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春の一日
第3話 愛実は暴走する
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「ごちそうさまでした。お礼のつもりで入ったのに。結局出して貰ってしまって」
「ああ。いいよ。妹さんのためにも頑張ってね」
そう言って、彼は踵を返す。
愛実は、その時ひらめいた。
「あっ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「ひょっとして、中山さんて一人暮らしだったりします?」
「ええ、まあ」
「普段、晩ご飯て、どうしているんですか?」
などと話していると、店の中に居た奴らが出てくる。
そう元カノの連れ連中。
「見間違いかと思ったけれど、やっぱり、直弥さんじゃない。その子彼女?」
「あー、いや……」
彼の言葉を遮り答える。
「はい、そうです」
思わず口をついて出た。
「あっ。おい」
中山さんが焦っている感じだけど、彼女に取られるのはいや。
私が言うことでも無いけど、この人嫌い。
「何でよ。怜子と別れたって言うから待っていたのに。連絡をくれないと思ったら、ひょっとして、二股だったの?」
いや、別れてから、もう一年も経つんですが。
「付き合いだしたのは、今日からです。中山さん真面目な方ですから」
そう言ったら、意地の悪い笑みを浮かべる。
「中山さんねぇ。確かに付き合いが浅いのは分かるわ」
言っている女の人は、私から見ても美人系。
だけど化粧の技ね。目も眉もすべて偽物よ。
きっと化粧を落としたら、中山さんは驚くと思うわ。
私はナチュラルというか、化粧をほとんどしていない。
引くことはできない。訳の分からない意地の張り合い。
「こんなガキっぽいタイプは、好みじゃないでしょ?」
――そんな事と、言おうとしたら、横から声が聞こえる。
「まあ、そうなんだけどね」
「やっぱり」
その言葉で、愕然とする。
「――だけど、なんだか気になってね。興味を引かれたというか、守ってあげたいというか。怜子と付き合っていた時みたいに、気取らなくて良いのが良い」
うん? これは褒められているの? 彼がそんなことを言ってくれた。
彼がそう言うと、彼女は、真っ赤になって駐車場の方へ向かっていった。
連れの女の人も、あわてて追いかける。
「えーと、すみません。なんだかあの人、不得意な感じでついむきになって」
「うーん」
謝る私を、そう言ったまま彼は、じっと見てくる。
微妙にてれて、つい目線をずらす。
「困ったね。彼女候補に振られてしまった」
「えっ、あの人が好きだったんですか?」
「いや。好きか嫌いかなんて言うのは、後から付いてくるタイプなんだ。気にいったか気にいらないか、そこから恋愛を始めるタイプでね」
「それって、何か変わっていますね?」
「そう? まあ冷たい人だとは、別れる前には言われる。――さてと、どうしようかな。図らずも告白を受けたし。さっきの問いは、自炊もするし外に食いに行くこともあるが答えだ」
告白。そうだ告白しちゃった。それも私から。
「えーと勢いと言いますか、つい」
「じゃあ、嘘だったのか?」
「あーいえ。嘘じゃないです」
「じゃ良いじゃ無い。試しだ、付き合ってみるか?」
また、じっと見つめられる。
「えーあーうー。はい」
「じゃあさっきの服屋に行って、君が買うのをためらった、デニムやシャツも買おう」
「えっ。いや、そんなつもりで」
「さっきも、彼氏だったら買ってやれるのにと思って、やきもきしたんだ。お礼は、晩ご飯まで付き合ってくれるんだろう?」
「あっいや、そんなつもりは、あーいえ。多少あったんですが」
「じゃあ行こう」
そう言って手を引かれて、さっきの店へと戻る。
私がためらっていた物を、よくぞ覚えていたという感じで、カゴの中へ放り込む。
なぜかサイズまで把握されていた。
「お礼は…… そうだな、よく知るために、君を見せて貰おう。夕飯は僕が作ろうか。酒は飲める?」
君を見せてがあんな意味だったとは、この時は予想できなかった。
「ええ、まあ」
うんうんと頷く彼。
「魚と肉どっち?」
「魚」
どっちと聞きながら、答えたら嫌そうな顔になるって。
「魚? 僕は不得意だ。鶏肉は?」
「なら、大丈夫です」
そう言いながら、食べられそうな、ヒラメとかを買い込み、鶏肉と味のくらべっこをするそうだ。
互いにそんなことを暴露しながら、夕飯の買い物をしていく。
「箸とナイフどっち?」
「お箸で」
「良し、両方だそう」
「どうしてですか?」
「聞いてはみたが、あらかじめ切ると、どうしても、うま味が逃げる」
変に拘るらしい。
料理の上に、グリルされたチキンやヒラメの上に、赤い糸のような物が乗せられていた。
飲みに行った先で見たことがあるのだが、名前を知らない。
「これってなんですか?」
「糸唐辛子。唐辛子を細く切ったもの。辛くない奴だから、後よく見るやつではじかみと呼ばれる生姜なども付いているね。あれは早く収穫した葉生姜で、矢生姜とも書く。酢漬けにした物がよく焼き魚に添えられている。赤いところは食べないようにね」
そんなうんちくを聞きながら、付き合いの始まりとしてケーキを食べ、なぜか買ってきた服を着てみることになる。
「あの、すごく恥ずかしいんですけど、向こうで着替えちゃ駄目ですか?」
「だめ、これは仲良くなる儀式。仲良くなる必要が無いなら別だが」
そう言って彼は、にまにま笑っている。
「うーん。七〇いや七五のCかな?」
人のサイズを、推測する声が聞こえる。
「うん、やっぱり似合う。明るめの色が健康的で良いね。今更だけど僕は中山直弥よろしくね。二七歳だ」
「あっ私、春野愛実です。今二五です」
「よろしくね」
挨拶即、いきなりお風呂に連れ込まれる。
「恥ずかしいんですが」
「大丈夫。僕も恥ずかしいから」
風呂上がりに、体を拭かれて、保湿ローションとか塗られて。
もうそれだけで、体が反応しちゃって。
数年ぶりだというのに、恥ずかしくて。
その夜彼にすべてを見られて、お決まりのように、朝遅刻をしました。
私を置いて、彼は仕事に行っていた。
きちんと朝食まで作ってくれていましたが、当然食べる時間は無く。
夜には、彼が迎えに来ていて、店長にバラされ、私が、実家暮らしだとわかり彼に驚かれ。
すべてが始まったその日。
これからお互いに、知っていこうと思う。
初めてのパターンで新鮮だと、彼は変に喜んでいる。
私は本当に良かったのかと、少し後悔をしている。
時折浮かぶ、彼のいたずらそうな笑顔が少し怖い。
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お読みくださり、ありがとうございます。
もう春だということで、春の出会い。
なんせヒロインの名前が、一番最初に決まるというパターン。
春のめぐみという一編です。
「ああ。いいよ。妹さんのためにも頑張ってね」
そう言って、彼は踵を返す。
愛実は、その時ひらめいた。
「あっ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「ひょっとして、中山さんて一人暮らしだったりします?」
「ええ、まあ」
「普段、晩ご飯て、どうしているんですか?」
などと話していると、店の中に居た奴らが出てくる。
そう元カノの連れ連中。
「見間違いかと思ったけれど、やっぱり、直弥さんじゃない。その子彼女?」
「あー、いや……」
彼の言葉を遮り答える。
「はい、そうです」
思わず口をついて出た。
「あっ。おい」
中山さんが焦っている感じだけど、彼女に取られるのはいや。
私が言うことでも無いけど、この人嫌い。
「何でよ。怜子と別れたって言うから待っていたのに。連絡をくれないと思ったら、ひょっとして、二股だったの?」
いや、別れてから、もう一年も経つんですが。
「付き合いだしたのは、今日からです。中山さん真面目な方ですから」
そう言ったら、意地の悪い笑みを浮かべる。
「中山さんねぇ。確かに付き合いが浅いのは分かるわ」
言っている女の人は、私から見ても美人系。
だけど化粧の技ね。目も眉もすべて偽物よ。
きっと化粧を落としたら、中山さんは驚くと思うわ。
私はナチュラルというか、化粧をほとんどしていない。
引くことはできない。訳の分からない意地の張り合い。
「こんなガキっぽいタイプは、好みじゃないでしょ?」
――そんな事と、言おうとしたら、横から声が聞こえる。
「まあ、そうなんだけどね」
「やっぱり」
その言葉で、愕然とする。
「――だけど、なんだか気になってね。興味を引かれたというか、守ってあげたいというか。怜子と付き合っていた時みたいに、気取らなくて良いのが良い」
うん? これは褒められているの? 彼がそんなことを言ってくれた。
彼がそう言うと、彼女は、真っ赤になって駐車場の方へ向かっていった。
連れの女の人も、あわてて追いかける。
「えーと、すみません。なんだかあの人、不得意な感じでついむきになって」
「うーん」
謝る私を、そう言ったまま彼は、じっと見てくる。
微妙にてれて、つい目線をずらす。
「困ったね。彼女候補に振られてしまった」
「えっ、あの人が好きだったんですか?」
「いや。好きか嫌いかなんて言うのは、後から付いてくるタイプなんだ。気にいったか気にいらないか、そこから恋愛を始めるタイプでね」
「それって、何か変わっていますね?」
「そう? まあ冷たい人だとは、別れる前には言われる。――さてと、どうしようかな。図らずも告白を受けたし。さっきの問いは、自炊もするし外に食いに行くこともあるが答えだ」
告白。そうだ告白しちゃった。それも私から。
「えーと勢いと言いますか、つい」
「じゃあ、嘘だったのか?」
「あーいえ。嘘じゃないです」
「じゃ良いじゃ無い。試しだ、付き合ってみるか?」
また、じっと見つめられる。
「えーあーうー。はい」
「じゃあさっきの服屋に行って、君が買うのをためらった、デニムやシャツも買おう」
「えっ。いや、そんなつもりで」
「さっきも、彼氏だったら買ってやれるのにと思って、やきもきしたんだ。お礼は、晩ご飯まで付き合ってくれるんだろう?」
「あっいや、そんなつもりは、あーいえ。多少あったんですが」
「じゃあ行こう」
そう言って手を引かれて、さっきの店へと戻る。
私がためらっていた物を、よくぞ覚えていたという感じで、カゴの中へ放り込む。
なぜかサイズまで把握されていた。
「お礼は…… そうだな、よく知るために、君を見せて貰おう。夕飯は僕が作ろうか。酒は飲める?」
君を見せてがあんな意味だったとは、この時は予想できなかった。
「ええ、まあ」
うんうんと頷く彼。
「魚と肉どっち?」
「魚」
どっちと聞きながら、答えたら嫌そうな顔になるって。
「魚? 僕は不得意だ。鶏肉は?」
「なら、大丈夫です」
そう言いながら、食べられそうな、ヒラメとかを買い込み、鶏肉と味のくらべっこをするそうだ。
互いにそんなことを暴露しながら、夕飯の買い物をしていく。
「箸とナイフどっち?」
「お箸で」
「良し、両方だそう」
「どうしてですか?」
「聞いてはみたが、あらかじめ切ると、どうしても、うま味が逃げる」
変に拘るらしい。
料理の上に、グリルされたチキンやヒラメの上に、赤い糸のような物が乗せられていた。
飲みに行った先で見たことがあるのだが、名前を知らない。
「これってなんですか?」
「糸唐辛子。唐辛子を細く切ったもの。辛くない奴だから、後よく見るやつではじかみと呼ばれる生姜なども付いているね。あれは早く収穫した葉生姜で、矢生姜とも書く。酢漬けにした物がよく焼き魚に添えられている。赤いところは食べないようにね」
そんなうんちくを聞きながら、付き合いの始まりとしてケーキを食べ、なぜか買ってきた服を着てみることになる。
「あの、すごく恥ずかしいんですけど、向こうで着替えちゃ駄目ですか?」
「だめ、これは仲良くなる儀式。仲良くなる必要が無いなら別だが」
そう言って彼は、にまにま笑っている。
「うーん。七〇いや七五のCかな?」
人のサイズを、推測する声が聞こえる。
「うん、やっぱり似合う。明るめの色が健康的で良いね。今更だけど僕は中山直弥よろしくね。二七歳だ」
「あっ私、春野愛実です。今二五です」
「よろしくね」
挨拶即、いきなりお風呂に連れ込まれる。
「恥ずかしいんですが」
「大丈夫。僕も恥ずかしいから」
風呂上がりに、体を拭かれて、保湿ローションとか塗られて。
もうそれだけで、体が反応しちゃって。
数年ぶりだというのに、恥ずかしくて。
その夜彼にすべてを見られて、お決まりのように、朝遅刻をしました。
私を置いて、彼は仕事に行っていた。
きちんと朝食まで作ってくれていましたが、当然食べる時間は無く。
夜には、彼が迎えに来ていて、店長にバラされ、私が、実家暮らしだとわかり彼に驚かれ。
すべてが始まったその日。
これからお互いに、知っていこうと思う。
初めてのパターンで新鮮だと、彼は変に喜んでいる。
私は本当に良かったのかと、少し後悔をしている。
時折浮かぶ、彼のいたずらそうな笑顔が少し怖い。
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お読みくださり、ありがとうございます。
もう春だということで、春の出会い。
なんせヒロインの名前が、一番最初に決まるというパターン。
春のめぐみという一編です。
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