泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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再会は、衝撃と共に

第1話 記憶

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 俺が高校の時、クラスで一番の美女であり、才女であった彼女。
 結城久美ゆうき くみの秘密を知った。

 だが、むろん。命を奪われることもなく、漫画のような関係が始まるわけででもなく。無事に高校を卒業。

 彼女は大学へ進学。俺も、数段下だが、大学へ進学をした。
 ギリギリでも、通れば良いのだよ。

 そして、今……
 林 俊紀はやし としき二五歳。
 俺は、確かに青信号で、横断歩道を渡り始めた。
 普通に。
 なのに、右横を見れば、なぜか中型トラックが、右折ラインを直進して、突っ込んでくる。

 『ドン』
 そんな音と共に、俺は数メーターだが、空を飛べた。

 きっと次に目を開ければ、神様がいて、好きなスキルを選びなさいなんて、聞かれるんだ。
 以外と冷静に、そんな事を考える。

 背中を強打したところに、またタイヤが滑る、スキール音が聞こえる。

 そして……
 目を覚ますと、やはり白い天井と女神様。
「女神様。スキルは良いので、お友達になってください」
 俺は、きっぱりとお願いをする。

「意識が戻ったばかりで、ねぼけているの? 昔からお友達でしょ。林くん」
「えっ」

 そこには、ミディアムの髪で軽く内巻きの髪、それにあう、ナチュラル系だが、バッチリと化粧をした彼女がいた。
「えっ、結城? 俺を轢いたトラックの運ちゃんて……」
 事実から推察し、ビシッと聞いたが違ったようだ。

「違うわよ。運転手さんは警察署。丁度、事情聴取で連れて行かれちゃった。私は飛んできた林くんを、轢く前にきちんと止まったわよ。危なかったけど」
「そりゃ、すまない。で、俺ってどんな状態?」
 普通にしゃべってはいるが、声を出すと、痛かったり、痺れていたり、感覚がなかったり。
 色々駄目なことは、理解できた。

 そう聞くと、メモを出してきて、説明をしてくれる。

右脛骨高原骨折けいこつこうげんこっせつ、これは、すねの下側。横から押されたから、折れたみたい。右上腕骨と、肋骨数本。それに鎖骨を骨折。左は飛ばされたときに手をついたらしくて橈骨しょうこつが、手首のちょっと上で骨折。他にもいくつか。とにかくしばらく、自分で何かをするのは無理ね」
 そう言って彼女は、なぜか嬉しそうに笑う。

 ふと、立ち上がると、俺の耳に顔を近づけて、そっと囁く。

「あの日から。いつ、あなたに言いふらされるかと、ドキドキしていたの。結果言いふらさなくて、ありがたかったけれど、少し残念。脅して、私を道具のように使うなんていうことも、できたのに」

 そう言って顔を離すと、彼女はすごく悪い顔をする。
「此処で、出会ったのは、運命ね。じっくりと介護してあげる」
 胸を張り、物理的に見下しながら、そう言ってくる。
 ゾクッと来たが、それよりも、俺は知った。美人が悪い顔をして笑うと、怖い。


 彼女、結城久美は子供の頃から、良い子で過ごしてきた。
 小さな頃は、そうして褒められることに、承認欲求を満たして喜んでいた。
 そして、少し成長をして、それが周りにとって当たり前となった頃から、心の中に不満を持ち始める。

 今までと同じように振る舞っても、褒めてくれない。それどころか、少しのミスで叱られる。
「あなた、らしくもない……」
 ――らしくないって、なに?

 心の中ではそう思っても、人間長年の習慣など、簡単に変えられないし、前述のように少しのミスでも、ため息を付かれる。

 彼女から見て、同級生の無邪気な子供達。
 自分なら、当然できることをして、なぜか褒められる。

 そしてそれは、中学校でもっとひどくなる。

 自由に、馬鹿な振る舞いができるクラスメート。
 そこには、とても入れないし、性格的に入ることはできない。

「きゃああっ、カラオケ? おけおけ行こおうぅ」
「行こうぜ」
 そう言って、男子に肩を抱かれ、手を引かれ、嬉しそうに教室を出て行く。

「ふん。馬鹿みたい」
 そして二年生も半ばを過ぎ、夏休みを過ぎた頃から、女子の三分の一くらい、様子が変わり、同級生を見下すようになってくる。

 その急激な変化に、私は困惑をする。

 意を決して、クラスの女の子に聞く。
 すると、驚きの答えが返ってくる。
「夏休みに、エッチでもしたんじゃ無いの? あの子達、軽いから」

 久美は、驚愕をする。
 授業とかで、仕組みは習い、自分の体も準備はできたようで、月のものは来ている。
 でも。
 そう、でも、まだ中学生、して良いわけは無い。
 そう言えば、夏休み前に先生が言葉を濁した、まだ中学生だから、行動には気を付けろという言葉。
 あれは、そう言う。

 冬休み、そして春休み。
 季節を過ぎるたび、そっち側へ歩みを進める女の子達。

 むろん久美も、あの秋から興味を持ち、色々と調べた。

 そして、ストレスの解消のために、それにはまる。
 むろん一人で。

 その事で、まじめ娘の仮面をかぶり、色々なところでする、妙な性癖を持ってしまう。誰かに見られれば、私は終わり。
 そんなことを考えながら。

 そして高校に入学をして、彼に出会う。
 最初は、些細なこと。
 彼が落とした本を拾った。

 それだけなのに、和やかに「ありがとう」と、褒めてくれた。
 数年ぶりの満足感。
 お尻から背中にかけて、ゾクゾクと快感が駆け上った。

 何これ、今までには無かった感覚。

 久美は気がつかなかったが、自分の好みだっただけ。
 ドラマの主人公だったり、歌手だったり、人には、趣味嗜好というものがある。
 それに、俊紀がピタリとはまった。

 近親者は、子供の頃に優しくしてくれたお兄さん。先生。何でも良い。
 ある程度、遺伝により何かがあるのかも知れないが、育った環境で、好みはできあがるといわれている。

 判っている遺伝的なモノは、匂いなど。
 近親者や遺伝的に近い人間は、思春期になると、臭く感じて距離をとり、かわいそうなお父さんが量産される。

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