泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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ある巡り会い

第2話 山で拾う

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 よく朝、頭が重い。
 痛み止めは飲んだので、頭痛はないが。怪しい。
 だけどなぜか、いかなければ行けないと、心が急かされる。

 第十一番藤井寺へ向かう。

 ここはまあ良い。
 次が、かの大○洋さんが、勝算がないとぼやいた焼山寺。
 見事な山の中。

 くねくねとした道を、ひたすら寺へと向かう。
 自分で運転をしていて、酔いそうになる。

 おおよそ、一時間半でやっと、到着。
 有料の駐車場から、境内へ向かう途中、小脇にスーツケースを持った女の子と会う。
 まあ気にすることもなく、境内への階段を上がっていく。
 まあた。頭痛が始まる。
 いつもよりひどい。

 何とか、お参りをして、御朱印を貰う。

 そして降りてくると、さっきの女の子がこっちを見ている。
 じっと見てくる。
 ずっと見てくる。
 ――にらみ合いをして、お互いに気が付く。

「「あっ。あの時の変態」」
 声がかぶった。

「何が変態よ。覗くのが悪いんでしょう」
「抱かれながら、他の男と目を合わすってなんだよ」
 だが、その声を掛け合った時。
 なぜか、頭痛と重さが消えた。

 ただ、その時は気が付かず、その子から離れようとすると頭痛が起こる。
 何だよこれ。――仕方が無い。
 関わらず行こうと思ったが、もうここまで来れば、何かの啓示だ。

「なんで、こんな山の中に居る?」
「バス停まで一時間くらい掛かるの。疲れたから休憩中よ」
 不機嫌そうに答える。

「ここまでは、どうやって来たんだ?」
「昨日、じゃない。一昨日になるのね。あの男とこのあたりまで来て、ちょっとマニアックな史跡を見ていたのよ」
「へー変わった男だな」
「違う。私の趣味。あの男は、徳島へ来たとき軟派してきた奴」
 出会ってすぐあれか?

「軽っ」
「良いじゃ無い。したかったのよ。ちょっと見知らぬ土地で興奮していたし」
 などと、以外と尻の軽い。とんでもない奴だった。

「あんた幾つよ。若そうなのにお遍路なんて」
「二十二だ」
「げっ。歳上」
 一体どう思っていたんだ?

「お前は幾つなんだよ」
「いきなりでそんな事を聞く? まあ良いけど。二十歳よ」
 腕組みをして、胸を張るがささやかだな。

「ガキだな」
 素直にそう言うと、むっとした顔になる。

「それで、男はどうしたんだ?」
 そう聞くと、あっそうだという感じで、喋り始める。

「喧嘩をして帰った。ひどいと思わない。夜の山の中で放置よ放置。すんごい怖かったんだから」
「大丈夫。確か四国には、熊がいないから」
「そういう問題じゃないの。真っ暗なのよ。この辺り。水もトイレもないし」
「どうしたんだ?」
 そう聞くと、ぷいっと横を向く。

「聞かないで」
 まあ色々あれだが、助けないといけないようだ。

「まあいい。乗るんなら乗せて行ってやる。次は第十三番 大栗山、大日寺。町じゃないが、麓へは降りる」
「いいの? ラッキー。まあ、あんたなら、一回くらい良いか」
 どうも、貞操観念がおかしい。

「お前そんなこと言っていると、襲われるぞ」
「いいわよ。すでに経験済みだもの」
「はっ?」
 だが、その時した彼女の顔は、ものすごく心に残った。いや、刺さった。

 その事は、移動中の車の中で、全部しゃべってくれた。

 その内容は、むごかった。
 高校一年の時、好きだった男に誘われデートへと出かけた。
 相手は2個上。

 夏休みという事もあり薄着だったが、まあそれは良い。
 朝から出かけ、映画を見て食事。
 その後ちょっと家へ寄るという事で、彼について行く。
 
 とあるマンションの一室。
 だが、そこにいたのは、複数の男達。
 だが、その時の彼女はまだ若く。一人暮らしなんだ。友人が来たので、呼び戻されたのねと軽く考えた。

 だが。
「今日はそいつか? かおは、普通だし、体型も今一だな」
「はっ?」
「仕方ないだろ。他の奴らには振られたんだ。こいつなら惜しくないしいいぜ」
「はっ?」

 あっという間に押さえ込まれて、彼女は初めてを奪われた。
 それも全部。

 体中から立ちのぼる、男達の体液の匂い。
 バレるからだろうか、強引にシャワーを浴びさせられて放り出された。
 お決まりの台詞。『写真をばらまかれたくなければ黙っていろ』むろん彼女は、奴らが消える前に交番へ飛び込み告発。
 手続きをどうこう言っている警官を、強引に引っ張り部屋へ押し込む。
「忘れ物をしたから開けて」

「何だよ。まだやり足りないのか?」
 そう言って出てきた、そいつの目に警官の姿。

 その瞬間。そいつはへたり込んだ。

 すぐに警官は応援を呼び捕まったが、『俺達はそいつに誘われただけだ』と言う。
 だが、スマホに残っているのは、恐怖におびえ、泣く彼女。
 そして、彼女の頬に残る。叩かれた跡。

 病院に事情聴取。
 そこから彼女は、針のむしろで、残りの高校生活を終える。
 それは家でも同じで、大学入学と同時に家を出た。

「幾人としても、あまり楽しくないけれど。一度やると、男はこっちを信じるみたいでさ」
 つい頭をなでてしまった。
「辛かったな」
 そう言うと、助手席に座り、こっちは運転中だから見られないが、信じられないとかぼやいている。

 第十三番 大日寺に到着をしたとき、彼女はまだ泣いていた。
「俺はお参りに行く。車にいるか?」
 何も食べていないというので、さっきコンビニへ回ってきた。

「行く」
 鼻をすすりながら答える彼女。
 泣いたのは、高一。あの時以来らしい。
『なんで。涙が止まらない』と言いながら、泣いていた。

 今度は境内に入っても頭痛がしない。
「何だよこれ」
「どうしたの?」
「後で話す」


 第3話へ続く。
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