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囁く女
彼女はそっと囁くだけ
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「野田さん」
俺を呼び止めたのは、同じ課の松永美佳さん、二五歳。
ミドルのストレートの髪を毛先を軽くして軽く内巻。
お嬢さんぽい服装と、アーモンド目と真っ直ぐな眉。
唇は上が少し薄めで、全体にすっきり顔。
身長百五十八センチで体重は不明だが、バストは八十八とも言われている。
そう、彼女は有名人。
そして呼ばれた俺は、野田隆介二八歳の中年間際。
身長は百七十二センチあるが、普通。
ただまあ、大学を卒業して、此処に勤め。
二年後に、同じ係となった和田利佳と、配属二年して彼女が移動になる間際に告白されて、付き合い始めた。そう彼女は今二十六歳。
ぼちぼち一緒になろうかと、話し始めている所。
今年三年目。
「業務とはちょっと関係が無いんですが、野田さんて、和田さん。利佳さんとお付き合いをしているんでしょう?」
いきなり思ってもいない話題を聞かれ、オロオロしてしまった。
「うん、そうだね。もう三年かな?」
「羨ましいですねぇ」
そう言いながらも、彼女は首をひねる。
「でも私、この前の日曜日。その、別の男の方と歩いているのを見たんです」
そう聞かれて、思い出す。
ショールームでイベントがあり、手伝いに行った。
前の晩に彼女がぼやいていて、慰めた。
「ああ、イベントの手伝いに行ったんだよ。手が足りないらしくてね」
「そうなんですね。すごく…… その…… 仲が良いように見えたので。すみませんね。変なことを言っちゃって。それでは失礼します」
そう言って彼女は、離れていった。
「何でまたわざわざ、松永さんが……」
立ち去る、美佳の顔は笑顔で、これからのことを思案していた。
布石はした。
松永美佳は、高校時代から頭角を現しモテ始める。
幾人かの恋愛を通し、共通なのは、長く続かないこと。
高校時代は、体を許さなかったのが敗因かと、大学時代には体を許す。
でも。である。
付き合いだした最初は、男は有頂天で、友人達に彼女だと見せびらかし、褒めて尽くしてくれる。
でも、それは一月程度。
二ヶ月で愛想がなくなり、三ヶ月で別れる。
それがパターン。
自分自身に自信のある、美佳には理解ができない。
そして考え、容姿に惹かれてくる男が悪いのだと答えを出す。
そして、年齢的にもお年頃となってきた美佳は考える。
円満なカップル。
その男を貰えば良いと。
噂を拾い、仲の良いカップルで、自身の好みに合う範囲の男。
中古なのは気になるが、この年になれば一緒だと。
自分自身も、幾人か経験はあるし不問とした。
過去の男Aさん。
「はい? 美佳。ええ付き合ってましたが、三ヶ月くらいで別れました」
「それはまたどうして?」
「いや見た目は良いし、一見愛想も良いけど。あの、本人には伝わりませんよね」
「ええ、お任せください」
「性格が悪いことに、本人が気がついていません。束縛はキツいし、なんで褒めないのと、いきなり怒り出すし。言い出したら全く人の言うことを聞かない。こっちが機嫌が悪いことがわかると、さっさと服を脱いで、やりたいならやればと言う感じで、萎えますよ」
「うわー最悪ですね。見た目良さそうなのに」
「彼女、人のことを考えないから、完全冷凍マグロですし」
「冷凍ですか?」
「ええ。あれは、駄目です」
「ありがとうございました」
そんな女だった。
人は見かけによらないが、仕事中にもその片鱗はある。
人を区別し、タイプごとに態度が違う。
上位と認めれば、一見言うこと聞く。
そして、下位に投げる。
下位は従って当然という態度で接する。
実は、人事には大量のハラスメント相談が来ている。
さて、囁いてはみたが、全く変化はない。
「ちょっとどういう事よ、あんたがあの女がかわいいて言うから、顔を繋いだのに」
「ええ。ありがとうございます。彼女も幸せそうですし。僕がどうこうして割込むのは駄目ですね」
「そんなこと言っているから、駄目なんじゃないの? これだからできない奴は」
「それって、ハラスメントですよね。しかも、常識に照らし合わせ身を引いただけです。松永さんが言ったように彼氏の野田さんと、うまくいっていないなら、多少頑張りますが、そんなこともないようですし」
そう言って、彼はスタスタと場を離れて、美佳を置き去りにする。
「何なのよ一体?」
そこでやめていれば良いのに、さらにあくどいことを考える。
サーバの人事課ファイルにアクセスして、和田利佳に関して住所や電話番号をひかえる。
やめれば良いのに、それでアカウントを作り、出会い系に登録をする。
自分のスマホで、連絡メールは自分のメールというおまけ付き。
これはなりすましだけなので、罪にならないと読んだから。
だが、目的が目的。
人の信用を傷つけるような言動を行っているなどの場合、相手方を罪に問ことが可能である。
適当な相手と、連絡を取りすっぽかす。
相手が怒れば、会社に苦情が来る。
そんな、おバカでありはた迷惑なことを実行した。
思ったとおり、話が来て問題が起こり始める。
だが、隆介まで間に入り、悪質ないたずらとして刑事告訴のため弁護士に相談。
会社側も事情を留意して決着まで判断を保留。
何ならと言う事で、会社から弁護士さんを紹介して貰う。
最初は、利佳にも恨みを買うような過失がどうだとか言っていたが、噂を聞きつけて密告が相次ぐ。
そこで浮かぶ、人事でも有名な人物。
後は早かった。発信者情報開示請求。そこから、会社の営業妨害まで踏まえて刑事告訴。人事も何とかしたかった案件なので途中からノリノリになってくる。
利佳にも恨みを買うようなと言ったことを謝り、共に水面下で行動をする。
そしてある日の早朝、事情聴取に引っ張られたそうだ。
自供で、うまくいっているカップルの男なら幸せにしてくれると思った旨自供があったようだ。彼女をおとしめるため、エッチ大好きなどと書き込み名誉毀損や、会社に人が来て騒ぐことを意図した事により業務妨害が立件された。
そして、人事は起訴を受け、退職勧告を実行。
気がつけば、丸く収まり、なぜか俺は昇級した。
彼女は、囁いただけだと何か言っているようだが、不思議なくらい味方がいないようだ。
俺を呼び止めたのは、同じ課の松永美佳さん、二五歳。
ミドルのストレートの髪を毛先を軽くして軽く内巻。
お嬢さんぽい服装と、アーモンド目と真っ直ぐな眉。
唇は上が少し薄めで、全体にすっきり顔。
身長百五十八センチで体重は不明だが、バストは八十八とも言われている。
そう、彼女は有名人。
そして呼ばれた俺は、野田隆介二八歳の中年間際。
身長は百七十二センチあるが、普通。
ただまあ、大学を卒業して、此処に勤め。
二年後に、同じ係となった和田利佳と、配属二年して彼女が移動になる間際に告白されて、付き合い始めた。そう彼女は今二十六歳。
ぼちぼち一緒になろうかと、話し始めている所。
今年三年目。
「業務とはちょっと関係が無いんですが、野田さんて、和田さん。利佳さんとお付き合いをしているんでしょう?」
いきなり思ってもいない話題を聞かれ、オロオロしてしまった。
「うん、そうだね。もう三年かな?」
「羨ましいですねぇ」
そう言いながらも、彼女は首をひねる。
「でも私、この前の日曜日。その、別の男の方と歩いているのを見たんです」
そう聞かれて、思い出す。
ショールームでイベントがあり、手伝いに行った。
前の晩に彼女がぼやいていて、慰めた。
「ああ、イベントの手伝いに行ったんだよ。手が足りないらしくてね」
「そうなんですね。すごく…… その…… 仲が良いように見えたので。すみませんね。変なことを言っちゃって。それでは失礼します」
そう言って彼女は、離れていった。
「何でまたわざわざ、松永さんが……」
立ち去る、美佳の顔は笑顔で、これからのことを思案していた。
布石はした。
松永美佳は、高校時代から頭角を現しモテ始める。
幾人かの恋愛を通し、共通なのは、長く続かないこと。
高校時代は、体を許さなかったのが敗因かと、大学時代には体を許す。
でも。である。
付き合いだした最初は、男は有頂天で、友人達に彼女だと見せびらかし、褒めて尽くしてくれる。
でも、それは一月程度。
二ヶ月で愛想がなくなり、三ヶ月で別れる。
それがパターン。
自分自身に自信のある、美佳には理解ができない。
そして考え、容姿に惹かれてくる男が悪いのだと答えを出す。
そして、年齢的にもお年頃となってきた美佳は考える。
円満なカップル。
その男を貰えば良いと。
噂を拾い、仲の良いカップルで、自身の好みに合う範囲の男。
中古なのは気になるが、この年になれば一緒だと。
自分自身も、幾人か経験はあるし不問とした。
過去の男Aさん。
「はい? 美佳。ええ付き合ってましたが、三ヶ月くらいで別れました」
「それはまたどうして?」
「いや見た目は良いし、一見愛想も良いけど。あの、本人には伝わりませんよね」
「ええ、お任せください」
「性格が悪いことに、本人が気がついていません。束縛はキツいし、なんで褒めないのと、いきなり怒り出すし。言い出したら全く人の言うことを聞かない。こっちが機嫌が悪いことがわかると、さっさと服を脱いで、やりたいならやればと言う感じで、萎えますよ」
「うわー最悪ですね。見た目良さそうなのに」
「彼女、人のことを考えないから、完全冷凍マグロですし」
「冷凍ですか?」
「ええ。あれは、駄目です」
「ありがとうございました」
そんな女だった。
人は見かけによらないが、仕事中にもその片鱗はある。
人を区別し、タイプごとに態度が違う。
上位と認めれば、一見言うこと聞く。
そして、下位に投げる。
下位は従って当然という態度で接する。
実は、人事には大量のハラスメント相談が来ている。
さて、囁いてはみたが、全く変化はない。
「ちょっとどういう事よ、あんたがあの女がかわいいて言うから、顔を繋いだのに」
「ええ。ありがとうございます。彼女も幸せそうですし。僕がどうこうして割込むのは駄目ですね」
「そんなこと言っているから、駄目なんじゃないの? これだからできない奴は」
「それって、ハラスメントですよね。しかも、常識に照らし合わせ身を引いただけです。松永さんが言ったように彼氏の野田さんと、うまくいっていないなら、多少頑張りますが、そんなこともないようですし」
そう言って、彼はスタスタと場を離れて、美佳を置き去りにする。
「何なのよ一体?」
そこでやめていれば良いのに、さらにあくどいことを考える。
サーバの人事課ファイルにアクセスして、和田利佳に関して住所や電話番号をひかえる。
やめれば良いのに、それでアカウントを作り、出会い系に登録をする。
自分のスマホで、連絡メールは自分のメールというおまけ付き。
これはなりすましだけなので、罪にならないと読んだから。
だが、目的が目的。
人の信用を傷つけるような言動を行っているなどの場合、相手方を罪に問ことが可能である。
適当な相手と、連絡を取りすっぽかす。
相手が怒れば、会社に苦情が来る。
そんな、おバカでありはた迷惑なことを実行した。
思ったとおり、話が来て問題が起こり始める。
だが、隆介まで間に入り、悪質ないたずらとして刑事告訴のため弁護士に相談。
会社側も事情を留意して決着まで判断を保留。
何ならと言う事で、会社から弁護士さんを紹介して貰う。
最初は、利佳にも恨みを買うような過失がどうだとか言っていたが、噂を聞きつけて密告が相次ぐ。
そこで浮かぶ、人事でも有名な人物。
後は早かった。発信者情報開示請求。そこから、会社の営業妨害まで踏まえて刑事告訴。人事も何とかしたかった案件なので途中からノリノリになってくる。
利佳にも恨みを買うようなと言ったことを謝り、共に水面下で行動をする。
そしてある日の早朝、事情聴取に引っ張られたそうだ。
自供で、うまくいっているカップルの男なら幸せにしてくれると思った旨自供があったようだ。彼女をおとしめるため、エッチ大好きなどと書き込み名誉毀損や、会社に人が来て騒ぐことを意図した事により業務妨害が立件された。
そして、人事は起訴を受け、退職勧告を実行。
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