泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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焦る男と焦る女

第1話 適齢期とは何だ?

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 昨今、結婚適齢期というのは都会で、男性三十二歳、女性三十歳前後らしい。
 地方だと、男女ともに二歳ほど下がるようだが。

「俺もう、三十五歳をしばらく前にすぎたんだが」
「先輩、もう四十じゃありませんでした?」
「――まだだ」
 佐藤直樹さとう なおき三十八歳。違いの分かる男。
 何かの特番で見て、気にいったフレーズだ。
 

 いま、会社の自販機コーナーで、だべっている。
 今相手をしている後輩君が、七年付き合った彼女と別れたらしい。
「あなたのことは、本当に好きなの。でもね、子供を作って育てていく生活が見えないのよ。って言われましてね」
 そう言って、かなり深いため息を付く。

「そうなのか? 七年も続いたなら、お互い相性は悪くなかったんだろ?」
 こっくりと頷く。

「彼女五つ下で、二十八になったんですよ。そこで、はたっと考えたらしくて」
 そう言って、遠藤はやれやれと首を振る。
 そして、いきなり人を指さしてくる。

「年収が足りないと断言されましてね。やれやれですよ」
「お前今、係長だろ」
「チーフです」
「一緒だよ。なら、四百万位あるだろ」
「残業代込みならあります」
「彼女も働いていただろ」
「いや前の所をやめちゃって、今派遣です。年収が百万下がったって、ぼやいていました。やれやれですよ」
 グビッと缶コーヒーを一口飲んで、空を仰ぐ。

「――で生活のために幾らいるって?」
「合わせ技で、一千万ですって」
「六百九十何万かで税率も上がるだろ、知り合いの教授が呻いていたぞ。それに所得が多ければ、確か子供の保育園費とかも上がるはずだし」
 そう言ってみたが、本当の理由が分かる。

「いいんです。すでに次を見つけているんですって。なんかの会社をやっていて、お金持ちらしいですよ」
 そう言って、いじいじと缶を咥える。

「そりゃあ、鶏が先か卵が先かだな」
 ハタハタと羽ばたいてみせる。

「ですよねぇ。気がつきませんでしたよ」
 結構自分でそう言って、落ち込んでいるようだ。

「おごってやるから、飲みに行くか?」
「行きます。こうなったら、お店の女の子を口説きます」
「出禁食らうから、やめてくれ」


 拘る女、齊藤千夏さいとう ちなつ三十二歳。
 色々に拘っていたら、気がつけばこの歳。

 友人の家に行くと、もうすぐ小学生とか、高校在学中にミスって卒業すぐに結婚したおバカな彼女は、もう子供が中学生だった。三年生の最後に、そう試験でみんなが必死なときに、かの女は、バースコントロールに失敗をした。

 でも考えのない彼女の人生だけれど、若い頃はさすがに生活が大変だったらしいが、親がその分若くて、フォローして貰い、やっと落ち着いたと笑っていた。子供の手が離れたから、今から好きなことをしたいとも言っていた。
「はたして、どちらが幸せなのか?」
 今からきっと、旦那さんの年収も上がっていく。


「さんじゅうにかぁ。方や中学生の子持ち。わたしはまだ未婚。それどころか……」
 男の人と、まともに付き合ったことがない。

 つまり、この年で、バージンだ。
 最近は気にせず。見ないことにもして、仕事や趣味に喜びを探してきた。
 一人だから、好きなことができる。
 一人だから気楽。
 色々なところへ行き、好きなことをした。
 そう友人達が、生活で大変と愚痴を言い出した頃から、ずっと一人。

 ふらふらと一人で焼き肉を食べ、ふらふらとしゃれたバーへ飲みに出る。
 たとえ、毎晩そんなことをしても文句も言われない。
 会社へ行って、若い子に女を捨てていると陰口を言われるくらい。
 そんなものよ。

「ふんっ」
 しまった。タブー。此処は真面目なバー。
 一瞥だけで済んだけれど、決まりはある。

「何かお作りしましょうか?」
 気を使わせてしまった。
「ショートお任せで」
「かしこまりました」

 フローズン・ストロベリー・ダイキリが、そっと出てくる。
 アメリカンタイプより飲みやすい。
 アメリカンはシェイク。フローズンはクラッシュアイスにダイキリが入っていて飲みやすい。特に女性だから、ストロベリーを選択してくれたようだ。

 そう、私が少しアンニュイな気分になっているのは、話し込んでいる二人の男達が話す内容。そのせい。
 大きな声ではないが、内容が聞こえる。
 若い方が彼女に振られて、残念会のような雰囲気。

 片方は、まだ俺の歳までは時間があるから大丈夫。的なことを言っているようだが、若い方でも、私の一つ上。
 時間は残酷で、昔は有り余っていた時間が、今だとあっという間に過ぎ去っていくのよ。その時間のゆがみは、二十五歳を超した頃から加速をして行く。

 年の功か、歳上の方はロングを飲んでいるが若い方は、ショートをパカパカと空けている。潰れないと良いけど。
 店への迷惑だし、他の客にも迷惑になる。

 ――と、思ったら、歳上の方がチェックを申し出る。

一哉かずやおい遠藤。帰るぞ。ほら立て」
 そう行って、出ていった。

「あれ? さっきの二人。隣の課だけど、課長補佐と係長」
 ふと見たことがあるなとは思ったが、多分そう。

「いいなあ。あんな上司と部下」
 私もチェックをお願いする。
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