裕を見ても三十分くらい。
それを過ぎると、戻れなくなる。
そう思っていると、誰かがいることに気が付く。
あの頃は、まあお化けとかが怖く。信じていた。
だけど、居たのは少し歳上? の綺麗なお姉さんだった。
「へー君すごいね。此処に来れたんだ」
おれは、目線をずらす。
お姉さんは、水着だと思うが、その上に薄いワンピースを着ていて、水に濡れ、透けた感じがすごくドキドキするものだった。
「なに? だんまりなの? ああ恥ずかしいのね。君幾つ?」
「中一」
ぶっきらぼうに答える。
そう彼女が言うとおり、恥ずかしかった。
母親とも違う、クラスの女の子など彼女に比べればガキだし。
そう、一目惚れに近い感じだろう。
幻想的な空間と、高校生くらいの、少し大人の彼女。
「うーん。じゃあ、七年後。二十歳になったら会いましょ」
俺が黙っているから、一方的にそう言うと、肩より少し長い髪を束ね、海に戻ってしまった。
その何気ない仕草や、差し込む光の中で見た、彼女の腋から腕。それだけで、ドキドキは収まることはなかった。
それからの現実は、少し色あせ、俺は中高とよく言えばクール。悪く言えば、他人にあまり興味が無い男だと言われた。
そう、頭の片隅にずっと彼女がいた。
そして、二十になった時。
大学の講義をすっぽかし、帰ってきたが、なぜか海が荒れていて潜ることなど出来なかった。
いやまあ、外で会えるかもと期待してきたが、会えなかった。
そして、潮風を浴びて風邪をひき、実家で三日寝込んだ。
その後、彼女によく似た妻と出会い結婚。
子供も出来て、少し手が離れた頃。
そう四十歳。
妻は仕事があり、子供も学校。
俺だけが、ふらっと実家へ帰ってきた。
二十歳からさらに、二十年。
運動不足で厳しいかと思ったが、潜ってみた。
一応、ずるいと思ったが、ダイビング用小型酸素ボンベ をもって海へ入る。
意外と、あっさりとくぐることが出来た。
そして、中に差し込む光は、浸食のためか増えていた。
水から、岩棚に這い上がると、目を丸くして驚いている彼女がいた。
あの時と同じ姿形。
高校生くらいのまま。
「久しぶり」
そう言って見たが、今度は彼女がだんまりだった。
白の水着とビーチガウン。
じっと俺の顔を見ると、それが自然とでも言うように、抱きついてきた。
思ったよりも、彼女の体は小さく。抱きしめると折れてしまいそうなくらい華奢だった。
幻想的な雰囲気の中で、彼女と抱き合い、暖め合う。
差し込む光の中で彼女の裸体は神々しく、幾度となく果ててしまったが何とか頑張る。
約束をした二十の時なら、十二時間頑張っただろう。
だが、満潮時は大部分が水没をするような気もするが……
年のせいか、疲れで少し寝た間に、彼女はいなくなっていた。
だが、別れ際にされた、唇の感触は残っている。
潮が満ち、岩棚に水が来始めたのであわてて、ボンベを咥えて水に入る。
だるさがひどい。
何とか戻ってきたが、込み潮の波にもまれ、随分時間がかかってしまった。
ボンベがなければ、やばかった。
出てきて、彼女を探すがあの時と同じ。
周囲に人影はない。
実家へと帰り、風呂に入った後。ビールを飲んでいてふと思う。
幼い頃の記憶と幻想的な雰囲気。
つい抱いてしまったが、浮気だよね。
ある日、「あなたの子供よ」などと言って、半魚人が家の前に立っているのを想像してしまった。
ずるいが、そんな事がないことを祈ろう。
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