泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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再会は、衝撃と共に

第3話 入院の間に包囲殲滅を。

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「それでね、林君だと判った瞬間、アクセルを踏みそうになっちゃった」

「笑えないから、やめてくれ」
 これは両方の意味。笑うと痛い。

「踏んでいないから生きているの。感謝をして」
「ああ。でもあれだね、雰囲気変わったね」
 そう言われて、ドキッとする。
 いい加減、彼の前で、立ってしゃべるなんて、理事会での商品説明よりもドキドキしている。

「むー。いい加減歳だから、高校の時みたいでは、生きていけないの。それに……」
 このチャンスは逃してはならない。逃せば一生後悔をする。心の中で自身に言い聞かせる。

 いいかげん、自己評価が低い久美。
 多分、好きです。高校の時から。
 それだけで、俊紀はOKを出すだろう。きっと喜んで。

 彼は大学時代、二度ほど付き合った過去がある。
 最初は、女の子に慣れない内に、地雷を踏んで玉砕。二回目は、相手が地雷。彼女は、一週間で安全ピンを抜き、何処を踏んでも駄目だった。

 それからは忙しくて、彼女などおらず、今に至る。

「でも、毎日お見舞いなんて、彼氏とかいないの?」
 つい、無自覚に地雷を踏みに行く。居ればくるはずない。誤解の元だ。

 だが、久美にとっては、この上ない質問。よくぞ聞いてくれました状態。

「実はね、高校の時に一目惚れをして、それから他の方には興味が湧かなくて。誰とも、お付き合いをしていないの」
「そうなんだ。皆見る目無いね」
 話を聞いているようで、聞いていない。

 まだ両手も使えず、トイレなど行けない。
 とりあえず、左手首は折れているが、ナースコールは左手で押せる。
 右手は鎖骨と上腕、肋骨のコンボで、動かすと髪の毛が逆立つほど痛い。

 左足は、とりあえず使えるが、まだ下の世話をお願いしないとやばい。
 だがおむつは嫌がり、我が儘を言って、すでにポータブルトイレを置いている。

 そして、結城さんは看護師さんに言って、来ているときには私が見ますと、宣言をしてしまった。
「彼女さんに、お世話して貰うって良いわね」
 そう言って、許可が下りてしまった。

 それに、色々と頼むと、彼女、嬉しそうなんだよな。
 そう、久美にとって誰かに頼まれ、何かをすることは、小さな頃からすり込まれている喜び。
 頭をなでられ、俊紀から「ありがとう」なんて言われたときには、それだけでごはん三杯はお代わりできる。

 さて、数日経ち、久美もやっと俊紀のものになれてきた頃から、攻撃を始める。名付けて、『私に依存して貰おう作戦』
 夕食の配膳から「あーん」で食べさせて、下膳さげぜんまでやっている。
 むろん、トイレ後の清拭まで。

 彼はまだ、手が上手く使えない。
 そして、検温なども時間は決まっている。

「やるしかない」
 トイレが終わって、彼は必要ないと言うが、毎回綺麗に吹き上げる。

 すると、どうしたって反応をするのだが、明らかに最初に比べて、元気度が違う。
 最初は、痛みとか色々あっただろうし、もしかすると自分でしたすぐ後だったかもしれない。
 だけど今は絶対無理。
 本や、ビデオで研究したし、実践あるのみ。


 俊紀はこの数日で、すっかり諦めた。
 看護師さんがしてくれるからと言っても、頑なに彼女は自分でしようとする。

 『実はね、高校の時に一目惚れをして、それから他の方には興味が湧かなくて。誰とも、お付き合いをしていないの』先日の彼女が言った言葉。

「あれ? それって」
 今頃、やっと気がついた。

 それと同時に、棒(某)所に、にゅるっとした感触。
 あれえっ。これ。

 俊紀はすぐに気がついたが、叫ぶわけにはいけない。それに、肋骨が逝っている以上、体は一度左に倒してからじゃないと、起き上がれない。
 腹筋を使って、一気に起きようなんてしたら、死んでしまう。

 感触を感じながら、すぐに諦めた。

 さっき思いついたこと。きっと、それが正解なんだろう。
 誰のものでも良いからなんて、するような子じゃないはず。
 あっ。いや、教室でしてたな。
 実は彼女、むっちゃエッチが好き?
 知らないだけで、動けない俺をおもちゃに?

 ぐるぐる考えていたが、限界が来る。
 何とか知らそうと、彼女がいるベッドの左側、自分の腰辺りへ手を伸ばす。

 だが、結果。
 頭を押し込むことになってしまう。
「あっ」
 だが驚いたことに、上下は止まり吸っている?

 やがて離れて、手が握られる。

「どうですか? 初めてだったので、もっとこうしてほしいっていうのがあったら、言ってください」
 彼女はひそひそ声で聞いてくる。

 何とかもう一度、左手を持ち上げ、彼女の頭をなでる。
「ありがとう。久美ちゃん。俺程度で悪いが、好きになっても良いだろうか?」

 そう聞いてみる。
 頭をなでられ、少しとろんとした顔で喜んでいた彼女の顔が、真っ赤になり近寄ってくる。
「当然です。私も俊紀君のことが好きです。高校一年の時からで。ずっと怖くて言えなくて。――嬉しいです」

 こうして俺達は、付き合うことになった。

 後日、久美に聞いてみた。
「今回偶然のように会ったが、会えなかったらどうするつもりだったんだ?」
「うーん? 体は自分自身でそこそこ満足できるし、ずっと独身だったかも」

 そう言っていた彼女だが、俺が退院をして、家へ来たとき、お祝いがてら、初エッチをした。

「ううむ。これを知ってしまうと、一人じゃ駄目。人間、上の世界を知ると、知らなかった時にはもう戻れない。俊紀君、体に気を付けてね。ずっと一緒に暮らそう」

 そう言って、彼女はすぐに、引っ越してきた。

 体は、まだリハビリが必要だし、健康になったら彼女のご両親に挨拶をしに行こう。


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 悩んだ末、こっちです。
 幼馴染みが、知り合いになった夜 短編集は、絶対破局と決めてあるので。

 いやまあ、人生あの一歩を踏み出せば、今頃ということもありますが、あの一歩を踏み出さなかったらという事もあります。

 考えて、決断をしましょう。
 後悔しない方を選択します。私は……

 ――嘘です。絶対はありません。多分ですけどね。

 久美ほど気は長くなく、言わない後悔をしたくないので、言わなければいけないときには言います。これは本当です。

 たぶん。

 それでは、お読みくださりまして、ありがとうございました。
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