泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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彼女の村

ある女の子

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 その娘は、雨の降る夕方。ドアの前で立っていた。
 何者っと思ったが、隣のドア。何のことはない。お隣さんだったようだ。

「こんばんは」
 一応声はかける。

「すみません、お隣様でしょうか?」
「はい、そうです」
「ぶしつけで申し訳ありませんが、電話を貸していただけないでしょうか?」
「ああ。管理会社へ電話するの?」
「はい。鍵をなくしてしまって」

 そう言われて、ロックを解除してスマホを渡す。
 随分まぬけたことだが、やってしまった。

 だが彼女、きょとんとしている。

 まあ鍵が無いのなら、やることは一つ。
 電話をして、彼女に代わる。

「お町ではこんな…… これが携帯とか、スマホというものですか」
「えっ。知らないの?」
「ええ。言葉では、聞いたことがあるのですが、電話と言えば、玄関にある黒いものだと」
「はっ?」
 つい、逆に聞き返してしまった。
 黒電話って、完全昭和だし、親父が子供のときには、プッシュタイプだったと聞いたぞ。

 ポケベルとかPHS? とかも、親父が若い頃にはあったらしいし。

 管理会社が来る間、話し込み、つい家の玄関を見せて、玄関先に電話が無いことで彼女にも驚かれた。

 どうも、閉鎖的な村の出身者で、大学へ入ったついでに、村へ新たな血を入れる為、婿捜しもしていると、後日聞いた。

 ベッドの上で……

 彼女は、西村 美里にしむら  みさと
 黒髪を肩で切りそろえ、日本人形のような風貌。
 百六十センチの身長で、目だつほどの凹凸はない。
 まさに奥ゆかしいというのが、ぴったりだといえる。

 一年も付き合った頃、彼女に誘われる。

「村へ一度帰りますが、その…… 涼太さんも一緒に行きませんか。両親や妹にも紹介をしたくて……」
 彼女はじっと見ながら、誘ってくる。

「そうか。そうだな、行こうか」
「誘っておいて、何ですが、何もないところで、少し退屈かも…… それと…… 少し変わった風習があるので…… その、あまり気にしないでください」
「変わった風習?」

 その風習。おれ的にはステキだったが、心としては複雑な物となる。

「ようこそ、こんな田舎まで」
 彼女のご両親はもとより、家族総出で出迎えられる。

 木造の旧家といえる大きな家。

 電車などはむろん通じてなく、この村に入るバスは一日一本。
 まさに陸の孤島といえる。

 この村三つの家族が仕切っている。
 彼女の家、西村。そして、中村。もう一つが東村。
 そして歴史の中で、近親婚が問題となり、外から婿や嫁を貰うことを始めた様だ。

 つまり、苗字は三つだが、一繋がりの家族。
 ワンピースの村。
 そして、近親婚が多いという事は、子供の死亡率が高かったり色々弊害がある。

 その晩、次から次へと挨拶をされ、酒を注がれる。
 そう、すっかり俺のお披露目会。

 ひな壇は無いが上座に座り、まるで披露宴。
 もう絶対逃げられない。

「十数年ぶりの、外から招いた人で皆が喜んでいます。ご容赦くださいね」
 彼女に、そう言われた。

 そして、その夜から、風習が牙を剥く。

「うん? 駄目だよ。ふすまの向こうにはご家族が……」
 下半身への、なまめかしい感覚で目が覚める。

 すると聞こえる、美里の声。
「そう上手。大きくなれば使えます。では、始めては痛いからゆっくりと……」
 そうして、常夜灯の明かりの中浮かび上がるのは、妹さん。そう茜さんだ。彼女より二つ下でまだ高校生だっただろ。

 だけど、なまめかしく、興味芯々の顔で行為を続ける。
 そして、横で美里の指導。

 そう、せっかくの外から来た血。
 分与えねば……
 と言う事らしい。

 ステキだが、それは妹さんだけではなく、広がっていく。


 この村、閉鎖的であったため、昔は近親婚が多く、血が濃くなるにつれかなりの奇形や障害が生まれた。
 そう、かの有名なスペインのハプスブルク家の呪い。

 王家の血筋を大事にするあまり、近親婚を繰り返し、滅亡した家。下顎前突症に代表される、特徴的な顔を持っていたそうだ。

 そして、この村は、外の村からは呪われた村だと言われて、禁忌されさらに交流は途絶える。

 戦争時代、疎開があり、その時に少し改善される。

 そして、新しい血が、村では神からの賜り物のようにあがめられるようになる。
 家だけではなく、分け与えよ。
 とまあ、俺が結婚した場合、一気に子供が増えることになるだろうと、彼女が嬉しそうに言う。

 狂気のような風習。
 だがそれは、命を繋ぐ知恵。
 一度、それがあれば、何代かは大丈夫。

 きっと俺は、大事にされるだろう。

 盛大な、ストレスと共に。
 割り切れば、ハーレム。

「女の子が、嫁に来た場合は?」
「同じよ。でも効率が悪いから。男の人の方が、ありがたがられるの」
「そうか……」

 俺は帰りのバスの中で、再びこの村に来るかを葛藤することになる。
 つくしてくれる彼女。

 それは、本当に、神に仕える巫女のように。
 男としては非常に嬉しい。
 理想的な嫁。
 ただ…… 


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お読みくださり、ありがとうございます。
フィクションです。
ええ、多分。
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