泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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深夜に佇む女

第2話 佇む女 その2

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 さっきも気がついていたが、太ももを雫が流れている。

「いや、どうして脱ぐの」
「嫌いですか?」
「嫌いじゃないです」
 そう答えるしかないじゃないか。
 答えを聞き、彼女は微笑む。

 中へ入り、ローテーブルの脇に置かれたクッションに座る。
 室温設定が何度か知らないが、少し暑い。

 まあ彼女は、格好が格好だし。
 そして、歩くのも辛い感じで、ハアハア言っているし。

 お茶ではなく、いきなりチューハイが出てきた。
 そして、グラスが二つ。

 そして、つがれて、乾杯をする。
「お久しぶりです」

 ぺたんと座った彼女の太もも。
「脚、傷が残っちゃったんだね」
 つい、目に付き、口にしてしまった。

「そうなんですよね。でも、このおかげで色々知れたというか……」
 そこから始まる彼女の話。

「まず前提です。高梨さん。前に言った通り、あなたのことが好きです」
「いや、それはありがたいけれど、俺って工場勤務で給料も安いし。歳も君より五歳も上だよ」
 彼女は、半年前と同じように首を振る。

「そんな事は良いんです。優しさと、誠実さを好きになったのです」
 ビシッと人差し指を立ててそう言った後。優しく笑う。
 まっぱだけど。

「それで、その格好は?」
「えーとお礼と、餌と趣味?」
「お礼?」
「ええ男の人へのお礼なら、これが一番だと、友人に言われたので」
 思わず、そんな友人はポイしなさいと、言いそうになった。

「そして、毎日この前を通るのに家に寄ってくれないし。だから餌を仕掛けてみようかと思ったんですが、足早に逃げるし。私も声をかけるのが怖かったですけど」
 そう言って、もじもじし始める。

「ひょっとして、この格好を見せると、引かれちゃうかもとか思って。惹かれてくれるなら嬉しいんですが」
 そう言って、にへっと笑う。

 何かを期待している目。
「ああ、引かれると惹かれるを掛けたんだね」
 そう言って拍手をする。
 少し、むうという感じだ。
 唇がアヒルになる。

「でも、外であの格好は危ないよ。人通りを考えると、襲われる危険だってあるし」
 彼女が、指を振る。
「あそこで居る時間は、最長で七分です。綿密に観察と計画を練りました」
 そう言って、机の上から、ノートパソコンが持ってこられて、表計算ファイルが開かれ、見せられる。

「この半年間。祐一さんの行動表です。ほら、前の道を通過した時間をグラフ化したときの、エラーバーの長さです。ほぼ一定でしょ」
 ちょっと首をひねったのが判ったのだろう、説明をしてくれる。

「エラーバーって言うのは、データのばらつきを示す記号で、 棒グラフなどを見たときに、グラフの先端に重なる形でI字型の線が記載されていて、長さがその量となるの、ほら」

 そう言ってテーブル脇から手が伸びて、ノートパソコンが寄せてこられるが、目の端に見える膨らみの先。ぽっちが痛そうなくらい立っている。

「七分ね」
 無理矢理、意識を切り替える。


「それでですね、あの事故の時。自身の趣味に気がついたんです」
 そう言いながら、頬に手を当て、いやんいやんと顔を振る。

「はっ? 痛いのが好きとか?」
「違います。それはなんと…… でででででででぇーん。人に見られていると思うだけで、もう、すごいことになるんです」
 まあ、へーという感じだ。

「あれ? 驚きません?」
「さっきから、ずっと見ているとわかる。でもどうして、そんな事に?」
 おれが、そう言うと。かの女は、俺の手を取る。

 つまり右手だな。
 俺の手を導き、敏感なところへ…… 当然指先は、触れる。
 うん大洪水。

 しかも、手を引かれて、導かれると当然目はそっちを見る。
 その瞬間、彼女の体は反応をする。

「手術室って、明るいんですよ。手術着に着替えさせられたんですが、下って何も着ていなくて。手術着って横が開くんです。大腿骨骨折で結構痛かったはずなんですが、そっちの方が気になり出すと、痛みの方が消えてきて。お医者さん達や看護師さんが動き回るそんな所で、裸で寝ている気分で、見られていると思ったら、体が反応しちゃって。その後麻酔が効いて、よく分からなくなったんですが。実は、祐一さんがお見舞いに来てくれたとき時、私寝間着の上って、布団の下で前をはだけていたんです。あれって、合わせて脇で結ぶだけだったのですごく簡単でした」

 そう言って、彼女は話してくれるが、手を放してくれない。
 いい加減ふやけそうだ。

「それで退院して、帰ってきて。お家の中で脱ぎだして、窓際に立ってみたり、最初コートだけで出たときは、階段下までで腰砕けになって。今じゃ、大通りまで行っても慣れましたけど」

「だめだよ。そんな事をしちゃあ。それに、手を放してくれる」
「いやです。お礼になりませんか?」
「イヤ、なるけれど……」
「じゃあ、触れて、見て。私のことを好きにしてください。私男の人と経験ありませんから、病気とかありません」
 イヤ行動が、病……。

「じゃあまあ。いただきます」

 そうして、彼女と付き合うことになった。
 困っていた晩飯は、彼女の手料理で満足している。
 彼女は、俺に見せるため、裸エプロンをするために、料理を覚えたらしい。

 そして、夜中の散歩が、日課となったが、俺の心臓がいつまで持つのか不安だ。
 幾ら下調べをしても、不安は不安。彼女はそれが嬉しいらしいが……

「ほら、スイッチ入れるぞ」
「うん。うんんっ…… あっ」


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ちょっと下調べをしていて、見つけた資料。

その中にあった、意外とメジャー目の性癖。
エキシビショニズムExhibitionism。これは、人に見せて喜ぶ方。
逆に、恋人などのパートナーを晒す性的嗜好は、カンダウリズムCandaulismと言うらしいです。

試しで、書いてみました。
愛の形と言えば言える、ネトラレなどもカンダウリズムに含まれるのでしょうか?

ではお読みくださり、ありがとうございます。
これから先、性癖シリーズとして、書くかもしれません。
ネタとして、非常に良いので。
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